農作業の死亡事故は長く減り続けていましたが、直近の調査で287人となり、前年から51人増えて増加に転じました。増えた分の主役は夏の熱中症です。ただ、件数そのものが最も多いのは今も農業機械で、なかでも機械ごと転落・転倒する事故が半分を占めます。米をつくる農家・農業法人と、産地で安全を呼びかけるJA・自治体の担当者に向けて、どの機械のどんな場面で人が亡くなっているかを整理し、収穫期に入る前に見直せる点をまとめます。

誰が農業機械を使うすべての農家・農業法人、地域で安全を呼びかけるJA・自治体・農業機械販売店
何が年間の農作業死亡事故287人の内訳。機械156人、機械・施設以外116人、農業用施設15人
最も多い原因機械の転落・転倒82人。次いで挟まれ27人、ひかれ19人、回転部等への巻き込まれ17人
いつ7月と8月で全体の36%。収穫期の9月から11月にかけても月20〜30人前後で推移
雇用しているなら労働者を雇う農業者は熱中症の早期発見体制の整備と措置手順の作成が義務
詳しくは下の機種別の表で、自分が使う機械の主な原因を確かめる

死亡事故は建設業の3倍の水準です

農林水産省は、厚生労働省の人口動態調査に係る死亡個票などを用いて、毎年の農作業死亡事故を取りまとめています。直近の調査(令和6年発生分)の死亡者数は287人で、前年より51人増えました。就業者10万人当たりに直すと14.8人で、建設業の4.9人、全産業の1.1人と比べて差が開いています。

男女別では男性が241人で84.0%を占めます。年齢別では65歳以上が248人で86.4%、うち80歳以上が122人で全体の42.5%です。70代から80代の作業が事故の中心にあります。

要因別の死亡事故発生状況の円グラフ。全287人のうち農業機械作業に係る事故が156人で54.4%、機械・施設以外の作業に係る事故が116人で40.4%、農業用施設作業に係る事故が15人で5.2%。内訳は乗用型トラクター53人、農用運搬車26人、自脱型コンバイン17人、熱中症59人など。
農林水産省「令和6年に発生した農作業死亡事故の概要」より、要因別の死亡事故発生状況

機械事故の半分は転落・転倒です

農業機械作業に係る事故は156人で、全体の54.4%です。原因の内訳を見ると、機械ごと転落・転倒した事故が82人で機械事故の52.6%を占めます。

原因人数機械事故に占める割合
機械の転落・転倒82人52.6%
挟まれ27人17.3%
ひかれ19人12.2%
回転部等への巻き込まれ17人10.9%
機械からの転落4人2.6%
道路上での自動車との衝突2人1.3%
その他5人3.2%

転落・転倒した82人のうち、ほ場等で倒れたのが57人、道路からの転落が25人です。公道の走行より、自分のほ場とその出入りで倒れた人のほうが2倍以上多くなっています。あぜの際、進入路の段差、用水路沿いの枕地といった見慣れた場所が現場です。

機種別ではこの3つで6割を占めます

機種死亡者数最も多い原因
乗用型トラクター53人(34.0%)機械の転落・転倒38人(71.7%)。うちほ場等28人、道路から10人
農用運搬車(軽トラックを含む)26人(16.7%)機械の転落・転倒12人(46.2%)、ひかれ6人(23.1%)
自脱型コンバイン17人(10.9%)機械の転落・転倒10人(58.8%)、ひかれ3人(17.6%)
歩行型トラクター11人(7.1%)挟まれ4人、歩行型は挟まれと巻き込まれが中心
動力防除機11人(7.1%)機械の転落・転倒6人
草刈機7人(4.5%)機械の転落・転倒3人
農用高所作業機5人(3.2%)機械の転落・転倒3人

乗用型トラクター・農用運搬車・自脱型コンバインの3機種で、機械事故全体の61.5%です。乗用型トラクターは7割超が転落・転倒で、シートベルトと安全フレームが生死を分ける場面がそのまま数字に出ています。農用運搬車と自脱型コンバインでは「ひかれ」が2番手に来ます。降りて確認するとき、傾斜地で車止めをせずに離れるときの事故です。

機械以外では熱中症とほ場からの転落

農業機械・施設以外の作業に係る事故は116人で、うち熱中症が59人と半分を占めます。前年の37人から22人増え、全体の増加分51人の4割強がここです。

熱中症59人(50.9%)
ほ場、道路からの転落19人(16.4%)
稲わら焼却中等の火傷12人(10.3%)
木等の高所からの転落8人(6.9%)
その他(農薬による中毒、家畜によるものなど)18人(15.5%)

農業用施設作業に係る事故は15人で、作業舎の屋根など高所からの墜落・転落が5人と最も多くなっています。落下物によるものと二酸化炭素ガス等によるものがそれぞれ2人です。

月別では7月が58人で全体の20.2%、8月が46人で16.0%、9月が30人で10.5%です。熱中症警戒アラートが発表される5月から9月の増加数が52人で、全体の増加数51人を上回りました。夏の高温が、熱中症だけでなく熱中症以外の事故にも影響している可能性があります。

農林水産省は7月1日から9月30日を「夏の熱中症等対策声かけ期間」とし、今夏のキャッチフレーズを「いのちをうばう、夏のひとり作業」としています。作業そのものの対策は農作業の熱中症対策にまとめています。

機械側の安全装置は入れ替わっています

農業機械の安全性検査は、農研機構が実施する任意の制度です。この制度が見直され、令和7年4月から新しい基準による検査が始まりました。海外や他分野で標準になっていた安全装置が、新しい基準に入っています。

新しい安全性検査制度の進捗状況。対象機種は農用トラクター(乗用型・歩行型)、田植機(乗用型)、コンバイン(自脱型)、乾燥機(穀物用循環型)。乗用型トラクターにシートベルトリマインダーとPTOインターロック、自脱型コンバインと乗用型田植機に作用部インターロックが導入された。
農林水産省「農作業安全をめぐる情勢」より、新しい安全性検査制度の進捗状況
シートベルトリマインダー乗用型トラクター。シートベルト未着用時に視覚と聴覚で警報
PTOインターロック乗用型トラクター。車両が停止している際の離席でPTO軸への動力を遮断
作用部インターロック自脱型コンバイン・乗用型田植機。停車中に刈取部等を駆動した状態で離席すると7秒以内に動力を遮断。2027年度から正式に基準化

合格した型式は順次公表されています。乗用型の農用トラクターが43型式、歩行型が3型式、自脱型コンバインが4型式、穀物用循環型の乾燥機が7型式です。歩行型トラクター・自脱型コンバイン・乗用型田植機の新基準は令和9年度に正式適用となり、令和8年度までは任意適用の扱いです。

死亡者数で2番目に多い農用運搬車と、農用高所作業機は、まだ安全性検査の対象機種に入っていません。対象への追加に向けた基準づくりが進められている段階です。機械を選ぶときに安全装置で比べられない機種がある点は、買い替えの計画に織り込んでおきましょう。買い替えに使える支援はトラクターの購入に使える補助金にまとめています。

収穫期の前に見直す手順

  1. ほ場の出入り口と農道の危ない場所を書き出します。転落・転倒の6割以上はほ場等で起きています。あぜの際、進入路の段差、用水路沿いを実際に歩いて確かめます。
  2. 乗用型トラクターとコンバインの安全フレームが立った状態か、シートベルトが使える状態かを見ます。畳んだままの安全フレームや、座席の下に押し込んだままのベルトがないかを確かめましょう。
  3. 詰まりを取る、点検する、給油するときにエンジンを止める手順を決め、作業する全員で共有します。巻き込まれと挟まれで44人が亡くなっています。
  4. 降りる前に必ず車止めをする場所を決めます。農用運搬車と自脱型コンバインでは「ひかれ」が2番目に多い原因です。
  5. ひとりで作業する時間帯と場所を家族や仲間に伝え、決めた時刻に連絡が来なければ見に行く取り決めをします。
  6. 暑い時間帯の作業を前後にずらし、休憩と水分補給の時刻を作業計画に書き込みます。

農作業安全の研修は各地で行われていて、直近年度の受講者は約211,000人と前年度の約16万人から増えました。農業機械作業の研修と熱中症対策の研修があり、都道府県やJAが実施しています。

人を雇っているなら熱中症対策は義務です

労働安全衛生規則の改正で、令和7年6月1日から、労働者を雇用するすべての事業者に熱中症対策が義務づけられました。法人か家族経営かを問わず、労働者を雇っている農業者が対象です。

  • 熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための体制整備
  • 重篤化を防止するための措置の実施手順の作成
  • その内容を関係作業者へ周知すること

農林水産省は「熱中症」対応フローの張り紙のひな型を用意しています。必要事項を書き込み、事業所内に掲示するなどして全員に知らせましょう。

雇用していない家族経営でも、事故で働けなくなったときの備えは別に要ります。労災保険の特別加入は農業者本人が入れる制度で、治療費と休業の補償を受けられます。

よくある質問

農作業事故で最も多い機械は何ですか

乗用型トラクターです。機械事故156人のうち53人で34.0%を占めます。次いで軽トラックを含む農用運搬車が26人、自脱型コンバインが17人で、この3機種で機械事故の61.5%になります。

転落・転倒は公道で起きているのですか

ほ場のほうが多くなっています。転落・転倒82人のうち、ほ場等が57人、道路からが25人です。公道走行より、自分のほ場と出入りのほうが件数は多くなります。

安全フレームとシートベルトはどちらも必要ですか

組み合わせて使うものです。乗用型トラクターの死亡事故は7割超が転落・転倒で、農林水産省もシートベルトの着用を促しています。新しい安全性検査の基準では、シートベルト未着用時に視覚と聴覚で警報するシートベルトリマインダーが乗用型トラクターに加わりました。安全フレームを立てた状態で使うことが前提の装置です。

古い機械は安全性検査の対象になりますか

安全性検査は新しく販売される機械の型式を対象とした任意の制度で、すでに使っている機械が対象になるわけではありません。手元の機械は、安全フレームが立つか、シートベルトが使えるか、警告ラベルが読める状態かを自分で点検します。

熱中症で亡くなる人はなぜ増えているのですか

気温の上昇に沿って増えています。熱中症警戒アラートの発表回数は制度が始まった年の613回から、直近では1,700回台まで増えました。農作業中の熱中症による死亡者数も同じ傾向で推移し、直近の調査では59人と前年より22人増えています。

家族経営でも熱中症対策の義務はかかりますか

労働者を雇用していれば、法人か家族経営かを問わず対象です。同居の親族だけで作業していて労働者を雇っていない場合は、労働安全衛生規則の義務の対象にはなりません。

キーワード解説

ほ場

作物を育てる田や畑のことです。農作業死亡事故の統計では、機械の転落・転倒の発生場所を「ほ場等」と「道路から」に分けて集計しています。

安全性検査

農業機械や農業施設を対象に、実機を確認しながら安全性が確保されているかを検査する任意の制度です。農研機構が運用しています。令和7年4月から新しい基準による検査が始まりました。

PTOインターロック

車両が停止している状態で運転者が席を離れたとき、PTO軸への動力を自動で遮断する装置です。PTO軸はトラクターの動力を作業機へ伝える回転軸で、巻き込まれ事故の原因になります。

作用部インターロック

停車中に刈取部などの作用部を動かしたまま運転者が離席した場合、7秒以内に作用部への動力を遮断する装置です。自脱型コンバインと乗用型田植機の新しい検査基準に入り、2027年度から正式に基準化されます。