農薬の残留基準を超えた農作物は、出荷したあとでも回収・廃棄の対象になります。その原因の多くは、悪意のある使い方ではなく、使い慣れた農薬でラベルを見なかった、似た名前の作物にも使えると思った、という取り違えです。野菜・果樹・花きなど作物を出荷するすべての農家・農業法人に向けて、農薬取締法で義務になっている5項目と、記録として残す5項目を整理します。

誰が食用・飼料用の作物に農薬を使うすべての農業者。防除を受託する事業者、家庭菜園を含む
守る5項目適用農作物、使用量、希釈倍数、使用時期(収穫○日前まで)、有効成分ごとの総使用回数
罰則3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。両方を科される場合もあり
記録帳簿の記載は努力義務。記載事項は年月日・場所・作物・農薬の種類または名称・使用量または希釈倍数の5つ
超過したとき食品衛生法の残留基準を超えると、出荷した農作物は回収・廃棄の対象
詳しくは手元の農薬ラベルを1本取り出し、下の5項目の表と照らし合わせる

守らないと違反になる5つの項目

不適正な農薬使用を防ぐためのポイント。適用農作物、使用量・希釈倍数、使用時期、使用回数の4つの確認事項と、トマトとミニトマト、ねぎとわけぎなど誤認しやすい農作物21組の一覧。
農林水産省「農薬適正使用情報 農薬ラベル確認編」より、不適正使用を防ぐ確認ポイントと誤認しやすい農作物の例

農薬取締法は、農薬使用者が守るべき基準を省令で定めています。食用と飼料用の作物については、次の5項目が義務です。ラベルの表示に従うという一般的な心得ではなく、違反すれば罰則が適用される線引きとして決まっています。

守る項目内容やりがちな違反
適用農作物ラベルの適用農作物等の範囲に入っていない食用作物に使わない似た名前の作物に登録があるので使えると判断
使用量単位面積当たりの使用量の上限を、面積に応じて換算した量を超えない面積の見積もり違いで濃く多く撒く
希釈倍数希釈倍数の下限を下回る濃さで使わない効きを良くするため規定より濃く希釈
使用時期ラベルの使用時期(収穫○日前までなど)の範囲外で使わない収穫日から逆算せずに追加防除
総使用回数生育期間中の有効成分ごとの総使用回数を超えない商品名が違う農薬で同じ成分を重ねる

登録を受けていない農薬を使うことも禁じられています。ラベルの表示がない資材、非農耕地用として売られている除草剤を作物の栽培や管理に使えば、無登録農薬の使用にあたります。最終有効年月を過ぎた農薬も使わないでください。品質が保証されないうえ、その後に使用基準や残留基準が変わっていて、残留基準を超える可能性があります。

使える作物はラベルの適用農作物で決まります

同じ科の作物でも、形状や栽培のしかたが違えば別の作物として登録されます。名称や形が似ていても、使える農薬と使い方は異なります。国が誤認しやすい例として挙げているのは次の21組です。

この作物とこの作物は別扱い
だいずえだまめ
いんげんまめさやいんげん
キャベツメキャベツ
ブロッコリー茎ブロッコリー
しょうが葉しょうが
しょうがうこん
たまねぎ葉たまねぎ
レタス非結球レタス
トマトミニトマト
ピーマンししとう
だいこんはつかだいこん
しそしそ(花穂)
やまのいもやまのいも(むかご)
さくら食用さくら(葉)
てんさいかえんさい
メロン漬物用メロン
すいか漬物用すいか
とうもろこし(子実)未成熟とうもろこし/ヤングコーン
しゅんぎくきく/食用ぎく
ねぎわけぎ/あさつき
にんにくにんにく(花茎)/葉にんにく

「野菜類」のような作物群で登録があるとき

ラベルの適用農作物が「野菜類」「非結球あぶらな科葉菜類」のような作物群で書かれている場合、その群に含まれる作物に使えます。群に新しく含まれることになった作物も対象です。判断が分かれるのは、群と個別の作物の両方に登録があるときで、この場合は個別の作物についてはその個別登録の内容に従います。

逆向きの読み替えはできません。別名や地方名で個別に登録がある農薬は、その作物に使えるだけで、同じ群のすべての作物に広げることはできません。作物群に含まれる作物へ初めて使うときは、薬害の出方が作物ごとに違うため、先に小面積で試して薬害の有無を確かめてください。

収穫前日数は使用時期の欄で決まります

ラベルの使用時期は「収穫7日前まで」「収穫前日まで」のように書かれています。撒いた日から収穫日までの日数がこの条件を満たしていなければ違反です。判断の起点は散布日ではなく収穫予定日で、逆算して撒ける最終日を決めます。

収穫の直前には、記録簿を見て、最後に使った農薬の使用日から収穫日までの日数がラベルどおり確保されているかを確かめます。追加で防除するかどうか迷う場面ほど、この確認が効きます。

総使用回数は有効成分ごとに数えます

回数の上限は商品ごとではなく、含まれる有効成分の種類ごとに決まります。商品名が違っても同じ有効成分を含む農薬があり、別物として扱うと知らないうちに上限を超えます。記録簿には商品名だけでなく有効成分ごとの回数を書き、使う前にラベルと突き合わせてください。

買った苗や種にも回数が計上される場合があります。育苗段階で農薬が使われ、種苗に有効成分ごとの使用回数が表示されているときは、その回数を上限から差し引いた残りが自分で使える回数です。苗を購入したら、まず表示を確認して自分の持ち回数を把握しておきましょう。

記録に残す5項目と、記録が必要になる場面

農薬を使ったときは、次の5項目を帳簿に記載するよう努めることが省令で定められています。帳簿の記載自体は努力義務で、保存年数の法定はありません。

年月日農薬を使用した日
場所ほ場・ハウスなど使用した場所
作物使用した農作物等の名称
農薬使用した農薬の種類または名称。有効成分ごとの回数も併記
単位面積当たりの使用量または希釈倍数

法律上は努力義務でも、記録がなければ困る場面は出荷側にあります。農産物直売所では、管理者が集荷のときに使用履歴に基づいて使用状況を確認するよう指導されています。直売所へ出す作物も対象です。国際水準GAPの取組や認証でも、農薬の適正使用に関する記録が求められます。残留基準の超過が疑われたとき、適正に使ったことを示せる材料は記録だけです。直売所への出荷を始めるなら、記録簿は出荷開始と同時に用意しておくと後戻りがありません。

使っていない農薬が作物に残る二つの経路

飛散による被害を防ぐための農薬使用時の注意点。飛散の少ない剤型・飛散低減ノズルの使用、無風または風が弱い天候の選択、周辺住民への事前周知、防除機器の機能理解、総合的病害虫・雑草管理(IPM)の3つの取組。
農林水産省「農薬飛散防止情報 飛散防止編」より、飛散による被害を防ぐための注意点

自分では使っていない農薬が作物から検出されることがあります。経路の一つは隣接ほ場からの飛散です。風の弱い時間帯を選ぶ、粒剤など飛散の少ない剤型や飛散低減ノズルを使う、ほ場の外側から内側へ向けて散布する、といった対策が挙げられています。有機農産物の認証を受けようとしている生産ほ場の周辺で作業するときは、とくに飛散に注意してください。

農作物の被害7件のうち5件は隣接ほ場への飛散で、そのうち4件は除草剤の散布によるものです。畦畔への散布でも隣の小麦の穂が変形した例があります。

もう一つの経路は防除器具の洗浄不足です。前の作物に使った農薬がタンクや配管に残り、次の作物に混入します。使用の前後に器具を点検し、洗浄できているかを確かめます。無人マルチローターによる散布は地上での散布より高濃度の農薬を使う場合があるため、ドローンによる農薬散布の手順は機体の取扱説明書と散布計画の側から確認しましょう。

違反したときに起きること

使用基準に違反して農薬を使った場合、農薬取締法の罰則は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、両方を科される場合もあります。無登録農薬の使用も同じ罰則です。法人の従業者が業務として違反したときは、行為者が罰せられるほか、その法人にも罰金が科されます。

実務上の打撃は罰則より先に来ます。残留基準を超えた農作物は回収・廃棄の対象になり、出荷先との取引にも影響します。直近の調査(令和6年度)では、農薬による人への事故は17件18人で、うち2人が亡くなっています。原因は保管管理不良などによる誤飲誤食が5件、防護装備の不足が3件、飛散防止対策の未実施が3件でした。農作物への被害は7件、魚類への被害は4件です。

国は毎年6月1日から8月31日までを農薬危害防止運動の期間としています。令和8年度のテーマは「使用前、周囲よく見て ラベル見て」で、重点的に指導する項目は、ラベルによる使用方法の確認、土壌くん蒸剤使用時の適切な取扱い、住宅地等での周辺への配慮と飛散防止、誤飲・誤食や盗難を防ぐ保管管理の4つです。

使用計画書を出す手順が必要な場合

次の使い方をするときは、その年度に使い始める最初の日までに農薬使用計画書を提出します。計画を変えるときも同じ手続きです。ふつうの地上散布では必要ありません。

  1. 自分が栽培する作物以外にくん蒸で農薬を使う場合は、農林水産大臣へ計画書を提出します(自ら栽培する作物へのくん蒸は対象外です)。
  2. 航空機を使って農薬を使用する場合は、農林水産大臣へ計画書を提出します。あわせて対象区域で風速・風向を観測し、区域外への飛散を防ぐ措置をとります。
  3. ゴルフ場で農薬を使用する場合は、農林水産大臣と環境大臣の両方へ計画書を提出します。

よくある質問

ラベルに「野菜類」とあれば、うちの作物にも使えますか

その作物が「野菜類」に含まれるなら使えます。ただし、同じ農薬に個別作物としての登録もある場合は、その作物には個別登録の内容(使用量・希釈倍数・使用時期・回数)に従ってください。群に含まれる作物へ初めて使うときは、小面積で薬害を確かめてから広げましょう。

防除記録は何年保存すればよいですか

農薬取締法の省令は記載を努力義務としており、保存年数は定めていません。実際の年数は、GAP認証の基準や出荷先・直売所が求める条件で決まります。出荷先やGAP認証の基準に合わせて保存年数を決めましょう。

家庭菜園や自家消費なら基準の対象外ですか

対象です。使用基準は食用・飼料用の作物に農薬を使う人すべてに適用され、販売するかどうかで区別されません。家庭菜園向けの少量パックの農薬でも、ラベルの適用農作物と使用時期、回数は同じように守ります。

木酢液や重曹のような資材は農薬にあたりますか

病害虫の防除に使うのであれば農薬にあたり、登録のないものは使えません。ただし、重曹や食酢のように農林水産大臣と環境大臣が指定した特定農薬(特定防除資材)は登録の対象外で、使用できます。指定された資材の一覧は農林水産省の農薬コーナーにあります。

キーワード解説

適用農作物

その農薬を使ってよい作物として登録され、ラベルに書かれている作物の範囲です。範囲に入っていない食用作物への使用は、農薬取締法違反になります。

有効成分

農薬の効果を担う成分です。商品名が違っても同じ有効成分を含むことがあり、総使用回数はこの成分の種類ごとに数えます。

作物群

「野菜類」「うり類」のように、複数の作物をまとめた登録上の区分です。群で登録された農薬は、その群に含まれる作物に使えます。

総合的病害虫・雑草管理(IPM)

輪作や抵抗性品種、発生予察情報の活用などを組み合わせ、農薬の散布だけに頼らずに病害虫と雑草を抑える考え方です。飛散の影響を避けにくい場面での選択肢になります。

いま確認しておきたいこと

収穫が近い作物ほど、確認の順番は決まっています。まず記録簿で最後の散布日を見て、収穫予定日までの日数がラベルの使用時期を満たしているかを確かめます。次に有効成分ごとの使用回数を数え、上限に達していないかを見ます。買った苗の使用回数表示があれば、それも足して考えます。

ラベルは再評価などで内容が変わります。使い慣れた農薬でも、使う前にその一本のラベルを読み直してください。制度の詳細や個別の農薬の登録内容は、農林水産省の農薬コーナーと農薬登録情報提供システムでご覧ください。