2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:取適法)に改められました。食品の取引で影響が大きいのは3点です。資本金だけでなく従業員数でも対象が決まるようになったこと、出荷の運送を運送会社に頼む取引が加わったこと、手形払と協議なしの値決めが禁止されたことです。農林水産省は同じ月に「食品製造業者・小売業者間における適正取引推進ガイドライン」を改定し、PB商品や留型商品の扱いを明記しました。この記事では、食品メーカー・加工業者、加工品を作る農業法人やJA、出荷で運送を頼む産地を読者として、自社の取引が対象になるかの見分け方と、変わった点を整理します。
| 法律 | 取適法(旧下請法)。2026年1月1日施行 |
|---|---|
| 対象の取引 | 製造委託(PB・留型・加工の委託)、特定運送委託(販売した商品の運送の委託)など |
| 対象の規模 | 資本金3億円超→3億円以下、資本金1,000万円超→1,000万円以下、従業員300人超→300人以下のいずれかの組合せ(個人事業者も受託側に含む) |
| 主な変更点 | 従業員基準の追加、運送委託の追加、手形払の禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、振込手数料の受託側負担の禁止 |
| 発注側の義務 | 発注内容の明示、取引記録の2年間保存、受領から60日以内の支払期日、遅延利息年14.6% |
| 相談先 | 取引かけこみ寺(フリーダイヤル0120-418-618・匿名可)、公正取引委員会、中小企業庁、農林水産省 |
2026年1月から何が変わったか
法律の題名とあわせて呼び名も変わりました。親事業者は「委託事業者」、下請事業者は「中小受託事業者」、下請代金は「製造委託等代金」です。取引先との契約書や社内規程に旧称が残っていても効力は変わりませんが、相談窓口や公的資料は新しい呼び名で書かれています。
中身の変更は次の5つです。
- 対象を決める基準に、資本金に加えて従業員数(300人または100人)が加わった
- 対象の取引に、販売した商品などを相手方へ届けるための運送の委託(特定運送委託)が加わった
- 手形による支払いが禁止され、電子記録債権やファクタリングも支払期日までに満額を受け取れないものは使えなくなった
- 受託側から価格協議を求められたのに応じない、説明しないまま代金を決めることが禁止された
- 農林水産省など事業所管省庁が、発注側を直接指導・助言できるようになった
このほか、振込手数料を受託側に負担させて代金から差し引くことは、合意があっても違反(減額)になりました。従来は書面で合意していれば認められていた扱いです。
自社の取引が対象かを見分ける
取適法が適用されるかどうかは、取引の内容と、発注側・受注側の規模の組合せの2つで決まります。どちらか一方だけでは決まりません。
取引の内容:売買か、製造委託か
規格・品質・形状・デザインなどを指定して、物品の製造や加工を他社に頼むのが製造委託です。スーパーやドラッグストア、コンビニエンスストア本部、通信販売業者が自社のPB商品の製造を食品加工業者に頼むのが典型例です。
メーカーが自社の規格で作った商品をそのまま売るだけなら売買で、取適法の対象ではありません。青果や米を規格どおりに納める取引も、多くは売買です。売買の取引で返品や協賛金を求められた場合は、独占禁止法と大規模小売業告示で判断します(返品・協賛金・センターフィーは断れるか)。
留型商品も製造委託に当たる
農林水産省のガイドラインは、PBに限らず、取引先の求めで規格品のパッケージや内容量を変えるなど、一部でも自社向けの加工等をさせる場合は製造委託に当たると明記しています。中身がNB商品と同じ規格でも結論は変わりません。標準品に小売業者名入りのラベルを付ける加工の受託も、ガイドラインの取引例に挙がっています。
留型商品はNB商品の延長として扱われ、口頭で発注されることが少なくありません。ガイドラインは、契約書がなく支払条件や返品条件も決まっていない留型の取引を問題となり得る事例に挙げています。取適法の対象になる以上、発注側は代金の額、支払期日、受け取る日などを書面か電子メールですぐに示さなければならず、示さなければ発注内容等の明示義務の違反です。
規模:資本金か従業員数のどちらかで当てはまれば対象
製造委託と特定運送委託では、次の3つの組合せのどれかに当てはまれば対象です。
| 基準 | 発注側(委託事業者) | 受注側(中小受託事業者) |
|---|---|---|
| 資本金A | 3億円超 | 3億円以下(個人を含む) |
| 資本金B | 1,000万円超3億円以下 | 1,000万円以下(個人を含む) |
| 従業員 | 300人超 | 300人以下(個人を含む) |
従業員基準が加わったことで、資本金は小さくても従業員の多い発注側が対象になりました。従業員の数は委託した時点で数え、正社員のほか契約社員、パートタイマー、アルバイト、1か月を超えて続けて使う日雇いの人も含みます。グループ会社の従業員は合算せず、会社ごとに数えます。
個人事業者も受注側です。資本金のない個人の農家が、資本金1,000万円を超える加工会社やJAから加工の委託を受ける場合も、製造委託に当たれば保護の対象です。
卸売業者が間に入る取引
小売業者と製造業者の間に卸売業者が入る場合は、卸売業者の関わり方で当事者が変わります。製品の仕様や委託先の選定、代金の決定に関わらず、注文書の取次ぎや請求・支払の代行だけをしている卸は当事者になりません。この場合は小売業者が委託事業者、製造業者が中小受託事業者です。卸売業者が仕様や代金の決定に関わっていれば、小売と卸、卸と製造業者のそれぞれの組合せで規模を比べて判断します。
農業法人やJAが発注側になる場面
取適法は受注側を守る法律ですが、農業法人やJAが発注側として義務を負う場面もあります。
- 自社ブランドの加工品を外部に委託する:ジャムや漬物、ジュースなどを、規格を指定して加工業者に作ってもらう取引は製造委託です。発注側が資本金1,000万円超で、加工業者が1,000万円以下なら対象になります。
- 出荷の運送を運送会社に頼む:販売した農産物や加工品を取引先へ届けるための運送を委託する取引は特定運送委託です。規模の基準は製造委託と同じで、出資の総額が大きいJAや農業法人が小さな運送会社に頼む場合に当てはまり得ます。
特定運送委託が加わった理由は、荷主から運送会社への委託で、積み込み作業や荷待ちを無償でさせる問題が目立っていたことです。これまでは独占禁止法の物流特殊指定で対応していました。対象になる取引では、発注内容を書面か電子メールで示し、受け取りから60日以内に運賃を支払う必要があります。契約にない荷役や長時間の荷待ちを無償でさせれば、不当な経済上の利益の提供要請に当たるおそれがあります。荷主として求められるほかの義務は改正物流法で荷主・物流事業者に求められる義務の記事にまとめました。
価格協議に応じない値決めは違反になった
受注側が価格の協議を求めたのに、発注側が協議に応じない、または必要な説明や根拠を示さないまま代金を決めることは、協議に応じない一方的な代金決定として禁止されました。「決定」には、値上げや値下げだけでなく据え置きも含まれます。
従来の「買いたたき」は、通常の対価より著しく低いことを示す必要があり、相場の認定が壁でした。新しい規定は交渉の過程を見ます。コストが40円から90円に上がったのに、協議をせず納品価格を100円から110円にしか上げなかった場合も、協議の過程に問題があれば違反になり得ます。
協議を求めるきっかけになる事情は、原材料・労務費・エネルギーの値上がりに限りません。納期の短縮、納品回数の増加、発注数量の減少、需給の変化、発注側からの値下げ要請も含まれます。協議の求めを無視したり、先延ばしを繰り返したりして協議を難しくすることも、応じないことと同じ扱いです。
食品の取引でガイドラインが問題となり得る例に挙げているのは、次のような場面です。
- 原材料の値上がりを資料で示して値上げを求めたが、販売価格を一方的に据え置かれた
- 大量発注を前提に見積もった単価のまま、発注数量を半分に減らされた
- PB商品でNB商品と同水準の原材料を求められたのに、NB商品より著しく低い価格を一方的に設定された
- 特売期間の低い納品価格を、特売が終わったあとも続けるよう求められた
価格転嫁の仕組みは、令和8年4月1日に全面施行された食料システム法の「誠実に協議に応じる努力義務」とも重なります。取適法の対象外の売買取引でも、食料システム法の努力義務は残ります(食料システム法とは)。
手形払の禁止と支払いのルール
支払期日は、物品を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で定めます。改正前は、60日目に手形を渡し、手形サイト60日を経てようやく現金になるため、受注側が現金を手にするまで最長120日かかっていました。手形払が禁止されたことで、支払期日に現金を受け取れるようになります。
電子記録債権(でんさい)や一括決済方式は、支払期日までに手数料を含めた満額の現金を受け取れる形なら使用可能です。満期日が支払期日より後になり、受注側が自分で割り引かないと期日に現金化できないものは、発注側が割引料を上乗せしても支払遅延に当たります。振込手数料を受注側に負担させることも、合意の有無にかかわらず禁止です。
食品の取引で問題になりやすいほかの行為
取適法は、発注側に11の禁止行為を定めています。受注側の了解があっても、発注側に違反の意識がなくても違反です。食品の取引で起きやすい例をガイドラインから拾うと次のとおりです。
| 場面 | 当たり得る禁止行為 |
|---|---|
| 売れ行き不振で発注を取り消し、調達済みの包材の費用を負担しない | 不当な給付内容の変更 |
| 協賛金の名目で、伝票上の納品価格を相談なく引き下げる | 代金の減額 |
| 天災による欠品に、売上相当額の補償を求める | 不当な経済上の利益の提供要請 |
| 算出根拠や使途が示されないセンターフィー・協賛金 | 不当な経済上の利益の提供要請 |
| 単位コストが下がらないのに、目標数量の達成でリベートを支払わせる | 代金の減額 |
| 違反を公正取引委員会や農林水産省に知らせたことを理由に取引を減らす | 報復措置 |
包材については、PB商品の発注で包材の一括調達を含めていたなら、製造業者が印刷業者へ発注した時点で発注側が費用を支払うのが望ましい形とされています。契約に明記がなくても、販売計画に沿って調達した包材が製造中止で余った場合は発注側が負担するのが望ましい、というのがガイドラインの考え方です。
取引条件を見直す手順
受注側が取引条件を見直すときは、次の順で進めます。
- 取引ごとに、売買か製造委託か、運送の委託を含むかを分け、相手と自社の資本金・従業員数を確認する
- PB・留型の取引で、代金の額・支払期日・受け取る日・返品の条件が書面か電子メールで届いているかを確かめる
- 原材料費、労務費、物流費の内訳を数字でそろえ、値上げや単価見直しの協議を書面で申し入れる
- 協議を拒まれる、説明がない、支払いが手形のままといった場合は、取引かけこみ寺に相談する(匿名可)
- 改善しなければ、公正取引委員会、中小企業庁、農林水産省に情報を提供する
取引かけこみ寺は中小企業庁の委託で47都道府県に置かれ、相談のほか、調停などで紛争を解決する手続も扱います。食料システム法に関する相談先は、農林水産省の「食品等の適正取引に関する情報受付窓口」です(匿名可)。違反を知らせたことを理由に取引を減らすことは報復措置として禁止されており、2026年1月からは知らせる先に農林水産省などの事業所管省庁も加わりました。
よくある質問
スーパーに青果を納めているだけですが、取適法の対象ですか
規格どおりの青果を売買で納めるだけなら、多くは対象外です。小売の指定で店名入りのラベルを付ける、内容量を指定どおりに変えて袋詰めするなど、自社向けの加工をさせる取引は製造委託に当たり得ます。売買の取引でも、返品や協賛金は独占禁止法と大規模小売業告示で判断されます。
取引先の資本金が小さければ取適法は関係ありませんか
関係があります。2026年1月から従業員基準が加わり、発注側の従業員が300人を超え、自社が300人以下なら、資本金にかかわらず製造委託は対象です。パートタイマーやアルバイトも従業員に数えます。
取引先から手形で支払われています。もう受け取れないのですか
取適法の対象になる取引では、発注側は手形で支払えなくなりました。支払期日に現金で受け取るのが原則です。電子記録債権で支払う場合も、支払期日までに手数料を含めた満額を現金化できる形でなければ支払遅延に当たります。
値上げを申し入れたら「他社は何も言ってこない」と断られました
取適法の対象の取引で、協議に応じない、または値上げしない理由を書面や電子メールで答えないまま価格を据え置くと、買いたたきや協議に応じない一方的な代金決定に当たるおそれがあります。原価の内訳を示して協議を求めた記録を残し、改善しなければ取引かけこみ寺に相談してください。
農業法人が加工を外部に委託する場合も、取適法の義務を負いますか
負う場合があります。自社の資本金が1,000万円を超え、委託先の加工業者が1,000万円以下なら、規格を指定して加工を頼む取引は製造委託です。発注内容を書面か電子メールで示し、受け取りから60日以内の支払期日を定めて支払う必要があります。
キーワード解説
取適法
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の通称で、正式な略称は中小受託取引適正化法です。下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号)の題名を改め、2026年1月1日から施行されています。所管は公正取引委員会と中小企業庁です。
製造委託
物品の販売や製造を業として行う事業者が、規格・品質・形状・デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工を委託することです。大規模小売業者がPB商品の製造を食品加工業者に委託するのが代表例です。
留型商品
取引先の求めで、規格品のパッケージや内容量などを変えて納める商品です。中身がNB商品と同じでも、一部でも取引先向けの加工をさせる場合は製造委託に当たり、取適法の対象になります。
特定運送委託
事業者が、販売する物品や製造を請け負った物品などを取引の相手方に届けるための運送を、他の事業者に委託することです。2026年1月の改正で取適法の対象に加わりました。食品加工業者が製造したPB商品を小売業者へ届ける運送を委託する取引も含みます。
発注内容等の明示義務
発注側が発注のたびに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを書面または電子メールなどで示す義務です(取適法第4条)。2026年1月からは、受注側の承諾がなくても電子メールなどで示せるようになりました。
協議に応じない一方的な代金決定
受注側から価格協議を求められたのに、協議に応じない、または必要な説明や情報の提供をしないまま代金を決めて、受注側の利益を不当に害することです(取適法第5条第2項第4号)。2026年1月の改正で新たに禁止されました。