ねぎは露地で作れます。育苗用のハウスは要りますが、施設園芸のような設備投資はいりません。県の経営指標を見ると10アール当たりの農業所得は35万円台から37万円台で、キャベツやはくさいの3倍近くあります。ただし労働時間は10アールで300時間から500時間を超え、そのほとんどが収穫と調製に集中します。この記事では、10アール当たりの所得と労働時間、生計が成り立つ規模と初期投資、10アール1作型では採算が合わない理由、そして規模を広げるときに何から手を付けるかを、県の経営指標と研究成果の数字で整理します。金額は各県・各年度の指標で、条件が違えば変わります。
| 対象となる方 | ねぎで新規就農を考えている方、水稲や他の露地野菜にねぎを組み合わせて所得を増やしたい方 |
|---|---|
| 10アールの所得 | 373,958円(長野県・令和4年度の指標)、353,372円(鳥取県・白ねぎ秋冬)。所得率37.2%・32% |
| 10アールの労働時間 | 295.5時間(長野県)、522時間(鳥取県)。1時間当たり農業所得は長野県で1,266円 |
| 目標所得に届く規模 | 白ねぎ周年90アール(夏20・秋冬40・春30)で農業所得3,003千円 |
| 想定初期投資 | 1,100万円(同じ規模)。トマト48アールの3,100万円、イチゴ21アールの2,700万円より小さい |
| 最初に効く一手 | 機械より臨時雇用の導入。拡大面積当たりの所得向上効果が最も大きい |
10アール当たりでどれだけ残るか
長野県の作目別経営指標一覧表では、ねぎの10アール当たりは収量3,000キログラム、単価1キログラム335円で粗収益1,005,000円です。ここから経営費631,042円を引いた農業所得は373,958円、所得率は37.2%になります。鳥取県の白ねぎ(秋冬・県下全域)も収量は同じ3,000キログラムで、粗収益1,107,000円から経営費753,628円を引いた所得が353,372円、所得率32%です。県と年度が違う指標ですが、10アールで35万円前後という水準は重なります。
同じ長野県の表で他の露地野菜と並べると、ねぎの位置がはっきりします。
| 作目 | 10アールの農業所得 | 所得率 | 労働時間 |
|---|---|---|---|
| ねぎ | 373,958円 | 37.2% | 295.5時間 |
| ほうれんそう(雨よけ) | 306,152円 | 36.9% | 267.9時間 |
| キャベツ | 128,487円 | 22.9% | 80.7時間 |
| はくさい | 118,228円 | 16.4% | 100.6時間 |
| レタス | 108,748円 | 18.7% | 103.1時間 |
面積当たりで見ればねぎはキャベツの2.9倍、はくさいの3.2倍を残します。露地で単価の高い品目を選びたいなら、有力な候補になります。
労働時間で見ると順位が入れ替わります
上の表の右端を見ると、ねぎの295.5時間はキャベツの80.7時間の3.7倍です。1時間当たりの農業所得に直すと、ねぎ1,266円に対してキャベツ1,592円、はくさい1,274円、レタス1,176円となり、面積当たりで3倍あった差が消えます。鳥取県の指標では白ねぎの労働時間は10アールで522時間と、さらに重くなります。
時間がかかるのは収穫と調製です。香川県の葉ねぎ(春夏作)では、10アールの所要労働時間283時間のうち収穫が72時間、調製が139.5時間で、この2つで全体の75%を占めます。皮をむいて根を切り、規格をそろえて結束する作業が、ねぎの労働時間の中身です。ここを人手でこなす前提のままでは、面積を広げても時間が足りなくなります。
生計が成り立つ規模と初期投資
鳥取県は、新たに農業経営を営もうとする青年等が目標とすべき農業経営の基本的指標として、13の経営類型ごとに規模と想定初期投資を示しています。所得は2,419千円から3,003千円の幅で、白ねぎはその上限に近い位置です。夏ねぎ20アール、秋冬ねぎ40アール、春ねぎ30アールの周年で計90アール、粗収益9,464千円、経営費6,461千円、農業所得3,003千円、所得率32%、想定初期投資は11,000千円です。所得は一定の条件下の試算で、想定初期投資は施設・農機を新たに整備する前提の金額です。中古やリースでそろえれば変わります。
同じ表の他の類型と比べると、露地のねぎの資金面での軽さが見えます。
| 経営類型 | 規模 | 農業所得 | 想定初期投資 |
|---|---|---|---|
| 白ねぎ(砂丘畑・周年) | 90アール | 3,003千円 | 11,000千円 |
| アスパラガス(露地)+白ねぎ | アスパラ30・白ねぎ(水田・秋冬どり)50アール | 2,556千円 | 8,000千円 |
| トマト(雨除け夏秋) | 48アール | 2,543千円 | 31,000千円 |
| イチゴ(高設) | 21アール | 2,638千円 | 27,000千円 |
| ホウレンソウ(ハウス・周年) | 42アール | 2,608千円 | 32,000千円 |
同じくらいの所得に届く経営でも、ハウスを建てるトマト48アールは3,100万円、イチゴ21アールは2,700万円、ホウレンソウ42アールは3,200万円かかります。露地のねぎは1,100万円で、3分の1程度から始められます。アスパラガスと白ねぎを組み合わせる類型は800万円と、さらに小さくなります。
規模をさらに広げた経営の姿も同じ資料に載っています。鳥取県の砂丘畑で白ねぎを春40アール・夏25アール・秋冬35アールと緑肥50アールで回す個別経営体は、粗収益12,302千円、経営費8,059千円、農業所得4,243千円で所得率34%です。水稲15ヘクタールに秋冬の白ねぎ1ヘクタールを組み合わせる経営では、農業所得は5,652千円です。これは水稲を含む経営全体の額です。
10アール1作型では償却を回収できません
香川県の小規模モデル②「葉ネギ」10アールは、粗収益574,053円に対して経営費789,874円で、所得が▲215,820円になります。周年栽培体系のうち春夏作(6月から9月穫り)の部分だけを切り出したモデルで、1年分の償却費をこの期間の売上で負担する形になっているためです。秋冬作の売上はこの表に入っておらず、1枚では通年の採算を判断できません。
経営費の内訳に理由があります。装備は育苗ハウス25万円、トラクター123万2千円、管理機25万円、動力噴霧機29万円、軽トラック80万円、予冷庫75万円、ねぎ洗浄機80万円で、新調価格の合計は437万2千円です。このモデルの経営は葉ねぎ10アールにナバナ10アール、ブロッコリー20アールを組み合わせており、トラクターや軽トラックは40アール分で按分して4分の1だけを葉ねぎが負担します。全額を負担するのは育苗ハウス・予冷庫・ねぎ洗浄機の3点で、本作目の負担価格は244万3千円、年償却額は359,714円です。粗収益57万円台に対して償却だけで36万円近くを負担する構図です。
ねぎ洗浄機と予冷庫は10アールでも1台ずつ必要になる設備で、面積を広げても台数は増えません。裏を返せば、この2つを入れた時点で面積を広げるほど1アール当たりの負担は軽くなります。10アールで採算が合わないのは品目の問題ではなく、装備に対して面積が足りないという問題です。出荷経費も軽くありません。同じモデルでは市場とJAの販売手数料が68,886円で粗収益の12%、京阪神向けの運賃が37,800円で、合わせると粗収益の18%を超えます。
規模を広げる進め方
千葉県が九十九里地域で策定した経営モデルは、ねぎ68アールと水稲424アールを専従者2名で作る経営を出発点に、改善策を1つずつ足しながら面積を広げた結果を示しています。出発点の農業所得はねぎと水稲を合わせて4,850千円、専従者1人当たり2,425千円です。以下の農業所得はいずれも水稲を含む経営全体の額です。ねぎの単価と米価はどちらも平成21年から25年の平均を用い、線形計画法で試算したものです。
- 育苗と定植を委託します。ねぎは72アールへ、水稲は省力化した分だけ465アールへ広がり、農業所得は5,234千円になります。
- 半自動調製機械(ベストロボ)を導入します。ねぎは93アール、水稲は435アールへ減り、農業所得は5,841千円です。
- 臨時雇用を入れます。秋冬・春ねぎの収穫と調製がある1月から3月、水稲の移植がある4月から5月、夏ねぎの収穫と調製がある6月を中心に、延べ1,920時間です。ねぎは140アール、水稲は653アールへ大きく広がり、農業所得は8,325千円になります。
- 自走式収穫機(ソフィー)を導入します。ねぎは197アール、水稲は578アールへ減り、農業所得は9,930千円です。
- 共同調製施設へのコンテナ出荷などで調製・出荷作業を委託します。ねぎは278アールへ広がりますが、水稲は352アールへ半減し、農業所得は10,409千円、増加は478千円(4.8%)にとどまります。
この順番で効いているのは3番目の臨時雇用です。拡大できる面積当たりの所得向上効果が他の対策より大きく、農業所得も5,841千円から8,325千円へ最も伸びます。自走式収穫機については、育苗・定植の委託と調製機械、臨時雇用が導入されていない第2段階までの段階では所得向上効果が小さい、と報告されています。第5段階で所得の伸びが小さいことについては、出荷量の確保によるブランド化などでさらに所得を増やせる余地があるとされています。
広げるときの注意も添えられています。耕作する畑が飛び地になると病害虫の管理が行き届かず、ねぎの単収が落ちる恐れがあります。作業効率を考えて圃場を選ぶ必要があります。
使える資金と補助
1,100万円の初期投資を自己資金だけでそろえる必要はありません。就農時に使える資金には、研修中の生活費を支える就農準備資金、経営を始めた直後を支える経営開始資金、機械・施設の導入を後押しする経営発展支援事業があります。年齢や研修先の要件、交付を受けたあとの就農継続の条件がそれぞれ決まっているため、金額と要件は新規就農で使える資金の記事で確認してください。市町村の地域計画に位置づけられているかどうかで使える制度が変わることもあります。
よくある質問
ねぎは10アールからでも始められますか
試作や自家用としては始められます。ただし、ねぎ洗浄機や予冷庫をそろえて10アールの1作型に負担させると、香川県のモデルでは所得が▲215,820円になります。この表には秋冬作の売上が入っていないため通年の採算そのものではありませんが、設備の償却を回収するには面積が必要だという関係は変わりません。香川県のモデルも葉ねぎ10アールにナバナとブロッコリーを組み合わせた経営です。生計を立てる規模としては、鳥取県の指標が示す周年90アールで農業所得3,003千円が目安になります。
白ねぎと葉ねぎでは経営が違いますか
数字の水準が別です。鳥取県の白ねぎ(秋冬)は10アールで収量3,000キログラム・粗収益1,107,000円・所得353,372円・労働時間522時間です。香川県の葉ねぎ(春夏作)は10アールで販売量1,350キログラム・平均単価1キログラム425円・粗収益574,053円・所要労働時間283時間で、収穫と調製が全体の75%を占めます。産地の作型と出荷先に合わせて選ぶことになります。
収穫機を先に買えば人を雇わずに広げられますか
千葉県のモデルでは、育苗・定植の委託と調製機械、臨時雇用がそろっていない段階では、自走式収穫機を入れても所得の向上効果は小さいという結果でした。収穫機が空けるのは収穫の時間だけで、その後の調製と出荷の人手が足りなければ面積は増えません。順番としては委託と調製機械、次に雇用、そのあとに収穫機です。
ねぎだけで専業になれますか
周年で90アールを作れば農業所得3,003千円という試算が示されています。ただし収穫と調製に労働が集中するため、家族だけでこの面積をこなすのは簡単ではありません。鳥取県の個別経営体では白ねぎ100アールに緑肥50アールを組み合わせて所得4,243千円、千葉県のモデルでは水稲と組み合わせています。ねぎを軸に、時期の重ならない作目や水稲と組むのが現実的です。