営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、農地に支柱を立てて上部の空間に太陽光パネルを設置し、その下の農地で営農を続けながら発電する取組です。耕作をやめずに売電や自家消費という収入源を加えられる一方、支柱部分には農地法の一時転用許可が必要で、営農がおろそかになると設備の撤去まで求められます。この記事では、許可の条件と期間、始め方の流れ、収入と費用の考え方、デメリットと注意点を順に解説します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 自分の農地や借りた農地で営農を続けたい農家・農業法人。地域で取組を支えるJA・自治体の農政担当にも関わります。 |
| 何を | 農地に支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置し、下部の農地で営農を続けながら発電します。 |
| 許可 | 支柱部分について農地法の一時転用許可が必要です。許可期間は通常3年以内、担い手が営農する場合などは10年以内で、期間満了後の再許可もできます。 |
| 収入と費用 | 発電した電気は売電または自家消費で収入・経費削減につなげます。設備の設置費用と撤去費用まで見込んだ資金計画が前提です。 |
| 次の一歩 | 下部農地で育てる作物と営農計画を固め、農地のある市町村の農業委員会に事前相談します。 |
営農型太陽光発電とは
営農型太陽光発電は、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を発電と農業生産で分け合う取組です。農地をやめて発電所にするのではなく、下部の農地で耕作を続けることが大前提になります。だからこそ、通常の農地転用とは異なる「支柱部分だけの一時転用」という整理で許可を受けます。
農業経営から見ると、作物の販売収入に発電による収入や電気代の削減を上乗せできる点が魅力です。台風や価格変動で作物収入が振れても、発電側の収入が経営の下支えになります。また、農業分野でも気候変動への対応や温室効果ガスの削減が課題になるなか、農地を活かした再生可能エネルギーの導入手段として位置づけられています。気候変動と農業の関係は農業の気候変動対応の記事で詳しく解説しています。
一方で、この制度はあくまで「営農が主、発電が従」です。パネルの下で営農が続いているか、収穫量が落ちていないかを毎年問われ、営農の継続が許可の生命線になります。
一時転用許可の条件と期間
営農型太陽光発電では、パネルを支える支柱の基礎部分が農地以外の用途になるため、農地法に基づく一時転用許可が必要です。下部の農地はそのまま農地として使い続けるので、農地全体を転用する通常の許可とは扱いが異なります。なお、令和6年4月1日には省令改正と様式の整備が行われ、農地転用許可制度上の取扱いが明確になりました。これから始める人は、現行の様式に沿って申請します。
許可期間の区分
許可期間は営農の体制や農地の区分によって変わります。区分は次の表のとおりです。
いずれの区分でも、期間満了後に営農が適切に続いていれば再許可を受けられます。発電設備は長期間使う前提の投資なので、実務上は「許可期間ごとに営農実績を積み、再許可を重ねて事業を続ける」イメージを持つと計画を立てやすくなります。
許可の主な条件
営農型太陽光発電ガイドラインに基づく主な条件は次のとおりです。
- 下部農地の単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比べておおむね2割以上減少しないこと。つまり地域平均のおおむね8割以上を維持します。
- パネル下の最低地上高をおおむね2m以上とし、農作業に必要な空間を確保すること。
- 毎年、翌年2月末日までに営農状況を報告すること。
収穫量の基準と毎年の報告義務は、この制度の根幹です。申請時だけ整えればよい条件ではなく、許可期間中ずっと満たし続ける必要があります。作物選びの段階から、パネル下の環境でも地域平均並みの単収を出せるかを基準に判断しましょう。
始め方の流れ
これから始める場合の標準的な流れは次のとおりです。
- 作物と営農計画を決める。パネルの下でも単収を維持できる作物を選び、誰がどう営農を続けるかを固めます。計画の実現性が許可審査の出発点になります。
- 農地の権利関係を整理する。自分の農地ならそのまま進められます。他人の農地を借りて営農する場合は、一時転用許可とは別に農地法3条の手続きで耕作の権利を取得します。借り受け先を探す段階なら農地バンクの仕組みも役立ちます。
- 設備を設計する。最低地上高おおむね2m以上を満たし、トラクターなどの農業機械が支障なく入れる支柱の配置にします。設計段階で営農側の要件を織り込むことが、後の手戻りを防ぎます。
- 農業委員会に事前相談し、一時転用許可を申請する。窓口は農地のある市町村の農業委員会です。営農計画と設備計画をセットで説明できるように準備します。
- 許可を受けて着工し、発電を開始する。売電するか自家消費するかに応じて、電力側の手続きも並行して進めます。
- 毎年の営農状況報告と再許可を続ける。翌年2月末日までの報告を欠かさず、許可期間の満了前に再許可の手続きを行います。
収入と費用の考え方
発電した電気の使い道は、電力会社などへ売る「売電」と、自分の農業用施設や住居で使う「自家消費」の二つです。売電なら発電量に応じた収入が入り、自家消費なら買う電気が減るぶん経費の削減になります。燃料や電気の価格が経営を圧迫しやすい施設園芸などでは、自家消費の効果が出やすい構図です。
費用の面では、支柱やパネルなどの設備の設置費用が初期投資として必要になり、運転中の保守費用、そして将来設備を撤去して農地に戻す費用まで含めて考えます。一時転用許可は期間に区切りがある仕組みなので、撤去までを織り込んだ資金計画が欠かせません。収入は日照条件や売電・自家消費の選択で変わるため、設備業者の見積もりと発電量の試算を取り、作物収入と合わせた経営全体の収支で判断しましょう。
営農収入と発電収入の二本立てという発想は、地域の資源をエネルギーに変えて経営と地域を強くするという点で、バイオマスの取組とも共通します。関心があればバイオマスの地産地消の記事もご覧ください。
デメリットと注意点
最大の注意点は、営農がおろそかになると発電設備の撤去まで求められることです。下部農地の営農に支障が生じた場合は、改善指導、撤去指導、勧告等の対象になり、農地法に基づく処分もあり得ます。発電収入だけを目当てに営農を形だけ続けるような計画は、制度上成り立ちません。
そのうえで、始める前に押さえたいデメリットを挙げます。
- 単収8割の基準を満たし続ける負担。パネルの下は日照が変わるため、作物によっては地域平均並みの単収を保つのが難しくなります。基準を下回れば指導の対象です。
- 毎年の報告と再許可の手続き。翌年2月末日までの営農状況報告が毎年あり、許可期間の満了ごとに再許可の手続きが必要です。事務負担を許可期間全体で見込みます。
- 初期投資と撤去費用。設備の設置には相応の費用がかかり、事業をやめるときは撤去して農地に戻す費用も発生します。回収の見通しが立たないまま始めるのは危険です。
- 営農の担い手が欠けたときのリスク。営農の継続が許可の前提なので、耕作する人がいなくなると設備だけ残すことはできません。長期の営農体制まで含めて計画します。
よくある質問
どこに申請すればよいですか
窓口は農地のある市町村の農業委員会です。営農計画と設備の設計を固めたうえで、申請前に事前相談へ行きましょう。地域の農地の状況に応じた助言を受けられます。
借りた農地でも始められますか
始められます。ただし、支柱部分の一時転用許可とは別に、耕作の権利を取得するための農地法3条の手続きが必要です。地主との契約だけで進めず、権利関係を先に整えます。
収穫量が減るとどうなりますか
下部農地の単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比べておおむね2割以上減少すると、許可の条件を満たさなくなります。営農に支障が生じた場合は改善指導から撤去指導、勧告等へ進み、農地法に基づく処分もあり得ます。
許可期間が終わったら設備を撤去するのですか
営農が適切に続いていれば、期間満了後に再許可を受けて事業を続けられます。撤去が必要になるのは、再許可を受けない場合や、営農の支障が改善されない場合です。
次の一歩
まず、パネルの下でも単収を維持できる作物を決め、営農計画の骨子をつくりましょう。次に、農地のある市町村の農業委員会へ事前相談に行き、一時転用許可の見通しと必要な準備を固めます。設備業者からは、最低地上高おおむね2m以上と農業機械の作業性を満たす設計で、設置費用と発電量の試算を取りましょう。農地を借りて規模を確保したい場合は農地バンクの仕組みが参考になります。制度の詳細は、記事末尾の農林水産省の一次資料をご覧ください。
キーワード解説
一時転用許可
農地を一時的に農地以外の用途に使うことを認める、農地法に基づく許可です。営農型太陽光発電では支柱の部分だけが対象になり、許可期間は通常3年以内、担い手の営農などの場合は10年以内です。期間満了後の再許可もできます。
担い手
地域の農業経営の中心となる農業者・農業法人を指します。担い手が下部農地で営農する営農型太陽光発電は、一時転用の許可期間が10年以内になります。
荒廃農地
耕作されずに荒れ、そのままでは耕作に使えなくなった農地です。荒廃農地を再生して営農型太陽光発電に活用する場合は、許可期間が10年以内になります。
農地法3条
農地の売買や貸し借りといった権利の移動に必要な許可を定めた規定です。借りた農地で営農型太陽光発電を行う場合は、支柱部分の一時転用許可とは別にこの手続きが必要です。