ハウスが雪で倒壊する原因は、屋根に積もった雪の重さと、腐食した接合部や基礎に力が集中することです。農林水産省は降雪前の11月を「災害に強い施設園芸づくり月間」として、都道府県を通じて雪害を防ぐ技術指導を徹底しています。この記事では、その技術指導と農研機構の手引きをもとに、パイプハウスの補強の方法と効果、降雪前の点検、雪が降り始めてからの融雪と除雪の手順を整理します。壊れてしまったときの共済と再建の支援は、関連記事への道筋を最後にまとめました。

いつ補強と点検は降雪前の11月まで。融雪の準備は降雪の直前から
補強筋かい直管・タイバー・X型の斜材・根がらみ・中柱。生産者が自分で取り付け可能
材料費間口6メートル×奥行55メートル(100坪)で1項目5.6万〜13万円(工事費は別)
降雪中暖房ありはカーテン開放と連続暖房、暖房なしは密閉。除雪は雪がやんでから複数人で
補強の補助産地でBCPに取り組むと、ハウスの補強や融雪装置に補助率2分の1の支援
壊れたら園芸施設共済の請求と、被災農業者向けの再建支援

ハウスのタイプで対策が変わる

寡雪地域における温室の雪害対策。連棟ハウスと単棟ハウス、暖房機の有無で4つに分け、事前の対策と当日の対策を示した図
ハウスのタイプ別の雪害対策(出典:農研機構「寡雪地域における温室の雪害対策(簡易手引き)」)

農研機構は、2014年2月の大雪で倒壊した温室40件を調べ、雪の少ない地域でも農家が自分でできる対策をまとめました。ハウスを連棟か単棟か、暖房機があるかないかの4つに分け、それぞれに合う対策を選ぶ方式です。

タイプ事前の対策当日の対策
単棟・暖房なしブレースや中柱による補強、屋根の上の滑落を妨げる物の除去安全の範囲内で除雪
単棟・暖房あり同上降雪開始とともに暖房機を作動、安全の範囲内で除雪
連棟・暖房なし柱と基礎の接合部の補強、ブレースの設置と確認、谷の融雪水の処理、滑落を妨げる物の除去安全の範囲内で除雪
連棟・暖房あり同上降雪開始とともに暖房機を作動、カーテンを開放、安全の範囲内で除雪

倒壊した温室では、柱そのものが折れる例は少なく、柱と基礎の接合部に壊れる箇所が集中していました。接合用の鋼管の内部にコンクリートを詰めると、理論上は曲げに耐える力が25%ほど増えます。連棟ハウスでは、谷にたまった融雪水で基礎が沈む被害も起きています。盛土の地盤で起きやすく、フィルムの捨て張りなどで水の浸入を防ぐのが対策です。

降雪前にできる補強と材料費

生産者が自分でできる補強資材等によるパイプハウスの構造強化対策。筋交い直管で耐力20%程度向上、タイバーで雪への耐力43%程度向上、X型の斜材で雪への耐力65%程度向上と取り付け位置
生産者が自分でできるパイプハウスの補強(出典:農林水産省「大雪による園芸施設被害防止に向けた技術指導の徹底について」別紙1)

パイプハウスは、タイバーや筋かい、中柱などの補強資材を正しい位置に付けるだけで強くなります。農林水産省の技術指導が示す効果と材料費は次のとおりです。

補強効果材料費の目安付け方
筋交い直管ハウス全体の耐力が20%程度向上6.4万〜7.1万円各アーチパイプに固定し、下端は地中30センチ以上に埋める
タイバー雪への耐力43%程度・風6%程度向上8.5万〜9.7万円軒から棟までの高さの4分の1の位置に横に渡す
X型の斜材雪への耐力65%程度・風9%程度向上12万〜13万円棟から4分の1下の位置と軒をX型に結ぶ
根がらみハウス全体の耐力が10%程度向上5.6万〜6.4万円地面の10センチ下で各アーチパイプに固定
中柱3メートル間隔で屋根の耐力が1平方メートル当たり25キロ向上8万〜10万円棟の部分を支え、根元にブロックを置く

材料費は間口6メートル×奥行55メートル(330平方メートル=100坪)のハウスで計算した、平成26年6月時点の参考標準価格です。工事費は含みません。タイバーとX型の斜材の効果は、4スパンに1か所取り付けた場合の値です。

中柱は、1本でどれだけの重さを支えるかで考えます。間口6メートルのハウスに3メートル間隔で立てると、1本が受け持つ屋根は5.4メートル×3メートル=16.2平方メートルです。積雪1センチで1平方メートル当たり1キロとして積雪25センチなら、1本に約405キロかかります。1本で400キロに耐える支柱が必要です。中柱は雪が偏って積もると効果が落ちるため、除雪も左右均等に行います。

補強は側面・妻面・屋根面に弱い箇所を作らないよう、バランスよく入れます。特に補強が要るのは、谷樋のように荷重が集中する部分です。屋根や側面を補強しすぎると光が足りなくなり、作物の生育に影響するため、地域の積雪に合わせた量にとどめます。農作業のためにブレースを外した場合は、必ず元に戻してください。

降雪前のチェックリスト

降雪前のチェックリスト。情報収集、融雪準備、補強対策・雪の滑落促進の11項目と、耐雪強度を大きく上回る積雪が予想される場合の被覆資材の切断除去
降雪前のチェックリスト(出典:農林水産省「大雪による園芸施設被害防止に向けた技術指導の徹底について」別紙2)

農林水産省のチェックリストは11項目です。雪の予報が出る前に、次の点を確かめておきます。

  • 暖房機の燃油の残量と、暖房機が正常に動くか
  • 非常用発電機を持っていれば、加温機と環境制御装置につないであるか
  • ブレースや筋かいの留め金具に緩みがないか
  • 基礎、接続部分、谷の樋、柱に腐食やさびがないか。腐食していればパイプを交換するか補強資材で強化
  • 谷樋や排水路、ハウスの際に残雪やごみがたまっていないか
  • 用意していた中柱を立てるなど、応急の補強をしたか
  • 作物を栽培していないハウスの被覆資材を外したか
  • 被覆材の表面に、雪の滑落を妨げる突き出た物がないか
  • 雪の滑落を妨げる防風ネットや外部の遮光資材を張ったままにしていないか

被覆資材の破れや隙間は、保温のためにも直しておきます。停電への備えは、予備電源の動作確認と、かん水用の水をタンクにためておくことです。新しくハウスを建てる場合は、その地域の過去の積雪データから耐雪の強さを決め、周りに除雪できる程度の空きを確保します。

雪が降り始めたら行う手順

降雪の直前からは、暖房の有無で対応が分かれます。融雪で屋根の雪そのものをなくすのが、最も効果の大きい方法です。

  1. 気象情報を確かめる。気象庁は、降雪や降雪後の雨でパイプハウスが倒壊するおそれがあるとき(積雪の荷重がおおむね1平方メートル当たり20キロを超える見込みのとき)に、その旨を気象情報で発表する
  2. 暖房のあるハウスは、積雪の前に内側のカーテンを開け、降雪の開始とともに暖房を連続運転する。連棟ハウスは設定温度を高めにし、ダクトを谷の部分に向けて谷の雪を解かす
  3. 暖房のないハウスは、内部を密閉して地熱で室温を上げ、カーテンを開けて屋根の雪を滑り落ちやすくする
  4. 散水で雪を落とす場合は、積雪の前から滑落させる目的で始める。積もってからは散水しない
  5. 予報の積雪がハウスの耐雪の強さを大きく上回る場合は、被覆資材を切って取り除き、ハウスに雪が積もらないようにする。切る前に農業共済へ連絡する
  6. 停電したら予備電源を動かして加温機を起動し、養液栽培などでしおれそうな作物には、ためておいた水で手でかん水する

被覆資材を切る判断は、共済金の支払いに関わります。チェックリストは、事前に農業共済へ連絡しておかないと支払いの対象にならない可能性があるとして、手順を前もって確かめるよう求めています。加入している園芸施設共済の窓口に、切る場合の連絡方法を雪の季節の前に聞いておいてください。

除雪は雪がやんでから、安全を優先して

降雪中や降雪直後の見回りと除雪は、作業する人の安全を最優先し、雪がやんでハウスの安全を確かめてから行います。屋根の雪が少ない降り始めで、安全が確保できる場合に限り、除雪や加温機の起動をしてください。

  • ヘルメットをかぶり、滑りにくい履物で、複数人で作業する
  • 屋根に雪が残っているうちは倒壊のおそれがあるため、ハウスの中に入らない
  • 倒壊のおそれがなくなったら、屋根・軒下・ハウスとハウスの間の雪を、次の降雪に備えてすぐに除く
  • 被覆を外したハウスでも、ハウス全体や軒の高さを超える積雪では骨組が壊れるおそれがあるため、骨組が雪に埋まりきる前に除雪する

雪が解ける時期の作業は、ハウスの周りに溝を掘って水を抜く額縁排水です。雪の下で日照が不足すると作物が軟弱に育ち、灰色かび病などにかかりやすくなります。生育をよく観察し、必要なら薬剤を散布してください。

壊れてしまったら

被害が出たら、できるだけ早く破損や倒壊の状況を点検し、直せる部分はすぐに直して室温を保ちます。作物が低温で生育障害を起こしたり枯れたりするのを防ぐためです。大雪の後は資材の注文が一時期に集中し、鉄骨パイプやフィルムの確保、曲げ加工、施工に時間がかかります。農林水産省は、資材を規格ごとに必要量を整理して早めに発注すること、複数の販売店への重複注文を控えることを求めています。施工を待てない場合の選択肢が、全農の「パイプハウス建て方マニュアル」を使った自力施工です。

被害の前に補強したい場合は、産地の生産部会などで事業継続計画(BCP)に取り組むと、既存ハウスの補強や防風ネット、大雪によるハウスの倒壊を防ぐ融雪装置の導入に補助率2分の1の支援を受けられます。令和7年度補正予算の園芸産地における事業継続強化対策で、仕組みは産地BCPの記事で解説しました。

よくある質問

雪が何センチ積もるとハウスは潰れますか

ハウスの構造や補強、雪の質で変わり、一律の数字はありません。気象庁がパイプハウスの倒壊のおそれを知らせる目安は、積雪の荷重がおおむね1平方メートル当たり20キロを超える場合です。国の資料の試算と同じく積雪1センチで1平方メートル当たり1キロとすると、約20センチに当たります。自分のハウスの耐雪の強さは、建てた業者や都道府県の普及指導センターで確かめてください。

暖房のないハウスでもできる対策はありますか

あります。降雪前にブレースや中柱で補強し、屋根の雪の滑落を妨げる防風ネットや遮光資材を外すのが事前の対策です。降雪時は内部を密閉して地熱で室温を上げ、カーテンを開けて雪を落ちやすくします。作物のないハウスは、被覆資材を外しておくのが確実です。

被覆資材を切ったら共済金は出ませんか

事前に農業共済へ連絡しておかないと、支払いの対象にならない可能性があります。切る判断が必要になりそうなときは、雪の季節の前に、加入している共済の窓口で連絡の方法を確かめておいてください。

補強の費用に補助はありますか

国の支援では、産地の生産部会などが事業継続計画(BCP)に取り組む場合に、ハウスの補強や融雪装置の導入に補助率2分の1の支援を受けられます。都道府県や市町村が独自に補助している場合もあるため、普及指導センターや市町村の農政担当に問い合わせてください。

キーワード解説

タイバー

アーチパイプの両肩を横につなぐ補強材です。アーチの変形を抑えて、特に積雪への耐力を高めます。軒から棟までの高さの4分の1の位置に付けると効果が高くなります。

中柱

ハウスの棟の部分を下から支える柱です。屋根にかかる雪の荷重を受け持ちます。雪の季節だけ立てる臨時の中柱もあり、根元が沈まないようブロックを置きます。

融雪

暖房で屋根の雪を解かし、荷重そのものをなくす方法です。降雪中は内側のカーテンを開け、暖房を連続運転します。解けた水で基礎が沈まないよう、排水に注意します。

園芸施設共済

台風や大雪などでハウスが壊れたときに共済金を受け取れる農業保険です。掛金の半分を国が負担します。窓口は各地の農業共済組合(NOSAI)です。

額縁排水

ほ場やハウスの周りを額縁のように溝で囲み、水を外へ逃がす排水の方法です。雪解け水による湿害や基礎の沈下を防ぎます。