農林水産省が令和9年度予算の概算要求を公表しました。総額3兆1,377億円は令和8年度当初予算の136.7%で、公共事業費が9,003億円、非公共事業費が2兆2,374億円です。ただし総額が増えても、農家が直接受け取る交付金がすべて増えるわけではありません。この記事では、ゲタ・ナラシ・収入保険・農業共済・野菜価格安定対策といった経営安定対策の要求額を前年と並べ、水田活用の直接支払交付金の見直しがどの方向へ向かうか、機械や施設に使える枠がどこに厚くなるかを整理します。
| 対象となる方 | 交付金・補助事業を使っている農業者、農業法人、JA・自治体の農政担当 |
|---|---|
| 要求総額 | 3兆1,377億円(令和8年度当初予算2兆2,956億円の136.7%) |
| 経営安定対策 | 収入保険532億円、ゲタ1,974億円、ナラシ521億円、農業共済808億円、野菜価格安定157億円 |
| 水田政策 | 新たな水田政策の創設に3,565億円と事項要求。収量に応じた面積払いへの転換と産地交付金の見直し |
| 機械・施設 | 農業構造転換集中対策2,904億円と事項要求。農地の大区画化739億円、共同利用施設1,048億円 |
| これから | 水田政策・消費税率引下げへの対応など7項目は金額を付けない事項要求で、予算編成過程で検討 |
| 詳しくは | 農林水産省の令和9年度予算概算要求のページに全体概要・骨子・重点事項と事業別の資料が載っています |
いま受け取っている支援はどれだけ要求されたか
自分の経営に直接入ってくるお金から確かめます。経営安定対策は6つの制度がまとめて要求されており、要求額と令和8年度当初予算額は次のとおりです。
| 制度 | 令和9年度の要求額 | 令和8年度当初 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 畑作物の直接支払交付金(ゲタ) | 1,974億円 | 1,924億円 | +50億円 |
| 収入減少影響緩和対策交付金(ナラシ) | 521億円 | 468億円 | +53億円 |
| 収入保険 | 532億円 | 327億円 | +205億円 |
| 農業共済 | 808億円 | 793億円 | +15億円 |
| 野菜価格安定対策 | 157億円 | 157億円 | 同額 |
| 畜産・酪農経営安定対策(マルキン等) | 2,307億円 | 2,307億円 | 同額 |
いずれも所要額としての要求で、加入者が増えたり発動したりすれば必要な額が積み上がる性格のお金です。伸び幅がいちばん大きいのは収入保険で、加入の伸びを織り込んだ要求になっています。個人の加入申請は前年12月末までが期限なので、来年分から入るなら今年の秋のうちに試算しておきましょう。ゲタ・ナラシの対象や交付の考え方はゲタ・ナラシの仕組み、収入保険と共済の選び分けは農業収入保険で確かめられます。
野菜価格安定対策と畜産・酪農の経営安定対策は前年と同額です。制度が縮むわけではなく、補給金の単価や発動条件を変えずに続ける要求です。
要求総額は3兆1,377億円
総額の内訳は公共事業費が9,003億円(前年比128.1%)、非公共事業費が2兆2,374億円(同140.4%)です。このうち4,272億円は「強く豊かな日本」投資枠を活用する項目で、農地の大区画化、共同利用施設の再編集約、スマート農業技術・新品種の開発、輸出産地の育成などが並びます。
金額を読むときは、かっこ内が令和8年度の当初予算額である点を押さえてください。多くの事業は令和7年度補正予算でも手当てされており、例えば農業構造転換集中対策は当初494億円に補正2,410億円が乗っています。当初予算どうしを比べると何倍にも増えて見えますが、補正まで含めた前年の規模と並べると伸びはもっと緩やかになります。
水田政策はどこが変わるか
新たな水田政策の創設として3,565億円と事項要求が計上されました。柱は水田活用の直接支払交付金等の抜本的見直しです。加工用米・米粉用米・新市場開拓用米といった主食用米以外のコメは、生産性向上の取組に対して収量に応じた面積払いで支援されます。麦・大豆と飼料作物も、水田か畑かに関わらず収量に応じた面積払いに切り替わります。業務用米は外国産米との価格競争力を高めるため、生産性向上に大きく踏み込む取組が支援の対象です。
産地交付金も見直されます。すでに産地化している品目への支援が固定化し、支援内容の検証と見直しが行われてこなかったという課題を受けて、水田・畑に関わらず効果検証とそれに基づく見直しを続ける仕組みに改められます。都道府県と地域農業再生協議会が助成内容を設定する枠組み自体は変わりません。令和9年産の作付をどう組むかは新たな水田政策(令和9年産)で詳しく扱っています。
中山間地域等直接支払は、傾斜によらない不利性のある農地について、地方公共団体が必要と認める場合に集落協定の対象農地へ位置付けられるよう見直されます。多面的機能支払で充実するのは、外部人材の確保や先進技術の活用で共同活動の作業を省力化する取組への支援です。環境保全型農業直接支払は新たな環境直接支払交付金に改編され、みどりの食料システム法の計画認定を受けた農業者が対象になります。農法の転換時の掛かり増しコストだけでなく、減収などの導入リスクも軽減する設計です。
機械・施設・農地整備に厚い枠
農業構造転換集中対策は2,904億円と事項要求で、令和8年度当初494億円と令和7年度補正2,410億円を合わせた規模を引き継ぎます。中身は4つに分かれます。
| 内訳 | 要求額 | 支援の対象 |
|---|---|---|
| 農業農村整備(農地の大区画化等) | 739億円 | 地域計画に基づく集積・集約化、中山間地域のきめ細かな整備 |
| 共同利用施設の再編集約・合理化等 | 1,048億円 | 老朽化した共同利用施設、卸売市場、食肉・食鳥処理施設、家畜市場、乳製品加工基幹施設 |
| スマート農業技術・新品種の開発、農業機械の導入 | 951億円 | 担い手・サービス事業者の機械導入、畜産の施設整備、飼料生産組織の省力化機械 |
| 輸出産地の育成 | 165億円 | 輸出産地形成、サプライチェーン構築、HACCP・ハラール対応の施設整備 |
担い手や農地の側もまとまった額が要求されています。地域計画に基づく農地の集約化は291億円(前年174億円)、新規就農者の育成は217億円(同114億円)、農業労働力等の確保は42億円(同31億円)です。農業農村整備事業は公共事業として4,375億円(同3,365億円)で、農山漁村地域整備交付金の農業分などを合わせた関係予算は5,949億円になります。
品目や地域の課題に応じた事業も額が動いています。主なものを拾うと次のとおりです。
- スマート農業技術活用促進集中支援プログラム 796億円(前年185億円)
- 鳥獣被害防止対策とジビエ利用の推進 199億円(同100億円)
- 肥料の国産化・安定供給 100億円(同0.3億円)
- 農山漁村振興交付金 100億円(同70億円)
- 米穀等安定生産・需要開拓総合対策事業 79億円(同15億円)
- みどりの食料システム戦略推進総合対策 76億円(同6億円)
- 輸出産地・事業者の育成・展開 190億円(同58億円)
金額が決まるまでの流れ
概算要求は各省庁が財務省へ出す要求であって、この額がそのまま予算になるわけではありません。要求額が付かない項目もあります。
- 農林水産省が8月末に令和9年度の概算要求を公表する。事業ごとの要求額と、金額を示さない事項要求がこの時点で分かる。
- 新たな水田政策、農業構造転換集中対策期間に機動的・弾力的に対応すべき事業、食料安全保障強化政策大綱に基づく対応、国土強靱化、TPP等関連政策大綱、飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応、エネルギー・食料等の基盤強化の7項目は、予算編成過程で検討される。
- 予算編成過程を経て政府予算案が固まり、事業ごとの予算額が確定する。
- 年度が明けてから各事業の公募要領・交付要綱が出る。対象要件と締切を確認し、地域農業再生協議会・都道府県・地方農政局へ相談する。
いま自分に関わる事業が要求に載っているかを見ておくと、年末に額が固まった時点で動き出せます。目的別に制度を探すなら農業の補助金一覧が入口になります。
よくある質問
事項要求とは何ですか
金額を示さずに「この経費を要求する」とだけ書いて出す要求です。制度の設計や必要額がまだ固まっていない項目に使われます。令和9年度では新たな水田政策や飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応など7項目が該当し、予算編成過程で中身と金額が検討されます。事項要求だから支援がなくなるという意味ではありません。
前年と同額の要求は実質的な減額ですか
野菜価格安定対策の157億円や畜産・酪農経営安定対策の2,307億円のように、所要額として同額を要求している制度があります。これらは補給金の単価や発動条件をもとに必要額を積み上げる仕組みで、同額の要求は制度をそのまま続ける要求です。加入者や価格の動きによって実際の交付額は動きます。
要求額が前年の何倍にもなっている事業があるのはなぜですか
かっこ内の数字が令和8年度の当初予算額だけを指すためです。多くの事業は令和7年度補正予算でも予算が付いており、当初予算どうしを比べると倍率が大きく出ます。農業構造転換集中対策のように、当初494億円に補正2,410億円が乗っている事業では、補正まで含めた前年の規模と比べるのが実態に近くなります。
キーワード解説
事項要求
概算要求で金額を示さず、経費の項目だけを要求すること。制度改正の内容が固まっていない場合や、他の検討と並行して決める必要がある場合に使われます。
所要額
交付の対象や加入者の見込みから積み上げた、その年度に必要と見込まれる額。経営安定対策や共済のように、要件に当てはまる人へ交付する制度で使われる表し方です。
「強く豊かな日本」投資枠
潜在成長率の引上げに向けた投資を後押しする枠。令和9年度の農林水産関係では4,272億円が該当し、農地の大区画化、共同利用施設の再編集約、スマート農業技術・新品種の開発、輸出産地の育成、フードテックの推進などに充てられます。