漢方薬の原料になる薬用作物は、市場に出回らず製薬会社との契約栽培で取引されるのが特徴です。だからこそ、始めるにはまず買い手を見つけることが出発点になります。この記事では、契約栽培の仕組み、買い手を探す薬用作物産地支援協議会のマッチング、未収益期間の10アール当たり4万円などの補助、どの品目を選ぶかまで、産地化の第一歩を整理します。要件や補助単価の最終確認は、最新の公募要領と農林水産省の該当ページで行ってください。

概要

項目 内容
誰に 漢方の原料になる薬用作物を新たに育てたい農家・農業法人・産地の協議会。中山間地域の複合経営の一品目としても有効
何を 契約栽培の仕組み、買い手探し(産地支援協議会のマッチング)、使える補助額、重点8品目の選び方、食品として売れる部位の整理
契約の相手 ほとんどが製薬会社との直接契約。種苗の供給・栽培指導・買い取り保証あり。価格は薬価(公定価格)の影響を受ける
初期の支援 多年生品目を初めて契約・栽培する未収益期間に10アール当たり4万円。栽培マニュアル・機械改良・加工調製の外部化は定額または2分の1以内
相談・マッチング 薬用作物産地支援協議会の事前相談窓口(電話・WEB・対面)と地域相談会
詳細はどこで 農林水産省「薬用作物のページ」、都道府県・農業改良普及センター

なぜいま国産の薬用作物が求められるのか

漢方薬の需要は医療現場で高まっています。漢方製剤などの生産金額は直近5年間で約33パーセント増え、令和6年度には約2,834億円になりました。一方で、原料となる生薬の年間使用量約3万4千トンのうち、国産は約2,900トンと全体の約1割にすぎず、約8割を中国産が占めています。製薬会社は調達先を分散させて原料を安定確保したいと考えており、国内での生産拡大への期待が高まっています。国産をこれから増やせる余地が大きい作物だといえます。

薬用作物の国内流通の図。産地の生産者・生産団体(国産は原料生薬の約1割)と輸入(約9割)から、製薬業者(日本漢方生薬製剤協会の会員57社)へ契約栽培で直接取引され、医療機関・薬局・薬店を経て消費者へ届く流れ。漢方製剤等の生産金額は約2,834億円で、医療用医薬品約2,166億円と一般用漢方製剤等約669億円の内訳。
農林水産省「薬用作物(生薬)をめぐる事情」

薬用作物の契約栽培の仕組み

薬用作物は、野菜や米のような市場取引がほとんどありません。ほとんどが製薬会社などとの契約栽培による直接取引です。契約すると、種苗が契約先の企業から提供されることが多く、栽培指導も受けられます。価格はあらかじめ決めた条件で安定して取引できますが、生薬の薬価(公定価格)の影響を受けます。

ただし、始めてすぐに収益が出るわけではありません。栽培期間が複数年の品目が多く、収穫まで時間がかかります。原料は医薬品なので、日本薬局方や製薬会社の品質規格を満たす栽培管理が必要で、栽培から採取・加工までの手引き(GACP)に沿って進めます。専用の農業機械や登録農薬が少なく手作業が多いこと、収穫後に洗浄・乾燥・選別などの一次加工が要ることも、始める前に押さえておきたい点です。

買い手(製薬会社)はどう見つけるか

契約栽培が前提なので、産地化の第一歩は買い手を見つけることです。生産者と実需者(製薬会社など)をつなぐ薬用作物産地支援協議会が、そのためのマッチングを行っています。平成28年に日本漢方生薬製剤協会と全国農業改良普及支援協会が設立した組織で、事前相談窓口(電話・WEB・対面)、地域説明会・相談会、専用のマッチングサイトを用意しています。相談件数は平成29年度から令和6年度までで1,627件にのぼります。

実際に始めるときの流れは次のとおりです。

  1. 協議会の事前相談窓口に問い合わせ、需要のある品目・種苗の入手方法・取引価格・栽培技術の指導機関などの情報を集めます。
  2. マッチングサイトに、生産できる品目や地域の生産体制を登録します。
  3. 製薬会社などとの折衝を始めます。実需者側は、栽培可能な地域・供給量・安定供給の見込み・品質規格を満たせるかを確認します。
  4. 試験栽培で品質規格をクリアできるかを確かめます。
  5. 取引価格・出荷数量などの取引条件を交渉し、契約・納品へ進みます。

買い手が決まってから栽培を本格化できるため、価格が保証された状態で始められるのが契約栽培の利点です。

始めるときに使える支援(お金)

薬用作物の産地化は、「茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進」という国の事業で支援されます。令和8年度予算のなかに位置づけられ、補助は定額または2分の1以内です。支援は大きく二つに分かれます。

一つは全国的な支援体制の整備です。事前相談窓口の設置、地域相談会(マッチング)の開催、栽培技術研修会、技術アドバイザーの派遣が対象です。もう一つは地域での取組への支援で、次のような費用を支援します。

  • 地域に適した品種の選定、栽培マニュアルの作成、栽培技術を確かめる実証ほの設置
  • 低コスト生産に向けた農業機械の改良、加工・調製作業を外部に任せるための機械のリース導入
  • 収穫まで複数年かかる多年生の品目を初めて契約・栽培する場合の、未収益期間の支援(10アール当たり4万円)
  • 登録農薬を増やすために必要な試験、人材確保策の検討、実需者と連携した商品開発

実需者と連携して加工・調製の外部化に取り組む場合には、優先枠が設けられています。この事業は茶や他の地域特産作物と共通の枠組みで動いており、茶の改植・新植の支援単価とあわせて茶・薬用作物等の産地支援の記事でも整理しています。補助金全体の探し方は農業の補助金一覧もご覧ください。

どの品目を選ぶか(重点8品目)

国は、国産の使用量が多く生産拡大が期待される重点8品目を定めています。シャクヤク・トウキ・ミシマサイコ・センキュウ・トリカブト・サンショウ・カノコソウ・ヨモギの8品目です。新たな食料・農業・農村基本計画では、この重点8品目の栽培面積を令和4年の573ヘクタールから2030年(令和12年)に700ヘクタールへ広げる目標を掲げています。これから品目を選ぶなら、需要が見込めるこの8品目が有力な候補になります。

薬用作物の重点8品目。シャクヤク・トウキ・ミシマサイコ・センキュウ・トリカブト・サンショウ・カノコソウ・ヨモギの写真と効能。令和5年産の生産状況はサンショウ177.0ヘクタール、ミシマサイコ117.7ヘクタール、トウキ115.7ヘクタール、センキュウ102.1ヘクタールなどで8品目計613.1ヘクタール・1,835戸。栽培面積を2030年に700ヘクタールとするKPIも記載。
農林水産省「薬用作物(生薬)をめぐる事情」

品目ごとに主な産地と栽培面積は次のとおりです。地域の気候・土壌に合う品目を選ぶことが、産地として続けるための出発点になります。

品目 主な産地 栽培面積(令和5年産)
サンショウ和歌山・高知・奈良 ほか177.0ヘクタール
ミシマサイコ熊本・鹿児島・愛媛・高知 ほか117.7ヘクタール
トウキ北海道・群馬・奈良 ほか115.7ヘクタール
センキュウ北海道・岩手102.1ヘクタール
シャクヤク秋田・富山・岩手 ほか48.3ヘクタール

食品として売れる部位・売れない部位

薬用作物は原料の使いみちが医薬品か食品かで扱いが変わります。この区分を食薬区分といいます。トウキの根やシャクヤクの根のように専ら医薬品として使われるものは、食品として製造・販売できません。一方、カンゾウの根・ストロン、ウコンの根茎、サンショウの果実などは、医薬品のような効能をうたわない限り、条件付きで食品として製造・販売できます。個別の判断は、都道府県の薬務主管課に相談できます。

この区分を活かし、生薬に使わない部位を特産品にする産地もあります。奈良県宇陀市ではトウキの葉を使った香水・飴・うどんを開発し、秋田県八峰町では規格に満たないキキョウの根を飴や薬膳メニューに活用しています。生薬としての契約に加えて、地域の収入源を増やす工夫です。

産地化の事例

産地では、生産者が栽培に専念できるよう、契約や加工・調製をJAや合同会社などが担う体制づくりが進んでいます。

  • 北海道・JA道央(ブシ・トウキ):畑作用の機械を活用し輪作に組み込んで省力化。栽培面積は5年で約1.5倍(42ヘクタール→65ヘクタール)に拡大しました。
  • 熊本県あさぎり町(ミシマサイコ):合同会社が製薬会社との契約と機械の貸出しを担い、生産者の負担を軽減。栽培面積は9年で約2.3倍(39.6ヘクタール→89.7ヘクタール)に増えました。
  • 秋田県八峰町(キキョウ):町が研究機関と連携協定を結び、農業法人が育苗・調製を受託。キキョウの販売数量は5年で約6.5倍になりました。
  • 群馬県(トウキ・雨よけトマト):繁忙期が重ならない品目を組み合わせた複合経営で、冬の雇用を生み出し通年で人材を確保しています。

よくある質問

個人の農家でも始められますか

始められます。ただし薬用作物は買い手との契約が前提で、品質規格や一次加工の体制も必要になるため、多くは産地の協議会や生産者団体を通じた取組として進みます。まずは薬用作物産地支援協議会の事前相談窓口や地域説明会に問い合わせ、地域で取り組める体制があるかを確かめましょう。

収益が出るまでどのくらいかかりますか

品目によって栽培期間が異なります。センキュウのように1年程度のものもあれば、シャクヤクは約5年、キハダのように15年から20年かかる樹木もあります。収穫まで複数年かかる多年生の品目を初めて契約・栽培する場合は、未収益期間の支援として10アール当たり4万円を受けられます。

農薬や専用の機械はそろっていますか

薬用作物は登録農薬が少なく、専用の農業機械も少ないため手作業が多いのが実情です。国の事業では、既存機械の改良やリース導入、農薬の適用拡大に必要な試験も支援対象になっています。技術面は薬用作物産地支援協議会の栽培の手引きや技術アドバイザーの派遣を活用できます。

収穫物を食品として売ることはできますか

食薬区分によります。専ら医薬品として使われる部位(トウキの根など)は食品として販売できませんが、それ以外は医薬品的な効能をうたわない限り条件付きで販売できます。判断は都道府県の薬務主管課に相談してください。

まず相談する先

薬用作物を始めたい、産地化を検討したいと思ったら、次の窓口に相談しましょう。買い手とのマッチングも技術の相談も、ここが入口になります。

キーワード解説

日本薬局方

医薬品の性状や品質の基準を、厚生労働大臣が定めた規格基準書です。生薬を医薬品の原料として使うには、この規格基準(成分の含量など)を満たす必要があります。

GACP

薬用植物の栽培・採取・加工に関する手引きです。医薬品の原料として安定した品質を保つため、栽培管理の手順をそろえる考え方で、契約栽培でもこれに沿って進めます。

出典:農林水産省「薬用作物(生薬)をめぐる事情・薬用作物のページ」、薬用作物産地支援協議会「薬用作物栽培の手引き」・「薬用作物の産地化事例集」。生産金額・使用量は厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」および日本漢方生薬製剤協会調べ。補助単価・要件・対象・公募時期の最終確認は、最新の公募要領と農林水産省の該当ページで行ってください。