トマトは施設野菜の主力品目で、就農相談でも希望が集まります。ただし同じトマトでも、雨よけの夏秋どりと加温する半促成、大玉とミニトマトで、必要な設備も残る所得も労働時間も変わります。これから施設園芸で就農する方、露地から施設に踏み出す農家に向けて、公的な経営指標の数字で作型ごとの採算を並べ、初期投資と使える資金をまとめます。

誰が施設園芸で就農する49歳以下の方、露地野菜から施設トマトへ切り替える農家・農業法人
10アールの所得雨よけ夏秋46万〜80万円、半促成・加温54万円、ミニトマト93万〜95万円
目標規模農業所得250万円台ならトマト48アール、または20アール+他品目の組み合わせ
初期投資48アール規模で3,100万円、20アール+ホウレンソウ20アールで2,500万円の試算
使える資金就農準備資金・経営開始資金は月13.75万円。機械・施設は補助対象事業費の上限1,000万円
詳しくは下の作型別の表で、時間当たり農業所得まで見て作型を決める

10アール当たりでどれだけ残るか

県が公表している経営指標で、トマトの採算を作型別に見ます。次の数字は長野県の作目別経営指標(令和4年)で、10アール当たりの試算です。

作型収量粗収益農業所得
トマト(雨よけ)11,000kg357.5万円80.4万円(所得率22.5%)
トマト(半促成・加温)13,000kg422.5万円53.7万円(所得率12.7%)
ミニトマト(雨よけ)6,000kg360.0万円95.1万円(所得率26.4%)

経営費は雨よけが277.1万円、半促成・加温が368.8万円、ミニトマトが264.9万円です。加温して収量を2割近く伸ばしても、手元に残る額は雨よけより少なくなります。燃料と資材、施設の減価償却が経営費を押し上げるためです。単価は大玉が1キログラム325円、ミニトマトが600円で試算されており、ミニトマトは収量が半分でも粗収益がほぼ並びます。

鳥取県の経営試算(農業経営指導の手引き 平成30年度版)では、雨よけ夏秋トマトが10アール当たり収量10,500キログラム・粗収益315.0万円・経営費268.7万円・農業所得46.3万円、ミニトマト(抑制)が3,980キログラム・粗収益293.7万円・農業所得93.4万円です。県ごとに前提となる技術水準や資材価格が違うため、金額は幅として読んでください。

時間当たりで見ると作型の順位が変わります

所得の額だけで作型を決めると、労働時間の差を見落とします。長野県の指標が示す労働時間と1時間当たり農業所得は次のとおりです。

作型労働時間(10アール)1時間当たり農業所得
トマト(雨よけ)470時間1,710円
ミニトマト(雨よけ)986時間965円
トマト(半促成・加温)708時間758円

ミニトマトは10アールの所得が最も大きい一方、収穫と調製に時間がかかり、時間当たりでは大玉の雨よけに届きません。家族2人で回すのか、パートを雇うのかで、選ぶ作型は変わります。鳥取県の試算では雨よけ夏秋トマトの労働時間を893時間、ミニトマト(抑制)を1,303時間と置いており、栽培方法によって幅があります。

生計が成り立つ規模と初期投資

鳥取県は、新たに農業経営を始める青年等が目標とすべき経営モデルを、想定初期投資つきで示しています。トマトを含む主な類型は次のとおりです。

経営類型規模農業所得想定初期投資
トマト(雨除け夏秋)48アール254万円(所得率17%)3,100万円
トマト+ホウレンソウトマト20アール、ホウレンソウ20アール256万円(所得率28%)2,500万円
イチゴ(高設)21アール264万円(所得率29%)2,700万円

単作で所得250万円台を目指すと、規模は40アールから60アールになり、初期投資は3,000万円台に届きます。トマト20アールに所得率の高い葉物を組み合わせる形にすると、同じ所得で初期投資を2,500万円に抑える形も示されています。就農1年目からこの規模を借入で用意するのか、ハウスを段階的に増やすのかは、資金計画の分かれ目です。

初期費用の中心はハウスです

初期投資の内訳で最も大きいのはハウスです。骨材と被覆資材のほか、雨よけでも潅水設備と防虫ネット、加温するならボイラーやヒートポンプ、環境制御機器が加わります。台風や大雪に耐える仕様にすると単価は上がるかわりに、被害で1年分の収入を失う確率が下がります。耐候性ハウスの価格と補助で、仕様ごとの費用の目安を確かめてください。

中古ハウスの譲り受けや、産地でリース方式が用意されている場合は、初期投資が下がります。農地とハウスの確保は市町村と農業委員会、農地バンクの窓口が入口です。産地によっては新規就農者向けにハウス付きの農地を斡旋する仕組みがあります。

使える資金と補助

就農前後の生活費と、機械・施設の投資には別の制度があてられます。

制度金額期間・条件
就農準備資金月13.75万円(年最大165万円)研修期間中、最長2年。49歳以下
経営開始資金月13.75万円(年最大165万円)就農後、最長3年。49歳以下
経営発展支援事業補助対象事業費の上限1,000万円機械・施設等。経営開始資金と併用する場合は上限500万円

返還不要の資金が中心ですが、交付には市町村の認定新規就農者になることや、青年等就農計画の認定が前提になります。要件と申請先の詳細は就農準備資金・経営開始資金で扱っています。設備の残りは日本政策金融公庫の青年等就農資金やスーパーL資金で組むのが一般的な形です。

就農までの流れ

  1. 作型と品目を決めます。雨よけ夏秋か加温か、大玉かミニトマトかで、必要なハウス仕様と資金額が変わります。
  2. 研修先を探します。就農予定地の産地で研修すると、栽培技術と同時に農地・ハウスの情報が入ります。就農準備資金は研修中の生活費にあてられます。
  3. 市町村へ青年等就農計画を提出し、認定新規就農者になります。ここが経営開始資金と経営発展支援事業の入口です。
  4. 農地とハウスを確定し、見積もりをそろえて資金計画を作ります。補助の申請は事業実施前が原則です。
  5. 販路を決めます。JAの共販に乗るのか、直売や産直ECを組み合わせるのかで、選果や箱詰めにかかる手間と単価が変わります。

よくある質問

未経験からトマトで就農して何年目から所得が出ますか

県の指標は技術が身についた段階の試算です。1年目は反収が指標を下回ることが多く、経営開始資金(月13.75万円・最長3年)が想定しているのも、この立ち上がりの期間です。目標反収に届くまでの2年から3年は、資金と生活費を別に見ておきましょう。

大玉とミニトマトはどちらが有利ですか

10アール当たりの所得はミニトマトが大きく、長野県の指標では95.1万円で大玉の雨よけ80.4万円を上回ります。ただし労働時間は986時間で大玉の470時間の2倍を超え、1時間当たりでは大玉が1,710円、ミニトマトが965円です。使える労働力から選んでください。

加温設備は初めから入れるべきですか

加温する半促成は収量が伸びる一方、長野県の指標では所得率が12.7%まで下がります。燃料価格の影響を受けやすい作型です。初年度は雨よけで技術と販路を固め、省エネ設備の補助を使える段階で加温へ広げる進め方もあります。

初期投資3,000万円を全額借りる必要がありますか

機械・施設には補助対象事業費の上限1,000万円の経営発展支援事業があり、産地でハウスのリースが用意されている場合もあります。自己資金と補助、無利子の青年等就農資金を組み合わせて、借入額を圧縮するのが基本です。

キーワード解説

雨よけ栽培

ハウスの屋根だけを被覆し、側面を開けて栽培する方法です。加温しないため燃料費がかからず、露地より病害を抑えられます。夏秋どりの主力です。

半促成

冬から春にかけて加温しながら育て、収穫期を早める作型です。単価の高い時期に出荷できる一方、暖房費と施設費がかかります。

所得率

粗収益に対する農業所得の割合です。同じ売上でも経営費が重い作型では低くなり、投資と燃料の負担を見る目安になります。

反収

10アール当たりの収量です。トマトの採算は反収と単価で決まり、県の指標は目標とする反収を前提に組まれています。

いま確認しておきたいこと

来春の就農を考えるなら、秋のうちに研修先と就農予定地の産地を絞ります。市町村の認定を受ける青年等就農計画には、作型と規模、資金計画を書き込みます。この記事の作型別の数字を自分の想定規模に掛けて、所得と労働時間の見通しを作っておくと、相談が具体的に進みます。

数字はいずれも県が示す試算で、農地の条件や技術の習熟度で変わります。就農予定地の県が公表している経営指標と、産地の実際の反収を、普及指導センターやJAの営農指導員に確かめてください。いちご農家の始め方と並べて比べると、施設投資と労働時間の重さの違いが見えます。