さつまいもは焼きいも需要で青果用が伸び、輸出額も令和7年に45億円と目標を上回りました。その裏で、植え付けと収穫はいまも手作業が多く、作付面積は減り続けています。この記事では、県の経営指標をもとに、2.9ヘクタール規模で残る金額、10アール当たりの労働時間、単価を上げるのに貯蔵が要る理由、人を雇ったときに所得率がどう動くか、品種で売り先がどう変わるかを整理します。金額は各県・各年度の指標で、条件が変われば動きます。

対象となる方さつまいもで新規就農を考えている方、畑作にさつまいもを足して所得を増やしたい方
2.9ヘクタール農業所得752万円、労働時間3,799時間、所得率42%(千葉県・家族2.5人の指標)
10アールの時間131時間。露地野菜作経営の平均243時間の半分
収量と単価2,800キログラム/10アール、1キログラム220円(同指標)。全国の令和7年産の単収は2,230キログラム
単価を上げる形貯蔵して出荷時期をずらす。茨城県の指標は5ヘクタール中4ヘクタール分を貯蔵、施設は外部委託
必要な機械育苗ハウス、トラクター、マルチャー、収穫機、洗浄機、フォークリフト、作業舎
詳しくは各県の経営指標と農林水産省「かんしょをめぐる状況について」で最新の数値を確認できます

2.9ヘクタールで農業所得752万円

千葉県の農業経営基盤の強化の促進に関する基本方針は、露地野菜専作(さつまいも)の家族経営を次の姿で示しています。畑2.9ヘクタール(自作地1.5ヘクタール、借入地1.4ヘクタール)、家族2.5人のうち主たる従事者1人。生産量は81,200キログラムで10アール当たり2,800キログラム、単価は1キログラム220円です。農業粗収益1,786万円から経営費1,034万円を引いた農業所得は752万円、所得率42%になります。借入地の地代は10アール当たり15,000円です。

所得率42%は露地野菜のなかでは高い水準です。同じ千葉県の指標で、ねぎ専作1.4ヘクタールの秋冬ねぎは所得率51%ですが、10アール当たりの労働時間は436時間かかります。さつまいもは131時間で、時間当たりで見たときの差はここで詰まります。

10アール131時間は露地野菜では軽い方です

令和6年営農類型別経営統計の露地野菜作経営は、10アール当たりの労働時間が243時間、農業所得が156千円です。さつまいもの131時間はその半分で、1人が持てる面積を広く取れます。千葉県の指標が2.9ヘクタール、茨城県の指標が5ヘクタールと、いずれもヘクタール単位で組まれているのはこのためです。

ただし、時間が短いことと楽であることは別です。さつまいもは、つるを土に差し込む植付方法や、収穫時に傷を付けると貯蔵中に腐敗するといった扱いの難しさがあり、いまも手作業が多く残ります。作付面積が令和7年産で3万1,300ヘクタール(前年比2%減)と減り続け、需要を満たせない状態が続いているのも、この重労働が背景にあります。

単価は畑ではなく貯蔵で作ります

茨城県が令和8年3月に変更した基本方針は、カンショの営農類型をこう組んでいます。普通畑500アール、作付500アールのうち400アール分を貯蔵。狙いは「貯蔵カンショの導入による単価向上」と「周年、計画出荷」で、施設費用を抑えるため貯蔵そのものは外部委託とします。労働力は基幹的従事者1人、補助的従事者1人、臨時雇用0.5人。装備は育苗ハウス150坪、トラクター50馬力、マルチャー、収穫機、カンショ洗浄機、フォークリフト、作業舎です。この類型が目標に置く農業所得は、主たる従事者1人当たり580万円以上、年間総労働時間2,000時間以内です。

貯蔵を可能にするのがキュアリング処理です。収穫したいもを温度30度から33度、湿度90%から95%の環境に4日間程度置くと、傷口にコルク層ができて腐敗菌の侵入を防ぎ、水分の蒸散も抑えられます。この処理を適切に行って、普通掘りのいもを周年出荷する産地が増えています。収穫が10月から11月に集中する品目で、出荷を年間に散らせるかどうかが単価を分けます。

貯蔵庫や洗浄・選別施設を自前で持つ場合は、産地の共同利用施設への補助が使えることがあります。予冷庫・貯蔵庫にどの事業が乗るかは予冷庫の補助金と価格にまとめています。

人を雇うと所得率は42%から33%へ

同じ千葉県の指標には、法人経営の大規模モデルもあります。畑13ヘクタール(借入地11.5ヘクタール)で、さつまいも1,100アール、じゃがいも200アール、秋冬にんじん150アール。家族3人に常時雇用4人と臨時雇用2人を加え、農業所得は2,332万円です。

項目家族経営2.9ヘクタール法人13ヘクタール
さつまいもの単価220円/キログラム200円/キログラム
10アール当たり収量2,800キログラム2,700キログラム
所得率42%33%(経営全体31%)
10アール当たり労働時間131時間111時間
雇用なし常時4人(1時間1,500円)、臨時2人(1時間1,100円)
貯蔵・選別専用貯蔵庫、いも洗い機専用貯蔵庫3棟、さつまいも洗い機、重量選別機

面積を4倍に広げても、10アール当たりの手取りの率は下がります。雇用労賃が乗り、単価も20円低いためです。それでも経営としての農業所得は3倍になり、主たる従事者3人分の所得を確保できます。規模を追うか、家族で回せる範囲に収めて所得率を守るか。さつまいもはこの分岐がはっきり出る品目です。

植え付けと収穫は、いまも手作業が中心です

かんしょの現行体系と省力機械化体系を作業ごとに比べた表と、でん粉原料用かんしょの労働時間の推移
かんしょの現行体系と省力機械化体系の比較。出典:農林水産省「かんしょをめぐる状況について」

現行の体系では、農家ごとに育苗と採苗を行い、植付は手作業、つる切りとマルチはぎも手作業か手押し型のつる処理機、収穫はディガーで掘り起こして手作業で拾います。これを共同育苗、挿苗機による植付、乗用型茎葉処理機とマルチはぎ機、ハーベスタによる収穫へ置き換えるのが省力機械化体系です。挿苗機は従来型を改良した半自動歩行型が令和5年5月から販売されています。

かんしょ用の機械は小型で個別利用が中心のため、小規模な経営では作業受託組織や共同利用組織に外部化する方法が現実的です。マルチの後始末も費用に効きます。茨城県の試験では、生分解性マルチに替えるとマルチはぎと運搬の5.2時間(1時間1,500円で7,750円)とマルチ処分費2,900円が要らなくなる一方、マルチ購入費が10アール当たり6,000円から22,000円に上がり、差し引き5,350円の経営費増と5.2時間の労働時間削減になりました。収穫期に他の作業と競合する経営なら、この5.2時間の価値は金額以上になります。

品種で売り先が変わります

青果用は、ホクホク系のベニアズマが関東を中心に、高系14号が関西と南九州を中心に作られてきましたが、近年は甘みが強くねっとり系のべにはるかやシルクスイートが増えています。加工用は芋けんぴなどに使うコガネセンガンの比率が高く、干しいも用にはべにはるかも使われます。新しい品種では、サツマイモ基腐病に強く良食味のべにひなた、収穫直後から甘く早期出荷ができるあまはづき、冷涼地でも収量がとれるゆきこまちなどが出ています。

品種は栽植本数にも効きます。茨城県のマニュアルでは畝幅90センチから100センチで、株間はベニアズマ25センチから30センチ(10アール当たり3,000本から3,700本)、べにはるか30センチから40センチ(2,400本から3,300本)、シルクスイート25センチ程度(3,700本)です。施肥は窒素3キログラム、りん酸10キログラム、加里10キログラム(10アール当たり・全量元肥)が基準で、窒素が多いとつるばかり伸びていもが太りません。前作が野菜だった肥沃な畑は避けるのが茨城県の指標の前提です。

用途を決めるときは、でん粉原料用との違いも押さえてください。でん粉原料用には青果用にはない交付金があり、単価の考え方が変わります。制度はでん粉原料用いもの交付金にまとめています。

植付から出荷までの流れ

普通掘りを前提にした作業の並びです。

  1. 育苗と採苗をします。10アール当たりの本圃用の苗はおよそ3,000本で、共同育苗に外部化する方法もあります。
  2. 土壌消毒と施肥をしてマルチを張ります。窒素は10アール当たり3キログラムを全量元肥で入れます。
  3. 4月から5月に苗を挿します。挿苗機を使えば手作業の植付を置き換えられます。
  4. つる切りとマルチはぎをします。乗用型茎葉処理機やマルチはぎ機、生分解性マルチで作業を減らせます。
  5. 10月から11月に収穫します。傷を付けると貯蔵中に腐るため、土が乾いているときに丁寧に掘ります。
  6. キュアリング処理をして貯蔵します。30度から33度、湿度90%から95%で4日間程度が目安です。
  7. 洗浄と選別をして出荷します。貯蔵した分を年間に振り分けると、単価を作れます。

早く出したい場合は、6月ごろに収穫する超早掘り、8月ごろの早掘りという作型もあります。

使える資金と補助

初期にまとまった金額がかかるのは、育苗ハウス、収穫機、洗浄機、そして貯蔵庫です。茨城県の指標のように貯蔵を外部委託にすれば、この一番重い部分を後回しにできます。就農時に使える資金の種類と金額は新規就農の資金と補助金にまとめています。千葉県・茨城県のどちらの指標も借入地が前提で、千葉県の家族経営モデルは2.9ヘクタールのうち1.4ヘクタールが借入地です。農地の確保は市町村と農業委員会に早めに相談してください。

よくある質問

さつまいもは何ヘクタールから経営として成り立ちますか

県の指標が示す姿は、千葉県の家族経営で畑2.9ヘクタール(農業所得752万円)、茨城県で5ヘクタール(主たる従事者1人当たり580万円以上が目標)です。10アール当たりの労働時間が131時間と軽いぶん、面積を確保できないと所得が積み上がりません。

貯蔵庫は最初から必要ですか

茨城県の指標は、施設費用を抑えるために貯蔵を外部委託する前提で組まれています。自前で持たなくても、貯蔵して出荷時期をずらす形は取れます。千葉県の家族経営モデルは専用貯蔵庫を持つ形で、こちらは単価220円と法人モデルの200円より高くなっています。

サツマイモ基腐病はいまも広がっていますか

宮崎県と鹿児島県では、病害抵抗性品種への切り替えと防除対策により被害が減っています。令和7年産の鹿児島県の10アール当たり収量は前年比3%増の2,370キログラムでした。全国の単収は2,230キログラムで、こちらは関東や南九州の高温乾燥でいもの肥大が抑えられ、前年比1%減となっています。

輸出は増えていますか

令和7年のかんしょ・かんしょ加工品の輸出額は45億円、輸出量は9,417トンで、令和7年までに28億円という目標を上回りました。主な輸出先はタイ、香港、シンガポール、台湾、マレーシアです。国は令和12年までに69億円を目指しています。ただし生産量全体に占める輸出の割合はまだ小さく、国内需要約74万トンの9割以上を国内生産が占める構造は変わっていません。