わたしたちが食べる野菜は、まず種子(タネ)から始まります。ところが、その種子の多くは交雑を避けられる特別な環境で育てる採種に支えられ、近年は海外の採種地が確保しにくくなり、国内の採種農家も高齢化が進んでいます。実際、国内で使う野菜の種子は多くを海外での採種に頼っており、種子の自給率は1割程度とされます。野菜の種子が安定して供給されなければ、産地での作付けそのものが揺らぎます。野菜種子安定供給対策事業は、こうした不安に備えて、海外・国内の新たな採種地の確保、効率的な種子生産・保管技術の開発、種子の病害を防ぐ種子防除までを束ねて支える農林水産省の事業です。この記事では、採種や種苗に関わる産地・種苗事業者、関心のある農家に向けて、なぜ安定供給が課題なのか、どんな支援があり、自分はどう関われるかをわかりやすく整理します。

野菜種子安定供給対策の全体像

細かな制度に入る前に、この事業が「なぜ・誰のために・何をするのか」を表で押さえます。採種や種苗に関わる立場から、自分に近いところを探す手掛かりにしてください。

項目 内容
なぜ必要か 食料生産との競合、気候変動、地政学的リスク、国内採種農家の高齢化が重なり、野菜の種子(タネ)を安定して確保しにくくなっているためです。
何をするか 海外・国内の新たな採種地の調査・栽培適性試験、効率的な種子生産・保管技術の開発・実証、種子防除(種子処理農薬の登録維持・拡大)を支援します。
対象の野菜 指定野菜15品目と特定野菜34品目が対象です。ブロッコリーは令和8年度から指定野菜に追加されます。
関われる人 支援を直接受けるのは民間団体等です。採種に関わる産地・種苗事業者は、この枠組みを使った調査・実証・防除の取組に参画できます。
予算 令和8年度予算概算決定額は20百万円(前年度も20百万円)、令和7年度補正予算額は150百万円です。
野菜種子安定供給対策事業の概要。対策のポイント、事業目標、三つの事業内容、事業の流れ、対象品目、補助イメージ、令和8年度概算決定額と令和7年度補正予算額が示されている。
農林水産省:令和8年度概算決定の説明資料

野菜種子安定供給対策事業とは

野菜種子安定供給対策事業は、野菜の種子(タネ)を将来にわたって安定して確保するための農林水産省の事業です。野菜は種子から育てますが、その種子をつくる採種には、交雑を防げる環境と高い栽培技術が欠かせません。これまで多くの種子を海外の採種地に頼ってきましたが、食料生産との競合や気候変動でその確保が難しくなり、国内の採種農家も高齢化と人手不足が進んでいます。

そこでこの事業は、海外と国内の両面で新たな採種地を開拓し、効率的に種子を生産・保管する技術を育て、種子から広がる病害を防ぐ種子防除までを一つのパッケージとして支えます。野菜の供給を足元の種子から強くする取組だと考えるとわかりやすいです。

なぜ野菜の種子は安定供給が課題なのか

野菜の種子は、お店で買う野菜とは別に「タネをつくる畑」で育てます。これが採種で、ふつうの野菜づくりとは違う難しさがあります。次のような事情が重なり、種子の確保が以前より不安定になっています。

  • 食料生産との競合です。採種に向く土地は食用作物の生産にも向くため、世界的な食料需要の高まりのなかで採種地の確保が難しくなっています。
  • 気候変動です。種子は栽培期間が長く、気象の影響を受けやすいため、これまでの採種地が適地でなくなる懸念があります。
  • 地政学的リスクです。特定の国・地域に採種を頼ると、情勢の変化で種子が届かなくなる恐れがあります。
  • 国内採種農家の高齢化・人手不足です。採種には交雑防止できる環境と高い栽培技術が要るため、担い手が減ると国内の生産基盤そのものが細ります。

こうしたリスクを一か所に集中させないため、世界各地に採種を分散しつつ、国内の種子生産基盤も維持して、生産・供給の構造を強くしていく、というのがこの事業の基本的な考え方です。

野菜の種子の自給率と海外依存

国内で使う野菜の種子は、その多くを海外での採種に頼っており、種子の自給率は1割程度とされます。ふだん食べる野菜そのものの供給とは別に、その「タネ」を安定して確保できるかという足元のリスクがあるわけです。だからこそ、海外の採種地を分散しながら国内の採種基盤も維持することが、野菜を安定して作り続ける土台になります。食料全体の供給リスクへの備えという視点では、食料自給率はなぜ低いのかや、不測の事態に備える食料供給困難事態対策法ともつながる話です。

三つの柱で野菜の種子を支える

この事業は、目的の違う三つの取組を組み合わせて野菜の種子を支えます。海外での採種地の確保、国内での採種技術の底上げ、そして種子の病害を防ぐ種子防除です。

海外採種地調査等事業

海外の採種地は、食料生産との競合や気候変動で確保が難しくなっています。そこでこの取組は、海外で新たな採種地を確保するための現地調査栽培適性試験を支援します。採種を一か所に頼らず世界各地へ分散させ、どこかで不作や情勢変化が起きても種子が途切れない体制づくりをねらいます。

国内採種技術等開発・実証

国内は採種に向く適地が限られ、採種農家の高齢化・人手不足も進んでいます。そこで次の二つを支援します。

  1. 国内で新たな採種地を確保するための現地調査・栽培適性試験です。
  2. 効率的な種子生産・保管技術の開発・導入に向けた実証と、新規採種農家を増やすための周知活動などです。

適地の少ない国内で採種を成り立たせるための工夫も例として挙げられています。たとえば、日長は照明で調整する、受粉を担うミツバチが飛べるよう既存のパイプハウスを高さ増しするといった現場の手立てです。

採種した種子は、種類によって発芽力を保てる期間(寿命)が異なります。品質を落とさずに保つ保管の技術や計画的な更新も、いざというときに使える種子を確保するうえで欠かせません。効率的な生産だけでなく、こうした保管・管理までを含めて種子の安定供給を支えます。

種子防除技術の維持・確立

種子のなかには病原体が潜むことがあり、これがそのまま畑に広がると種子伝染性病害のまん延につながります。これを防ぐのが種子防除です。この取組では、野菜の種子に使う種子処理農薬の登録を維持・拡大するための試験などを支援します。安心して使える種子を届ける土台を守る取組です。この事業は令和7年度補正予算額150百万円の内数として計上されています。

採種地の開拓と調査の進め方

新たな採種地の開拓は、種子生産に必要な栽培環境などの調査から始め、栽培適性試験栽培実証へと国内外で段階的に進めます。交雑を防ぐ観点では、同じ種属が栽培されていない圃場間隔を確保する、山の谷間や離島のように交雑しにくい環境を選ぶ、といった条件が重視されます。採種地を見極めるときの調査項目には、次のようなものがあります。

  • 採種地への輸送アクセス
  • 栽培インフラ
  • 交雑防止の環境
  • 栽培・採種技術
  • 気候条件
  • 人件費、最低受託面積

対象の野菜と支援の考え方

対象になる野菜は、国民の食生活での重要度に応じて指定野菜特定野菜に分かれます。

  • 指定野菜は、国民の消費生活上とくに重要な野菜です。キャベツ、にんじん、ブロッコリーなど15品目が当たります。
  • 特定野菜は、指定野菜に準ずる重要な野菜です。かぶ、ごぼう、ニラなど34品目が当たります。

ブロッコリーは令和8年度から指定野菜に追加されます。支援の考え方としては、三つの柱のうち海外・国内の採種地確保と技術開発・実証(事業1・2)は民間団体等への定額または2分の1以内、種子防除(事業3)は民間団体等への定額が目安です。実際の補助率や採択要件、申請様式は年度ごとの公示・要綱で決まりますので、申請を検討するときは農林水産省の最新の案内をご覧ください。

採種・種苗に関わる人はどう関われるか

この事業の支援を直接受けるのは民間団体等です。とはいえ、採種や種苗に関わる産地・種苗事業者にとっては、新しい採種地を探す調査や、効率的な種子生産・保管の実証、種子処理農薬の登録維持に向けた取組に参画できる枠組みです。野菜の種子を国内でつくる基盤を維持し、国産の種子を増やしていくうえで、現場の知見や圃場が活かせる場面があります。

自分の産地で採種に取り組めそうか、どの取組に参画できるかを見極めるには、補助率・採択要件・申請様式・所管課を年度ごとの公示・要綱で確かめるのが確実です。種苗をめぐる制度は動きが速いため、あわせて品種の海外流出を防ぐ種苗法の改正点も押さえておくと、自分の品種や種子を守る視点で全体像がつかめます。

よくある質問

野菜の種子安定供給対策とは何ですか

野菜の種子(タネ)を将来にわたって安定して確保するための農林水産省の事業です。海外・国内の新たな採種地の調査・適性試験、効率的な種子生産・保管技術の開発・実証、種子の病害を防ぐ種子防除(種子処理農薬の登録維持・拡大)をまとめて支援します。

なぜ種子の安定供給が課題なのですか

野菜の種子をつくる採種は、これまで多くを海外に頼ってきましたが、食料生産との競合や気候変動、地政学的リスクで採種地の確保が難しくなっているためです。あわせて国内の採種農家も高齢化・人手不足が進み、国内の生産基盤が細る懸念があります。リスクを分散しつつ国内基盤も維持する必要があります。

どんな支援がありますか

海外・国内での新たな採種地の現地調査・栽培適性試験、効率的な種子生産・保管技術の開発・実証や新規採種農家の確保に向けた周知、種子処理農薬の登録維持・拡大に向けた試験などへの支援があります。事業1・2は民間団体等への定額または2分の1以内、種子防除の事業3は民間団体等への定額が目安です。

誰が対象ですか

支援を直接受けるのは民間団体等です。対象の野菜は指定野菜15品目と特定野菜34品目で、ブロッコリーは令和8年度から指定野菜に追加されます。採種や種苗に関わる産地・種苗事業者は、この枠組みを使った調査・実証・防除の取組に参画できます。

野菜の種子の自給率はどのくらいですか

国内で使う野菜の種子は多くを海外での採種に頼っており、種子の自給率は1割程度とされます。ふだん口にする野菜そのものの供給とは別に、その「タネ」を安定して確保できるかという課題があります。

なぜ野菜の種子は海外で採種するのですか

採種には交雑を避けられる環境と長い栽培期間、安定した気候が必要で、適地や人件費などの条件から海外の採種地が多く使われてきました。一方で、食料生産との競合・気候変動・地政学的リスクにより、その確保が難しくなっています。

国内で採種を増やすことはできますか

適地が限られ採種農家の高齢化も進むため簡単ではありませんが、この事業では国内の新たな採種地の調査・栽培適性試験や、効率的な種子生産・保管技術の実証、新規採種農家を増やす取組を支援しています。日長を照明で調整する、ミツバチが飛べるようハウスを高くするといった栽培の工夫も進められています。

次の一歩

採種に関心があるなら、まず自分の産地や圃場が三つの柱のどれに関われそうかを見極めましょう。海外・国内の採種地調査か、種子生産・保管の実証か、種子処理農薬の登録維持に向けた種子防除か、関わり方によって参画できる取組が変わります。補助率・採択要件・申請様式・所管課は年度ごとの公示・要綱で決まりますので、農林水産省の野菜種子安定供給対策に関する最新の案内をご覧ください。あわせて、自分の品種や種子を守る観点から品種の海外流出を防ぐ種苗法の改正点も確認しておくと、種苗をめぐる制度の全体像がつかめます。野菜の供給を安定させる関連の仕組みとしては、契約野菜の安定供給を支える補給金もあわせて参考になります。

キーワード解説

採種

野菜の種子(タネ)をつくる栽培のことです。食用に育てる栽培とは違い、花を咲かせて種子を実らせます。他の品種と花粉が混ざると別の品種になってしまうため、交雑を防げる環境と高い栽培技術が欠かせません。

種子防除

種子に潜む病原体を抑え、種子から広がる病害(種子伝染性病害)のまん延を防ぐ取組です。この事業では、種子に使う種子処理農薬の登録を維持・拡大するための試験などを支援します。

指定野菜

国民の消費生活上とくに重要として国が指定する野菜です。キャベツ、にんじんなど15品目が当たり、ブロッコリーが令和8年度から追加されます。

特定野菜

指定野菜に準ずる重要な野菜です。かぶ、ごぼう、ニラなど34品目が当たります。

F1種(一代交配種)

異なる親をかけ合わせてつくる一代限りの品種で、生育がそろい品質が安定しやすいのが特長です。育てた野菜から採ったタネは同じ性質になりにくいため、多くの生産現場では毎作、種苗会社が採種した種子を購入して使います。これが「タネを買う」構造を生み、採種と安定供給が重要になる背景でもあります。

固定種

世代を重ねても性質が受け継がれる品種で、自分で採種して使い続けられます。地域の在来種の多くがこれにあたります。

採種地

種子(タネ)をつくるための栽培を行う土地・産地のことです。交雑を防げる環境や適した気候、栽培・採種の技術がそろう場所が選ばれます。

まとめ

野菜の種子安定供給対策は、食料との競合・気候変動・地政学リスク・採種農家の高齢化が重なって不安定になりがちな野菜の種子を、海外・国内の採種地確保と技術開発、そして種子防除の三つの柱で足元から支える事業です。対象は指定野菜15品目と特定野菜34品目で、ブロッコリーは令和8年度から指定野菜に加わります。

支援を直接受けるのは民間団体等ですが、採種や種苗に関わる産地・種苗事業者にとっては、国内の種子生産基盤を維持し国産の種子を増やすための参画の場になります。補助率・採択要件・様式・最新年度は年度ごとの公示・要綱で決まりますので、農林水産省の最新の案内で確かめてから検討を進めましょう。