米や麦・大豆の価格が下がって収入が落ち込んだとき、その減った分を国が補てんする仕組みが経営所得安定対策です。柱は二つあります。諸外国との生産条件の格差から生産費が販売価格を上回りやすい麦・大豆などの畑作物に、その差額を交付するゲタ対策と、米・麦・大豆などの収入合計が過去の平均を下回ったときに差額の9割を埋めるナラシ対策です。どちらも認定農業者・集落営農・認定新規就農者が対象で、面積の大きさは問いません。この記事では、米や畑作に取り組む農家・農業法人・集落営農、支える市町村・JAの担当者に向けて、二つの交付金で受けられる金額、収入保険・農業共済との違いと選び方、申請の窓口までを整理します。

概要

項目内容
誰が 米・麦・大豆などを作る認定農業者・集落営農・認定新規就農者です(いずれも規模要件はありません)。まずは認定農業者等になることが前提になります。
何を 麦・大豆などの生産費と販売価格の差を補うゲタ対策と、米・畑作の収入減を補うナラシ対策の交付金を受けられます。
補助額 ゲタ対策は面積払が10アールあたり2万円(そばは1万3千円)に、生産量と品質に応じた数量払が加わります。ナラシ対策は収入減の差額の9割(農業共済加入を前提に調整)です。
主な要件 地域の指導に沿って適切に生産することが原則です。ナラシ対策は農業者が国と1対3の割合で積立金を拠出します。ナラシと収入保険は重複して加入できません。
詳しくは 最寄りの地域農業再生協議会(市町村・JA等)または地方農政局に相談します。交付申請書と営農計画書の提出期限は令和8年産で6月30日です。

経営所得安定対策とは

経営所得安定対策は、担い手の農業経営を安定させるために国が直接交付金を出す仕組みです。中心は、生産条件の格差を補正するゲタ対策と、収入の落ち込みを和らげるナラシ対策の二つです。これに、令和元年から始まった、すべての農産物の収入減を広く補償する収入保険と、水田で麦・大豆・飼料作物などへの転換を後押しする水田活用の直接支払交付金が組み合わさり、米・畑作経営のセーフティネットを作っています。

ゲタとナラシはどちらも、認定農業者・集落営農・認定新規就農者が対象です。かつてのような作付面積の下限(規模要件)はなく、認定を受けていれば小さな経営でも使えます。交付金は国から農業者の口座へ直接振り込まれ、その申請と要件確認を地域で担うのが地域農業再生協議会です。

ゲタ対策でどれだけ受けられるか

ゲタ対策(畑作物の直接支払交付金)は、諸外国との生産条件の格差で不利になりやすい国産の畑作物について、「標準的な生産費」と「標準的な販売価格」の差額を交付する仕組みです。対象になるのは麦・大豆・そば・なたねと、北海道産のてん菜・でん粉原料用ばれいしょです。麦芽用の麦(ビール用等)や黒大豆、種子用に作るものなどは対象外です。

交付は二階建てです。土台になる面積払(営農継続支払)は、当年産の作付面積に応じて10アールあたり2万円(そばは1万3千円)を先払いします。これに、生産量と品質に応じて計算する数量払が上乗せされ、面積払は数量払の内数として差し引かれます。数量払の単価は品質区分(等級やたんぱく質のランク、てん菜の糖度など)ごとに決まっていて、令和8年産から改定されました。主な作物の平均交付単価は次のとおりです。

ゲタ対策の交付単価(令和8年産の平均、小麦5,590円/60kg・大豆10,340円/60kgなど)と、収量に応じて増える数量払・その先払いである面積払(10アール2万円)の関係図。あわせてナラシ対策で差額の9割を補てんする考え方も示す。
農林水産省「経営所得安定対策」:ゲタ対策の交付単価と、数量払・面積払の関係
対象作物 課税事業者向けの平均交付単価 免税事業者向けの平均交付単価
小麦5,590円/60kg6,000円/60kg
二条大麦4,900円/50kg5,220円/50kg
六条大麦5,710円/50kg6,110円/50kg
はだか麦8,330円/60kg8,850円/60kg
大豆10,340円/60kg10,910円/60kg
そば15,930円/45kg16,730円/45kg
なたね6,410円/60kg6,820円/60kg
てん菜5,090円/トン5,380円/トン
でん粉原料用ばれいしょ14,090円/トン15,030円/トン

単価が課税事業者向けと免税事業者向けに分かれているのは、消費税の扱いの違いによるものです。表の額は品質区分ごとの単価をならした平均で、実際は等級やランクが上がるほど単価も高くなります。たとえば普通大豆は1等で60キログラムあたり11,410円(課税事業者向け)と、平均より高い単価が設定されています。自分の作物の等級別の単価は、地域農業再生協議会で確認できます。

なお、ゲタ対策は畑でも水田でも、麦・大豆などの畑作物そのものに対して交付される点が特徴です。これとは別に、水田で麦・大豆・飼料作物などの戦略作物を作ること自体を後押しするのが水田活用の直接支払交付金で、水田での転換にはこの二つが関わります。水田で麦・大豆に取り組む場合の助成は水田活用の直接支払交付金の解説、畑地化して本作にする支援は畑作物への転換支援の解説で整理しています。

ナラシ対策の補てんの仕組み

ナラシ対策(米・畑作物の収入減少影響緩和交付金)は、価格の下落などで農業収入全体が減ったときに、その落ち込みをならす仕組みです。対象作物は米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょで、これらの当年産の販売収入の合計が、過去の平均である標準的収入額を下回った場合に、差額の9割を補てんします。

特徴は、農業者自身も財源を出し合う点です。補てんの原資は農業者と国が1対3の割合で負担するため、補てんを受けるには農業者からの積立金の拠出が必要です。積立額は、標準的収入額のうち収入減10%分か20%分のどちらに備えるかを選んで決めます。補てんに使われなかった積立金の残額は翌年産へ繰り越されるため、掛け捨てにはなりません。補てん額は農業共済に加入していることを前提に調整されるため、ナラシ対策は農業共済との組み合わせが基本になります。

ナラシ対策の交付金算定の概念図。標準的収入額(過去5年のうち最高年と最低年を除く3年平均)から当年産収入額を差し引いた差額の9割を補てんし、その財源を農業者の積立1に対し国の交付金3の割合で負担することを示す。
農林水産省「経営所得安定対策」:ナラシ対策の交付金算定の考え方

基準となる標準的収入額は、直近5年のうち最高の年と最低の年を除いた3年の平均収入で決めます(いわゆるオリンピック方式)。米の場合は、地域の産地品種銘柄のうち数量の多い上位3銘柄の平均販売価格に、実際の単収を掛けて算出します。当年産の収入がこの水準を下回れば、下回った額の9割が戻ってくる計算です。価格の急落があった年ほど補てんは大きくなります。

収入保険・農業共済との違いと選び方

収入の減少や災害に備える制度は、ナラシ対策のほかに収入保険と農業共済があります。役割が重なる部分があり、収入保険とナラシ対策、収入保険と農業共済は、それぞれ重複して加入することができません。まず自分の経営に合う組み合わせを選ぶことが出発点になります。

項目 ナラシ対策 収入保険 農業共済
主に備える対象 米・麦・大豆等の価格下落による収入減 自然災害から価格低下まで、経営全体の収入減 自然災害・病虫害・鳥獣害による収量減
対象になる方 認定農業者・集落営農・認定新規就農者 青色申告を行う農業者(個人・法人) 広く農業者(品目ごとに加入)
対象品目 米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょ 原則としてすべての農産物 米・麦・果樹・園芸施設・家畜など
費用の考え方 国3対農業者1で積立(残額は繰越) 保険料・積立金(国が一部を負担) 共済掛金(国が一部を負担)

大まかな選び方はこうです。米・麦・大豆が中心で、価格下落への備えを農業共済と組み合わせたいならナラシ対策が向いています。青色申告をしていて、対象品目を問わず自然災害から価格低下まで幅広く経営全体で備えたいなら収入保険が候補になります。どちらが得かは経営の品目構成や過去の収入の振れ方で変わるため、実際の掛金と補償を並べて比べるのが確実です。ナラシ対策と収入保険の詳しい比較は収入保険と農業共済・ナラシの違いの解説で整理しています。

交付金を活かす農業経営基盤強化準備金制度

受け取ったゲタ・ナラシや水田活用の交付金は、そのまま所得として課税されます。ここで使えるのが農業経営基盤強化準備金制度です。青色申告を行う認定農業者・認定新規就農者が、交付金を農業経営改善計画などに沿って準備金として積み立てると、その額を個人は必要経費に、法人は損金に算入できます。

積み立てた準備金を取り崩したり、受け取った交付金をそのまま使ったりして、農用地や農業用の機械・施設(取得価額30万円以上)を取得した場合には、圧縮記帳ができます。トラクターや倉庫などの大きな投資を、交付金を使って計画的に進めたいときに税負担を抑えられます。対象になるのは、市町村が定める地域計画に位置付けられた担い手で、適用には農林水産大臣の証明書が必要です(証明書の申請はeMAFFでも手続きできます)。積み立てなかった交付金は課税対象になる点に注意してください。

申請の流れ

ゲタ・ナラシの交付金は、次の順で申請します。窓口は最寄りの地域農業再生協議会(市町村・JA等)または地方農政局です。

  1. 最寄りの地域農業再生協議会または地方農政局に相談し、対象作物・必要書類・地域ごとの提出期限を確認します。
  2. 交付申請書と営農計画書を用意し、令和8年産では6月30日までに提出します(交付申請に関する誓約事項と個人情報の取扱いを確認します)。
  3. ナラシ対策に加入する場合は、積立金の申出をあわせて行い、通知された積立額を8月末までに納付します(収入減10%分か20%分のどちらに備えるかを選びます)。
  4. 収穫後、生産実績数量を報告します。ナラシ対策の補てんを受けるための交付申請は、翌年の4月に行います。
  5. 要件の確認を経て、ゲタ・ナラシの交付金が指定口座へ直接入金されます。ナラシの補てんは翌年の5月下旬から6月ごろに支払われます。

農業経営を移譲して農業者年金の経営移譲年金・特例付加年金を受けている方は、原則としてこれらの交付金を申請できません。相続や法人化などで申請者が変わったときは、速やかに承継の手続きを行いましょう。

よくある質問

ゲタ対策は個人の農家でも受けられますか

認定農業者・集落営農・認定新規就農者であれば、面積の大きさに関わらず受けられます。規模要件はないため、小さな経営でも認定を受けていれば対象です。まだ認定を受けていない場合は、認定農業者や認定新規就農者になることが入口になります。

ナラシ対策と収入保険はどちらを選べばよいですか

両方に同時に加入することはできません。米・麦・大豆が中心で農業共済と組み合わせて価格下落に備えるならナラシ対策、青色申告をしていて品目を問わず自然災害から価格低下まで幅広く備えたいなら収入保険が向いています。掛金と補償を並べて比べると判断しやすくなります。詳しくは収入保険と農業共済・ナラシの違いの解説をご覧ください。

ナラシの積立金は使わなければ返ってきますか

掛け捨てにはなりません。補てんに使われなかった積立金の残額は、翌年産へ繰り越されます。積立額は、標準的収入額のうち収入減10%分か20%分のどちらに備えるかを選んで決めます。

水田で麦・大豆を作ると水田活用の交付金ももらえますか

ゲタ対策は麦・大豆などの畑作物そのものに対する交付金、水田活用の直接支払交付金は水田で戦略作物を作ることへの助成で、別の仕組みです。水田での転換にはこの二つが関わります。水田で麦・大豆に取り組む場合の助成は水田活用の直接支払交付金の解説で確認できます。

キーワード解説

ゲタ対策(畑作物の直接支払交付金)

諸外国との生産条件の格差で不利になりやすい麦・大豆・そば・なたね・てん菜・でん粉原料用ばれいしょについて、標準的な生産費と販売価格の差額を交付する制度です。生産量と品質に応じた数量払と、その先払いである面積払(10アールあたり2万円、そばは1万3千円)で構成されます。

ナラシ対策(米・畑作物の収入減少影響緩和交付金)

米・麦・大豆・てん菜・でん粉原料用ばれいしょの当年産収入の合計が、過去の平均である標準的収入額を下回ったとき、差額の9割を補てんする制度です。財源は農業者と国が1対3で負担し、農業者の積立が必要ですが、残額は翌年産へ繰り越されます。

標準的収入額

ナラシ対策の基準になる過去の平均収入です。直近5年のうち最高の年と最低の年を除いた3年の平均で決めます。米の場合は、地域の主要な産地品種銘柄の平均販売価格に実際の単収を掛けて算出します。

地域農業再生協議会

市町村・JA・農業共済組合・農業委員会などで構成され、概ね市町村単位に置かれる組織です。全国に約1,570か所あり、経営所得安定対策の申請受付や作付面積の確認、説明会の開催などを担います。申請の相談や提出期限の確認は、まずこの協議会が入口になります。

まとめ

経営所得安定対策は、麦・大豆などの生産費と販売価格の差を補うゲタ対策と、米・畑作の収入減を9割補てんするナラシ対策の二本柱です。どちらも認定農業者・集落営農・認定新規就農者が対象で、規模要件はありません。ナラシ対策と収入保険は同時に使えないため、経営の品目や収入の振れ方に合わせてどちらかを選びます。受け取った交付金は準備金制度で機械・施設の投資に生かせます。まずは最寄りの地域農業再生協議会に相談し、令和8年産の提出期限(6月30日)と必要書類を確認することから始めましょう。

出典:農林水産省「経営所得安定対策」、および「経営所得安定対策等の概要」(PDF)。交付単価・要件は令和8年産の内容です。積立額や補てんの算定方法、収入保険・農業共済との関係の詳細、地域ごとの提出期限は、最寄りの地域農業再生協議会・地方農政局や農林水産省の一次情報をご覧ください。