水田で加工・業務用野菜などの高収益作物をつくる農家・農業法人・JAは、その取組に10アール当たり4万円の交付を受けられます。これが畑作物産地形成促進事業です。受けられる前提は、実需者(加工・外食・中食などの買い手)と結び付いた産地・実需協働プランに参画していること。申請は地域農業再生協議会を窓口に進めます。この記事では、自分が対象になるか、受け取れる額はどれだけか、どこへ申し込むかを先に整理し、続けて水田活用の直接支払交付金や畑地化促進事業との違い、令和9年度からの水田政策見直しとの関係を解説します。

概要

項目内容
対象となる方水田で麦・大豆・高収益作物(加工・業務用野菜等)・子実用とうもろこしを生産する販売農家・農業法人・集落営農
何に実需者と結び付いた産地づくり。加工・業務用野菜などの導入と低コスト生産の技術導入が中心
受けられる額交付単価10アール当たり4万円の定額。畑地化に取り組む場合は加算もあります
要件産地・実需協働プランへの参画、実需者ニーズに応える低コスト生産等の技術導入
窓口営農計画書を提出している地域農業再生協議会
詳しくは令和8年産の国の締切は令和8年3月13日でした。最新の単価・加算・締切は協議会の案内をご覧ください

対象となる方は

交付を受けられるのは、水田で麦・大豆・高収益作物(加工・業務用野菜等)・子実用とうもろこしをつくり、実需者と結び付いた産地づくりに取り組む販売農家・農業法人・集落営農です。令和8年産の対象作物はこの4区分でした。水田から野菜への転換を考える方には、このうち「高収益作物(加工・業務用野菜等)」が中心の入口になります。次のいずれかに当てはまる方は、検討する値打ちがあります。

  • カット・冷凍・惣菜・外食向けなど、加工・業務用の需要に応えて水田で野菜を増やしたい農家・農業法人・JA
  • 引き受け先となる加工・業務筋の実需者と組んで、地域でまとまった産地をつくりたい方
  • 米の作付けを減らし、収益性の高い作物へ水田の使い方を切り替えたい稲作・複合経営の方

判断の決め手は、つくる作物そのものより実需者との結び付きです。畑作物産地形成促進事業は、つくった野菜を引き受ける実需者と協働で産地をつくる取組を支援します。水田で野菜を植えれば自動的に交付される仕組みではありません。後述する産地・実需協働プランに参画していることが前提です。まずは出荷先・契約先の当てがあるか、地域でまとまって取り組める相手がいるかを確かめましょう。

どれだけ受けられるか

対象となる方は、取組面積に応じて10アール当たり4万円の定額を受けられます。面積が広いほど受け取れる額は積み上がります。これに加えて、水田を畑地へ変える(畑地化する)場合は加算を受けられる仕組みが設けられています。令和7年産の案内では、令和8年度に畑地化に取り組む場合に10アール当たり0.5万円を加算するとされていました。加算の有無や額は年度によって見直されます。令和8年産で加算を見込む方は、申請の前に地域農業再生協議会で最新の取扱いを確かめましょう。

同じ10アール当たり4万円でも、米を支援するコメ新市場開拓等促進事業とは作物も単価の組み方も違います。米では新市場開拓用米が10アール当たり4万円、加工用米が3万円、米粉用米が9万円と品目ごとに単価が分かれます。畑作物産地形成促進事業は、水田で麦・大豆・高収益作物・子実用とうもろこしを本作化する側の事業です。

申請の流れ

申請は農林水産省へ個人で直接行うのではなく、地域でまとまって進めます。手順は次のとおりです。

  • 営農計画書を提出している地域農業再生協議会へ事前に相談します。
  • 地域の要望調査に回答し、産地・実需協働プランへの参画を整えます。
  • 協議会を通じて申請します。支援対象は申請内容を審査のうえ、予算の範囲内で決まります。

締切は地域ごとに異なり、国の締切も毎年度設定されます。令和8年産は令和8年3月13日が国の締切でした。作付けを決める前の段階で動く必要があるため、年明け前後には協議会へ相談しておくと間に合います。水田での営農計画は、水稲と転換作物の作付け全体と一体で考えましょう。提出先は地域農業再生協議会で共通なので、水田活用の直接支払交付金や産地交付金とあわせて、どの制度をどの圃場に充てるかを一度に相談すると無駄がありません。

畑作物産地形成促進事業の仕組みを示した図。事業メニューは低コスト生産等の取組支援(面払い)で、交付単価は4万円/10a。交付対象者は産地・実需協働プランに参画する販売農家・集落営農。事業実施の流れは、農業者が営農計画書を地域農業再生協議会に提出しプラン承認を受け、都道府県農業再生協議会を経て国へ取りまとめが上がり、交付金が農業者へ直接支払いされる流れを矢印で図示。対象となるほ場は水田活用の直接支払交付金の交付水田と同じ。
農林水産省「(令和8年産)畑作物産地形成促進事業 事業概要」(制度概要)

水田活用の直接支払交付金との違いは

水田で野菜をつくる支援は一つではありません。役割の違いを押さえると、どれを使うかを選びやすくなります。

制度支援する取組水田・畑の扱い
畑作物産地形成促進事業実需者と結び付いた産地づくり。麦・大豆・高収益作物・子実用とうもろこしの本作化水田のまま取り組める。畑地化は加算で後押し
水田活用の直接支払交付金水田での転換作物(麦・大豆・飼料作物・高収益作物等)の作付け水田機能を保ったまま使う
畑地化促進事業水田を畑地に変えて畑作物・高収益作物を本作化する初期費用と定着畑地へ変える(水田に戻さない)

水田活用の直接支払交付金は、水田の機能を保ったまま転換作物をつくる取組を毎年支援する制度です。畑作物産地形成促進事業は、実需者と協働で産地をつくる取組に焦点を当てています。「水田のまま野菜の産地化を進めたい」なら畑作物産地形成促進事業、「もう畑として使い切りたい」なら次の畑地化促進事業、と整理すると選びやすくなります。

畑地化促進事業と組み合わせるには

水田を本格的に畑へ変えるなら、畑地化促進事業もあわせて検討できます。これは水田を畑地化して畑作物・高収益作物の本作化に取り組む農業者を支援する別の事業で、転換時の初期費用にあたる「畑地化支援」と、定着までを支える「定着促進支援」の二段構えです。

定着促進支援では、高収益作物で10アール当たり2万円を5年間、加工・業務向けの野菜では10アール当たり3万円を5年間、麦・大豆などの畑作物で10アール当たり2万円を5年間、それぞれ受けられます。初期費用にあたる畑地化支援の単価は年度によって見直されており、令和6年度に高収益作物・畑作物とも10アール当たり14万円とされた水準から縮小しています。最新の単価は地域農業再生協議会か都道府県の案内でご確認ください。いずれも、取組を始めてから5年間は継続して作付け・販売することが条件で、途中でやめると交付金の返還を求められる場合があります。畑地化は水田に戻せない判断になるため、産地形成のめどを立ててから踏み切りましょう。経営の足腰を強める投資全般は産地生産基盤パワーアップ事業の解説記事もご覧ください。

令和9年度からの水田政策見直しとの関係は

水田政策は令和9年度から根本的に見直されます。水田活用の直接支払交付金は「水田」を対象とする制度から、作物ごとの生産性向上を支援する仕組みへ移る方向です。あわせて、5年に一度は水を張る「5年水張りルール」は令和9年度からは求められなくなります。

水田で高収益作物の産地をつくり、必要に応じて畑地化まで進める取組は、この見直し後に支援が向かう方向と重なります。令和8年産は、見直し前に産地・実需協働プランへの参画と実需者との結び付きを固めておける時期です。米そのものの今後の支援は新たな水田政策の解説記事で詳しく扱っています。加工・業務用野菜の国産シェアを取り戻す動きは加工・業務用野菜の国産化の解説記事、実需者へ安定供給する産地づくりは国産野菜の供給体制支援の解説記事もあわせてご覧ください。

よくある質問

水田のまま野菜をつくっても対象になりますか

対象になります。畑作物産地形成促進事業は、水田を畑地化しなくても、実需者と結び付いた産地づくりとして高収益作物等を本作化する取組を10アール当たり4万円で支援します。畑地化は必須ではなく、取り組む場合の加算という位置づけです。

個人の農家でも申請できますか

販売目的で対象作物をつくる販売農家・農業法人・集落営農が対象です。ただし交付を受けるには産地・実需協働プランへの参画が前提になるため、地域でまとまって取り組む形が基本です。まずは営農計画書を提出している地域農業再生協議会に、参画できるプランがあるか相談しましょう。

畑作物産地形成促進事業と畑地化促進事業は両方使えますか

役割が異なる別の事業です。水田のまま産地化を進める段階では畑作物産地形成促進事業、水田を畑地に変える段階では畑地化促進事業が対応します。どの圃場でどちらを使うかは、営農計画にあわせて地域農業再生協議会と相談して整理しましょう。

申請はどこへ行えばよいですか

営農計画書を提出している地域農業再生協議会が窓口です。地域ごとに要望調査や締切が設定されるため、作付けを決める前の段階で早めに相談してください。

令和9年度に制度が変わると、いま転換しても無駄になりませんか

見直しは水田活用の直接支払交付金を作物ごとの生産性向上支援へ移す方向で、高収益作物の産地づくりや畑地化を後押しする流れと重なります。実需者との結び付きと産地化の実績は、見直し後も評価される取組です。確定した運用は一次情報でご確認ください。

次の一歩

はじめに、つくりたい高収益作物の出荷先・契約先の当てがあるかを書き出します。次に、営農計画書を提出している地域農業再生協議会へ連絡し、産地・実需協働プランへの参画と、畑作物産地形成促進事業の要望調査の時期を確かめます。水田を畑地まで変える見込みがあるなら、畑地化促進事業の最新単価と5年間の継続義務もあわせて相談しましょう。そのうえで、水田活用の直接支払交付金や産地交付金と、どの圃場にどの制度を充てるかを一枚に整理し、令和8年産以降の作付けを決めましょう。

キーワード解説

畑作物産地形成促進事業

水田で麦・大豆・高収益作物(加工・業務用野菜等)・子実用とうもろこしの低コスト生産等に取り組む生産者を、10アール当たり4万円の交付単価で支援する事業です。実需者と結び付いた産地づくりを促し、食料安全保障に資する品目の産地形成を進めます。畑地化に取り組む場合の加算が設けられる年度もあります。

高収益作物

野菜・果樹・花きなど、麦・大豆などの一般的な畑作物に比べて単位面積当たりの収益が高い作物の総称です。水田からの転換では、加工・業務用野菜が代表的な導入先になります。

産地・実需協働プラン

産地(生産者)と実需者が協働して、実需者ニーズに応える生産・供給体制をつくるための計画です。実需者とは、カット野菜・冷凍野菜の加工業者や外食・中食、量販店など、野菜を仕入れて使う買い手を指します。畑作物産地形成促進事業の交付を受けるには、このプランへの参画が前提です。

コメ新市場開拓等促進事業

水田で新市場開拓用米・加工用米・米粉用米をつくる生産者を支援する事業で、畑作物産地形成促進事業と対になります。単価は新市場開拓用米が10アール当たり4万円、加工用米が3万円、米粉用米が9万円と品目ごとに分かれます。

地域農業再生協議会

市町村などを単位に、農業者・自治体・JA等で構成される協議会です。経営所得安定対策や水田活用の直接支払交付金、畑作物産地形成促進事業などの営農計画書の提出先・申請窓口になります。