新米を直売所やネットショップ、飲食店へ自分で売ると、JAに全量を出していたときには関係のなかった手続きが出てきます。米は野菜や果実と違い、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(食糧法)で出荷・販売事業の届出が定められているためです。営業許可のような審査はなく、様式1枚を出せば足ります。分かれ目になる数量の数え方と、届出後に続く帳簿の義務を、米をつくる農家・農業法人と、産直に取り組むJA・自治体の担当者に向けて整理します。

誰が米を自分で出荷・販売する農家・農業法人、米穀店・米卸・小売・外食、産直に取り組む団体
何を米穀の出荷又は販売の事業の開始届出書(別記様式第10号)の提出と、帳簿の備付け
対象になる規模年間20精米トン以上。届出事業者へ出す自家生産米と無償譲渡は数えない
いつまでに事業を開始する日より前。変更・廃止は遅滞なく
どこへ主たる事務所の所在地を管轄する地方農政局等。郵送・FAX・メールで提出でき、押印は不要
詳しくは下の判定手順で、自分の直販分が20精米トンに届くかを確かめる

分かれ目は年間20精米トンです

届出が必要になるのは、年間20精米トン以上の米穀を出荷または販売する場合です。玄米に直すとおよそ22トン、30kg袋で約733袋、60kgの俵で約366俵にあたります。10アール当たり収量が全国平均の526kg(生産者ふるい目幅ベース)なら、4.2ヘクタール分の収量です。

米穀の出荷又は販売の事業の届出を説明したチラシ。1年間に20精米トン以上なら事業開始前に開始届出書の提出が必要で、無届は50万円以下の罰金、帳簿は3年間保存し違反は20万円以下の過料と記載されている。
農林水産省「米穀の出荷又は販売の事業の届出について」より、届出の要否と義務の概要

この20精米トンは、次の2つを比べて大きいほうで判定します。片方だけで見ると判定を誤ります。

  • 当該年度の出荷予定数量または販売予定数量
  • 前年度の出荷数量または販売数量

ここでいう年度は、事業開始予定月が属する4月1日から翌年3月31日までの1年間です。暦年ではありません。

JAへ出す分は数に入りません

数量の数え方でいちばん誤解が生まれるのがここです。自ら生産した米のうち、届出事業者へ出荷・販売する数量は、届出の要否を判定する数量に含まれません。JAや米卸、米穀店の多くは届出事業者ですから、そこへ出している分は除いて数えます。

無償で譲る米も数量に入りません。親戚や知人へ送る縁故米、贈答用に配る米は、届出義務が生じる事業規模の判定から外れます。

数える消費者への直接販売、ネットショップ・産直EC、直売所、飲食店・宿泊施設・学校給食などへの販売、届出をしていない相手への出荷
数えない自ら生産した米を届出事業者(JA・米卸など)へ出荷・販売する分、無償で譲渡する分

玄米で売る場合は精米に換算します。換算式は「精米=玄米×0.91」です。玄米20トンなら18.2精米トンで、届出義務は生じません。

産直販売も対象の事業にあたります

届出の対象となる「米穀の出荷又は販売の事業」は、営利目的であるかどうかを問いません。自己の名義で継続反復して、生産者から委託を受けた米穀を集荷して有償で譲渡すること、または自ら所有する米穀を有償で譲渡することが該当します。生産者が自分の米を届出事業者を通さず消費者へ直接売る産直販売も、この定義に含まれます。

年によって20精米トンを前後する場合や、新規に始めて数量を見通せない場合は、届出時点での取扱予定数量を書いて開始届出書を出します。20精米トンに満たない場合の届出は任意で、出しても差し支えありません。

届出を出す手順

  1. 直販に回す予定の数量を精米に換算します。玄米は「玄米量×0.91」で計算し、JAなど届出事業者へ出す分と無償譲渡分を除きます。
  2. 当該年度の予定数量と前年度の実績数量を比べ、大きいほうが20精米トン以上になるかを確かめます。
  3. 別記様式第10号の開始届出書に、商号・名称または氏名、住所、法人なら代表者の氏名、主たる事務所の所在地、事業開始予定時期、届出時点での年間の出荷又は販売予定数量を記入します。
  4. 主たる事務所の所在地を管轄する地方農政局等へ、事業開始日より前に提出します。押印は不要で、郵送・FAX・メールのいずれでも受け付けられます。
  5. 帳簿を用意し、米穀の種類別に数量を記録し始めます。毎月末までに前月分の記載を終えます。
米穀の出荷又は販売の事業の開始届出書(別記様式第10号)の記入例。届出者の商号・氏名・住所、主たる事務所の所在地、事業開始予定時期、年間の出荷又は販売予定数量の各欄に注記が付いている。
農林水産省「届出書の記入例」より、開始届出書の書き方

届出書に書く住所は、法人なら登記上の住所、個人なら住民票上の本人の住所です。主たる事務所は、米穀の出荷・販売の業務と帳簿の管理を行う本社の所在地を指します。仕入れを都道府県単位の支社で行い、帳簿もその支社で整理している場合は、支社ごとの届出になります。

受理した旨の通知は届きません。届出済みかどうかを確かめたいときは地方農政局等へ問い合わせ、書面で残したい場合は任意様式の届出確認依頼書を提出します。

提出先は9つの窓口に分かれています

提出先は主たる事務所の所在地で決まります。県境をまたいで販売していても、窓口は事務所のある管轄だけです。

窓口管轄区域
北海道農政事務所 生産経営産業部業務管理課北海道
東北農政局 生産部生産振興課青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島
関東農政局 生産部生産振興課茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨・長野・静岡
北陸農政局 生産部生産振興課新潟・富山・石川・福井
東海農政局 生産部生産振興課岐阜・愛知・三重
近畿農政局 生産部生産振興課滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山
中国四国農政局 生産部生産振興課鳥取・島根・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛・高知
九州農政局 生産部生産振興課福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島
内閣府沖縄総合事務局 農林水産部生産振興課沖縄

電話番号・所在地は農林水産省のチラシ裏面に掲載されています。

帳簿は毎月末までに書いて3年保存します

届出事業者には帳簿の備付けが義務づけられます。記載する事項は次のとおりです。

全員が記載米穀の種類別の出荷数量または販売数量。届出事業者へ出す自家生産米の数量は除く
自家生産米以外も扱う人種類別の出荷・売渡しの委託を受けた数量または買受数量と、種類別の在庫数量

種類とは、うるち・もちの別と、玄米・精米の別を指します。品種ごとに分ける必要はありません。

記載の期限は毎月末で、その時点で前月分を書き終えている状態にします。保存期間は、その帳簿に最後の記載をした日から3年間です。備えていない、書いていない、虚偽を書いた、保存していないのいずれも20万円以下の過料の対象になります。

米を売る立場になると、この帳簿とは別に米トレーサビリティ法の取引記録も作ることになります。記録する項目も保存年限も別の制度ですから、米トレーサビリティ法の取引記録と産地情報の伝達で必要な様式を確かめ、一つの台帳で両方を満たせる形にしておくと手間が減ります。

変更と廃止のときに出す届出

届出の内容が変わったときは変更届出書(別記様式第11号)、事業をやめたときは廃止届出書(別記様式第12号)を、遅滞なく同じ窓口へ提出しましょう。よくある場面は次のとおりです。

場面出す届出補足
新たに事業を始める、事業規模が20精米トンを超えた開始届開始届は事業開始日より前に提出
商号・名称、届出者の住所、法人の代表者を変更した変更届郵便番号・電話番号の変更も対象
主たる事務所を移転した、住居表示が変わった変更届支社で帳簿を整理している場合は支社ごと
個人事業者が相続で事業を承継した開始届と廃止届承継後の人が開始届、前の人が廃止届
個人から法人へ、有限会社から株式会社へ組織を変更した変更届など法人格の取得・喪失を伴う場合は変更後が開始届、変更前が廃止届
事業を譲渡した、合併した開始届と廃止届譲渡後・合併後の会社が開始届、譲渡前・消滅する会社が廃止届
事業をやめた廃止届承継先があるときは廃止の理由に具体的に記載

販売数量が届出のときの予定から増減しても、変更届は要りません。開始届出書に書く数量は「届出時点での年間の出荷又は販売予定数量」であるためです。

無届で売っていた場合

届出をせず、または虚偽の届出をして米穀の出荷・販売の事業を行うと、50万円以下の罰金が科されます。行政が「年間取扱数量20精米トン以上で開始届出書が未提出」という情報を得た場合は、巡回点検で事実を確認したうえで開始届出書の提出を指導し、必要に応じて立入検査を行う流れです。

20精米トンに満たない事業者が届出をしていないことは、違反にあたりません。届出の要否は自分で判断して差し支えなく、迷う数量なら任意で出しておくほうが確実です。

米を売るときに関わるほかの法令

食糧法の届出だけで売れるようになるわけではありません。同時に確かめておく法令は4つあります。

食品表示法消費者に販売する場合は食品表示基準に基づく表示が必要
米トレーサビリティ法取引記録の作成・保存と、産地情報の伝達が必要
食糧法用途限定米穀は定められた用途以外への使用が禁止
食品衛生法最寄りの保健所へ営業の届出等が必要

精米して袋詰めし、産地・品種・産年・内容量・精米年月日などを表示して売る段階では、表示の作り方が売れ行きにも影響します。販路ごとの許可の要否や送料・決済の考え方は農産物のネット販売の始め方、直売所への出荷は直売所へ出荷するときの手順をご覧ください。

届出のルールはこれから広がります

ここまでの内容は、いま施行されている食糧法のルールです。2026年7月8日に成立した改正食糧法で、届出の対象は加工・中食・外食の事業者と出荷量の多い生産者まで拡大され、届出事業者には在庫量・取扱量・取引価格・とう精数量などの定期報告が義務づけられます。

施行は公布日から1年以内に政令で定める日で、対象となる年間取扱数量の下限と報告の頻度は今後の省令で決まります。出荷量の多い経営ほど新たに対象へ入る可能性があるため、いまのうちに取扱量を記録する形を整えておくと、施行後の負担が軽くなります。改正で何がどう変わるかは改正食糧法の解説記事にまとめています。

よくある質問

JAに出している分も20精米トンに数えますか

数えません。自ら生産した米のうち、届出事業者へ出荷・販売する数量は、届出の要否を判定する数量から除かれます。JAへ全量を出していて直販がない場合、届出は不要です。

玄米で売るときはどう換算しますか

「玄米量×0.91」で精米に換算します。玄米22トンでおよそ20精米トンです。販売予定数量に玄米を含める場合も、届出書には精米へ換算した数量を書きます。

20精米トン未満でも届出はできますか

できます。取扱数量にかかわらず、開始届出書による届出は可能です。年によって20精米トンを前後する場合は、届出時点での取扱予定数量を書いて提出しておくと確実です。

届出が受理された通知は届きますか

届きません。届出済みかどうかを確かめたい場合は地方農政局等へ問い合わせ、書面で残したい場合は任意様式の届出確認依頼書を提出します。

集落営農や有志のグループで売る場合はどうなりますか

法人格を持たない団体でも、団体として年間20精米トン以上を出荷・販売するなら、その団体名で届出が必要です。構成員それぞれの販売数量が20精米トン未満でも変わりません。届出の際は主たる構成員の氏名と住所を記した書類を添えます。

イベントで生産者から仕入れた米を売る場合も届出が要りますか

年間の販売数量が20精米トン以上になるなら必要です。継続反復して販売するのでなければ、届出は任意になります。

キーワード解説

精米トン

精米の重量に換算したトン数です。食糧法の届出の要否は、この精米ベースの数量で判定します。玄米で扱う場合は「精米=玄米×0.91」で換算します。

届出事業者

食糧法第47条第1項の規定により、米穀の出荷又は販売の事業の届出をした者です。帳簿の備付けと保存の義務を負います。自ら生産した米をこの届出事業者へ出荷・販売する数量は、届出の要否を判定する数量に含まれません。

用途限定米穀

加工用米や飼料用米など、用途を限って生産・流通する米穀です。定められた用途以外への使用が食糧法で禁止されています。主食用として売ることはできません。

主たる事務所

届出書に書く事務所で、事業者全体の米の取扱量を帳簿で把握できる事務所を指します。直営店やフランチャイズを含めた全体を管理する本社業務の事務所が基本です。仕入れと帳簿の整理を支社で行っている場合は、その支社ごとの届出になります。