収穫を待つだけになった果実や、出荷直前の野菜が持ち去られる被害が各地で起きています。手をかけて育てた作物が消える損害は金額だけの問題ではなく、営農意欲そのものを削ります。農林水産省が警察庁の協力を得て被害の多い23道府県を調べた結果からは、被害が起きる場所と時期、そして効いている対策がはっきり見えます。この記事では、何がどこで狙われているのか、生産者と地域が何をすれば減るのか、農業機械の盗難をどう防ぐのか、そして実際に盗まれたときに何をするのかを順に整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる方 | 果樹・野菜を露地やハウスで作る生産者、農業機械を持つ農家・法人、地域で対策を組む市町村・JA |
| 被害が起きる場所 | ほ場48%、ビニールハウス7%、作業場3%、倉庫2% |
| 狙われやすい品目 | もも、ぶどう、キャベツ、はくさい、りんご、さくらんぼ、いちごの順に件数が多い |
| 被害額 | 把握できた事案の9割が50万円未満。100万円以上も2% |
| 解決の状況 | 解決済み11%、未解決40%、不明49% |
| 農機の被害 | 鍵が付いた状態で39%、農地に放置された状態で26%。3月から5月に増加 |
| 効いている対策 | パトロール33%、複数組織の連携23%、啓発活動15%、のぼり旗・赤色回転灯12%、センサー8% |
| 相談先 | 最寄りの警察署(不審者・不審車両は110番)、市町村、JA、都道府県の農業改良普及センター |
どこで、何が盗まれているのか
被害の場所はほ場が48%で最も多く、ビニールハウスが7%、作業場が3%、倉庫が2%です。鍵をかけられない屋外の畑や園地が、そのまま被害の現場になっています。金額は把握できた事案の9割が50万円未満で、10万円未満が19%、50万円未満が17%です。件数は少ないものの100万円以上の被害も2%あります。
狙われる品目は幅広く、件数が多い順にもも、ぶどう、キャベツ、はくさい、りんご、さくらんぼ、いちごです。ミニトマト、スイートコーン、なし、すいか、メロン、米、やまのいも、にんにく、さつまいも、ブロッコリー、みかん、だいこん、ねぎでも被害が確認されています。単価の高い果実と、一度に多く積み込める葉物・根菜の両方が対象になると考えたほうが実態に近いです。
戻ってくる見込みは高くありません
調べた事案のうち解決済みは11%で、未解決が40%、不明が49%です。解決した例は、見回りの途中で不審者を発見して通報した、あるいはその場で取り押さえたというもので、いずれも人の目があったから解決しています。盗まれた後に取り戻すのは難しく、対策の重心は発生前に置くしかありません。
生産者が今日からできる備え
費用をかけずに始められるのは、盗みにくい状態を作ることです。調査をもとにまとめられた対策のうち、生産者が自分で実行できるものは次のとおりです。
- 収穫物を畑に置いて帰らない。コンテナに詰めたまま園地に残すと、そのまま積み込まれます。
- ハウス・保管庫の窓と出入口を必ず施錠する。ハウスからの被害は7%あり、施錠されていない開口部が入口になります。
- 収穫用コンテナや脚立を園地から撤収する。置いたままの道具は、高い位置の果実を取るために使われます。
- 作業者は腕章、農作業車両にはステッカーで目印を付ける。誰が関係者かひと目でわかるようにすると、通行人や近隣も不審者に気づけます。
園地への侵入を防ぐ
次の段階は、入りにくく、入れば気づかれる園地にすることです。ネットや柵で侵入しにくい環境を作り、「盗難注意」「立入禁止」の看板やのぼり旗を立てます。防犯カメラやセンサーライトを設置し、通行人から見える位置に「防犯カメラ作動中」の表示を出すところまでを一組と考えます。
実際の効果も報告されています。ハウス内からいちごの果実を盗まれた産地では、ハウスに防犯カメラを設置して内部を記録し、あわせて「防犯カメラ作動中」「盗難防止警戒中」のステッカーを表示しました。その後は盗難被害が発生していません。カメラは記録のためだけでなく、表示によって狙われにくくする効果があります。
なお、園地の作物が食べられる被害でも、加害しているのが人ではなくイノシシやシカであれば、防ぎ方と使える支援がまったく変わります。まず被害の痕跡から相手を見分けましょう。動物による被害の対策と支援は鳥獣被害対策の解説で確認できます。
農機は鍵の管理で大半を防げます
農業機械の盗難は、被害の起き方がはっきりしています。過去5年の被害を分析すると、機械に鍵が付いたままの状態で盗まれたものが39%(346件)、農地に放置された状態で盗まれたものが26%(236件)です。被害者の4割近くがエンジンキーを差したまま、または運転席の周辺に置いたままにしていました。フォークリフトや農耕作業用自動車などを含む特殊自動車の盗難は、直近1年で全国179件が認知されています。
時期にも偏りがあります。過去5年の月別では3月が93件、4月が99件、5月が93件で、1月の55件・2月の66件と比べて春先に増えます。作業が始まって機械を屋外に出す時期と重なるためです。
対策は3つに絞られます。機械から離れるときはエンジンキーを必ず抜く、機械をほ場に放置したまま帰らない、使わないときは鍵のかかる倉庫に保管する、この3点です。補助事業で導入した機械の場合は、盗難・天災補償を含む動産総合保険等への加入を処分制限期間中続けることが要件になっている点にも注意が必要です。導入時の要件はスマート農機の導入に使える支援の解説で確認できます。
地域で取り組むと効果が出ます
対策を講じている地域では、46%が「効果があると思う」または「盗難が減った」と答え、「効果がない」「盗難が増えた」と答えた地域は1つもありませんでした。実施されている対策の内訳は、パトロールが33%、市町村・JA・警察などの複数組織が連携した取組が23%、チラシ等の啓発活動が15%、のぼり旗・赤色回転灯の設置が12%、センサーの設置が8%です。
果樹園で収穫直前の果実が盗まれた地域では、生産者と警察が協力して園地の巡回を行い、あわせて盗難防止を呼びかけるチラシを配りました。その結果、被害に遭う生産者が減っています。防災無線で不審者・不審車両の目撃情報を流し、生産者に収穫物の管理を呼びかける方法も使われています。
チラシを作るときは、具体的な防止対策、不審者や不審車両を見かけたら110番へ連絡すること、地域の相談窓口(警察署・JA)、作成者、そして実際の被害の状況(いつ、どのような方法で盗まれたか)を入れます。被害の手口が共有されると、周辺の生産者が自分の園地の弱点に気づけます。
盗まれたときの手順
被害に気づいたときは、記録と通報を並行して進めます。手順は次のとおりです。
- 110番または最寄りの警察署に通報します。現場を片づける前に連絡します。
- 被害の状況を記録します。持ち去られた数量・品目・気づいた日時、荒らされた場所、タイヤ痕や足跡を写真で残します。
- JA・市町村・都道府県の農業改良普及センターへ連絡します。周辺で同じ手口の被害が出ていないか確認できます。
- 加入している保険・共済の窓口に相談します。収入が減った場合の扱いを確認します。
- 地域へ手口を共有し、チラシ・防災無線・パトロールなど次の対策につなげます。
- 弱点を補強します。侵入経路のネットや柵、カメラの位置、施錠の運用を見直します。
保険で埋められる範囲
盗難で減った収入をすべて取り戻せる仕組みはありませんが、備えは2つあります。ひとつは収入保険です。自然災害や価格低下だけでなく、農業者の経営努力では避けられない収入減少を広く補償する仕組みで、保険料には50%、積立金には75%の国庫補助があります。盗難による減収がどこまで対象になるかは、加入時に農業共済組合へ確認しましょう。制度の中身は農業の収入保険の解説で確認できます。
もうひとつは機械そのものにかける動産総合保険です。補助事業で導入した機械では加入の継続が要件になることがあり、盗難と天災の補償を含む契約が求められます。自己資金で買った機械も、置き場所が屋外中心なら検討する価値があります。
よくある質問
農作物の盗難はどこで起きやすいですか
ほ場が48%で最も多く、ビニールハウスが7%、作業場が3%、倉庫が2%です。鍵のかけられない露地の畑や園地が中心で、収穫期を迎えた作物がそのまま狙われます。まず収穫物を園地に残さないこと、ハウスと保管庫を施錠すること、コンテナや脚立を撤収することから始めましょう。
どんな品目が狙われますか
件数が多いのはもも、ぶどう、キャベツ、はくさい、りんご、さくらんぼ、いちごです。ほかにミニトマト、スイートコーン、なし、すいか、メロン、米、やまのいも、にんにく、さつまいも、ブロッコリー、みかん、だいこん、ねぎでも被害が出ています。単価の高い果実と、一度に多く積める葉物・根菜の両方が対象になります。
防犯カメラを付けると効果はありますか
あります。いちごのハウスで被害が出た産地では、カメラの設置と「防犯カメラ作動中」「盗難防止警戒中」の表示を組み合わせ、その後は被害が発生していません。カメラは記録のためだけでなく、外から見える表示によって狙われにくくする効果があります。地域全体ではパトロールが最も多く実施されており、対策を講じた地域の46%が効果を実感しています。
トラクターの盗難はどう防げばよいですか
鍵の管理が中心です。過去5年の被害では39%が鍵が付いたままの状態、26%が農地に放置された状態で盗まれています。機械から離れるときにエンジンキーを抜く、ほ場に置いて帰らない、使わないときは鍵のかかる倉庫に入れる、この3つで防げる被害が大半です。被害は3月から5月に増えるため、作業が始まる春先はとくに注意しましょう。
盗まれた作物は補償されますか
盗まれた作物そのものが返ってくる仕組みはなく、解決に至った事案は11%にとどまります。収入が大きく減った場合は、経営努力では避けられない収入減少を広く補償する収入保険が受け皿になり得ます。対象の範囲は契約内容によるため、加入時または被害時に農業共済組合へ確認しましょう。機械の盗難は、動産総合保険に加入していれば補償の対象になります。
キーワード解説
動産総合保険
機械・器具などの動産にかける保険で、盗難や天災による損害を補償します。補助事業で導入した農業機械では、処分制限期間中は盗難・天災補償を含む動産総合保険等への加入を続けることが要件になっている場合があります。作物の減収を補償する収入保険とは対象が違うため、機械と収入の両方を守るには別々に備える必要があります。
特殊自動車
道路交通法施行規則で定める大型・小型特殊自動車のうち、土木・建設以外の特殊な用途の装置を備えた自動車です。フォークリフトや農耕作業用自動車が含まれ、盗難の統計はこの区分で集計されます。直近1年の認知件数は全国179件です。