アスパラガスは、一度植えれば10年以上にわたって収穫を続けられる多年生の野菜です。毎年つくり直す必要がなく、大型の農業機械もほとんど要らないため、小さな面積から始めやすい品目です。半面、株が育つまで時間がかかり、収穫が始まるのは定植の翌年から。この立ち上がりの期間をどう乗り切るかが、参入できるかどうかの分かれ目になります。この記事では、アスパラガスで実際にどれだけの所得が残るのか、収穫が始まるまでの年次別の損益、初期費用、価格が下がったときの備え、就農までの流れを、長崎県・山形県高畠町・鳥取県の経営指標と農林水産省の資料をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・栽培方式・規模によって変わります。

概要

項目内容
対象となる方 アスパラガスで新規就農する方、小面積で所得を上げたい方、水稲との複合経営を考えている方
収益(所得)の目安 露地10アールで粗収益92万円・所得37.4万円(所得率41%)。収量1.5トンなら所得率51%
収穫が始まる時期 定植の翌年(2年目)から春どり、3年目から春どりと夏秋どりの二期どり
黒字化の目安 1年目は所得105.2万円の赤字、2年目に41.3万円で黒字化(ハウス10アールの県シミュレーション)
初期費用 ハウス単棟460万円(8年償却・2分の1補助)+管理機20万円。大型機械は基本不要
目標所得と面積 50万〜100万円=10〜20アール(1人)/200万〜400万円=30〜60アール(2人以上)
使える資金 経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)、青年等就農資金の借入
相談先 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村

アスパラガスの収益は10アール当たり約37万円

アスパラガスは、露地野菜としては市場価格が比較的安定しており、面積当たりの所得率が高い品目です。鳥取県が示す10アール当たりの経営試算では、次のようになります。

項目金額・数量
収量1,000キロ
粗収益92.0万円
経営費54.6万円
所得(所得率)37.4万円(41%)
労働時間520時間

所得率41%は、同じ県の試算にあるトマト18%、ブロッコリー21%、白ねぎ30%と比べても高い水準です。売上そのものは大きくありませんが、経営費が抑えられるぶん手元に残る割合が大きいという性格の作物です。

収量を伸ばすと所得率も時給も上がります

アスパラガスの収益性は、10アール当たりの収量で大きく変わります。山形県高畠町が示す経営指標では、収量の水準ごとに次の差が出ます。

10アール当たり収量所得率労働時間・時給換算
1トン43.2%396時間・時給1,091円
1.5トン51.0%525時間・時給1,456円

収量が5割増えると、労働時間は3割ほどの増加で済み、時給換算で3割以上の差がつきます。株の管理(立茎・かん水・追肥・病害虫防除)をきちんと続けられるかどうかが、そのまま手取りに跳ね返ります。

目標所得から面積を決めます

どれくらいの面積が必要かは、目標とする所得から逆算できます。産地が示している目安は次のとおりです。

目標所得栽培面積必要な労力
50万〜100万円10〜20アール1人
100万〜200万円20〜30アール1〜2人
200万〜400万円30〜60アール2人+α

1人で10〜20アールから始められる規模感のため、水稲や大豆、他の園芸品目との複合経営、あるいは農外収入との兼業でも取り組めます。実際の産地でも、アスパラガスと水稲、アスパラガスと大豆、春どりアスパラガスときゅうりといった組み合わせが定着しています。比較的軽作業で年齢を問わないことも、この品目が選ばれる理由です。

収穫が始まるまでの2年をどう乗り切るか

アスパラガスの最大の関門は、定植した年に収入がないことです。1年目は播種と定植、株を育てることに専念し、収穫は翌年の春どりから始まります。3年目以降は春どりと夏秋どりの二期どりになり、収量が本格化します。

長崎県が新規就農者向けに示しているハウス栽培のシミュレーションでは、この立ち上がりが年次別の数字で整理されています。1年目に10アールで導入し、3年目と7年目に10アールずつ広げて30アールを目指す想定です。

年次・面積収量・売上所得
1年目・10アール0キロ・0円105.2万円の赤字
2年目・10アール2,000キロ・200万円41.3万円
3年目・20アール3,000キロ・300万円14.4万円
5年目・20アール5,500キロ・550万円191.2万円
10年目・30アール10,000キロ・1,000万円390.2万円

読み方で大事なのは2点です。まず、赤字になるのは1年目だけで、2年目には黒字に転じます。次に、3年目の所得が一度落ち込みます。これは面積を10アールから20アールへ広げた年で、新しく植えた区画がまだ収穫できないためです。拡大のたびに同じことが起きるので、広げる年は手元資金に余裕を持たせておく必要があります。

この1年目の赤字と拡大時の落ち込みを埋めるのが、就農直後の生活費を支える経営開始資金(月13.75万円・最長3年)です。逆に言えば、アスパラガスは就農支援の期間と株が育つ期間がちょうど重なる品目で、制度と相性が良いといえます。

初期費用は大型機械が要りません

アスパラガスの参入コストが軽いのは、専用の大型機械がほとんど要らないからです。トラクターなどは定植前の土づくりでしか使わないため、基本的に購入せず、作業委託や借用でまかなえます。そろえるのは次のような設備です。

  • 防除の機械:動力噴霧機など。
  • かん水設備:株の生育と収量を安定させるために要ります。
  • 出荷調整の設備:冷蔵庫、選別機。鮮度が単価に直結するため、収穫後の冷却が重要です。
  • ハウス:施設栽培にする場合。長崎県の試算ではビニールハウス単棟が460万円(8年で償却)で、2分の1の補助を活用する前提です。管理機は1台20万円。

露地で始めれば、この460万円のハウス投資は不要です。まず露地の小面積で技術を身につけ、収量と販路が固まってから施設化する順序も選べます。施設化する場合のハウスの価格帯や補助の内容は耐候性ハウスの価格と補助の解説で確認できます。なお、アスパラガスは施設野菜としても定着しており、全国の施設野菜の栽培延べ面積で990ヘクタール、品目別で9番目の規模があります。

価格が下がったときの備え

アスパラガスは、野菜価格安定制度のうえでは特定野菜の35品目に含まれます。産地が特定産地の指定を受けていれば、市場価格が下がったときに特定野菜等供給産地育成価格差補給事業から補てんを受けられます。仕組みの要点は次のとおりです。

項目内容
産地の要件面積 概ね5ヘクタール、出荷割合 概ね3分の2
保証基準額過去6年間の卸売市場価格を基礎にした平均価格の80%
補てん率80%
拠出の割合国2・都道府県1・生産者1(アスパラガスの特例)

特定野菜の拠出割合は通常「国1・都道府県1・生産者1」ですが、アスパラガスはかぼちゃ・スイートコーン・ブロッコリーとともに「国2・都道府県1・生産者1」の特例が設けられており、生産者の負担が軽くなっています。加入は産地単位で行うため、就農予定地の産地が特定産地に指定されているかをJAで確認しましょう。制度の全体像は野菜価格安定制度の解説にまとめています。

使える補助金・融資

アスパラガスで新規就農する場合、就農者への交付金と機械・施設への補助、無利子の融資を組み合わせられます。交付金と補助は返還が不要で、個人でも申請できます。

制度対象受けられる内容
経営開始資金就農直後の生活費月13.75万円・最長3年。原則49歳以下
経営発展支援事業ハウス・機械の初期投資事業費の2分の1、上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円)
青年等就農資金ハウス・機械の初期投資無利子の借入。都道府県の就農計画の認定が前提

収穫が始まらない1年目を支えるという意味で、アスパラガスでは経営開始資金の重みがとくに大きくなります。要件や申請の流れは経営開始資金・就農準備資金(新規就農者育成総合対策)の解説で確認できます。金額や要件は年度で変わり、予算の範囲内での採択のため、要件を満たしても必ず交付されるとは限りません。

アスパラガス栽培を始めるまでの流れ

定植から収穫まで時間がかかるぶん、準備の順序が大事になります。産地の支援の流れに沿うと次のとおりです。

  1. 目標所得から面積を決めます。1人なら10〜20アール、2人以上なら30〜60アールが目安です。
  2. 市町村の農林担当課や都道府県の農業改良普及センター、JAに相談します。産地によっては、JA・普及センター・行政が組んだ支援チームが定植から収穫まで段階的に伴走します。
  3. 圃場見学会や個別相談会で、実際の栽培と収穫調製を見ます。研修制度を使えば就農準備資金の対象になります。
  4. 栽培計画をつくり、露地で始めるか施設にするかを決めます。露地なら初期投資を大きくおさえられます。
  5. 就農計画を都道府県の認定につなげ、経営開始資金・経営発展支援事業・青年等就農資金を申請します。
  6. 1年目に播種・定植し、株を育てます。収入がないため、生活費は就農資金や兼業でまかないます。
  7. 2年目の春どりから収穫を始めます。3年目以降は春どりと夏秋どりの二期どりになり、面積を広げながら収量を伸ばします。

よくある質問

アスパラガス栽培は儲かりますか

面積当たりの効率が良い品目です。露地10アールの県の経営試算では、粗収益92万円に対して所得37.4万円、所得率41%で、同じ試算のトマト18%やブロッコリー21%を上回ります。収量を10アール当たり1.5トンまで伸ばせば所得率51%、時給換算で1,456円になります。売上そのものは大きくないため、まとまった所得を得るには面積を広げる必要があり、200万〜400万円をねらうなら30〜60アールと2人以上の労力が目安です。

アスパラガスは何年で収穫できますか

定植の翌年、2年目の春から収穫が始まります。3年目以降は春どりと夏秋どりの二期どりになり、収量が本格化します。一度定植すれば10年以上収穫を続けられるため、初期の1年を乗り切れば長く回収できる作物です。県のシミュレーションでは、1年目は105.2万円の赤字、2年目に41.3万円で黒字化し、10年目には30アールで390.2万円の所得になります。

アスパラガス栽培の初期費用はどれくらいかかりますか

露地で始めるなら、防除の動力噴霧機、かん水設備、出荷調整用の冷蔵庫や選別機が中心で、大きな投資は要りません。トラクターなどの大型機械は定植前の土づくりにしか使わないため、基本的に購入は不要です。施設栽培にする場合は、ビニールハウス単棟が460万円(8年で償却)、管理機が1台20万円という県の試算があり、ハウスには2分の1の補助を活用できます。

アスパラガスの補助金は個人でももらえますか

もらえます。新規就農なら、生活費を支える経営開始資金(月13.75万円・最長3年)と、ハウス・機械に事業費の半分(上限1,000万円)を補助する経営発展支援事業を個人で申請できます。年齢や就農計画の認定などの要件があり、予算の範囲内での採択のため必ず交付されるとは限りません。価格が下がったときの補てんは、アスパラガスが特定野菜に含まれるため、産地単位で価格差補給の対象になります。

未経験でもアスパラガス栽培を始められますか

始められます。比較的軽作業で年齢を問わず取り組めること、大型機械が要らないこと、10〜20アールの小面積から始められることが理由です。産地によっては、JAと県の農業技術普及課、市町村が組んだ支援チームが、圃場見学会や個別相談会を通じて定植から収穫まで段階的に支援しています。まずは就農したい市町村の農林担当課か普及センターに相談しましょう。

キーワード解説

特定野菜

野菜生産出荷安定法にもとづく価格安定制度で、指定野菜14品目に準ずる重要な野菜として位置づけられた35品目です。アスパラガスのほか、にんにく、ブロッコリー、こまつな、にらなどが含まれます。産地が特定産地の指定を受けると、市場価格が下がったときに特定野菜等供給産地育成価格差補給事業から補てんを受けられます。

立茎(りっけい)

春どりの収穫を終えたあと、一部の茎をそのまま伸ばして親茎として残す作業です。この親茎が光合成をして株に養分を蓄えることで、夏秋どりの収穫と翌年の収量が支えられます。二期どり栽培では、この立茎の判断と茎葉管理が収量を左右します。

青年等就農資金

新たに農業を始める認定新規就農者が、機械・施設などの初期投資にあてられる無利子の融資です。日本政策金融公庫などが扱い、都道府県の就農計画の認定を受けた人が対象になります。補助でまかないきれないハウス・設備費を借入で用意する際の選択肢です。