地震や台風でハウスがつぶれ、農機が水をかぶり、畜舎が傾いたとき、経営に最初にのしかかるのは資金繰りです。修理代を払いながら、収穫できなかった分の収入が消え、それでも既存の借入の返済日は来ます。この状況のために、農業には災害専用の融資と、返済を待ってもらう仕組みが用意されています。この記事では、被災した農家がどの資金をどれだけ借りられるのか、返済中の借金をどう猶予してもらうのか、共済金や保険金が入るまでをどうつなぐのかを、限度額と償還期限まで含めて整理します。

概要

項目内容
対象となる方 自然災害で被害を受けた農業者。認定農業者、主業農業者、認定新規就農者、地域計画の目標地図に位置付けられた方、集落営農組織
経営再建の資金 農林漁業セーフティネット資金600万円。15年以内・据置3年以内
復旧の資金 農林漁業施設資金は負担額の80%または1施設300万円のいずれか低い額。15年から25年・据置3年から10年
激甚指定時の特例 限度額1,200万円へ引上げ、5年間の金利負担軽減(最大2%)、保証料5年免除、実質無担保・無保証人
天災資金 天災融資法の発動時に個人200万円・法人2,000万円。償還3年から6年
返済中の借金 償還猶予・条件変更の相談が可能。就農支援資金・農業改良資金も対象
申込先 日本政策金融公庫の各支店、JA、信用農業協同組合連合会、銀行。市町村長の被害証明書が必要
詳しくは 市町村の農政担当、都道府県の普及指導センター、農業共済組合(NOSAI)

被災後に借りられるお金

災害で使う資金は、目的によって借り先と限度額が変わります。当座の経営を回すお金、壊れたものを直すお金、農地そのものを直すお金の3つに分かれると考えると整理しやすくなります。

資金名使いみち限度額償還期限(据置期間)
農林漁業セーフティネット資金被災した経営の再建に必要な運転資金600万円または年間経営費等の6か月分15年(3年)
農林漁業施設資金(災害復旧)農業用施設・農機具の復旧、果樹の改植・補植、共同利用施設の復旧負担額の80%または1施設300万円の低い額15年から25年(3年から10年)
農業基盤整備資金(基盤の復旧)農地・牧野や、その保全・利用に必要な施設の復旧その年度に負担する額25年(10年)
農業近代化資金農地・農業用施設・農機具の復旧、長期運転資金個人1,800万円、法人2億円7年から15年(2年から7年)

表のかっこ内は据置期間で、その間は元金を返さず利息だけを払います。最初の3つは日本政策金融公庫(沖縄県は沖縄振興開発金融公庫)が貸します。農業近代化資金だけはJAなどの民間金融機関が窓口です。

借りられる方と金利

農林漁業セーフティネット資金の借入対象者は、認定農業者、主業農林漁業者、認定新規就農者、地域計画の目標地図に位置付けられた方、集落営農組織の5つです。主業農林漁業者は、農林漁業所得が総所得の過半を占めるか、粗収益が200万円以上(法人は総売上高の過半または1,000万円以上)であることが目安になります。

金利は年1.95%から2.85%です。毎月見直されるため、借入の直前に窓口で最新の利率を確かめましょう。この資金は台風・冷害・干ばつ・地震などの自然災害だけでなく、家畜の殺処分や移動制限、資材価格の高騰による経営悪化にも使えます。

申込みには市町村長が発行する被害についての証明書が要ります。被害を確認したら、資金の相談より先に市町村へ連絡して証明の手続きを進めておくと、その後が早く進みます。

まとまった復旧投資に使う資金

ハウス団地の建て直しや畜舎の再建のように金額が大きくなる場合は、限度額の大きい資金を使います。

資金名対象限度額償還期限(据置期間)
農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)認定農業者個人3億円、法人10億円25年(10年)
経営体育成強化資金主業農業者等個人1.5億円、法人5億円25年(3年から10年)
農林漁業経営資本強化資金農業者等1億円または自己資本比率が40%に達するのに必要な額の低い額18年(8年)

スーパーL資金は災害時だけの資金ではなく、認定農業者が平時から使える長期資金です。金利や近代化資金との違いはスーパーL資金とは?金利・限度額と農業近代化資金との違いを解説で確認できます。農林漁業経営資本強化資金は自己資本とみなされる資本性ローンで、認定農業者の場合は5年1か月以上20年以内の期限一括償還も選べます。

天災融資法が発動されたときの低利資金

被害が広い範囲に及んだ災害では、国が政令を定めて天災融資法を発動します。発動されると、種苗・肥料・飼料・農薬・燃料費といった再生産に必要な経営資金を、低い利率で借りられるようになります。

対象になるのは、減収量が30%以上、かつ損失額が10%以上の被害を受け、市町村長の認定を受けた農業者です。貸付限度額は個人200万円(北海道は350万円)、法人2,000万円で、償還期限は3年から6年です。利率は災害ごとに政令で決まります。

お金を貸すのはJAや銀行などの民間金融機関で、市町村または都道府県がその金融機関に利子補給を行い、国が都道府県へ利子補給補助を行う仕組みです。公庫の資金とは流れが違うため、JAの窓口が相談先になります。

この制度は発動されなければ使えません。発動されるかどうかは、被害の規模・広がり・深さ・資金需要を総合的に見て国が判断します。発動を待つ間も、農林漁業セーフティネット資金は災害の指定を待たずに申し込めます。

激甚災害に指定されると条件が緩みます

大規模災害時の金融支援の枠組み。貸付当初5年間の金利負担軽減が最大2%、日本政策金融公庫からの実質無担保・無保証人による融資、農業信用基金協会の保証料を引受当初5年間免除、農林漁業セーフティネット資金の限度額を600万円から1,200万円へ、農林漁業施設資金を負担額の100%または1,200万円へ引き上げる特例。
大規模災害で講じられる金融支援の例。金利負担軽減、実質無担保・無保証人、保証料免除、貸付限度額の特例が組み合わさる。出典:農林水産省「災害等に対する金融上の措置について

激甚災害として政令で指定されると、貸付条件が二段階で緩みます。まず天災資金の限度額が200万円から250万円へ上がり、貸付期間も3年から6年が4年から7年へ延びます。

次に、公庫の災害関連資金の側で次の措置が講じられます。

  • 貸付当初5年間の金利負担軽減。軽減幅は最大2%で、セーフティネット資金・スーパーL資金・経営体育成強化資金・農林漁業施設資金・農業基盤整備資金・農林漁業経営資本強化資金・農業近代化資金・農業経営負担軽減支援資金が対象
  • 日本政策金融公庫からの実質無担保・無保証人による融資
  • 農業近代化資金を借りる際の農業信用基金協会の債務保証について、引受当初5年間の保証料免除
  • 農林漁業セーフティネット資金の限度額を1,200万円または年間経営費等の12か月分へ、農林漁業施設資金を負担額の100%または1,200万円へ引上げ

限度額の特例は災害ごとに設けられるもので、すべての激甚災害で同じ内容になるとは限りません。金利負担軽減の対象になるには、被害内容について市町村長の証明を受けている必要があります。

壊れたハウスや農機については、借りるだけでなく補助を受けられる場合があります。補助率と申請窓口は台風・大雨で壊れたハウスや農機の再建に使える補助金|被災農業者向けの支援と補助率・申請窓口で解説しています。

いま返している借金は猶予を頼めます

新しく借りることと同じくらい効くのが、既存の借入の返済を先送りすることです。国は災害が起きるたびに、日本政策金融公庫、農林中央金庫、全国農業協同組合中央会、全国銀行協会、地方銀行協会、信用金庫協会、信用組合中央協会、農林漁業信用基金、農業信用基金協会へ、次の対応を要請する通知を出しています。

  • 窓口での親身な対応と、適時適切な貸出し
  • 担保徴求の弾力化
  • 既往債務に係る償還猶予など貸付条件の変更

要請は都道府県と地方農政局にも届き、既に借りている就農支援資金・農業改良資金についても、被害の実情に応じて償還猶予などの対応をとるよう求められます。制度融資だけでなく、プロパー融資や住宅ローンを含めた返済猶予の相談も対象です。

関係省庁が連名で出す資金繰り支援の要請では、融資審査の提出書類を必要最小限にすること、融資を迅速化することもあわせて求められます。信用保証協会が通常と別枠で100%保証するセーフティネット保証4号や、日本政策金融公庫等の災害復旧貸付も、農産物の加工・販売部門を持つ経営であれば選択肢に入ります。返済のめどが立たない場合には、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの活用も相談できます。

大切なのは、返済日を過ぎる前に自分から連絡することです。延滞してから相談するより、条件変更の話は進めやすくなります。

共済金・保険金の入金を早める

加入している農業共済や収入保険からの支払いも、災害時は通常より早く受け取れるように運用が変わります。

  • 共済金の仮渡し。現地の損害評価が終わらず支払いが遅れる場合でも、仮渡しが検討されます。耕地や施設の被害が衛星写真などの客観的な資料から明らかなときは、その資料で損害額を評価できます
  • 収入保険のつなぎ融資。保険金が支払われるまでの資金繰りを、無利子の融資でつなげます
  • 掛金・保険料の払込期限の延長。災害救助法が適用された市町村に住所がある場合、共済掛金の払込期限は災害救助法の適用日から3か月を経過する日の属する月末まで延びます。収入保険の保険料等は、保険期間の開始から11か月を経過する日を限度に延長されます
  • 延長した期間中に起きた事故は、掛金を払い込む前でも共済金を受け取れます

被災して被害申告ができなかった場合も、正当な理由があると認められれば免責にはなりません。家畜が地震で行方不明になったときは、警察の盗難被害届または遺失物届の証明書があれば廃用と認定されます。停電・断水や飼料が届かなかったことで家畜が死亡した場合は、自然災害による死亡として扱われます。

収入保険に入っていない方は、この機会に加入を検討する価値があります。仕組みと加入要件は収入保険とは|農業のメリット・7つのデメリットと加入要件・保険料をわかりやすくで整理しています。

地震でも同じ枠組みが動きます

災害関連資金は大雨や台風だけの制度ではありません。令和8年7月28日16時27分に発生した熊本地震では、翌29日に農林水産省が金融機関へ資金の円滑な融通と既往債務の償還猶予を要請し、同じ日に農業共済と収入保険の払込期限延長・損害評価の特例を通知しました。30日には共済金の早期支払いと収入保険のつなぎ融資の実施が通知され、31日には関係省庁の連名で事業者への資金繰り支援の徹底が要請されています。被災から3日で、借りる・待ってもらう・受け取るの3方向が動き始めた形です。

被害の中身も広範囲に及びました。熊本県では、なし・大豆・イチゴ・ブドウ・露地野菜・しょうが・いぐさの農作物被害に加え、畜産用施設、農業・畜産用機械、共同利用施設、農業用ハウス、農業用倉庫の被害が確認されています。農地は20か所、農業用施設は158か所で被害が出ました。点検した防災重点農業用ため池674か所のうち56か所で異常が見つかっています。いずれも7月31日17時時点の速報値です。

復旧事業や交付金の特例まで含めた支援策は大雨・台風で農林水産業に被害が出たときに確認したい支援策にまとめています。

借入までの流れ

  1. 被害を記録します。壊れた施設・農機・作物を、片付ける前に写真で撮っておきます。日付が分かる形で残すと後の評価が進みます。
  2. 加入している農業共済組合(NOSAI)へ被害を申告します。連絡が取れない状況でも、組合の見回り調査で把握される場合があります。
  3. 市町村の農政担当へ連絡し、被害についての証明書の発行手続きを進めます。融資と金利負担軽減の前提になります。
  4. 日本政策金融公庫の支店、JA、銀行の窓口へ相談します。公庫と農林漁業信用基金には災害等相談窓口が置かれます。
  5. 必要書類をそろえて借入を申し込みます。書類は災害時には必要最小限にするよう国から要請されています。
  6. 既存の借入がある場合は、同じ窓口で償還猶予・条件変更をあわせて相談します。返済日が来る前に申し出ます。
  7. 天災融資法が発動された災害では、市町村長の認定を受けたうえでJA等へ天災資金を申し込みます。

よくある質問

災害で被災したら、まずどの資金に相談すればよいですか

当座の経営を回すお金であれば農林漁業セーフティネット資金です。限度額は600万円または年間経営費等の6か月分で、償還期限は15年、うち3年は元金の返済を据え置けます。この資金は災害の指定を待たずに申し込めるため、被害を確認した時点で日本政策金融公庫の支店やJAへ相談できます。申込みには市町村長が発行する被害についての証明書が必要です。

天災融資法はどんなときに使えますか

国が政令を定めて発動した災害でのみ使えます。対象になるのは減収量30%以上かつ損失額10%以上の被害を受け、市町村長の認定を受けた農業者です。貸付限度額は個人200万円(北海道350万円)、法人2,000万円、償還期限は3年から6年で、激甚災害に指定されると限度額が250万円、期間が4年から7年に緩和されます。資金使途は種苗・肥料・飼料・農薬・燃料費などの経営資金に限られ、施設の復旧には別の資金を使います。

激甚災害に指定されると何が変わりますか

借入の条件が緩みます。災害関連資金は貸付当初5年間の金利負担が最大2%軽くなり、日本政策金融公庫から実質無担保・無保証人で借りられます。農業近代化資金では農業信用基金協会の保証料が引受当初5年間免除されます。農林漁業セーフティネット資金の限度額が1,200万円へ、農林漁業施設資金が負担額の100%または1,200万円へ引き上げられる特例が設けられることもあります。天災資金の限度額と貸付期間も緩和されます。

今返している借金の返済を待ってもらえますか

相談できます。国は災害のたびに、日本政策金融公庫・農林中央金庫・JA・銀行・信用金庫・信用組合・農業信用基金協会に対して、既往債務の償還猶予など貸付条件の変更、担保徴求の弾力化、窓口での親身な対応を要請しています。既に借りている就農支援資金や農業改良資金も対象です。返済日を過ぎてから相談するより、期日の前に自分から借入先へ連絡するほうが話は進みます。

共済金や保険金が入るまでの資金繰りはどうすればよいですか

収入保険に加入していれば、保険金が支払われるまでを無利子のつなぎ融資でしのげます。農業共済では、損害評価が終わらず支払いが遅れる場合に共済金の仮渡しが検討されます。耕地や施設の被害が衛星写真などから明らかなときは、その資料に基づいて仮渡しの額を評価できます。災害救助法が適用された市町村に住所がある場合は、掛金や保険料の払込期限も延長されます。

地震の被害でも農業の災害資金は使えますか

使えます。農林漁業セーフティネット資金の資金使途には、台風・冷害・干ばつと並んで地震が挙げられています。令和8年7月に発生した熊本地震でも、発生の翌日に金融機関への償還猶予の要請と農業保険の特例措置が通知され、その翌日には共済金の早期支払いと収入保険のつなぎ融資が通知されました。ハウス・農機・畜舎の復旧には農林漁業施設資金、農地の復旧には農業基盤整備資金を充てられます。

キーワード解説

天災融資法

正式には「天災による被害農林漁業者等に対する資金の融通に関する暫定措置法」といいます。天災による農林水産物の被害が著しく、国民経済に及ぼす影響が大きいと認められる場合に、国が政令を定めて発動します。発動されると、被害を受けた農業者は再生産に必要な経営資金を低利で借りられます。市町村または都道府県が金融機関へ利子補給を行い、国が都道府県へ利子補給補助を行う形で低利が実現します。

災害関連資金

災害で被害を受けた農林漁業者が使える制度資金の総称です。経営再建の運転資金である農林漁業セーフティネット資金、施設・農機を直す農林漁業施設資金、農地を直す農業基盤整備資金が中心で、規模が大きい場合はスーパーL資金や経営体育成強化資金も使えます。激甚災害の指定を受けた災害では、これらの資金に金利負担軽減や実質無担保・無保証人化の措置が講じられます。

据置期間

借入後の一定期間、元金の返済をせず利息だけを払う期間のことです。農林漁業セーフティネット資金は15年の償還期限のうち3年以内、農林漁業施設資金は15年から25年のうち3年から10年、農業基盤整備資金は25年のうち10年が据置期間にあたります。収穫や出荷が再開して収入が戻るまでの間、返済の負担を抑えられます。

出典:農林水産省「制度資金の概要」および「災害によって被害を受けた農業者が利用可能な主な制度資金」(資金名、対象者、資金使途、限度額、償還期限、据置期間)、農林水産省「農業金融」掲載の「農林漁業セーフティネット資金のご案内」(借入対象者、資金使途、限度額、金利、償還期限、必要書類)、農林水産省「天災融資制度の概要」(根拠法、法律の発動、借受資格者、貸付条件、助成内容、激甚災害法との関係)、農林水産省「災害等に対する金融上の措置について」(金利負担軽減措置、保証料免除、実質無担保・無保証人化、貸付限度額の特例、金融機関への償還猶予等の要請通知、関係省庁連名の資金繰り支援要請)、農林水産省「災害に関する情報」掲載の農業保険の対応に関する通知(掛金・保険料の払込期限の延長、共済金の仮渡し、被害申告・損害防止義務の取扱い、家畜の廃用認定)および「令和8年熊本地震に係る農林水産関係の被害状況」(被害品目、農地・農業用施設の被害か所数、ため池の点検結果、通知の発出日)。金利は変動し、限度額の特例や金利負担軽減の適用は災害ごとに決まります。借入と返済猶予の可否は経営の状況によって異なるため、日本政策金融公庫の支店・JA・市町村の農政担当窓口で最新の条件をご確認ください。