鳥インフルエンザは渡り鳥とともに国内へ入り、10月ごろからシーズンに入ります。自分の農場で発生すれば、飼っている鶏はすべて殺処分になります。そのとき国から何がどれだけ支払われ、経営を再開するまでの資金をどうつなぐのか。そして、発生してからでは間に合わない備えは何か。養鶏農家が押さえておくべき順に整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる方 | 鶏・うずら・あひる・きじ・ほろほろ鳥・七面鳥・だちょうを飼う生産者と農業法人 |
| 殺処分の補償 | 手当金と特別手当金で評価額の10分の10。焼却・埋却費用は2分の1 |
| 移動制限区域内 | 売上の減少額または飼料費・保管費・輸送費の増加額を国と県で全額助成 |
| 経営再開の互助金 | 採卵鶏の成鶏で1羽790円(家族型)・970円(企業型)。掛金は1羽6円・8円 |
| つなぎ資金 | クイック融資は無利子・保証料免除、上限3億円、2年以内に一括償還 |
| 発生前の備え | 家畜防疫互助基金への加入と飼養衛生管理基準の遵守。移動制限後は加入できない |
| 詳しくは | 都道府県の家畜保健衛生所、(一社)日本養鶏協会、地域の農協・金融機関 |
殺処分になったときに受けられるお金
家畜伝染病予防法にもとづく支援は3つに分かれます。殺処分した家きんそのものへの手当金、死体や汚染物品を焼却・埋却した費用への交付金、そして移動制限を受けた農場への助成です。いずれも家畜等の所有者に交付されます。
手当金と特別手当金で評価額の全額
通常の手当金は、患畜が評価額の3分の1、疑似患畜が評価額の5分の4です。この割合だけを見ると患畜の補償は薄く見えますが、鳥インフルエンザでは通常の手当金に特別手当金が上乗せされます。特別手当金は患畜が評価額の3分の2、疑似患畜が5分の1で、通常分と合わせるとどちらも評価額の10分の10になります。
| 区分 | 手当金 | 特別手当金 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 患畜 | 評価額の3分の1 | 評価額の3分の2 | 評価額の10分の10 |
| 疑似患畜 | 評価額の5分の4 | 評価額の5分の1 | 評価額の10分の10 |
まん延を防ぐために予防的に殺処分された家畜には、手当金ではなく補償金が評価額の10分の10で交付されます。評価額は家畜防疫員が法を執行する過程で評価人が算定し、その手当と旅費は国が全額負担します。
焼却・埋却の費用は2分の1
殺処分した家きんの死体と、汚染された飼料・敷料・卵などの物品を焼却または埋却した費用は、2分の1が交付されます。規模が大きい場合は都道府県が焼却・埋却を実施することもあります。県が負担した費用のうち国費以外の部分は、その5分の4が特別交付税として県に措置されます。
移動制限区域内は売上の減少額が助成される
発生農場の周囲には移動制限区域と搬出制限区域が設定され、区域内の農場は出荷ができなくなります。この場合、売上の減少額または飼料費・保管費・輸送費などの増加額が、国が2分の1、県が2分の1で全額助成されます。自分の農場で発生していなくても近隣の発生で対象になり得るため、区域に入ったことが分かった時点で県の畜産主務課へ相談しましょう。
手当金は減額されることがある
手当金の割合は法律で決まっていますが、満額が出ると決まっているわけではありません。異状に気づいたのに通報が遅れた場合や、飼養衛生管理基準を守っていなかった場合には手当金が減額されます。減額の見込みが20%を超えると、後で述べるクイック融資の対象からも外れます。経営支援互助金についても、早期通報や飼養衛生管理基準の遵守を怠って法令に違反した場合は、支払われないか減額される取扱いです。
飼養衛生管理基準は、家畜伝染病予防法第12条の3にもとづいて家畜の所有者が守る基準で、同条の4による定期報告とセットで運用されます。補償を確実に受けるための条件でもあるため、消石灰の散布や防鳥ネットの点検、記録の保管といった日々の管理を、書類として残る形で続けることが結果的にお金を守ります。
経営を再開するための互助金
手当金は殺処分された家きんの評価額を埋めるお金で、新しいひなを入れて経営を再開する費用までは見ていません。そこを埋めるのが家畜防疫互助基金支援事業です。(一社)日本養鶏協会が独立行政法人農畜産業振興機構の補助を受けて実施する事業で、生産者が積み立てた掛金と国の補助金を原資に互助金が交付されます。
経営支援互助金の交付単価
鶏、うずら、あひる、きじ、ほろほろ鳥、七面鳥、だちょう、エミューを新たに導入して経営を再開する場合に交付されます。契約羽数を上限として、殺処分した羽数か導入計画の羽数のうち少ない方で計算します。
| 家きんの種類 | 家族型 | 企業型 |
|---|---|---|
| 採卵鶏(成鶏) | 790円/羽 | 970円/羽 |
| 採卵鶏(育成鶏) | 370円/羽 | 450円/羽 |
| 肉用鶏 | 25円/羽 | 30円/羽 |
| 種鶏(成鶏) | 1,020円/羽 | 1,300円/羽 |
| 種鶏(育成鶏) | 470円/羽 | 600円/羽 |
| うずら | 200円/羽 | 200円/羽 |
| あひる・きじ・ほろほろ鳥・七面鳥 | 320円/羽 | 320円/羽 |
| だちょう・エミュー | 31,900円/羽 | 31,900円/羽 |
企業型は、生計を一にする者を除いて常時雇用する従業員が1人以上いる事業主または会社が選べる区分です。発生後も雇用を確保することを前提にしているため単価が高く設定されています。企業型の条件に当てはまる場合でも家族型で加入できます。区分の変更は同じ年度内に1回だけできます。
殺処分した家きんを自分の負担で焼却・埋却した場合には、焼却・埋却等互助金も別に交付されます。
掛金は採卵鶏1羽6円
掛金にあたる生産者積立金は、種類ごとの単価に契約羽数を掛けて求めます。採卵鶏の成鶏なら家族型で1羽6円、企業型で8円です。790円の互助金に対して掛金が6円ですから、負担の割に受けられる額は大きい仕組みです。
| 家きんの種類 | 家族型 | 企業型 |
|---|---|---|
| 採卵鶏(成鶏) | 6円/羽 | 8円/羽 |
| 採卵鶏(育成鶏) | 3円/羽 | 4円/羽 |
| 肉用鶏 | 0.2円/羽 | 0.3円/羽 |
| 種鶏(成鶏) | 8円/羽 | 12円/羽 |
| 種鶏(育成鶏) | 4円/羽 | 5円/羽 |
| うずら | 1.5円/羽 | 1.5円/羽 |
| あひる・きじ・ほろほろ鳥・七面鳥 | 2円/羽 | 2円/羽 |
| だちょう | 190円/羽 | 190円/羽 |
単価は発生状況を踏まえて見直されるため、加入時は日本養鶏協会の案内で最新の額をご確認ください。契約は1年度ごとに積み立てる単年度制です。互助金の支払総額が積立金総額を上回った場合でも追加の積立ては求められませんが、そのときは一律の割合で均等に減額して交付されます。契約羽数を年度途中で減らしても、すでに納めた積立金は返ってきません。
移動制限がかかってからでは加入できない
この事業でもっとも注意すべき点は加入のタイミングです。契約を結ぶ時点で家畜伝染病予防法にもとづく移動制限などが既に実施されている区域の生産者は、加入できません。近隣で発生してから慌てて申し込んでも間に合いません。飼養衛生管理基準を守っていることが参加の前提でもあるため、シーズンに入る前に手続きを終えておく必要があります。
契約は、3年度に共通する条件を定める基本契約と、その年度の対象農場・鶏種・羽数を定める年次契約の2本立てです。複数の農場で飼っている場合は、都道府県知事へ行う定期報告と同じ農場単位で羽数を申告します。防疫措置の対象農場と契約の農場がずれると交付の場面でもめるため、ここは正確に合わせましょう。積立金の納付が指定期日より遅れると、その納付日が契約の始期になります。
手当金が入るまでのつなぎ資金
手当金は評価額の全額が交付されますが、評価と認定を経るため入金までに時間がかかります。その間も従業員の給与や飼料の支払いは続きます。ここを埋めるのが家畜疾病経営維持資金のクイック融資メニューです。
| 貸付対象 | 対象疾病の発生農家 |
| 限度額 | 手当金等の交付見込額で上限3億円。1羽当たりの単価×処分羽数で計算 |
| 1羽の単価 | 採卵鶏839円、肉用鶏374円(乳用牛296,822円、肉用牛552,532円) |
| 償還期限 | 2年以内の一括償還。手当金等を受けたら期限にかかわらず速やかに償還 |
| 貸付金利 | 無利子 |
| その他 | 農業保証保険制度の債務保証を使う場合は保証料が免除される |
| 借入先 | 農協、銀行、信用金庫、商工中金などの民間金融機関 |
まん延につながる行動をとった疑いがある場合や、通報の遅れ・飼養衛生管理基準の不遵守によって手当金等が20%を超えて減額される見込みの場合は、クイック融資の対象から外れます。融通までの期間は債務保証の利用状況によって変わり、最短で数週間から1か月が目安です。
発生農場ではなく、移動制限区域内で出荷が止まった農場や、区域内の農家・と畜場との取引が止まった経営には、同じ資金の経営継続資金が使えます。家きんは100羽当たり5.2万円が限度額で、償還期限は7年以内(うち据置3年以内)です。価格低下などの経済的影響を受けた場合の経営維持資金も同じ限度額で用意されています。貸付利率は改定されるため、借入先の金融機関でご確認ください。経営の維持安定に必要な長期資金としては、日本政策金融公庫の農林漁業セーフティネット資金(経営費の6か月分または600万円、償還15年以内)も選べます。
支援を受けるまでの流れ
- 異状に気づいた時点で、ためらわず都道府県の家畜保健衛生所へ通報します。通報の遅れは手当金の減額につながります。
- 家畜防疫員の指示に従って防疫措置に協力します。殺処分する家きんは、評価人が評価額を算定します。
- 手当金・特別手当金・焼埋却費用の交付は都道府県を通じて手続きします。窓口は県の畜産主務課と家畜保健衛生所です。
- 入金までの資金繰りが厳しい場合は、農協や銀行へクイック融資を相談します。手当金等を受け取ったら速やかに償還します。
- 経営再開の互助金は日本養鶏協会へ申請します。申請期限は原則として発生した年度内で、要件を満たせば最長で発生年度の翌々年度末まで猶予されます。
- 再開後は次のシーズンに向けて年次契約を更新し、契約羽数を実際の飼養計画に合わせます。
いま確認しておきたいこと
10月からのシーズンに向けて、発生前にしかできないことが3つあります。1つ目は家畜防疫互助基金への加入または年次契約の更新です。移動制限がかかってからは加入できません。2つ目は契約羽数と対象農場の確認で、定期報告の農場単位と一致しているかを見ておきます。3つ目は飼養衛生管理基準の遵守状況を記録として残すことです。この3つが、発生したときに受け取れる金額をそのまま左右します。
あわせて、家畜共済や収入保険の加入状況も見直しておきましょう。家畜の死亡・廃用や経営全体の収入減少をどこまで受け止められるかは制度ごとに違います。詳しくは農業共済(NOSAI)の仕組みと掛金で整理しています。飼料費の上昇そのものへの備えは配合飼料価格安定制度の補てんが受け皿になります。被災後の返済猶予やつなぎ資金の考え方は被災した農家の資金繰りと災害関連資金もあわせてご覧ください。
よくある質問
殺処分になった鶏の代金は全額戻りますか
評価額の全額が戻ります。通常の手当金は患畜が評価額の3分の1、疑似患畜が5分の4ですが、鳥インフルエンザでは特別手当金(患畜3分の2、疑似患畜5分の1)が上乗せされ、合わせて10分の10になります。ただし早期通報を怠った場合や飼養衛生管理基準を守っていなかった場合は減額されます。評価額は評価人が算定した額で、農場が希望する額ではありません。
近所で発生してから互助基金に入れますか
入れません。契約を結ぶ時点で移動制限などが既に実施されている区域の生産者は加入できない決まりです。加入は発生前に限られるため、渡り鳥が入る秋より前に手続きを終えてください。飼養衛生管理基準を守っていることも参加の前提です。
手当金が入るまでの資金はどうつなぎますか
家畜疾病経営維持資金のクイック融資メニューが使えます。無利子で、農業保証保険制度の債務保証を使う場合は保証料も免除されます。限度額は手当金等の交付見込額(上限3億円)で、採卵鶏839円、肉用鶏374円という1羽当たりの単価に処分羽数を掛けて計算します。2年以内の一括償還ですが、手当金等を受け取ったら期限を待たず速やかに償還します。借入先は農協や銀行などの民間金融機関です。
自分の農場で発生していなくても支援はありますか
あります。移動制限区域・搬出制限区域に入って出荷が止まった場合は、売上の減少額または飼料費・保管費・輸送費などの増加額が、国と県で全額助成されます。資金面では家畜疾病経営維持資金の経営継続資金(家きんは100羽当たり5.2万円、償還7年以内)が使えます。区域内の農家やと畜場との取引が停止された経営、輸出が止まった区域の経営も対象です。
企業型と家族型はどちらで加入すべきですか
常時雇用する従業員が1人以上いる場合は企業型を選べます。単価は採卵鶏の成鶏で交付が970円・掛金が8円と、家族型の790円・6円より高くなります。発生後も雇用を続ける前提の区分だからです。企業型の条件に当てはまる場合でも家族型で加入できるため、雇用の実態と負担を見て選びましょう。区分の変更は同じ年度内に1回だけできます。
キーワード解説
患畜と疑似患畜
患畜は検査で感染が確認された家畜、疑似患畜は同じ農場にいるなどして感染の疑いがある家畜です。鳥インフルエンザでは発生農場の家きんがすべて殺処分の対象になるため、交付を受ける羽数の大半は疑似患畜になります。通常の手当金の割合は患畜が低く疑似患畜が高いという逆に見える設定ですが、特別手当金と合わせるとどちらも評価額の10分の10で同じです。
飼養衛生管理基準
家畜伝染病予防法第12条の3にもとづいて家畜の所有者が守る衛生管理の基準です。同条の4による定期報告とセットで運用され、防鳥ネットや消毒設備の設置、記録の保管などが含まれます。守っていないと手当金と互助金が減額されるため、補償の前提条件として扱う必要があります。
家畜防疫互助基金支援事業
(一社)日本養鶏協会が独立行政法人農畜産業振興機構の補助を受けて実施する事業です。生産者が納めた積立金と国の補助金を原資に、経営再開のための経営支援互助金と、自己負担で焼却・埋却した場合の焼却・埋却等互助金を交付します。1年度ごとに積み立てる単年度制で、支払総額が積立金を超える場合は一律の割合で減額されます。