産地BCPを作った産地は、既存ハウスの補強など被害を防ぐ対策に補助率2分の1の支援を受けられます。産地BCPは、台風・大雪・大雨や感染症で産地の生産・出荷が止まるのを防ぐため、市町村・JA・部会・農業者が一緒に作る事業継続計画です。正式名称は園芸産地における事業継続計画といいます。気候変動で自然災害は激甚化・頻発化していますが、農業・林業・漁業の事業継続計画の策定率は23.6%程度にとどまります。誰が主導してどう作るのか、9項目の作り方の流れと、補助を受けるための要件を、野菜・施設園芸の産地の視点で解説します。

概要

項目内容
誰が作れるか野菜・施設園芸の産地。市町村・JA・部会・産地法人・農業者の組織、自治体の農政担当
何を台風・大雪・大雨・感染症などで生産や出荷が止まるリスクに、産地全体で備える事業継続計画(産地BCP)を作る
作り方所定のフォーマット(エクセル)に9項目を整理。構成員と目的を決める→災害と被害を想定→役割分担と取組内容を決める→訓練・見直し
受けられる補助率計画づくり・実践は定額または2分の1。既存ハウスの補強等の被害防止対策は2分の1(産地BCP策定が前提)
詳しくは都道府県(普及指導員)・市町村・JAに相談できます。要綱・推進マニュアル・フォーマットは農林水産省のサイトで公開されています

産地BCPを作ると受けられること

ハウス補強の補助を受けられる

産地BCPを作った産地は、既存ハウスの補強など被害を防ぐ対策に、補助率2分の1の支援を受けられます。農林水産省の園芸産地における事業継続強化対策のうち、最も大きいのがこの補助です。筋交い直管・タイバー・斜材・中柱によるハウスの補強、防風ネットの設置、融雪装置や止水シートの設置、非常用電源の共同利用などが対象になります。ただし、この補強の補助を受ける前提として、産地BCP(事業継続計画の検討・策定)に取り組んでいることが求められます。先に計画を作っておくほど、補強の補助に手が届きやすくなります。ハウス被害そのものへの備えは園芸施設共済の解説記事もあわせてご覧ください。

平常時にも産地が強くなる

計画を作る過程では、備蓄品や代替策を検討するなかで、産地の弱点と強みが具体的に整理されます。災害対応の手順を文書に残しておけば、判断する人が交代しても他の構成員が動けますし、後継者への事業継承もしやすくなります。出荷を止めない体制は契約先からの信頼につながり、販路を複数持つきっかけにもなります。構成員で議論を重ねるうちに、産地への一体感や帰属意識も高まります。

産地BCPとは

産地BCPとは、市町村・JA等の組織・農業者などが産地としてまとまって作る事業継続計画です。BCPは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略で、緊急事態でも被害を最小限にとどめ、重要な業務を早く復旧できるよう、平常時の備えと被災後の動きをあらかじめ定めておく計画を指します。産地BCPは、緊急時にも営農を続けられるようにするとともに、構成員の誰かが被災したとき、産地全体で復旧を支え合える体制を作ることを目的とします。

備える対象は自然災害が中心です。推進マニュアルは台風・大雪・大雨を基本の想定災害としていますが、地震などへ置き換えたり追加したりできます。マニュアル自体は自然災害を前提にしていますが、ここで身につく考え方や手順は、感染症など自然災害以外のリスクにもそのまま使えます。主な対象は施設園芸の産地ですが、露地栽培の産地でも活用できます。

農業版BCPとの違い

農業分野のBCPには、産地BCPと農業版BCPの二つがあります。混同しやすいので、誰が・何のために作るのかで分けて整理します。

項目産地BCP農業版BCP
作る人複数の農業者・市町村・JA等の組織など産地の構成員個々の農業者
目的産地の被害軽減と、構成員の連携による産地全体の早期復旧個々の経営の被害軽減と生産の早期復旧
整理する内容構成員どうしの協力・連携(停電時の非常用電源の融通、高額な備蓄品の共同利用など)個々の農家が行う対応事項

農業版BCPは「自分の生産を続けるために一人で作る」計画で、産地BCPは「構成員が協力し、誰かが被災したら産地全体で復旧を進める」計画です。どちらか一方がもう一方を代わりにはできません。両方そろえると、個々の経営の備えと産地ぐるみの支え合いの両面で備えが厚くなります。農業版BCPを作ると、農地利用効率化等支援事業や担い手確保・経営強化支援事業など複数の補助事業で、採択時に加点を受けられます。

産地BCPと農業版BCPの関係を示す概念図。上段の産地BCPは普及指導員・市町村・JA等の組織が担い、産地BCPの策定・運営や体制構築・維持のサポート、産地の強靱化・地域産業の安定を担当する。中央の帯は「非常時における協力・支援体制、平常時における各構成員の関係強化」を示し、上下の矢印で産地BCPと農業版BCPがつながる。下段の農業版BCPは一定の共通点を持つ複数の農業者が個々に策定し、生産品種・収種量等の情報や体制構築・維持への協力、地域産業の安定を担う。
農林水産省「園芸産地における事業継続強化対策 産地BCP推進マニュアル」(産地BCPと農業版BCPの関係イメージ)

作り方の流れ

産地BCPは、農林水産省が公開する所定のフォーマット(エクセルの「園芸産地における事業継続計画」)に9項目を整理して作ります。半ば自動的に記載が決まる項目と、構成員の協議が必要な項目に分かれます。進め方は次の四つの段階で考えると分かりやすくなります。都道府県の普及指導員が知識面から支えてくれるので、まず相談しながら始めましょう。

構成員と目的を決める

都道府県職員から説明を受けた発起人が中心となり、同じ目的を持つ仲間に参加を呼びかけて構成員を固めます。構成員の候補は、農業者のほか、市町村、JA等の組織、普及指導員、農業共済(NOSAI)などの関係機関です。次に、その中から進行役となる事務局を決め、策定スケジュールを立てます。目的は「生産の維持・復旧」か「出荷の維持・復旧」のどちらか、または両方に整理します。生産の維持・復旧を目的にする場合は市町村、出荷の維持・復旧を目的にする場合はJA等の役割が大きくなります。誰が主導するかは、この目的の選び方で決まります。

災害と被害を想定する

ハザードマップなどを使い、産地で甚大な被害が起こりうる災害と、その被害を具体的に書き出します。農地だけでなく、集荷場など共同施設のリスクも確認します。「停電が一番のリスクなら、停電を起こす台風・地震・大雨を想定災害にする」というように、避けたい被害から逆算して災害を選ぶ方法もあります。

役割分担と取組内容を決める

災害時に産地として動くための役割を洗い出し、誰が担うかを決めます。フォーマットには「①責任者②事務局③協力体制の構築及び維持管理④取引先との調整⑤資金の調整⑥現場の復旧及び把握」の六つの役割があり、安否の集約や被害情報のとりまとめなどを産地の状況に応じて足します。責任者は1名にしつつ、ほかの役割は代行できるよう複数名を決めておけば、担当者が被災しても産地が止まりません。そのうえで、ヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源ごとに、災害の前後に何をするかを具体的に書きます。個々の農家だけでは難しいことを連携で補うのが、産地BCPの中心です。被災していない農家が被災した農家を支援する、非常用発電機を共同利用するといった協力を、ここで取り決めます。あわせて、構成員の保険加入状況も整理します。

訓練・見直しで運用する

計画は作って終わりにはできません。維持管理の項目で、定期的な確認や訓練、内容の見直しのしかたを決めて運用します。栽培品目や構成員、産地の事情は変わっていくので、実情に合わせて更新を続けることで、いざというときに動ける計画になります。

受けられる支援と要件

産地BCPに連動する園芸産地における事業継続強化対策の支援は、「計画づくり」「実践」「ハウスの補強」の3つに分かれます。補助は基本的に国から都道府県へ、都道府県から取組主体へと交付されます。

支援の区分主な内容補助率
計画の検討・策定事業継続計画の検討・策定、非常時の協力体制づくり、講習会の開催やマニュアル作成定額・2分の1
計画の実践自力施工の技能習得(講習会・外部研修)、被災後に協力体制や自力施工で復旧する実証の取組定額・2分の1
ハウスの補強等筋交い直管・タイバー・斜材・中柱による補強、防風ネット、融雪装置・止水シート、非常用電源の共同利用2分の1

取組主体になれるのは、都道府県・市町村・農業協同組合・地域農業再生協議会・農業者の組織する団体などです。補助を受けるには、その取組が都道府県の作る事業継続推進計画に位置づけられている必要があります。さらに、ハウスの補強等の被害防止対策には4つの要件があります。①計画の検討・策定の取組を実施していること、②個々の経営体でも事業継続計画を作ること、③収入保険の加入に積極的に努めること、④対象施設が園芸施設共済または民間保険に加入していること、です。対象となるハウスは、今後10年以上の利用が見込まれるものに限られます。施設の燃料コスト対策とあわせて備えたい方は施設園芸のセーフティネット(燃油価格高騰対策)の解説記事もご覧ください。補助事業の内容や要件は年度によって変わるため、最新の運用は都道府県やJAに確認しましょう。

よくある質問

産地BCPは誰が中心になって作るのですか

市町村・JA・農業者などが構成員となって作る計画で、目的によって主導役が変わります。生産の維持・復旧が目的なら市町村、出荷の維持・復旧が目的ならJAの役割が大きくなります。都道府県の普及指導員が策定を支え、構成員として運用に関わる事例も多くあります。まずは都道府県や市町村、JAに相談するのが入口です。

農業版BCPを作っていれば産地BCPは要りませんか

別ものなので、産地BCPの代わりにはなりません。農業版BCPは個々の農家が自分の経営を続けるための計画で、産地BCPは構成員どうしの連携や支え合いを整理する計画です。両方そろえると、個別の備えと産地ぐるみの備えの両面が整います。

産地BCPを作るとハウス補強の補助は必ず受けられますか

産地BCPの策定は、ハウス補強の補助を受けるための前提条件の一つです。実際に補助を受けるには、都道府県の事業継続推進計画への位置づけ、個々の経営体での計画策定、収入保険の加入努力、園芸施設共済または民間保険への加入といった要件も満たす必要があります。対象ハウスは今後10年以上使う見込みのものに限られます。

自然災害だけでなく感染症にも使えますか

推進マニュアルは台風・大雪・大雨などの自然災害を想定していますが、そこで身につくBCPの考え方や手順は、感染症などのリスクにも応用できます。産地で停電や人手不足が一番の弱点なら、その被害を起こす要因から想定する災害を選ぶ進め方もできます。

次の一歩

はじめに、自分の産地が直近で受けた、または受けそうな被害(台風・大雪・大雨・停電など)を書き出し、誰と一緒に備えるかを考えます。次に、都道府県の普及指導員や市町村、JAに「産地BCPを作りたい」と相談し、自分の都道府県が事業継続推進計画でどんな取組を対象にしているかを確認しましょう。農林水産省のサイトでは産地BCP推進マニュアルとフォーマット(エクセルの「園芸産地における事業継続計画」)が公開されているので、これを使って構成員と目的の検討から着手できます。ハウスの補強補助をねらうなら、計画づくりと並行して、対象ハウスが園芸施設共済または民間保険に入っているか、収入保険への加入を進められるかも点検しておきましょう。実際に被災したときに使える支援策は大雨・台風で農林水産業に被害が出たときの支援の解説記事を、災害への備えと収入の備えをあわせて知りたい方は農業共済(NOSAI)の解説記事もご覧ください。

キーワード解説

産地BCP

市町村・JA等の組織・農業者などが産地としてまとまって作る事業継続計画で、正式には「園芸産地における事業継続計画」といいます。緊急時にも営農を続け、被災した構成員を産地全体で支援して早期に復旧することを目的とします。所定のフォーマット(エクセル)に9項目を整理して作ります。

農業版BCP

個々の農業者が自分の経営のために作るBCPです。自然災害や感染症、大事故が起きても中核となる事業を続け、できるだけ短時間で復旧できるよう、平常時の備えと被災後の動きを定めます。「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」(リスクマネジメント編・事業継続編、耕種用・園芸用・畜産用の3パターン)と合わせると簡便に作れ、複数の補助事業で採択時の加点を受けられます。

園芸産地における事業継続強化対策

「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づき、災害に強い産地を作るため、複数農業者による事業継続計画(産地BCP)の策定と、その実践に必要な体制整備・取組を支援する農林水産省の対策です。計画づくり・実践は定額または2分の1、既存ハウスの補強等の被害防止対策は2分の1の補助率で支援します。エネルギーコスト対策として省エネ型ハウスへの転換を検討する方は施設園芸の省エネ転換の解説記事もあわせてご覧ください。