たまねぎは露地で作れて、機械も一通りそろっています。ただし10アール当たりの農業所得は9万円台で、露地野菜のなかでは低い部類です。それでも産地が成り立つのは、10アール当たりの労働時間が74時間と短く、1人で見られる面積が桁違いに広いからです。この記事では、10アール当たりの所得と労働時間、農業所得がプラスに変わる面積、そこまで広げるのに要る機械、産地ごとの組み合わせ方を、県の経営指標と国の統計の数字で整理します。金額は各県・各年度の試算で、条件が変われば動きます。

対象となる方たまねぎで新規就農を考えている方、水稲や畑作にたまねぎを足して所得を増やしたい方
10アールの所得92,259円(長野県・令和4年度の指標)。所得率20.5%
10アールの時間74時間(令和5年営農類型別経営統計・露地野菜作経営)。露地野菜の平均243時間の3割
黒字になる面積57アール(加工・業務用の試算・家族2人・資本装備を2ヘクタールまで固定)
2ヘクタール販売額6,400千円、経営費3,879千円、農業所得2,521千円(所得率39%)
必要な機械畝立てマルチャー、移植機、収穫機、ピッカー、剪葉機。トラクターと軽トラックは他品目と共用も可
詳しくは各県の経営指標と農林水産省「野菜をめぐる情勢」で最新の数値を確認できます

10アール当たりでは9万円しか残りません

長野県の作目別経営指標一覧表では、たまねぎの10アール当たりは収量5,000キログラム、単価1キログラム90円で粗収益450,000円です。経営費357,741円を引いた農業所得は92,259円、所得率は20.5%になります。同じ表の露地野菜と並べると、位置がはっきりします。

作目10アールの農業所得所得率労働時間
ねぎ373,958円37.2%295.5時間
キャベツ128,487円22.9%80.7時間
はくさい118,228円16.4%100.6時間
だいこん94,631円26.3%109.0時間
たまねぎ92,259円20.5%122.8時間

ねぎの4分の1、キャベツの7割です。全国の平均像で見ても近い水準で、令和6年営農類型別経営統計の露地野菜作経営は10アール当たり農業所得156千円、所得率20.2%です。施設野菜作経営の894千円とは6倍近い開きがあります。たまねぎを10アールや20アールで試しても、生計の足しにはなりません。

労働時間は露地野菜でいちばん短い部類です

作業別労働時間の棒グラフと、機械化一貫体系による省力化の比較表
露地野菜の10アール当たり労働時間と、機械化一貫体系を入れた場合の労働時間。出典:農林水産省「野菜をめぐる情勢」

令和5年営農類型別経営統計の露地野菜作経営で、10アール当たりの労働時間はたまねぎ74時間、だいこん66時間、キャベツ79時間、にんじん95時間、レタス127時間、ほうれんそう221時間です。米の21時間には及びませんが、野菜のなかでは短い側にいます。ねぎの295.5時間と比べると4分の1で、同じ人数なら4倍の面積を持てる計算になります。

たまねぎの所得の作り方は、ここから決まります。面積当たりの単価を上げるのではなく、1人が見る面積を広げて、薄い利益を積み上げる。10アール当たり9万円でも、2ヘクタールなら180万円の水準になります。

黒字になるのは57アールから

長崎県が加工・業務用たまねぎで行った経営試算が、この構造をそのまま数字にしています。中晩生種の露地マルチ栽培、11月から12月に定植して5月から6月に収穫、家族労働力2人という前提です。10アール当たりの変動費は145千円ですが、機械と施設の固定費985千円は2ヘクタールまで変わりません。販売数量8,000キログラム、単価1キログラム40円(販売経費を差し引いた後)で計算すると、規模ごとの収支はこうなります。

栽培面積販売額経営費農業所得
10アール320千円1,130千円▲810千円
50アール1,600千円1,709千円▲109千円
1ヘクタール3,200千円2,432千円768千円
1.5ヘクタール4,800千円3,156千円1,644千円
2ヘクタール6,400千円3,879千円2,521千円

農業所得がプラスに変わるのは57アールです。家族労働1時間当たりの農業所得は1ヘクタールで808円、1.5ヘクタールで1,154円、2ヘクタールで1,327円と上がり、1,000円を超えるのは約1.3ヘクタールからです。所得率が39%に届くのも2ヘクタールです。同じ機械で面積だけを増やすので、固定費985千円をどれだけの面積で割るかがそのまま採算になります。試算に使われた装備は、トラクター(18馬力)・管理機・ブームスプレーヤー、畝立てマルチャー、たまねぎ移植機(歩行4条)、たまねぎ収穫機(歩行型)、たまねぎピッカー(歩行型)、ねぎ類剪葉機、軽トラック、作業収納舎と農具舎です。移植機・収穫機・ピッカー・剪葉機は2経営体での共同所有、トラクターと軽トラックは他品目との共用を見込んでいます。

労働のピークは6月で、10アール当たり18時間です。5月収穫分の出荷と6月の収穫が重なるためですが、2ヘクタールでも家族2人の6月の労働時間は360時間で、限界労働時間412時間に52時間の余裕が残ります。2ヘクタールまでなら、収穫期に人を雇わずに回せる設計になっています。

機械化一貫体系で105時間が31時間に

面積を2ヘクタールより先へ伸ばすなら、機械の入れ替えで時間を落とします。慣行栽培の10アール当たり105時間に対し、機械化一貫体系を導入した例では31時間、7割減です。同じ比較でキャベツは103時間から42時間、ほうれんそうは275時間から28時間に減っています。定植と収穫を機械に置き換えると、たまねぎは1人当たりの面積の上限が一段上がります。

買いそろえる前に、産地の共同利用を確かめてください。富山県のJAとなみ野は、平成21年に8ヘクタールで始めたたまねぎを令和8年には約130ヘクタールまで広げていますが、定植機や収穫機はJAが導入して生産者に貸し出す方式です。乾燥貯蔵施設と選別調製施設もJAが整備し、乾燥・調製・選別を請け負っています。個々の経営で機械を抱えないので、固定費985千円の壁が下がります。

産地ごとに組み合わせる作目が違います

たまねぎ単作で生計を立てる型は、県の指標にはほとんど出てきません。出てくるのは、必ず何かと組み合わせた形です。

組み合わせ経営の姿
畑作の輪作に入れる(北海道)秋小麦6ヘクタール、てん菜5ヘクタール、生食加工馬鈴しょ5ヘクタール、玉ねぎ5ヘクタール経営面積21ヘクタール、家族2人と雇用、農業所得980万円(主たる従事者730万円)
露地野菜と組む(兵庫・淡路)たまねぎ1ヘクタール、レタス3ヘクタール、稲発酵粗飼料用稲2ヘクタール経営面積3ヘクタール、移植機と収穫機で省力栽培
水田の転作に入れる(富山)水稲+たまねぎ水稲と作業が競合せず、他県産の端境期に出荷。積雪期間中は防除などの管理が不要

水稲と組ませる型は、稲作からの転換先を探している方に向きます。定植は11月から12月、収穫は5月から6月で、田植えと稲刈りのどちらとも重なりません。転換にあたっては水田から畑作物への転換に出る交付金を先に確認してください。

販売先を加工・業務用に置くなら、価格と数量を決めた契約取引が前提になります。契約に踏み込むときのセーフティネットは契約野菜の安定供給事業にまとめています。国内に入る生鮮野菜の輸入量のうち、たまねぎは約4割を占めます(令和5年・241千トン)。その9割が中国からで、ここが国産に置き換わる余地になります。

定植から出荷までの流れ

加工・業務用の試算に沿った、秋定植の作業の並びです。

  1. 秋に苗を育てます。10アール当たりの労働時間は9月に8時間、10月に14時間立ち上がります。
  2. 畝立てマルチャーでマルチを張り、11月から12月に移植機で定植します。11月の労働時間は10アール当たり14時間です。
  3. 冬から春は防除と管理が中心で、1月から4月は10アール当たり月1時間から6時間に収まります。積雪地帯では冬の防除そのものが要りません。
  4. 5月から6月に収穫機とピッカーで収穫します。6月が10アール当たり18時間でピークです。
  5. 剪葉機で葉を落として調製し、出荷します。5月収穫分の出荷が6月の収穫と重なります。
  6. 貯蔵して出荷時期をずらす場合は、乾燥貯蔵施設と選別調製施設が要ります。産地によってはJAが請け負います。

使える資金と補助

新規就農でそろえる場合、機械と施設の固定費985千円がそのまま初期投資の壁になります。就農時に使える資金の種類と金額は新規就農の資金と補助金にまとめています。既に水稲や畑作をしている経営なら、トラクターと軽トラックは共用できるので、追加で要るのは移植機・収穫機・ピッカー・剪葉機とマルチャーです。共同所有や産地の貸出制度があるかを、市町村と地域のJAに確かめてから購入を決めてください。

よくある質問

たまねぎは10アールから始められますか

試験的に作ることはできますが、経営としては成り立ちません。加工・業務用の試算では10アールの農業所得は▲810千円です。機械と施設の固定費985千円を10アールの販売額320千円で負担できないためで、農業所得がプラスに変わるのは57アールからです。

たまねぎだけで専業になれますか

県の経営指標に出てくるのは、他の作目と組み合わせた形です。北海道は秋小麦・てん菜・馬鈴しょとの4年輪作に玉ねぎ5ヘクタールを入れて経営面積21ヘクタール、兵庫県の淡路はレタス3ヘクタールと稲発酵粗飼料用稲2ヘクタールにたまねぎ1ヘクタールを組み合わせています。単作で目標所得に届く類型は示されていません。

面積を広げるとき、機械と人のどちらが先ですか

加工・業務用の試算では、2ヘクタールまでは家族2人で回せます。労働のピークである6月でも52時間の余裕が残る計算です。2ヘクタールを超えるところで、慣行の105時間を31時間に落とす機械化一貫体系への切り替えが効いてきます。

水稲と組み合わせられますか

組み合わせられます。定植が11月から12月、収穫が5月から6月で、田植えとも稲刈りとも重なりません。富山県のJAとなみ野は、水稲と作業が競合しないことと他県産の端境期に出荷できることを理由にたまねぎを導入し、平成21年の8ヘクタールから令和8年には約130ヘクタールまで広げています。

ねぎとたまねぎでは、どちらが向いていますか

面積を確保できるかで分かれます。長野県の指標では10アール当たりの農業所得はねぎ373,958円に対してたまねぎ92,259円ですが、労働時間はねぎ295.5時間に対してたまねぎ122.8時間です。借りられる農地が限られるならねぎ、面積を広げられるならたまねぎが噛み合います。ねぎ側の数字はねぎ農家の始め方にまとめています。