カット野菜や冷凍食品のメーカー、外食・中食向けに、数量と価格を約束して野菜を納める。この契約取引には、天候不順による収量不足、市場連動価格の低落、豊作時の過剰生産という、市場へ出荷するだけのときには無いリスクが付きまといます。これらの損失を補給金(交付金)で補てんしてもらえるのが契約野菜安定供給事業です。指定野菜なら生産者の負担は資金の25%で、その4倍まで受け取れます。契約取引する産地・農業法人と、安定して仕入れたい実需者(加工・外食・中食などの買い手)の双方に向けて、3タイプの仕組み、加入の要件、負担と交付の計算、収入保険との関係までを解説します。

概要

項目内容
対象となる方実需者・中間事業者と書面契約する出荷者(全農県本部・経済連・農協・大規模生産者など)。補給金は生産者側が受け取れます
何を契約取引のリスクを補てんする3タイプ=数量確保(不足分を市場調達した掛増経費など)・価格低落(連動価格が下がった差額)・出荷調整(過剰生産分を産地廃棄等した経費)
対象野菜指定野菜(指定産地)と特定野菜等(対象産地)。皮むき・カットなど簡易処理品も対象
負担と交付指定野菜は資金の生産者25%・都道府県25%・国50%で、負担額の4倍まで受けられます。特定野菜等は各3分の1で3倍まで
詳しくは実施は農畜産業振興機構。対象出荷期間の開始の約40日前までに加入するタイプを決めて機構へ申し込みます

契約野菜安定供給事業とは

契約野菜安定供給事業は、野菜の契約取引に伴って生じるリスクを軽くするための公的な事業です。食品メーカー・外食産業・流通業者などの実需者と出荷者の契約取引を補給金(価格補てん)の対象とするため、平成14年に創設されました。実施は農畜産業振興機構が担います。指定野菜を対象とする契約指定野菜安定供給事業と、特定野菜等を対象とする契約特定野菜等安定供給促進事業の二つで構成されます。

市場へ出荷する野菜向けの野菜価格安定制度は、卸売市場で価格が著しく下がったときに備える制度です。本事業はそれと違い、「数量と価格を約束した契約取引」だからこそ生じるリスクに備えます。加工・業務用の需要が伸びるなかで国産野菜の契約取引をしやすくする狙いがあり、国産野菜のシェア奪還を後押しする仕組みの一つです。

補てんの対象になるのは、出荷者と実需者等(実需者および卸・仲卸・商社などの中間事業者)が書面で契約した取引です。皮むきやカット、パッキングなど、野菜に新しい属性を付け加えない簡易な処理をしたものも対象になります。契約取引の始め方そのものは飲食店・スーパーとの直接取引の解説記事もあわせてご覧ください。

補てんの3タイプ

補てんは、契約の決め方に応じて3つのタイプに分かれます。自分の契約が「数量も価格も固定」か「価格は市場連動」か「数量を約束した定量供給」かで、入れるタイプが決まります。タイプは単独でも、数量確保と出荷調整、価格低落と出荷調整という組み合わせでも申し込めます。

タイプどんな契約・場面か補てんの中身
数量確保数量も価格も固定した契約で、収量不足により契約数量を満たせなくなったとき市場出荷予定分を契約に回したときの差益(7割)、または不足分を市場等から購入したときの掛増経費(9割)を補てん
価格低落市場価格に連動する契約で、市場価格が著しく下がったとき取引価格も下がった差額の9割を補てん
出荷調整一定量を取引する契約で、豊作により過剰生産となり価格が下がったとき過剰分を出荷調整(産地廃棄など)した経費を補てん

各タイプの発動基準は、いずれも基準価格(過去9年間の卸売市場価格の平均)を土台に決まります。市場価格が指標価額(基準価格の130%)を上回れば数量確保、保証基準額(90%)を下回れば価格低落、発動基準額(70%)を下回れば出荷調整、というように、平均取引価額の動きで対象になるかどうかが決まります。

数量確保タイプ

数量も価格も固定した定量定価格契約で加入します。平均取引価額が指標価額(基準価格の130%)を上回った旬に契約数量を確保した場合が対象です。まず市場へ出荷する予定だった分を契約に回して数量を守ったときは、市場に出せば得られた差益の7割が補てんされます。不作が深刻で、不足分を市場等から購入してまで契約数量を確保したときは、購入価額と契約価額の差の9割が補てんされます。購入価額の上限は、旬ごとに契約価額の150%・200%・300%・400%から選べます。交付予約できる数量は契約数量の50%が上限です。

価格低落タイプ

市場価格に連動する契約で加入します。平均取引価額が保証基準額(基準価格の90%)を下回った旬に出荷した場合に、補給金を受け取れます。補給金額は「(保証基準額−平均取引価額)×0.9×交付対象数量」で計算します。平均取引価額が最低基準額(基準価格の55%)を下回ったときは、保証基準額と最低基準額の差の9割が上限になります。交付予約できる数量は契約数量を限度とします。

出荷調整タイプ

一定量を取引する定量契約で加入します。価格は固定でも市場連動でもかまいません。豊作で当初の計画以上に収穫され、平均取引価額が発動基準額(基準価格の70%)を下回った旬に、過剰分を出荷調整(産地廃棄など)した場合に補給金を受け取れます。補給金額は「契約価額または基準価格のいずれか低い額×0.4×交付対象数量」で計算します。過去の平均価格の40%を、出荷前までにかかった生産経費とみなす考え方です。交付予約できる数量は契約数量の30%が上限です。

契約野菜安定供給制度の3つの補てんタイプを、価格や数量の推移を示す棒グラフで図解した1枚。価格低落タイプは平均取引価額が保証基準額(基準価格の90%)を下回った差額の0.9を補てん、出荷調整タイプは発動基準額(基準価格の70%)を下回り過剰分を出荷調整した経費を補てん、数量確保タイプは指標価額(基準価格の130%)を上回って契約数量を確保した場合の差益・掛増経費を補てんする仕組みを示す。下部には負担割合(指定野菜は国50%・都道府県25%・出荷団体25%、特定野菜等は各3分の1)も併記している。
独立行政法人農畜産業振興機構「契約野菜安定供給制度の概要」(事業概要)

補給金はどれくらい受けられるか

受け取れる額をつかむには、機構の試算例が分かりやすいです。夏秋レタス(結球)を3か月・90トン、東京都中央卸売市場大田市場の価格×0.8で契約した価格低落タイプを例にすると、基準価格は1キログラム当たり167.22円、保証基準額は150.50円、最低基準額は91.97円です。全9旬にわたって価格が下がり、平均取引価額が115.38円になった場合の補給金は約284万円になります。このとき生産者が事前に納める負担金は約119万円です。市場価格が下がらなければ補給金はありませんが、負担金は翌年度に持ち越せます。

数量確保タイプも、同じレタス90トン・契約価額230円・購入限度150%の契約で試算すると、ひどい不作で不足分を市場から購入して数量を守った場合の補給金は約324万円になります。受け取れる額は契約品目・契約価額・市場価格の動き・選んだ購入限度で変わるため、自分の契約条件で機構の試算を受けてみると見当が付きます。

対象と加入の要件

加入できるのは、実需者・中間事業者と書面で契約した出荷者です。具体的には、全農県本部・経済連・農協・大規模生産者などが該当します。補給金は生産者側が受け取れます。対象になる野菜は、指定野菜なら指定産地で、特定野菜等なら一定の要件を満たした対象産地で生産されたものです。指定野菜はキャベツ・きゅうり・さといも・だいこん・たまねぎ・トマト・なす・にんじん・ねぎ・はくさい・ばれいしょ・ピーマン・ほうれんそう・レタスの14品目で、令和8年度からブロッコリーが加わって15品目になり、契約取引でも対象になります。手続き先は、指定野菜が機構、特定野菜等が都道府県の野菜価格安定法人です。

契約では、野菜の種別・供給期間・数量・価格の決め方を書面で定めます。価格を「正味1キログラム当たり○○円」と定額にした契約は数量確保タイプ、市場価格に連動させた契約は価格低落タイプに入れます。出荷調整タイプはどちらの価格設定でも入れます。数量確保タイプに入る場合は、不足したときに出荷者が他から同じ種別の野菜を調達して数量を守る「数量確保の措置」の条文を、必ず契約書に書き入れます。あらかじめ取引基本契約を結んでおき、数量などは覚書や確認書で合意する形でもかまいません。

申し込みは、原則として対象出荷期間の開始の約40日前までに、加入するタイプを決めて農畜産業振興機構へ行います。予約申込みの時点で実需者との契約数量が整わない場合は、その旨を所定の様式で届け出れば、供給期間の開始日の前日の10日前まで申し込めます。

負担と交付の仕組み

機構(特定野菜等の場合は都道府県の野菜価格安定法人)が、あらかじめ生産者から負担金を預かって補給金の基になる資金を造成し、一定の要件に達したときに交付します。指定野菜では、資金のうち生産者が25%を負担し、残りを都道府県25%・国50%でカバーします。負担した額の4倍まで受け取れます。特定野菜等では、生産者・都道府県・国が各3分の1を負担し、負担額の3倍までです。

負担金はかけ捨てではありません。その年度に交付されずに余った資金は翌年度に引き継がれ、事業を続けない場合には返還されます。たとえば価格低落タイプの負担金は「(保証基準額−最低基準額)×0.9×交付予約数量×負担率」で計算します。市場価格が下がらなければ補給金はありませんが、負担金は将来の備えとして残ります。

産地要件によらない契約野菜収入確保モデル事業

指定産地や対象産地という産地の要件を満たさない契約取引でも使えるよう、令和7年度には契約野菜収入確保モデル事業が措置されています。加工・業務用野菜の周年供給に向けた契約取引のリスクを軽くする事業で、出荷調整タイプと数量確保タイプの二つを備えます。出荷調整タイプは、生産者等が供給量不足を避けるため契約数量より多めに作付けし、価格が下がったときに出荷調整した減収分の一部を補てんします。数量確保タイプは、中間事業者が生産者等からの仕入れ数量の減少を補うため卸売市場等から調達したときの掛増分の一部を補てんします。産地の指定にとらわれずに契約取引へ踏み出したい産地・実需者に、入口を広げる仕組みです。

よくある質問

市場出荷向けの野菜価格安定制度とは何が違いますか

備えるリスクの対象が違います。野菜価格安定制度は、卸売市場へ出荷した野菜の価格が著しく下がったときに備える制度です。契約野菜安定供給事業は、数量と価格を約束した契約取引だからこそ生じる、数量不足・連動価格の低落・過剰生産という3つのリスクに備えます。市場出荷と契約取引を併用するなら、両方に加入して使い分けられます。

収入保険と同時に加入できますか

タイプによって扱いが変わります。野菜価格安定制度や契約野菜安定供給事業の価格低落タイプは、収入保険と補償が重なるため、令和6年産までの特例で認められていた同時利用が令和7年産以降の新規加入では使えなくなります。一方、補償の中身が重ならない数量確保タイプ・出荷調整タイプや、契約野菜収入確保モデル事業の出荷調整タイプは、収入保険との同時加入ができます。年度や加入時期で扱いが変わるため、自分の契約での可否は機構やNOSAI(農業共済組合)に確認しましょう。収入保険の中身は収入保険の解説記事もあわせてご覧ください。

カット野菜や皮むき野菜の契約でも対象になりますか

対象になります。皮むき、キャベツやはくさいの2つ割り・4分の1カット、パッキング、芯抜きなど、野菜に新しい属性を付け加えない簡易な処理をしたものは事業の対象です。ただし加熱処理したものや千切り・みじん切りは対象外です。判断に迷う処理は機構に確認しましょう。

どのタイプに入ればよいか分かりません

契約の決め方で選びます。数量も価格も固定したなら数量確保タイプ、価格を市場連動にしたなら価格低落タイプ、数量を約束した定量供給なら出荷調整タイプが基本です。数量確保と出荷調整、価格低落と出荷調整は同時に申し込めるため、不足と過剰の両方に備えることもできます。

個人の生産者でも入れますか

加入できるのは実需者・中間事業者と書面契約した出荷者で、全農県本部・経済連・農協のほか、大規模生産者も該当します。産地が指定産地・対象産地に当たるか、自分の契約規模で加入できるかは機構に確認できます。産地の要件を満たさない場合は契約野菜収入確保モデル事業も検討できます。

次の一歩

まず、自分の契約が「定量定価格」「市場価格連動」「定量供給」のどれに当たるかを確かめ、入れるタイプを見極めましょう。次に、産地が指定産地・対象産地に該当するかを農畜産業振興機構に確認します。該当しない場合は契約野菜収入確保モデル事業も検討します。加入を決めたら、数量確保タイプでは「数量確保の措置」の条文を契約書に入れたうえで、対象出荷期間の開始の約40日前までに機構へ申し込みましょう。補てん割合や交付予約の様式、対象品目の最新の内容は、機構の野菜価格安定制度のページで確認できます。

キーワード解説

契約野菜安定供給事業

野菜の契約取引に伴うリスクを補給金(交付金)で補てんする事業です。指定野菜が対象の契約指定野菜安定供給事業と、特定野菜等が対象の契約特定野菜等安定供給促進事業で構成され、平成14年に創設されました。実施は農畜産業振興機構です。

農畜産業振興機構

野菜・砂糖・畜産物などの価格安定や生産流通の支援を担う独立行政法人で、英語名の頭文字からalic(アリック)と呼ばれます。契約野菜安定供給事業では、生産者の負担金を預かって資金を造成し、要件に達したときに補給金を交付します。

基準価格

過去9年間の卸売市場価格の平均です。各タイプの発動基準を決める土台になり、指標価額(130%)・保証基準額(90%)・発動基準額(70%)・最低基準額(55%)はいずれもこの基準価格を基に算出します。

指標価額

基準価格の130%相当額です。数量確保タイプでは、平均取引価額がこの指標価額を上回った旬に契約数量を確保した場合が補てんの対象になります。市場が高騰しているのに低い契約価格で供給する負担を補う考え方です。

保証基準額

基準価格の90%相当額です。価格低落タイプでは、市場価格に連動する契約で平均取引価額がこの保証基準額を下回った旬に、差額の9割を補給金として受け取れます。

指定産地

指定野菜の安定的な供給を確保するために国が指定した、一定規模以上の主産地です。契約指定野菜安定供給事業は、指定野菜のうち指定産地で生産されたものを対象とします。産地が該当するかは機構に確認できます。