ラベルを貼り間違えた、期限の入力が漏れていた。売り場から商品を引き上げるところまでは判断できても、行政に届け出るのかどうかで手が止まります。答えは「回収すれば全部届け出る」でも「自主回収だから任意」でもありません。安全に関わる表示の欠落・誤りで回収するときだけが義務で、それ以外は義務ではないという線が引かれています。この記事では、その線引きと、届出の期限・提出先・書き方、届出が要らなくなる条件を、小売店・産地の直売所・食品加工事業者が自分の案件で判断できる形に整理します。

誰が食品関連事業者等(製造・加工・輸入・販売を行う事業者)。表示に責任を有する者が届け出る
何を回収に着手した旨と回収の状況。商品名・違反と判断した理由・販売先・回収方法など8項目
いつまでに回収に着手したあと遅滞なく。届出事項の変更時と回収終了時にも、その都度遅滞なく
どこへ原則は自社の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事。本社とは別の部門が回収を担うなら、その部門の所在地を管轄する知事でも可。実務上の窓口は管轄の保健所
方法食品衛生申請等システムでの電子申請が推奨。使わない場合は所定の様式を書面で送付
罰則届出をしない場合と虚偽の届出をした場合は50万円以下の罰金
根拠食品表示法第10条の2第1項。罰則は同法第21条第3号。届出先・クラス分類・任意の届出の運用は、令和7年6月1日以降に着手した回収から改正後の消費者庁次長通知による

届出が義務になるのはどんな表示ミスか

食品リコール情報の届出が義務になるかどうかを、安全性に関する表示への該当、販売先の特定、摂取の有無の順に判定するフロー図
届出が義務になるかどうかの判断フロー。消費者庁「食品表示法第10条の2に基づく食品リコール情報届出制度」

判定は三つの問いを順にたどるだけです。最初の問いが最も重要で、ここで外れれば届出義務はありません。

  1. 回収の理由になった表示が、6条8項府令で定める安全性に重要な影響を及ぼす事項に当たるか。当たらなければ義務の対象外です。
  2. その食品の販売先が特定されていて、直ちに連絡できるか。
  3. 連絡の結果、その食品が食べられておらず、食べられるおそれもないと確認できたか。確認できたなら義務の対象外です。

一つ目の問いに出てくる安全性に重要な影響を及ぼす事項は、6条8項府令第1条が列挙しています。名称・保存の方法・消費期限または賞味期限・アレルゲン・L-フェニルアラニン化合物を含む旨のほか、指定成分等含有食品に関する事項、特定保健用食品・機能性表示食品・栄養機能食品を摂取する上での注意事項、食肉や冷凍食品といった加工食品の個別の義務表示事項が並びます。

生鮮食品も対象です。シアン化合物を含有する豆類の使用の方法、アボカド・あんず・おうとう・かんきつ類などのアレルゲン・保存の方法・期限、食肉の処理を行った旨と十分な加熱を要する旨、生かきの生食用であるかないかの別、生乳・生山羊乳・生羊乳などである旨が、同じ第1条に入っています。直売所や産地で扱う品目でも、表示を誤って回収すれば届出義務がかかります。

添加物は一律に対象外ではありません。上の判断フロー図が対象外の例に挙げる「添加物、原料原産地 等」は、物質名や用途名の表示を指した簡略な表記です。6条8項府令第1条第14号は、添加物のうち「使用の方法」と「L-フェニルアラニン化合物である旨またはこれを含む旨」を対象事項に挙げています。この2つを誤って回収する場合は届出義務がかかります。原料原産地の表示は第1条に列挙がないため、対象外です。

期限を過ぎた食品でも例外にはなりません。消費期限・賞味期限を超過した食品であっても、表示が基準に従っていない食品を販売して自ら回収する場合は届出が必要です。

対象外だが届出を勧められる場合

大豆やカシューナッツなどの特定原材料に準ずるものは、表示が義務ではないため厳密には6条8項府令の対象外です。ただし表示の不備を理由に自主回収するときは、健康被害を防ぐ観点から都道府県が積極的な届出を促します。

義務の対象外である表示違反も、任意の届出として届け出られます。令和7年6月1日以降に着手する回収では、原則として食品衛生申請等システムから届け出てください。特に必要と認められる場合は、消費者庁長官へ直接届け出ることもできます。

届出が要らなくなる二つの場合

回収したのに届け出なくてよいのは、次のどちらかに当たるときです。判断に迷ったら、当てはまると決めつけずに保健所へ相談するのが安全です。

要らなくなる場合具体例
売り先が特定されていて、直ちに連絡した結果、食べられていないこと・食べられるおそれもないことが確認できたとき 消費期限を付けずに小売店へ卸したが、製造事業者から連絡し、その小売店が消費者への販売前に取りやめ、店の従業員も食べていないとき。連絡先の分かる消費者に販売し、直ちに連絡して返品されたとき
6条8項府令で定める事項の違反に当たらないとき 生食用と表示する予定の魚介類に加熱加工用と表示/保存温度を本来より低く表示/期限を本来より短く表示/名称だけの誤表示(摂取する際の安全性に影響を及ぼすおそれがあるものを除く)/添加物の物質名・用途名や原料原産地の誤表示(添加物の使用の方法とL-フェニルアラニン化合物を含む旨は対象事項のため除く)

二つ目の例に共通するのは、誤りが安全側に振れている点です。本来より短い期限や低い保存温度は、消費者の健康を害する方向の誤りではないため、届出義務からは外れます。

回収に着手する前に、表示の修正で済ませられないかを先に検討してください。食品ロス削減の観点から望ましいとされています。回収した食品であっても、衛生上の問題がなく表示を直せるなら、有効活用に努めることが求められます。

届出の手順

初回はアカウント作成が要るため、事故が起きてから登録を始めると間に合いません。

  1. 食品衛生申請等システムにアクセスします。パソコンからの利用が推奨されています。
  2. GビズIDまたは食品等事業者のアカウントを作成し、IDとパスワードを取得します。ほかの行政サービスでも使えるGビズIDの取得が推奨されています。
  3. 担当者基本情報と食品等事業者基本情報を登録します。ここまでは初回のみです。
  4. ログインし、リコール情報の届出を選んで製造所や商品情報を入力し、届け出ます。
  5. 届出事項に変更があったとき、回収が終わったときは、その都度遅滞なく届け出ます。

電子申請システムを使わない場合は、所定の様式を書面で送付します。届け出た内容は、国または都道府県知事が受け付けたものがすべて電子申請システムで公表され、消費者は商品名・回収理由・健康被害の有無・販売数量などを検索して確認できます。

届け出る8項目

  • 自社の氏名または名称と住所(法人は主たる事務所の所在地)
  • 回収の事務を他社に指示・委託した場合はその相手の氏名または名称と住所
  • 商品名・名称・表示の内容など、その食品を特定するために必要な事項
  • その食品が届出の対象に当たると判断した理由
  • 着手した時点で判明している販売先、販売先ごとの販売日と販売数量
  • 回収に着手した年月日
  • 回収の方法
  • その食品を食べたことによる健康被害の発生の有無

本社の所在地か、回収を担う部門の所在地か

原則の提出先は自社の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事で、保健所を設置する市や特別区では市長・区長です。実務上の窓口は管轄の保健所になります。

ここは令和7年6月1日以降に着手する回収から運用が変わりました。法人で、本社とは別の部門が実際に回収を担う場合は、その部門の施設所在地を管轄する都道府県知事に届け出ても差し支えありません。届出を受けた自治体が食品衛生申請等システムを通じて消費者庁へ報告する過程で、本社所在地の自治体も速やかに把握できる体制が整ったためです。食品衛生法では以前から施設所在地への届出が認められており、届出先の違いによる差し戻しが頻発していたことが改正の理由です。食品衛生法と食品表示法の両方に当たる案件でも、同じ窓口へ出せるようになりました。

提出先が消費者庁長官になる場合

次の2つは、消費者庁長官へ直接届け出ます。特定保健用食品・機能性表示食品・栄養機能食品の摂取上の注意事項の表示違反による回収と、特別区の区長へ報告することとされている届出のうち卸売市場に係るもの(花きの卸売市場を除く)です。これ以外でも、特に必要と認められる場合は消費者庁長官へ直接届け出られます。

売り場では回収の引き金がラベルの貼り間違いに集中する

販売業(スーパー)の自主回収届出920件の要因内訳。貼り間違いが527件57%でその9割がアレルゲン表示のミス。あわせて表示ラベルを作成時・貼付時・陳列時の三工程で複数人が確認する手順と、届出時の注意点を示す
販売業の自主回収の要因と、表示ミスを防ぐ確認の手順。消費者庁「その食品表示、大丈夫? 販売業(スーパー)の皆様へ」(PDF)

直近1年度(令和7年4月から令和8年3月まで)の届出は全国で1,745件です。うち販売業(スーパー)からの届出が920件で53%を占め、次に多い製造業が487件で28%でした。届出の半分以上が売り場から出ています。要因の内訳を見ると、対策すべき工程が特定できます。

回収の要因件数内訳の特徴
ラベルの貼り間違い527件(57%)アレルゲン485件で約9割、期限表示31件、個別的義務表示2件、その他9件
ラベルの誤入力・入力漏れ241件(26%)期限表示190件で約8割、アレルゲン41件、保存方法7件、個別的義務表示2件、その他1件
使用原材料の間違い64件(7%)64件すべてがアレルゲン表示のミス
貼り忘れ20件(2%)アレルゲン10件、期限表示7件、その他3件
理由の記載なし12件(1%)アレルゲン2件、期限表示4件、保存方法4件、その他2件
印字機の不具合6件(1%)アレルゲン3件、期限表示3件
その他50件(6%)アレルゲン44件、期限表示4件、その他2件

この920件のうち、アレルゲンの表示ミスでは小麦・卵・乳などにより8件の健康被害が発生しました。全国の全業種で見ると1位は誤入力・入力漏れ(713件)で、貼り間違い(672件)は2位です。売り場では順位が入れ替わり、貼り間違いが最多になります。届出の8割超がラベルの貼り間違いと入力ミスという単純な作業ミスであることを踏まえ、表示ラベルを工程ごとに複数人で確認する運用が勧められています。作成時はラベルと仕様書・現物表示を照合し、貼付時はラベルと商品の中身を照合し、陳列時にラベルと商品が一致しているかを見る、という三段構えです。

届出の実務では、同一商品であれば販売店ごとに分けず一つにまとめて届け出ると公表が速く進みます。商品画像だけでなく、一括表示が分かる画像も添付します。

クラス分類は行政側が決める

届出を受けた行政機関が、健康被害の程度に応じてクラスを分類したうえで消費者庁長官へ報告します。事業者が申告するものではありませんが、公表情報はクラスで検索できるため、自社の案件がどう扱われるかは知っておく価値があります。分類は令和7年6月1日以降に着手する回収から2区分から3区分に増え、品質に関わる事項などを対象とするCLASSⅢが加わりました。

分類対象となる食品対象となる表示事項
CLASSⅠ食べることで重篤な健康被害または死亡の原因となり得る可能性が高い場合名称(摂取する際の安全性に影響を及ぼすおそれがあるものに限る)、消費期限、アレルゲン(特定原材料に準ずるものを含む)、L-フェニルアラニン化合物を含む旨、加熱用の食肉・魚介類の生食用の誤表示
CLASSⅡ重篤な健康被害または死亡の原因となり得る可能性が低い場合CLASSⅠの対象となる表示事項を除く事項に係る違反、はちみつに関する表示の欠落(乳児ボツリヌス症に関する注意喚起の表示を含む)
CLASSⅢ健康被害の可能性がほとんど無い場合CLASSⅠ・CLASSⅡの対象となる表示事項を除いたもの。届出を要しない場合に該当する届出

直近1年度に全国で届け出られた1,745件は、CLASSⅠが1,239件で71%、CLASSⅡが455件で26%、CLASSⅢが51件で3%でした。全国のCLASSⅠのうち32件で実際に健康被害が出ており、品目別では菓子類15件、調理食品13件が大半です。前掲の8件は、この集計から販売業(スーパー)のアレルゲン表示ミスによるものを取り出した数字です。届出をすでに済ませた案件でも、その食品による健康被害が報告された場合は、回収命令などの措置が検討されます。

いま確認しておきたいこと

回収が起きてから調べ始めると、届出の期限である「遅滞なく」に間に合いません。次の三つを平時に済ませておくと、判断と手続きが速くなります。

  • 食品衛生申請等システムのアカウントを先に作っておきます。GビズIDの取得には日数がかかります。
  • 届出先の保健所を確認しておきます。原則は店舗の所在地ではなく本社の所在地です。本社とは別の部門が回収を担う体制なら、その部門の所在地の保健所でも受け付けられます。
  • アレルゲンと期限のラベル照合を、作成・貼付・陳列の三工程に分けて担当を決めておきます。届出の8割超はこの二つのミスです。

表示を誤らないための義務表示の範囲については、仕入れた野菜を小分け・カットして売るときの表示と、賞味期限・消費期限の表示ルールと決め方で整理しています。店内で加工した商品は原材料名などの表示が省けますが、アレルゲンと期限は省けません。届出義務がかかるのは、まさにその省けない項目のミスです。

よくある質問

自主回収をしたら必ず届出が必要ですか

必要ありません。アレルゲンや期限表示など安全性に関わる表示の欠落・誤りで回収する場合は、食品表示法第10条の2第1項に基づいて届け出ます。大腸菌による汚染や硬質異物の混入など食品衛生法違反またはそのおそれがある場合は、食品衛生法第58条第1項に基づく別の届出になります。窓口と食品衛生申請等システムは共通ですが、根拠条文と罰則は別です。商品の入れ間違いなど法律上の問題がないものは、健康被害に結び付く情報が埋もれることを避けるため、届出の対象とされていません。

添加物の表示を間違えて回収した場合も届け出ますか

間違えた項目によります。6条8項府令第1条第14号は、添加物のうち「使用の方法」と「L-フェニルアラニン化合物である旨またはこれを含む旨」を対象事項に挙げているため、この2つの誤りで回収するときは届出義務がかかります。物質名・用途名の表示や原料原産地の誤りは対象事項に含まれず、義務ではありません。広く周知したい場合は、任意の届出として食品衛生申請等システムから届け出られます。

届け出なかった場合はどうなりますか

届出をしない場合と虚偽の届出をした場合は、食品表示法第21条第3号により50万円以下の罰金の対象になります。

回収が終わったあとにも手続きが要りますか

要ります。回収が終わったときは遅滞なくその旨を届け出ます。回収の事務を他社に指示・委託した場合は、終了を確認したときが起点です。届出事項に変更があったときも、その都度届け出ます。

期限切れの商品を回収する場合も対象ですか

消費期限・賞味期限を過ぎた食品であっても、表示が基準に従っていない食品を販売して自ら回収するのであれば、届出が必要です。

キーワード解説

6条8項府令

食品表示法第6条第8項に規定するアレルゲン、消費期限、食品を安全に摂取するために加熱を要するかどうかの別その他の食品を摂取する際の安全性に重要な影響を及ぼす事項等を定める内閣府令のことです。第1条が、届出義務の対象となる表示事項を列挙しています。

食品関連事業者等

食品の製造・加工・輸入・販売を行う事業者などを指します。届出をするのは、そのうち表示に責任を有する者です。

自主回収(リコール)

行政の命令によらず、事業者が自ら流通した食品を回収することです。行政の回収命令を受けて回収する場合は、この届出制度の対象から除かれます。