梅は栽培面積で果樹の6番目、産出額258億円の品目です。栽培面積は10年で16.7千ヘクタールから13.1千ヘクタールへ減りましたが、産出額は175億円から258億円へ増えています。ただし梅には他の果樹にない特徴が二つあります。10アール当たりの労働時間が果樹のなかでは軽いことと、収穫量が年によって半分になることです。この記事では、梅で10アール当たりどれだけ所得が残るのか、作業にどれだけ時間がかかるのか、収量が半分になる年をどう乗り切るのかを、和歌山県と農林水産省の資料をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・品種・販売先によって変わります。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる方 | 梅で新規就農する方、梅の面積を増やすか迷っている果樹農家 |
| 所得の目安 | 10アール当たり37.6万円(所得率46%)。3.4ヘクタールのうめ専作モデルで1,279万円 |
| 収量・単価の目安 | 10アール当たり1,500キロから1,600キロ、1キロ約530円(モデルからの逆算) |
| 労働時間 | 10アール当たり132時間。3.4ヘクタールで年4,500時間、主たる従事者2人 |
| 収穫の時期 | 青梅は5月下旬から6月下旬、漬け梅は6月中旬から7月上旬。1か月余りに集中 |
| 収量の振れ | 全国の10アール当たり収量は400キロから591キロまで年で変動 |
| 使える支援 | 改植・新植支援(10アール当たり17万円)、果樹未収益期間支援(同22万円)、経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円) |
| 詳しくは | 都道府県の農業改良普及センター、JA、産地の果樹協議会 |
梅の所得は10アール当たり37万円
全国の梅の6割近くを産出する和歌山県は、果樹農業振興計画で品目ごとに目標とすべき経営の姿を示しています。うめ専作のモデルは経営規模3.4ヘクタール、主たる従事者2人で、粗収益2,765万円・経営費1,486万円・農業所得1,279万円です。所得率は46%になります。
3.4ヘクタール=340アールで割ると、10アール当たりの姿がつかめます。
| 項目 | 経営全体(3.4ヘクタール) | 10アール当たり |
|---|---|---|
| 粗収益 | 2,765万円 | 81.3万円 |
| 経営費 | 1,486万円 | 43.7万円 |
| 農業所得 | 1,279万円 | 37.6万円 |
| 労働時間 | 4,500時間 | 132時間 |
作付けの内訳は、南高の漬け梅が2.4ヘクタール(反収1,600キロ)、南高の青梅が0.8ヘクタール(同1,500キロ)、露茜が0.2ヘクタール(同1,000キロ)です。総収量は52,400キロになり、粗収益2,765万円を割ると1キロ当たり約530円という計算になります。ラジコン草刈機での除草、ドローンによる肥料散布の委託、省力樹形の導入を前提にした目標値です。
時間当たり所得はみかん専作とほぼ同じです
同じ計画のなかで他の品目と並べると、梅の位置がはっきりします。いずれも和歌山県が示す目標モデルで、条件がそろっているため比較できます。
| 経営モデル | 規模と所得 | 時間当たり所得 |
|---|---|---|
| うめ専作 | 3.4ヘクタール・1,279万円 | 2,840円 |
| うんしゅうみかん専作 | 3.8ヘクタール・1,356万円 | 2,830円 |
| かき | 3.5ヘクタール・1,040万円 | 2,170円 |
| もも | 2.8ヘクタール・2,474万円 | 3,750円 |
梅の時間当たり所得2,840円は、みかん専作の2,830円とほぼ同じです。ももの3,750円には届きませんが、かきの2,170円は上回ります。梅は単価の高い品目ではないものの、投じた時間に対する戻りは果樹のなかで平均的な水準にあります。
複合経営にすると時間当たりの効率は上がります
和歌山県のモデルには、梅を他の果樹と組み合わせた形も並んでいます。うんしゅうみかんと中晩柑に梅を加えた3.0ヘクタールの経営で所得1,172万円・時間当たり3,170円、みかんと梅とすももの2.5ヘクタールで所得907万円・同3,020円です。専作より所得の総額は小さくなる代わりに、時間当たりの効率は上がります。
理由は作業の山が重ならないことです。梅の収穫は6月から7月上旬、みかんは秋から冬で、同じ人手を年間で使い回せます。梅の収穫が年によって半分になっても、他の品目の収入が残るという意味でもあります。
手間が軽い分、面積で所得をつくる品目です
梅の10アール当たり労働時間は132時間です。同じ計画の目標モデルで比べると、うんしゅうみかん126時間、かき137時間とほぼ並び、もも236時間の半分ほどです。
梅には摘果や袋かけがなく、収穫も1果ずつ手で摘むのではなく、樹の下にネットを張って落果を集める方法が使えます。この軽さがあるから、主たる従事者2人で3.4ヘクタールという面積が成り立ちます。生食用の果樹で3ヘクタールを超える経営はそう多くありません。
ただし作業が集中する時期は短く、青梅の収穫は5月下旬から6月下旬、漬け梅は6月中旬から7月上旬です。1か月余りに収穫が固まるため、この時期に人手を集められるかが面積の上限を決めます。梅の主産地であるみなべ町では、収穫期に合わせて県外から人を呼ぶ梅収穫ワーケーションの取組も始まっています。
青梅と漬け梅で出口が分かれます
梅は生果のまま売る青梅と、収穫後に塩漬けして白干梅にしてから売る漬け梅で、経営の組み立てが変わります。和歌山県の経営モデルでも、うめは青梅と漬け梅が別の作付けとして扱われています。
- 青梅:南高は6月上旬から下旬、古城は5月下旬から6月上旬に収穫。梅酒・梅シロップ向けで、収穫後すぐに出荷します
- 漬け梅:南高を樹上で完熟させ、6月中旬から7月上旬に収穫。塩漬けして白干梅にすれば通年で出荷できます
漬け梅を選ぶと、収穫の瞬間に売り切らなくてよくなります。和歌山県では果実の重さに対して18%から20%の塩で漬けるのが標準で、塩蔵のタンクと置き場所が要る代わりに、出荷の時期を自分で選べます。梅の共同選果施設は和歌山県内に6か所あり、いずれも糖度を測る光センサー選果機を持ちません。みかんやかきのように選果場が値段を決める品目ではなく、加工の度合いで手取りが変わる品目だということです。
白干梅から先の調味梅干しまで自分で手がけて売る場合は、営業許可が必要になります。品目ごとの許可の区分はジャムの製造・販売に必要な営業許可は?瓶詰めは密封包装食品製造業【品目別一覧】で整理しています。
収穫量は年によって半分に振れます
梅の経営でいちばん大きな変数は、単価でも面積でもなく収量です。全国の収穫量は、直近の10年で次のように動きました。
| 産年 | 10アール当たり収量 | 全国の収穫量 |
|---|---|---|
| 令和5年産 | — | 96千トン |
| 令和6年産 | 400キロ | 52千トン |
| 令和7年産 | 591キロ | 73,900トン |
令和6年産は受精不良で着果数が減り、収穫量が前年のほぼ半分に落ちました。翌年は10アール当たり収量が48%戻り、収穫量も43%増えています。栽培面積は毎年3%前後ずつ減り続けているので、この上下は面積ではなく、その年の結実によるものです。
産出額で見ると景色が変わります。収穫量が半減した年でも、梅の産出額は234億円から258億円へ増えました。産地全体では単価の上昇が数量の減少を打ち消しますが、個々の農家の手取りがそのとおりに戻るとは限りません。半作の年に自分の園地でどれだけ穫れたかで、収入は大きく変わります。
着果が不安定になる理由
原因は開花期の気象です。暖冬になると開花が早まって不完全花が増え、開花後に低温や降雨が続くと受粉率が落ちます。主力品種の南高は自分の花粉では実らない自家不和合性の品種なので、授粉樹をどれだけ混ぜてあるかが結実を左右します。
和歌山県は授粉樹の混植割合を20%程度とし、着果が不安定な園地ではさらに増やすか高接ぎで補うよう求めています。授粉樹には、県が育成した自家和合性品種のNK14や、梅干しの品質が良い星秀が使われます。園地を探すときは、授粉樹が十分に入っているかを必ず確かめましょう。
収量が半分に振れる品目である以上、セーフティネットへの加入は経営の前提になります。果樹共済と収入保険はどちらか一方を選ぶ関係にあり、補償の範囲と掛金が違います。選び方は果樹共済と収入保険の違い|果樹農家はどちらを選ぶ?補償範囲と掛金を解説で比べられます。
植えてから収穫までと使える支援
果樹に共通する壁は、植えてから収入が立つまでの期間です。慣行の樹形では成園になるまで約10年、小さな木を密植する省力樹形なら約5年で、この差がそのまま無収入の年数の差になります。
梅では、着果の安定につながる摘心処理とカットバック整枝を組み合わせた低樹高の仕立て、早期に多収となるムカデ整枝が省力樹形として普及しています。近年増えている降雹の被害に備えるスレンダースピンドル樹形の開発も進んでいます。
改植と未収益期間の支援
果樹農業生産力増強総合対策で、この無収入の期間を埋める支援を受けられます。金額はいずれも10アール当たりです。
- 改植・新植支援:梅は主要果樹に含まれ、改植で17万円、新植で15万円
- 果樹未収益期間支援:22万円(5.5万円の4年分)を初年度に一括。対象期間は改植・新植を実施した年を除く4年間
- 放任園地の発生防止のための伐採等:8万円
- 小規模園地整備、用水・かん水設備の整備、高温障害対策の資材導入:いずれも事業費の半額以内
対象になるのは、産地計画または地域計画で今後振興すべきと定められた品目・品種・樹形に限られます。省力樹形として認められるには、10アール当たりの労働時間を慣行栽培より10%以上減らせるか、収量を10%以上増やせることが要件です。申請の窓口と手続きは果樹の改植・新植に使える補助金|品目別の支援単価と未収益期間の支援で確認できます。
老木の更新は梅の産地でも課題になっています。和歌山県では梅の34%が老木園で、計画的な改植が進められています。園地を継承するときは、樹齢と授粉樹の配置を先に確認しましょう。
就農時に使える資金
収穫までの数年を資金でしのぐ方法は、就農の形によって変わります。
- 経営開始資金:月13.75万円(年最大165万円)を最長3年。独立・自営就農した認定新規就農者が対象
- 就農準備資金:研修中に月13.75万円を最長2年
- 経営発展支援事業:機械・施設や果樹の新植・改植に事業費の半額、上限1,000万円
- 青年等就農資金:無利子の融資。運搬機やかん水設備のような償還期間の長い投資に向く
もっとも確実なのは、成木のある園地を継承して無収入の期間そのものを避けることです。和歌山県は、整備した園地で研修を受け、研修後にその園地を引き継ぐ果樹型トレーニングファームの仕組みを進めています。資金の要件と申請の時期は新規就農者育成総合対策【令和8年度】経営開始資金は月13.75万円・年165万円に増額で確認できます。
梅を始めるまでの流れ
- 産地を決めます。梅は和歌山県が全国の58%を占め、群馬県7%、福井県3%と続きます。加工業者や選果の受け皿がある産地かどうかで出口が変わります。
- 青梅で出すか漬け梅で出すかを決めます。漬け梅なら塩蔵のタンクと置き場所を確保します。
- 都道府県の農業改良普及センターとJAに相談し、産地計画でどの品種・樹形が振興対象になっているかを確かめます。
- 研修先を決めます。整枝・せん定は1年で1回しか練習できないため、最低1年、できれば2年かけます。
- 園地を探します。成木園を継承できるか、授粉樹が20%程度混ぜてあるかを確認します。
- 青年等就農計画をつくり、市町村の認定を受けます。経営開始資金と経営発展支援事業の前提になります。
- 改植・新植の支援と果樹未収益期間支援を、産地計画に基づく取組として都道府県の果樹関係法人へ申請します。
- 収入保険または果樹共済に加入します。梅は収量が年で半分に振れる品目です。
よくある質問
梅農家の収入はどれくらいですか
和歌山県が示す目標経営モデルでは、うめ専作3.4ヘクタールで粗収益2,765万円・経営費1,486万円・農業所得1,279万円(所得率46%)です。10アール当たりに直すと所得37.6万円、時間当たり所得は2,840円になります。主たる従事者2人で年4,500時間を投じる前提の目標値で、実際の手取りはその年の結実と販売先によって上下します。
梅は手間のかからない果樹ですか
果樹のなかでは軽いほうです。和歌山県の目標モデルの10アール当たり労働時間は、梅132時間に対して、うんしゅうみかん126時間、かき137時間、もも236時間です。摘果や袋かけがなく、収穫もネットを使って落果を集められることが理由です。ただし収穫は1か月余りに集中するため、その時期の人手をどう確保するかが課題になります。
梅は植えてから何年で収穫できますか
慣行の樹形では成園になるまで約10年、小さな木を密植する省力樹形では約5年が目安です。この間の管理経費に対して、果樹未収益期間支援として10アール当たり22万円(5.5万円の4年分)を初年度に一括で受けられます。生活費は月13.75万円・最長3年の経営開始資金でしのぐ組み立てになります。成木園を継承できれば、この期間そのものを避けられます。
青梅と漬け梅ではどちらが有利ですか
出荷の自由度で選びます。青梅は収穫してすぐ出荷する必要があり、収穫期の1か月に売り切ります。漬け梅は塩漬けして白干梅にすれば通年で出荷できるため、価格を見ながら出す時期を選べます。和歌山県の経営モデルでも、うめ専作3.4ヘクタールのうち2.4ヘクタールが漬け梅で、反収も青梅の1,500キロに対し漬け梅は1,600キロと高く設定されています。塩蔵の設備と置き場所を確保できるかが判断の分かれ目です。
梅の収穫量が年によって半分になるのはなぜですか
開花期の気象で結実が決まるからです。暖冬になると開花が早まって不完全花が増え、開花後の低温や降雨で受粉率が落ちます。主力品種の南高は自家不和合性で自分の花粉では実らないため、授粉樹を20%程度混ぜておく必要があります。全国の収穫量は96千トンから52千トンへ落ち込み、翌年は73,900トンへ戻りました。収入保険や果樹共済への加入を前提に経営を組み立てましょう。
キーワード解説
漬け梅と白干梅
漬け梅は、樹上で完熟させてから収穫し、塩漬けにして出荷する梅のことです。塩漬けにして干した状態を白干梅といい、梅干しの原料になります。和歌山県では果実の重さに対して18%から20%の塩で漬けるのが標準です。白干梅にすれば通年で出荷できるため、収穫期の1か月に売り切る青梅と比べて、価格を見ながら出荷の時期を選べます。
授粉樹
自分の花粉では実がつかない品種のために、花粉を供給する目的で混植する別品種の樹です。梅の主力品種である南高は自家不和合性のため、授粉樹がなければ結実しません。和歌山県は混植割合を20%程度とし、着果が不安定な園地では割合を増やすか高接ぎで補うよう求めています。県が育成した自家和合性品種のNK14や、梅干しの品質が良い星秀が使われます。
省力樹形
小さな木を直線的に密植して、樹列単位で管理する仕立て方です。大きな木を疎植する慣行樹形に比べて作業動線が直線的になり、機械化しやすくなります。成園になるまでの期間も約10年から約5年に縮まります。梅では、摘心処理とカットバック整枝を組み合わせた低樹高の仕立てや、早期に多収となるムカデ整枝が普及しています。改植・新植支援の対象になるには、10アール当たりの労働時間を慣行栽培より10%以上減らせるか、収量を10%以上増やせることが要件です。