JAを通じて買う肥料の価格は、JA全農(全国農業協同組合連合会)が年に2回決めます。11月から翌年5月に供給する春肥の価格は10月末、6月から10月に供給する秋肥の価格は5月の決定です。直近の秋肥では、基準銘柄の高度化成が前期比5.0%、輸入尿素が14.5%の値上げで決着しました。次に決まるのは水稲の元肥を含む春肥です。これまでの改定率と、価格交渉の材料になる原料価格の動きを整理しました。
| 対象となる方 | JA経由で肥料を買う農家・農業法人、施肥計画と資材費の見積もりを立てるJA・生産部会 |
|---|---|
| 次の決定 | 春肥(11月〜翌年5月供給)の価格を10月末に決定。直近2年はいずれも10月31日に発表 |
| 直近の改定 | 秋肥(2026年6月〜)で高度化成+5.0%、輸入尿素+14.5%、塩化加里+7.3%。全品目が値上げ |
| 3期の累計 | 高度化成は2025年6月から3期連続の値上げで、合計約13% |
| 原料の動き | 尿素は5月の最高値から7月に3割下落。りん安は7月に最高値。塩化加里はほぼ横ばい |
| 詳しくは | 地域のJAの肥料担当、または予約注文の案内 |
肥料の価格が決まる時期
全農の肥料価格は、肥料を使う時期に合わせて半年ごとに改定されます。6月から翌年5月までを1つの肥料年度として、前半の秋肥と後半の春肥に分けて価格を決める仕組みです。
| 区分 | 供給される期間 | 価格の決定 | 主な使い道 |
|---|---|---|---|
| 春肥 | 11月〜翌年5月 | 10月末(2024年・2025年とも10月31日) | 水稲の元肥など春の作付け |
| 秋肥 | 6月〜10月 | 5月(2026年は5月15日、2025年は5月30日) | 麦・園芸作物・果樹 |
全農が発表する改定率は、全農から県本部・経済連へ卸す価格の変動率です。JAが農家に売る価格の変動率とは一致しません。地域の物流費やJAの手数料が上乗せされるためで、全農の発表にもその旨の注記があります。
複合肥料の改定率は、指標となる基準銘柄(高度化成15-15-15)の数字です。店頭に並ぶ個別の銘柄は、それぞれ別の率で改定されます。自分が使う銘柄の新しい価格は、JAの予約注文の案内で確かめられます。
高度化成は3期連続の値上げ
2023年以降の7期分を並べると、値下げが続いた後、2025年6月からは値上げが3期続いています。
| 期(適用開始) | 高度化成 | 輸入尿素 | 塩化加里 |
|---|---|---|---|
| 秋肥(2023年6月〜) | ▲28% | ▲37% | ▲44% |
| 春肥(2023年11月〜) | ▲7.6% | ▲1.2% | ▲12.7% |
| 秋肥(2024年6月〜) | +10.6% | +13.1% | +3.6% |
| 春肥(2024年11月〜) | ▲1.9% | ▲4.5% | ▲7.1% |
| 秋肥(2025年6月〜) | +3.3% | +8.0% | +3.0% |
| 春肥(2025年11月〜) | +4.3% | +3.6% | +8.6% |
| 秋肥(2026年6月〜) | +5.0% | +14.5% | +7.3% |
いずれも前期比。全農の県本部・経済連向け供給価格の変動率です。
直近3期の改定率を掛け合わせると、高度化成は約13%の値上がりです。2023年11月の底からは約23%上がりました。
2022年の高騰時の水準にはまだ届いていません。2023年6月に28%下がる前の価格を基準に7期分を掛け合わせると、今の高度化成はその8割強です。一度大きく下がった分を、3年かけて少しずつ取り戻している形になります。
直近の秋肥は全品目が値上げ
2026年5月15日に決まった秋肥では、単肥・複合肥料とも全品目が値上げになりました。
| 品目 | 成分(%) | 前期比 |
|---|---|---|
| 尿素(輸入・大粒) | 46 | +14.5% |
| 尿素(国産・細粒) | 46 | +0.2% |
| 硫安(粉) | 21 | +1.4% |
| 石灰窒素 | 21 | +2.6% |
| 過石 | 17 | +4.9% |
| 重焼りん | 35 | +4.5% |
| 塩化加里 | 60 | +7.3% |
| 硫酸加里 | 50 | +7.8% |
| 高度化成(基準) | 15-15-15 | +5.0% |
値上げの理由として、全農は3点を挙げました。
- 米国・イスラエルによるイラン攻撃の後、窒素・りん酸・加里とも海外の原料市況が上がった
- 円安がさらに進んだ
- 国内の製造にかかる労務費・物流費が上がった
輸入尿素の14.5%は、中東情勢の影響でほかの原料より早く市況が上がったためです。同じ尿素でも国産は0.2%にとどまり、国内物流費の値上がり分だけで妥結しました。窒素を単肥で入れる経営では、輸入と国産で14ポイントの差がついたことになります。
次の春肥を左右する原料価格
全農は、海外の原料市況と為替をもとに肥料メーカーや輸入先と交渉し、価格を決めます。春肥の交渉の材料になるのは、秋肥を決めた5月以降の原料価格の動きです。
輸入した原料の通関価格は、3品目で動きがばらばらです。
| 原料 | 2026年1月 | 2026年5月 | 2026年7月 |
|---|---|---|---|
| 尿素(窒素) | 77.3 | 141.4(最高値) | 96.3 |
| りん安(りん酸) | 125.9 | 149.2 | 170.2(最高値) |
| 塩化加里(加里) | 73.1 | 75.5 | 76.6 |
単位は1トン当たり千円。財務省「貿易統計」の通関価格です。
尿素は1月から5月で1.8倍に跳ね上がり、7月には最高値から32%下がりました。秋肥の価格が決まった5月中旬は、尿素の原料価格がちょうど天井にあった時期です。
りん安は逆に上がり続け、7月に比較できる2007年以降の最高値を更新しました。2022年の高騰時の最高値も上回っています。塩化加里は1トン7万円台でほぼ横ばいです。3品目とも、直近10年の平均(尿素5.86万円、りん安7.92万円、塩化加里5.74万円)より高い水準にあります。
9月までの国際価格でも傾向は同じです。尿素は5月初めの1トン900ドル近くから7月に400ドルを割り込み、9月は450ドル台まで戻しました。りん安は820ドル前後で高止まりし、塩化加里は370ドル前後とやや弱含みです。
春肥の改定率はこの原料価格に為替と国内の製造経費を合わせて決まるため、原料だけでは結果を読めません。前回の春肥(2025年11月〜)でも、原料市況が下がり始めていた品目があったにもかかわらず、前期の決定時より高い水準だったことから多くの品目が値上げで決着しています。
農家が払う肥料の価格
農林水産省の農業物価統計で、農家が実際に買う肥料の小売価格を指数で追えます。2020年の平均を100とすると、2026年6月は146.3です。
| 時点 | 肥料の物価指数 | 2026年6月との比較 |
|---|---|---|
| 2023年4月(2023年以降の最高) | 155.3 | 今のほうが5.8%低い |
| 2025年6月 | 139.9 | 今のほうが4.6%高い |
| 2026年5月 | 143.4 | 今のほうが2.0%高い |
| 2026年6月 | 146.3 | ― |
指数が一段上がった6月は、5.0%高の秋肥の適用が始まった月にあたります。
全農の基準銘柄は2022年の水準より2割近く低いのに、小売の指数は最高値から6%ほどしか下がっていません。指数は有機質肥料なども含む肥料全体の小売価格で、基準銘柄の改定率とは同じ動きになりません。全農の改定率だけを見ていると、実際の支払いの重さを小さく見積もることになります。
価格が決まる前にできること
春肥の価格が発表される10月末までに、次の準備を進められます。
- 土壌診断で、畑や田んぼにたまっている養分を測ります。りん酸と加里は土に残りやすく、足りている分を減らせれば、いま値上がりが大きいりん酸・加里の購入量をそのまま減らせます。
- 堆肥や緑肥で置き換えられる分を見積もります。どちらも取組に応じた交付金があります。
- JAの予約注文の締切と、予約で価格が固定される範囲をJAに確かめます。全農は交渉を早く決着させて予約を積み上げ、計画的に製造・配送する方針です。
- 春肥の価格が発表されたら、自分が使う銘柄の新価格で肥料代を計算し直します。
2022年の高騰時には、国が肥料費の増加分の7割を支援しました。対象は2022年6月から2023年5月に買った肥料で、5戸以上の農業者グループで申請し、化学肥料を減らす取組を行うことが条件でした。いま使える国の直接補てんはありません。施肥を減らす取組は、交付金の要件にも費用の圧縮にもつながります。
よくある質問
春肥の価格はいつ発表されますか
例年10月末です。2024年・2025年とも10月31日に全農が発表し、11月から適用されました。銘柄ごとの農家向け価格は、地域のJAが案内します。
全農の改定率が、そのまま自分の買う肥料の値上げ幅になりますか
なりません。全農の改定率は県本部・経済連へ卸す価格の変動率で、JAが農家に売る価格の変動率とは一致しません。複合肥料の数字は基準銘柄(高度化成15-15-15)のもので、ほかの銘柄は別の率で改定されます。
秋肥と春肥は何が違いますか
供給する時期の違いです。秋肥は6月から10月に供給され、麦や園芸作物、果樹に使われます。春肥は11月から翌年5月の供給で、水稲の元肥などが入ります。肥料の種類ではなく、価格が適用される期間の区分です。
肥料の値上がり分を補てんする補助金はありますか
国が値上がり分を直接補てんした肥料価格高騰対策事業は、2022年6月から2023年5月に買った肥料が対象で、いまの購入分には使えません。化学肥料を減らす取組には環境保全型農業直接支払交付金などの交付金があります。
尿素の原料価格が下がったので、春肥は値下げになりますか
決まっていません。尿素の原料価格は5月の最高値から下がりましたが、りん安は7月に最高値を更新しました。為替や国内の物流費・労務費も価格に入るため、原料1つの動きでは決まりません。結果は10月末の発表を待つ必要があります。
キーワード解説
春肥
全農の肥料価格の区分で、11月から翌年5月に供給される肥料のことです。価格は10月末に決まります。水稲の元肥など、春の作付けに使う肥料の多くがこの期間に供給されます。
秋肥
6月から10月に供給される肥料の区分です。夏から秋にかけて施す肥料で、主に麦や園芸作物、果樹に使われます。価格は5月に決まります。
高度化成
窒素・りん酸・加里の3成分を合わせて30%以上含む化成肥料です。全農は各成分15%の銘柄(15-15-15)を基準銘柄とし、複合肥料の価格の指標にしています。
肥料年度
全農が肥料価格を決めるときの年度の区分です。6月から翌年5月までを1年とし、前半の秋肥(6月〜10月)と後半の春肥(11月〜翌年5月)で価格を改定します。令和8肥料年度の秋肥は2026年6月から、春肥は2026年11月から適用されます。