猛暑のなかで農作業を続けるには、空調服やスポットクーラーなどの暑さ対策アイテムが欠かせません。その購入費に使える公的なお金はあるのでしょうか。結論から言えば、条件が合えば国の補助金が空調服を対象にし、一部の市町村には農業者向けの購入補助もあります。この記事では、国のエイジフレンドリー補助金と業務改善助成金、自治体の補助の実例、大きな設備に使える国の補助、従業員のいない個人経営が使える税制、そして自分の市町村の制度の探し方を、農家・農業法人・JA・自治体の農政担当に向けて整理します。

概要

項目内容
誰が猛暑のなかで農作業を続ける農家・農業法人。就労環境の改善を支えるJA・市町村の農政担当も対象。
何を空調服など個人装備に使える国・自治体の補助、大きな設備の国補助、個人経営向けの税制、制度の探し方。
費用と支援国のエイジフレンドリー補助金は対象経費の2分の1・上限100万円。自治体の例は高崎市の農業者向けファン付き等作業服特別枠が1経営体あたり上限2万円、久万高原町が空調服で上限1万円(いずれも2分の1)。
申請の要点多くの補助は購入前の申請が原則。予算枠は先着で、申請期間が年度当初の数週間だけの自治体も。
次の一歩「県名+市町村名+熱中症(または空調服)補助金」で検索し、市町村の農政課・商工課やJA・農業共済に相談。

暑さ対策に使えるお金― 「国/自治体」から探しましょう

暑さ対策に使えるお金は、まず「何を買うか」で分かれます。空調服・冷却グッズのような個人の装備を探すなら、探し先は国(厚生労働省の補助)と自治体(市町村の独自補助)の2つです(従業員のいない個人経営は、ここに税制が加わります)。一方、ハウスの冷房や予冷施設のような大きな設備投資は、目的も担当省庁も違い、農林水産省の省力化・環境対策の補助が受け皿になります。まず「装備を探すのか、設備を探すのか」を決め、装備なら国と自治体をあたりましょう。

探し先買えるもの主な制度使える人
①国(厚生労働省)空調服・スポットクーラーなど(個人の装備)エイジフレンドリー補助金業務改善助成金労働者を雇う中小企業
②自治体(市町村)空調服・ファン付き作業服など(個人の装備)市町村の職場環境・農業者向けの独自補助制度のある市町村の農業者・事業者
別枠:国(農林水産省)ヒートポンプ・予冷施設など(大きな設備)スマート農業・農業支援サービス・環境対策の各事業施設園芸・産地の農業者

ここで押さえておきたいのは、空調服など個人の装備は国と自治体の2つで探すのが基本で、農林水産省の補助は大きな設備・省力化が中心のため、装備を直接買える全国一律の制度はない、という点です。設備投資は「暑さを我慢するのを助ける」というより「暑い作業自体を涼しくする・減らす」投資で、装備の補助とは切り離して考えると探しやすくなります。

国の制度:エイジフレンドリー補助金で空調服が対象

空調服を国の補助で導入したいときの本命が、厚生労働省のエイジフレンドリー補助金です。高年齢の労働者が安全に働ける職場づくりを支援する制度で、その中の熱中症対策コースが暑さ対策の装備を対象にします。

対象になるアイテム

熱中症対策コースでは、電動ファン付き作業服(空調服)や移動式のスポットクーラー、冷凍ストッカー、熱中症の初期症状を検知できるウェアラブルデバイスなど、体温を下げる機能のある服や装備が対象になります。個人が身につける空調服から、休憩所を冷やす機器まで幅広く含まれます。

どれだけ受けられるか

補助率は対象経費の2分の1、補助上限額は100万円(消費税を除く)です。空調服を複数人分そろえたり、スポットクーラーを導入したりする費用の半分を、この上限のなかでまかなえます。

対象になる方

使えるのは、労災保険が適用される中小企業事業者で、1年以上事業を続け、役員を除く60歳以上の高年齢労働者を常時1名以上雇っている場合です。高齢の従業員を雇う農業法人や個人経営なら対象になり得ますが、従業員のいない一人での経営は対象になりません。

申請の時期

令和8年度の申請受付期間は令和8年5月20日から10月31日まで(当日消印有効)です。予算がなくなり次第締め切られます。申請先は厚生労働省が定めるエイジフレンドリー補助金事務センター(一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会)です。夏の需要期は申請が集中するため、装備の導入を決めたら早めに動きましょう。翌年度以降に使う場合も、5〜6月のうちに申請しておくと予算切れを避けられます。

なお令和8年度は、熱中症対策コースが独立したコースとして設けられています(ほかに専門家総合対策コースの第1段階・第2段階、コラボヘルスコースがあります)。年度によってコースの組み替えがあるため、申請前に事務センターの公募案内で当年度のコース構成を確認してください。

国の制度:業務改善助成金 ― 賃上げとセットで空調服も

もう一つの国の制度が、厚生労働省の業務改善助成金です。事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上に役立つ設備投資を行う中小企業を支援します。この設備投資のなかに、空調服やスポットクーラーが含まれる場合があります。

ただし賃上げが前提の制度のため、従業員のいない個人経営は使えません。「暑いから」という理由だけでは対象になりにくく、作業環境の改善で生産性が上がることを申請書で示す必要があります。引き上げる賃金額や人数によって上限額が変わるので、詳しい要件は厚生労働省の案内や都道府県労働局に確認しましょう。

自治体の補助:農業者向けに空調服を補助する市町村がある

国の制度は労働者の雇用が前提でした。一方、市町村のなかには、従業員のいない個人の農業者でも使える空調服の補助を設けているところがあります。実際に運用されている例を紹介します(令和8年度・2026年7月30日現在)。

市町村制度名対象対象経費補助率・上限
久万高原町(愛媛)空調服等導入事業補助金認定農業者・認定新規就農者とその経営構成員、農業研修生など空調服など2分の1以内・上限1万円
高崎市(群馬)職場環境改善事業(農業者向けファン付き等作業服特別枠)補助金市内に住所があり耕作権を有する農家・法人身体の冷却機能を有する被服でバッテリーを使うもの(電動ファン・水冷循環・ペルチェ素子等)のウェア・冷却デバイス・バッテリー一式2分の1・1経営体あたり上限2万円(1経営体1回限り)
高崎市(群馬)職場環境改善事業補助金(事業者向けの一般枠)市内に法人届出をした法人、または市内に住民登録のある個人空調設備、遮断熱塗装、ファン付き等作業服2分の1・事業者あたり上限500万円(うちファン付き等作業服は上限10万円)

久万高原町は認定農業者個人を対象にしており、従業員を雇っていなくても使えるのが特徴です。高崎市は令和8年度に、農業者専用のファン付き等作業服特別枠を新たに設けました。炎天下の屋外や、屋外より高温になる農業用ハウス内で作業する農業者を対象に、1経営体あたり2万円を上限として補助するもので、予算が上限に達し次第受付終了となります。一方、事業者向けの一般枠(ファン付き等作業服は上限10万円)は申請受付が令和8年4月1日〜4月14日で、令和8年度分は既に受付を終了しています。農家が高崎市で申請する場合は、まず農業者特別枠を農林課へ確認するのが早道です。

ただし、こうした制度がすべての市町村にあるわけではありません。補助率・上限額・申請期間は年度ごとに変わり、高崎市の一般枠のように申請期間が年度当初の2週間ほどと短く、予算枠に達すると締め切られる制度もあります。購入前の申請が原則の制度が多いため、買う前に必ず市町村の要綱を確認しましょう。

自分の市町村の制度の探し方

自治体の補助は市町村ごとに内容が違い、農業者向けか事業者全般向けかも分かれます。自分の地域に使える制度があるかどうかは、次の手順で確かめられます。

制度を探して申請するまでの流れ

  1. 自分の状況を整理します。従業員を雇っているか、認定農業者か、事業所がどの市町村にあるかで、使える制度が変わります。
  2. 「県名+市町村名+熱中症 補助金」「市町村名+空調服 補助金」で検索し、市町村の公式サイトを確認します。
  3. 見つからなければ、市町村の農政課・商工課に電話で問い合わせます。JAや農業共済(NOSAI)が独自の助成や福利厚生を持つこともあります。
  4. 対象経費・補助率・上限額・申請期間・予算枠を確認します。多くは購入前の申請と交付決定が必要です。
  5. 交付決定を受けてから購入し、領収書を保管して実績報告書を提出します。

国の補助金を横断して探すなら、電子申請システムの「jGrants(Jグランツ)」や、中小企業向けの支援制度を検索できる「ミラサポplus」も使えます。制度名がわからなくても、「熱中症」「空調服」などの語で候補を絞り込めます。

お金が戻るのは何か月後か ― 立て替えが必要な点に注意

補助金・助成金は後払いです。申請してから交付決定まで1〜2か月、そこから装備を購入し、実績報告と審査を経て入金されるまで、通算で4〜6か月かかるのが一般的です。購入代金はいったん全額を自己資金で立て替えることになるため、収穫前で手元資金が薄い時期に大きな金額を動かす場合は、資金繰りを先に確認しておきましょう。

また、交付決定の前に発注・契約・購入をしてしまうと対象外になるのが原則です。暑くなってから慌てて買い、あとから申請しようとしても間に合いません。実績報告では領収書のほか、設置状況や使用状況の写真、振込先の通帳の写しなどを求められることが多いので、購入時から書類をそろえておくと手戻りがありません。

大きな暑さ対策は国の省力化・設備補助で

空調服のような個人の装備ではなく、ハウスそのものを涼しくしたり、暑い時間帯の作業を減らしたりする大きな投資には、農林水産省の補助を活用できます。「暑さを我慢して耐える」のではなく「暑い作業自体を減らす・涼しくする」考え方で、熱中症のリスクを根本から下げられます。

  • ハウスの高温対策や省エネの設備は、環境対策の補助が支えます。詳しくは施設園芸のヒートポンプ補助の解説記事をご覧ください。
  • 収穫した農産物を冷やす予冷施設には、専用の支援があります。予冷施設の補助の解説記事で解説しています。
  • ドローンによる農薬散布の委託や自動水管理など、暑い作業を外部化・自動化するスマート農業・農業支援サービスも、国の補助の対象です。

ほかに使える制度がないか調べる

立場・やりたいこと・品目の3つを選ぶと、61制度から候補が出ます。「人を雇う・育てる・継ぐ」を選んだ状態で開きます。

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補助が使いにくい個人経営はどうする ― 税制と装備の選び方

まず前提として、働く人が自分用に空調服を買う費用に補助は出ません。ここで扱っている制度はいずれも事業者向けで、申請するのは労働者を使う側です。そのうえで、農業の場合は「法人ではない」「従業員がいない」という2つの条件で使える制度が変わります。制度ごとの可否を整理すると次のとおりです。

制度個人(法人でない)でも使えるか従業員がいない場合ポイント
エイジフレンドリー補助金(熱中症対策コース)使える(労災保険が適用される中小企業事業者であること)原則対象外役員を除く60歳以上を常時1名以上雇っていることが要件
業務改善助成金使える対象外事業場内最低賃金の引き上げが前提
市町村の農業者向け補助(久万高原町・高崎市の農業者特別枠など)使える使える場合がある認定農業者や耕作権を有する農家など、雇用ではなく営農の要件で判定される

国の制度は「労災保険が適用される事業者であること」を土台にしています。農業の場合、常時5人未満を使う個人経営などは労災保険の適用が任意ですが、労災保険の特別加入という仕組みで加入することができます。特別加入をしていれば国の制度の土台を満たせる場合があるため、暑さ対策の補助と労災の備えは合わせて検討する価値があります。ただし補助の可否は年度の公募要領で決まるため、申請前に事務センターや労働局へ確認してください。

従業員のいない個人経営に確実性が高いのは、市町村の農業者向け補助です。久万高原町は認定農業者個人、高崎市の農業者特別枠は耕作権を有する農家を対象にしており、いずれも雇用の有無を要件にしていません。そのうえで、次の税制と装備の選び方で負担を抑えられます。

税制を活用する

空調服やWBGT計などの装備は、単価が10万円未満なら購入した年に全額を必要経費にできます。さらに青色申告をしている中小事業者なら、取得価額30万円未満の備品などを年間300万円まで一度に経費にできる少額減価償却資産の特例も使えます。スポットクーラーなど単価の高い機器を導入する年の税負担を抑えられます。取扱いの詳細は税理士や所轄の税務署にご確認ください。

まず何を買うかを決める

予算が限られるなら、効果とコストのバランスで優先順位をつけます。農林水産省の「熱中症対策アイテム集」は、身体を冷やす服装、体温調整をサポートする装備、身体を計測する機器と冷却グッズ、作業場の改善と休憩の質という分類でアイテムを紹介しています。まず空調服や日よけ、こまめな休憩と水分・塩分の補給といった基本から整え、次にWBGT計で暑さ指数を測って危険な時間帯の作業を避ける、という順で無理なくそろえられます。

対策の基本と、もしものときの備えは別記事で

補助金や装備は、熱中症対策の一部です。休憩と水分・塩分の補給、2人以上での作業、暑さ指数(WBGT)の確認といった予防の基本、そして労働者を雇う農業者に義務づけられた措置は、農作業の熱中症対策の解説記事にまとめています。装備をそろえる前に、まず基本の行動を確認しておきましょう。

また、熱中症で作業ができなくなったときの補償として、農作業中のケガや病気に備える労災保険の特別加入があります。詳しくは農業者の労災保険特別加入の解説記事をご覧ください。

よくある質問

従業員のいない個人経営でも使える補助はありますか

国のエイジフレンドリー補助金や業務改善助成金は従業員の雇用が前提のため、一人で経営する農家は対象になりにくいのが実情です。一方、久万高原町のように認定農業者個人を対象にした自治体の補助や、高崎市の農業者向けファン付き等作業服特別枠のように耕作権を有する農家を対象にした補助もあり、これらは雇用の有無を要件にしていません。まずお住まいの市町村に農業者向けの制度があるかを確認し、なければ少額減価償却資産の特例などの税制で負担を抑える方法があります。国の制度は労災保険が適用される事業者であることが土台になるため、労災保険の特別加入とあわせて検討する方法もあります。

働く人が自分で空調服を買う費用に補助は出ますか

出ません。この記事で紹介している制度はいずれも事業者向けで、申請するのは労働者を使う側の農業者・農業法人です。従業員として働いている方が自分用に空調服を購入する場合は、補助金ではなく、勤務先に装備の支給を相談するのが筋になります。雇う側にとっては、これらの制度で装備をそろえる費用の半分程度をまかなえます。

補助金はいつ振り込まれますか。先に全額払う必要がありますか

補助金は後払いです。申請から交付決定までに1〜2か月、購入と実績報告・審査を経て入金されるまで通算4〜6か月かかるのが一般的で、購入代金はいったん自己資金で立て替えることになります。交付決定の前に発注・購入すると対象外になるのが原則なので、資金繰りとあわせて早めに申請しておくと安心です。

空調服はどの制度で買えますか

国では厚生労働省のエイジフレンドリー補助金(熱中症対策コース)が空調服を対象にします。補助率は2分の1・上限100万円で、60歳以上を雇う中小企業が条件です。自治体では高崎市や久万高原町のように、農業者・事業者向けにファン付き作業服を補助する例があります。農林水産省の補助は大きな設備や省力化が中心で、空調服など個人装備を直接買える全国一律の制度はありません。

補助金は購入した後に申請できますか

多くの制度は購入前の申請と交付決定が原則で、先に買ってしまうと対象外になることがあります。久万高原町のように購入後10日以内の実績報告を定める制度もありますが、事前の交付申請が必要かどうかは制度ごとに異なります。買う前に必ず要綱で申請のタイミングを確認しましょう。

WBGT計やスポットクーラーも補助の対象になりますか

エイジフレンドリー補助金の熱中症対策コースは、空調服だけでなく移動式スポットクーラーや、身体の状態を測るウェアラブルデバイスなども対象にします。WBGT計(暑さ指数計)は、自治体の職場環境改善の補助で対象になる場合があります。単価が10万円未満なら購入した年に全額を経費にでき、税制でも負担を抑えられます。

ヒートポンプなどハウスの設備の補助はどこにありますか

ハウスの高温対策設備や省エネ設備は、農林水産省の環境対策・省力化の補助が対象です。詳しくは施設園芸のヒートポンプ補助の解説記事をご覧ください。収穫物を冷やす予冷施設は予冷施設の補助の解説記事で解説しています。

キーワード解説

エイジフレンドリー補助金

高年齢の労働者が安全に働ける職場づくりを支援する厚生労働省の補助金です。熱中症対策コースでは、空調服・移動式スポットクーラー・ウェアラブルデバイスなどの購入費を、2分の1・上限100万円で補助します。役員を除く60歳以上の労働者を常時1名以上雇う中小企業が対象です。

業務改善助成金

事業場内で最も低い賃金の引き上げと、生産性向上のための設備投資をあわせて行う中小企業を支援する厚生労働省の助成金です。設備投資に空調服やスポットクーラーが含まれる場合がありますが、賃上げが前提のため、従業員のいない個人経営は使えません。

認定農業者

市町村が認定した農業経営改善計画にもとづいて経営を営む農業者です。久万高原町の空調服補助のように、認定農業者を対象にした自治体の支援があります。従業員の雇用は要件ではないため、一人で経営する農家でも認定を受けていれば対象になります。

少額減価償却資産の特例

青色申告をしている中小事業者が、取得価額30万円未満の備品などを、購入した年に一括で必要経費にできる税制上の特例です。年間の合計300万円までが上限です。単価の高い暑さ対策機器を導入する年の税負担を抑えられます。