さくらんぼは産出額401億円で、果実の産出額の4%を占めます。栽培面積は4.3千ヘクタールと果樹のなかでは小さく、収穫量も12千トンです。1キロ当たりの単価は果樹で最も高い品目のひとつですが、売上が大きいことと手取りが多いことは別の話です。この記事では、さくらんぼで10アール当たりどれだけ所得が残るのか、なぜ粗収益140万円が所得21万円になるのか、雨よけハウスや改植にどんな支援があるのかを、長野県と山形県の経営指標、農林水産省の資料をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・品種・栽培方式・販売先によって変わります。

概要

項目内容
対象となる方 さくらんぼで新規就農する方、品種の切り替えや雨よけハウスの導入を考えている果樹農家
所得の目安 10アール当たり21.1万円(長野県・雨よけ栽培)から64.7万円(山形県の産地が示す就農の目安)
収量・単価の目安 10アール当たり700キロから800キロ、1キロ1,752円から2,377円
労働時間 10アール当たり470時間から572時間。果樹のなかで最も重い水準
時間当たりの所得 491円(長野県)から約1,130円(山形県の目安から算出)
必要な設備 雨よけハウス。市町村がハウス本体資材費の3分の1・上限30万円を助成する例がある
使える支援 改植・新植支援(10アール当たり17万円から73万円)、果樹未収益期間支援(同22万円)、経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)
詳しくは 都道府県の農業改良普及センター、JA、産地の果樹協議会

粗収益140万円で所得は21万円です

長野県は作目別に10アール当たりの経営指標を公表しています。おうとうの雨よけ栽培は、収量800キロ・1キロ1,752円で粗収益140.2万円になります。りんごのふじ(普通栽培)の116.0万円より大きい売上です。ところが経営費が119.0万円かかるため、農業所得は21.1万円しか残りません。

品目・栽培方式粗収益と所得所得率と時間当たり所得
おうとう(雨よけ)140.2万円・21.1万円15.1%・491円
ふじ(普通)116.0万円・24.6万円21.2%・947円
ふじ(新わい化)145.0万円・38.9万円26.8%・2,240円

同じ長野県の指標で比べると、さくらんぼは売上がりんごと同水準なのに、所得率と時間当たりの所得は最も低くなります。りんごの新わい化栽培に対して、時間当たりの所得は4分の1以下です。

労働時間は果樹で最も重い水準です

原因は労働時間です。おうとうの雨よけ栽培は10アール当たり470時間(うち家族の労働430時間)かかります。同じ長野県の指標でりんごのふじは普通栽培260時間・新わい化173.5時間で、さくらんぼは2倍から3倍の作業量です。鳥取県の試算による日本なしの300時間から420時間、柿の160時間前後と比べても重い品目です。

時間がかかるのは、雨よけの被覆と撤去、1粒ずつ手で収穫して大きさと色で選果する作業、そして受粉と摘芽です。さくらんぼは自分の花粉では実がつきにくく、受粉樹やマメコバチ、人手による受粉が必要になります。面積を広げるほど収穫期の1か月に人手が要るため、雇用を前提にしないと10アール当たりの数字がそのまま積み上がりません。

くだものの栽培暦。おうとうは1月から2月に整枝剪定、3月に摘芽、4月から5月に受粉、5月から6月に雨よけ被覆、6月から7月に収穫・選果、8月に夏季剪定、12月に整枝剪定と作業が続く。
おうとうは雨よけ被覆から収穫・選果までが5月から7月に集中する。出典:農林水産省東北農政局「くだものの栽培暦

単価が所得を3倍に変えます

山形県のさくらんぼ産地の市が新規就農の目安として示す指標では、おうとうは収量700キロ・1キロ2,377円で、収入169.4万円・経費101.7万円・所得64.7万円(所得率38.2%)です。労働時間は572時間で長野県の指標より長いものの、所得64.7万円を572時間で割ると時間当たりは約1,130円になり、長野県の491円の2倍以上です。

収量は800キロと700キロで長野県のほうが多く、労働時間も短い。それでも所得が21.1万円と64.7万円に分かれるのは、1キロ1,752円と2,377円という単価の差だけが理由です。さくらんぼは、収量を積むより単価を上げるほうが手取りに効く品目です。

単価を左右するのは、品種と大きさ、そして販売先です。大玉の品種を選ぶ、贈答需要に合わせて詰め方を変える、観光農園や直販で市場を通さずに売る、といった設計を最初から組み込む必要があります。

雨よけハウスは裂果を防ぐための投資です

さくらんぼの収穫期は梅雨と重なります。実に雨がかかると裂果して商品にならないため、産地では雨よけハウスの被覆が5月から6月の定例作業になっています。栽培暦でも、受粉が終わった5月に被覆し、6月から7月に収穫・選果へ進む流れです。

設備の助成は国と市町村の両方にあります。国の枠は産地単位で計画を立てて取り組む事業が中心で、市町村が独自に上乗せする例もあります。山形県のある産地では、大玉の県育成品種を園地の樹木本数の2割以上植えていることを条件に、ハウス本体資材の購入経費の3分の1以内・上限30万円を助成しています。被覆資材や防鳥網のような消耗品は対象外です。

ハウスそのものの価格水準と、国の産地向け事業の補助率は耐候性ハウスの価格はどれくらい?費用を左右する仕様と使える補助金を解説で整理しています。雨よけハウスは耐候性ハウスより簡易な構造ですが、雪の多い産地では冬の間に骨材を残すかどうかで強度と費用が変わります。

改植と収穫までの期間に使える支援

果樹農業生産力増強総合対策では、品目と樹形に応じた支援を受けられます。金額はいずれも10アール当たりです。

  • 改植・新植支援:主要果樹の改植で17万円(新植は15万円)
  • V字ジョイント栽培への改植で73万円(新植71万円)。おうとうは支援対象の品目に挙げられています
  • 果樹未収益期間支援:22万円(5.5万円の4年分)を初年度に一括。対象期間は改植・新植を実施した年を除く4年間です
  • 小規模園地整備、用水・かん水設備の整備、高温障害対策の資材導入:いずれも事業費の半額以内
  • マメコバチの巣箱設置や繭洗浄などの受粉対策:事業費の半額以内

対象になるのは、産地計画または地域計画で今後振興すべきと定められた品目・品種・樹形に限られます。省力樹形として認められるには、10アール当たりの労働時間を慣行栽培より10%以上減らせるか、収量を10%以上増やせることが要件です。作業時間が重いさくらんぼは、この要件を満たす樹形への切り替えが所得の改善に直結します。

申請の窓口と要件は果樹の改植・新植に使える補助金|品目別の支援単価と未収益期間の支援で詳しく整理しています。

就農時に使える資金

果樹は植えてから収穫までの期間が長く、さくらんぼも改植・新植の年を除いて4年間は支援対象期間として設定されています。その間の生活費は資金で埋めます。

  • 経営開始資金:月13.75万円(年最大165万円)を最長3年。独立・自営就農した認定新規就農者が対象
  • 就農準備資金:研修中に月13.75万円を最長2年
  • 経営発展支援事業:機械・施設・果樹の新植や改植に事業費の半額、上限1,000万円
  • 青年等就農資金:無利子の融資。雨よけハウスのような償還期間の長い投資に向く

要件と申請の時期は新規就農者育成総合対策|経営開始資金は月13.75万円・年165万円に増額で確認できます。

収穫量が年によって大きく振れます

さくらんぼは収穫量の変動が大きい品目です。全国の収穫量は直近の2年で17千トンから12千トンへ減り、栽培面積もこの10年で4.8千ヘクタールから4.3千ヘクタールへ縮んでいます。産出額は416億円から401億円で横ばいですが、これは収穫量が減っても単価が上がって埋め合わせている状態です。

収穫期が梅雨と重なるうえ、開花期の4月は凍霜害、収穫前後は高温による着色不良や軟果のリスクがあります。1年の売上がひとつの季節に集中する品目なので、収入保険か果樹共済への加入を前提に資金計画を立てましょう。果樹共済は共済責任期間の始まりに合わせて申込の時期が決まり、引受の条件も組合ごとに違うため、加入を考える年の前年にNOSAIへ相談しておくと確実です。

さくらんぼを始めるまでの流れ

  1. 産地と品種を決めます。大玉の品種を扱う産地か、雨よけハウスの導入に助成がある市町村かを確認します。
  2. 都道府県の農業改良普及センターとJAに相談し、産地計画でどの品種・樹形が振興対象になっているかを確かめます。
  3. 研修先を決めます。せん定・摘芽・受粉は1年に1回しか練習できないため、少なくとも1年、できれば2年かけて一巡させます。
  4. 園地を探します。雨よけハウスと成木のある園地を継承できるかで、初期投資と収入が始まる時期が大きく変わります。
  5. 青年等就農計画をつくり、市町村の認定を受けます。経営開始資金と経営発展支援事業の前提になります。
  6. 改植・新植の支援と果樹未収益期間支援を、産地計画に基づく取組として都道府県の果樹関係法人へ申請します。
  7. 収穫期の人手を先に手配します。収穫と選果に10アール当たり数十時間が集中するため、家族以外の労力を計算に入れます。
  8. 収入保険または果樹共済に加入します。

よくある質問

さくらんぼ農家の収入はどれくらいですか

長野県の経営指標では、おうとうの雨よけ栽培は10アール当たり粗収益140.2万円・農業所得21.1万円(所得率15.1%)です。山形県のさくらんぼ産地の市が示す就農の目安では、収入169.4万円・所得64.7万円(同38.2%)になります。差は単価で、1キロ1,752円と2,377円の違いがそのまま所得の3倍の開きになります。いずれも成木になった後の数字です。

さくらんぼは儲かる品目ですか

売上は大きいものの、時間当たりの手取りは果樹のなかで低い水準です。長野県の指標では労働時間が10アール当たり470時間かかり、時間当たりの所得は491円になります。同じ指標のりんご新わい化栽培は173.5時間で2,240円です。単価を上げる販売方法(大玉品種・贈答・観光農園・直販)と、作業を減らす樹形の導入をセットで考えないと、労働に見合う手取りになりません。

雨よけハウスは必ず必要ですか

収穫期が梅雨と重なるため、雨に当たると裂果して商品になりません。産地では5月から6月の被覆が定例作業になっています。国の産地向け事業に加えて、市町村がハウス本体資材の購入経費の3分の1以内・上限30万円を助成する例もあります。ただし被覆資材や防鳥網などの消耗品は対象外になるのが一般的です。

さくらんぼは1本の木からどれくらい採れますか

公表されている経営指標は10アール当たりで示され、収量は700キロから800キロです。1本当たりの収量は品種・樹齢・仕立て方で大きく変わるため、産地の技術指導の目安で確認するのが確実です。新植から収穫までは数年かかり、果樹未収益期間支援も改植・新植を実施した年を除く4年間を対象期間として設計されています。

未経験でもさくらんぼ農家になれますか

なれます。ただし受粉・摘芽・雨よけの管理は年に1回しか経験できないため、研修で1年から2年かけて作業を一巡させてから独立するのが安全です。成木と雨よけハウスがある園地を継承できれば、収穫までの無収入期間を避けられます。研修先の紹介や園地のあっせんは、都道府県の農業改良普及センターとJA、産地の果樹協議会で相談できます。

キーワード解説

雨よけ栽培

樹の上部をフィルムで覆い、雨が果実に当たるのを防ぐ栽培方法です。さくらんぼは収穫期が梅雨と重なり、実が水を吸うと裂果して売れなくなるため、産地では標準的な方式になっています。被覆は受粉が終わる5月ごろに行い、収穫が終わると撤去します。この作業と収穫・選果が労働時間を押し上げる要因です。

V字ジョイント栽培

苗木の主枝を隣の樹につないでV字型の樹列に仕立てる省力樹形です。若木のうちに樹形が決まるため成園になるのが早く、収穫や剪定を低い位置で行えます。果樹農業生産力増強総合対策では、なし・りんご・もも・おうとう・かき等のV字ジョイント栽培への改植に10アール当たり73万円(新植71万円)の支援が設定されています。

果樹未収益期間支援事業

改植・新植した後、収穫できるようになるまでの幼木の管理経費を支援する事業です。10アール当たり5.5万円の4年分にあたる22万円を初年度に一括で受けられます。支援対象期間は改植・新植を実施した年を除く4年間で、果樹の参入・改植で最大の障壁である無収入期間を埋めるための仕組みです。

出典:長野県「作目別経営指標一覧表」(おうとう雨よけ栽培・りんごの10アール当たり粗収益・経営費・農業所得・労働時間・時間当たり農業所得)、山形県長井市「農業経営指標一覧(10アール当たり)」(公益財団法人やまがた農業支援センターの資料に基づく就農の目安。おうとうの収量・単価・所得・労働時間)、農林水産省「果樹をめぐる情勢」(おうとうの産出額・収穫量・栽培面積)、農林水産省「果樹農業生産力増強総合対策」(改植・新植支援とV字ジョイント栽培、果樹未収益期間支援の単価)、農林水産省東北農政局「くだものの栽培暦」(おうとうの作業時期)、山形県河北町「さくらんぼ雨よけハウス整備の支援」(ハウス本体資材費の3分の1以内・上限30万円)、農林水産省「新規就農者育成総合対策(経営開始資金・経営発展支援事業)」。所得・単価・収量は県や産地が示す標準的な経営規模を前提とした目安で、産地・品種・栽培技術の習熟度・販売先によって異なります。市町村の助成は産地ごとに内容と期間が異なり、補助や資金の金額・要件は年度で変わるため、就農計画づくりの段階で都道府県の農業改良普及センター・JA・市町村と最新の情報をご確認ください。