ほうれんそうは種まきから30日ほどで穫れる回転の速い葉物で、露地でも雨よけでもハウスでも作れます。作型の選択肢が多いぶん、10アール当たりの農業所得は185千円から876千円まで開きます。この記事では、作型ごとの所得・労働時間・単価、年250万円を稼ぐのに要る面積、露地とハウスのどちらから入るかの判断材料を、群馬県・埼玉県・長野県の経営指標で整理します。金額はいずれも各県・各年度の試算で、産地や販路が変われば動きます。
| 対象となる方 | ほうれんそうで新規就農を考えている方、水稲や露地野菜にほうれんそうを足したい方 |
|---|---|
| 10アールの所得 | 露地の秋冬どり185千円、雨よけ473千円、ハウス周年876千円(群馬県・令和7年3月の指標) |
| 10アールの時間 | 露地の秋冬どり275時間、ハウス周年482時間。埼玉県の指標では222時間 |
| 必要な面積 | 231アール(年間所得250万円を露地で作る場合・埼玉県の指標) |
| 時間当たりの所得 | 755円(家族労働1時間当たり・埼玉県の指標)。同じ表の白ねぎ674円、たまねぎ4,202円 |
| 露地の関門 | 単価が単位当たり生産費を下回る。秋冬どりは481円に対し670円 |
| 詳しくは | 各県の経営指標と農林水産省「野菜をめぐる情勢」で最新の数値を確認できます |
作型で所得が4.7倍変わります
群馬県の農業経営指標一覧には、ほうれんそうが4つの作型で載っています。10アール当たりの農業所得は、いちばん低い露地の秋冬どりが185千円、いちばん高いハウスの周年が876千円です。
| 作型 | 収量 | 農業所得 | 労働時間 |
|---|---|---|---|
| ハウス・周年 | 5,000キログラム | 876千円 | 482時間 |
| 雨よけ・中山間 | 4,500キログラム | 473千円 | 817時間 |
| 露地・中山間 | 1,800キログラム | 226千円 | 489時間 |
| 露地・秋冬どり | 1,200キログラム | 185千円 | 275時間 |
群馬県「農業経営指標一覧(単位当たり)」令和7年3月・10アール当たり。所得率はハウス周年34.8%、雨よけ中山間17.3%、露地中山間27.5%、露地秋冬どり32.1%
差を作っているのは収量です。露地の秋冬どりは10アール1,200キログラム、ハウスの周年は5,000キログラムで4.2倍あります。ほうれんそうは1作の期間が短いため、ハウスなら年に何回も回せます。露地で年1作か2作しか穫れないところを、被覆と加温で回転数ごと増やすのが、この品目の所得の作り方です。
労働時間も同じ方向には動きません。雨よけの中山間は817時間と4作型でいちばん長いのに、所得率は17.3%と最も低く出ています。中山間の圃場条件が作業時間を押し上げる一方、単価609円で収量4,500キログラムまで届くため、所得の額そのものは露地の2倍以上になります。
露地は単価が生産費を下回ります
同じ表には、1キログラム当たりの単価と単位当たり生産費が並んでいます。この2つを見比べると、露地の位置がわかります。
| 作型 | 単価 | 単位当たり生産費 | 差 |
|---|---|---|---|
| ハウス・周年 | 504円 | 369円 | +135円 |
| 雨よけ・中山間 | 609円 | 584円 | +25円 |
| 露地・中山間 | 456円 | 610円 | ▲154円 |
| 露地・秋冬どり | 481円 | 670円 | ▲189円 |
同上。生産費の算定方法は資料に明記されていないため、所得欄とは別の計算です
露地の2作型は、売値が生産費に届いていません。同じ表で所得率がプラスに出ているので、県の所得計算と生産費計算は基礎が違います。ただ読者にとって意味があるのは、露地のほうれんそうが1キログラム500円前後の相場では余裕のない品目だという点です。露地から入るなら、種苗・肥料・出荷資材・調製の手間を自分の圃場の実額で積み上げて、この差を埋められるかを先に確かめてください。
250万円を稼ぐには露地で231アール
埼玉県が農林水産省の統計から作った表では、年間所得250万円を新規就農者の目標に置いて、品目ごとに要る面積を出しています。ほうれんそうは231アールです。
| 作物 | 10アールの農業所得 | 家族労働1時間当たり | 要る面積 |
|---|---|---|---|
| 大玉トマト(施設) | 721,000円 | 883円 | 35アール |
| たまねぎ | 287,000円 | 4,202円 | 87アール |
| 白ねぎ | 186,000円 | 674円 | 134アール |
| ほうれんそう | 108,000円 | 755円 | 231アール |
| キャベツ | 87,000円 | 1,196円 | 287アール |
埼玉県「農産物の収益性」。原データは農林水産省「令和4年営農類型別経営統計」「令和4年農産物生産費」
231アールを露地でこなすと、10アール222時間の作業が23.1倍かかります。年5,128時間です。1人が年2,000時間働くとして2.6人分にあたり、家族2人では手が足りません。露地のほうれんそうだけで生計を立てる設計は、この時点で現実的でなくなります。
同じ表のたまねぎは、10アール所得がほうれんそうの2.7倍あるうえに労働時間が75時間しかないため、87アールで足ります。面積で稼ぐ品目としてほうれんそうを見るなら、たまねぎ農家の始め方と並べると、時間当たりの効率がどれだけ効くかがわかります。家族労働1時間当たりで見ると、ほうれんそう755円はねぎ農家の始め方で扱う白ねぎの674円と近く、露地の葉物はどちらも時間を積んで稼ぐ構造です。
雨よけを入れると収量が3.75倍になります
露地の限界を越える最初の手が雨よけです。群馬県の指標では、露地の秋冬どり1,200キログラムに対して雨よけの中山間は4,500キログラムで、10アール当たりの所得は185千円から473千円に変わります。単価も481円から609円へ上がります。雨に当てないことで葉が傷まず、規格に乗る割合が変わるためです。
長野県の作目別経営指標一覧表でも、雨よけのほうれんそうは10アール当たり収量1,380キログラム、単価601円、粗収益829,380円です。経営費523,228円を引いた農業所得は306,152円、所得率36.9%、労働時間267.9時間となっています。群馬の雨よけとは収量の前提が違いますが、単価が600円台に乗る点は共通しています。
雨よけハウスは、鉄骨のハウスに比べれば安く上がります。ただし資材費と設置費が10アール単位でかかるため、露地で数十アールを回して販路と作業のリズムを作ってから、面積を絞って雨よけに切り替える順序が現実的です。初期の運転資金は新規就農者育成総合対策の経営開始資金で月13.75万円まで受けられます。
よくある質問
ほうれんそうは何アールから食べていけますか
露地だけで年間250万円の農業所得を作るには231アールが必要です(埼玉県の指標)。ただしその面積を露地でこなすと年5,128時間の作業になり、家族2人では回りません。現実的には、雨よけやハウスで10アール当たりの所得を上げて必要面積を下げるか、他品目と組み合わせる形になります。
露地とハウスはどちらから始めるべきですか
労働時間がいちばん軽いのは露地の秋冬どりで、10アール275時間です。所得は185千円と低いものの、設備費をかけずに作型と販路を覚えられます。所得を優先するならハウスの周年で876千円ですが、労働時間は482時間に増え、ハウスの建設費が先に要ります。
ほうれんそうの単価はどれくらいですか
群馬県の指標では1キログラム当たり456円から609円です。作型で幅があり、露地の中山間が456円、露地の秋冬どりが481円、ハウスの周年が504円、雨よけの中山間が609円となっています。雨に当てない作型ほど単価が高く出ています。
ちぢみほうれんそうは有利ですか
群馬県の指標では、ちぢみほうれんそうの露地・冬どりは10アール当たり収量1,100キログラム、所得171千円、所得率34.7%、労働時間378時間です。単価は446円で、単位当たり生産費807円を大きく下回っています。所得率は普通のほうれんそうと同水準ですが、労働時間は露地の秋冬どりより100時間ほど長くなります。
キーワード解説
雨よけ栽培
屋根だけを張って側面を開けたハウスで作る方式です。雨で葉が傷むのを防ぎ、病害を減らして規格に乗る割合を上げます。加温はしないため、鉄骨の加温ハウスより設備費が安く済みます。
所得率
粗収益に対する農業所得の割合です。農業所得は粗収益から経営費を引いた額で、家族の労働に対する報酬はここから取ります。所得率が高くても面積が小さければ、手元に残る額は小さくなります。
単位当たり生産費
生産物1キログラムを作るのにかかった費用です。経営費だけを引く農業所得の計算とは範囲が違うため、単価が生産費を下回っていても所得がプラスで出ることがあります。算定範囲は資料ごとに確認してください。