果樹で就農するときに一番の壁になるのが、苗木を植えてから収穫が本格化するまでの空白期間です。みかんやりんご、ももでは数年かかり、その間の生活費をどう用意するかが参入の可否を分けます。いちじくは、この点で果樹のなかでは例外的な品目です。植えた翌年にはもう6割から7割の収量が上がり、3年目には100%になります。面積当たりの単価も高く、小さな園地から始められます。この記事では、いちじくで実際にどれだけの所得が残るのか、露地と施設でどれだけ違うのか、初期費用と使える補助金、就農までの流れを、愛知県の就農モデルと農林水産省の統計をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・栽培方式・販売先によって変わります。

概要

項目内容
対象となる方 果樹で新規就農したい方、収穫までの空白期間が短い果樹を探している方
収穫が始まる時期 定植の2年目で6〜7割、3年目から100%
収益(所得)の目安 10アール当たり 露地43.2万円(所得率22%)、施設177.5万円(所得率34%)
収量・単価の目安 露地 2,800キロ・1キロ700円/施設 4,400キロ・1キロ1,200円
面積の目安 露地15アール+施設10アールの25アールで農業所得250万円(県の就農モデル)
初期費用 ハウスは賃借が前提。暖房機・かん水用配管・動力噴霧機・軽トラック。大型の防除機械は不要
使える資金 経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)、果樹経営支援対策事業、青年等就農資金の借入
相談先 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村、産地の協議会

いちじくは果樹のなかで最も早く収入になります

いちじくが果樹の新規参入で選ばれる最大の理由は、結果樹齢に達するのが早いことです。愛知県が新規就農者向けに示している営農モデルでは、苗木を定植してから2年目で6割から7割、3年目からは100%の収穫ができるとされています。みかんやりんごのように成園まで数年を要する品目と比べると、収入が立つまでの期間が大きく短くなります。

ただし、就農1年目にいちじくの所得はありません。定植した年は樹を育てることに専念します。この1年をどう食いつなぐかだけは、他の果樹と同じように準備が要ります。生活費を支える経営開始資金(月13.75万円・最長3年)が、ちょうどこの立ち上がりの期間に重なります。

収益は露地で43.2万円、施設で177.5万円

いちじくの所得は、露地で作るかハウスで作るかによって大きく変わります。愛知県の就農モデルでは、10アール当たりで次のように整理されています。

項目露地いちじく施設いちじく
収量2,800キロ4,400キロ
単価1キロ700円1キロ1,200円
粗収益196.0万円528.0万円
経費152.8万円350.5万円
所得(所得率)43.2万円(22%)177.5万円(34%)
労働時間535時間775時間

ハウスにすると、収量が1.6倍、単価が1.7倍になり、所得は4倍以上に開きます。労働時間の増え方は1.4倍にとどまるため、時間当たりの効率でも施設のほうが有利です。単価が上がるのは、露地では出せない時期に出荷できることと、雨による裂果を防いで秀品率が上がるためです。

一方で、露地の所得率22%は果樹としては低い部類に入ります。いちじくは収穫と調製に労力が集中する作物で、経費のうち人件費の比重が大きくなるためです。愛知県のモデルでも、労働力は本人1人に加えて収穫期の臨時雇用を前提にしています。

面積の目安は25アールで農業所得250万円

愛知県の営農モデルは、就農5年後に農業所得250万円を目標とする個人経営体を想定しています。いちじくの場合の構成は、露地15アールと施設10アールを組み合わせた合計25アールです。年間の所要労働時間は1,578時間で、労働力は本人1人と収穫期の臨時雇用です。

露地だけで250万円をねらうと58アール前後が必要になり、収穫期の労力が現実的でなくなります。施設を一部入れて単価と収量を上げ、露地と組み合わせて収穫期を分散させるのが、産地で定着している形です。

小さい面積で稼げる品目です

いちじくの全国の位置づけを見ると、面積の小ささのわりに生産額が大きいことが分かります。

指標数値果樹のなかの順位
栽培面積776ヘクタール23位
生産量9,260トン23位
生産額69億円15位

面積と生産量はどちらも23位ですが、生産額は15位です。同じくらいの栽培面積のブルーベリー(983ヘクタール)やびわ(862ヘクタール)と比べても、生産額で上回ります。産地としては愛知県が生産量で全国一で、ブランド力があります。あわせて、いちじくを果樹農業振興計画の振興品目に位置づけている都道府県は多く、兵庫・島根・岡山などでは振興品目の筆頭格として扱われています。就農予定地の県がいちじくを振興品目に入れていれば、産地としての支援を受けやすくなります。

初期費用は大型の防除機械が要りません

いちじくは樹高を低くおさえて育てるため、みかんやりんごのようなスピードスプレーヤーや高所作業の設備が要りません。愛知県のモデルでそろえる設備は次のとおりで、ハウスも賃借を前提にしています。

  • ビニルハウス:1,000平方メートル(10アール)を賃借。新設せず借りることで初期投資をおさえます。
  • 暖房機:1台。施設栽培で出荷時期を早めるために使います。
  • かん水用配管:15アール分。いちじくは乾燥に弱く、かん水が収量と品質に直結します。
  • 動力噴霧機:1台。樹高が低いため小型で足ります。
  • 軽トラック:1台。

露地から始めれば、ハウスと暖房機の分をさらに削れます。まず露地で技術と販路を固め、収量が安定してから施設を足していく順序が現実的です。園地の取得・借地の費用は地域差が大きいため、就農予定地のJAや普及センターで確認しましょう。

使える補助金・融資

いちじくで新規就農する場合に使える公的な支えは、就農者への交付金、植え付けへの補助、そして無利子の融資です。交付金と補助は返還が不要で、個人でも申請できます。

制度対象受けられる内容
経営開始資金就農直後の生活費月13.75万円・最長3年。原則49歳以下
経営発展支援事業ハウス・機械の初期投資事業費の2分の1、上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円)
果樹経営支援対策事業改植・新植、小規模な園地整備産地計画に位置づけられた品目が対象。いちじくも実施実績あり
青年等就農資金ハウス・機械の初期投資無利子の借入。都道府県の就農計画の認定が前提

いちじくは、果樹農業振興特別措置法にもとづく政令指定品目には入っていません。それでも果樹経営支援対策事業では、政令指定品目以外の果樹として静岡・島根・新潟・広島・福岡・和歌山などで改植や新植が実施されています。対象になるかは産地の果樹産地構造改革計画に位置づけられているかで決まるため、就農予定地の協議会に確認しましょう。制度の内容と単価は果樹の改植・新植に使える補助(果樹経営支援対策事業)の解説で確認できます。就農者向けの資金の詳しい要件は経営開始資金・就農準備資金(新規就農者育成総合対策)の解説にまとめています。金額や要件は年度で変わり、予算の範囲内での採択のため、要件を満たしても必ず交付されるとは限りません。

いちじくの販路をどう選ぶか

いちじくは日持ちしません。完熟で収穫するほど味は良くなりますが、その分だけ輸送に耐えられなくなります。この性質が、販路の選び方をそのまま決めます。

  • 共選共販:産地でまとめて選別・出荷します。県のモデルでも全量共選共販が前提です。販売の手間が減り、量をさばけます。
  • 直売所:地元の消費者に完熟品を届けられます。輸送距離が短いぶん、露地の秀品でも単価を取りやすくなります。
  • ネット販売:単価を自分で決められますが、クール便の梱包と発送を自分で担います。傷みやすさを見込んだ荷姿の設計が要ります。
  • 加工向け:ジャムやドライフルーツにすれば、規格外品も収入にできます。

就農の初期は共選共販で販売を安定させ、経営が固まってから直売やネット販売を足す進め方が現実的です。直売・ネット販売の始め方や食品表示の基本は農産物のネット販売の始め方が参考になります。

いちじく栽培を始めるまでの流れ

収穫が早く始まるとはいえ、園地の確保と計画づくりの順序は他の果樹と同じです。手続の順序は次のとおりです。

  1. 露地だけで始めるか、施設を組み合わせるかを決め、目標所得から面積を逆算します。県のモデルでは露地15アール+施設10アールで農業所得250万円です。
  2. 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村に就農相談をします。いちじくを振興品目にしている県では、産地の受け入れ体制が整っていることがあります。
  3. 研修先を見つけ、剪定から収穫調製までを1年かけて学びます。産地の研修制度を使えば就農準備資金の対象になります。
  4. 園地を確保します。いちじくは乾燥に弱いため、かん水ができる園地を選びます。ハウスは新設せず賃借できないかを探します。
  5. 就農計画をつくって都道府県の認定を受け、経営開始資金・経営発展支援事業・青年等就農資金を申請します。産地計画に位置づけられていれば果樹経営支援対策事業の改植・新植補助も申請します。
  6. 1年目に定植し、樹を育てます。この年はいちじくの所得がないため、生活費は就農資金でまかないます。
  7. 2年目に6〜7割、3年目に100%の収穫になります。収穫期の臨時雇用を確保し、販路を広げながら施設化を検討します。

よくある質問

いちじく栽培は儲かりますか

面積当たりの効率が良い品目です。愛知県の就農モデルでは、10アール当たりの所得が露地で43.2万円(所得率22%)、施設で177.5万円(所得率34%)です。全国でも、栽培面積776ヘクタール・生産量9,260トンがともに果樹の23位であるのに対し、生産額69億円は15位と、面積の小ささのわりに稼げる品目であることが分かります。ただし収穫と調製に労力が集中するため、収穫期の人手を確保できるかが分かれ目になります。

いちじくは植えてから何年で収穫できますか

定植の2年目で6割から7割、3年目から100%収穫できます。みかんやりんごのように成園まで数年待つ必要がなく、果樹のなかでは最も早く収入になる品目です。ただし就農1年目はいちじくの所得がないため、その1年分の生活費は経営開始資金や兼業で用意しておく必要があります。

いちじくは露地と施設のどちらがよいですか

所得だけで見れば施設です。10アール当たりで露地43.2万円に対し施設177.5万円と4倍以上の差があります。ハウスにすると収量が2,800キロから4,400キロへ、単価が1キロ700円から1,200円へ上がるためです。ただしハウスの費用と暖房費がかかるため、就農時は露地から始めて技術と販路を固め、あとから施設を足す進め方も一般的です。県の就農モデルも、露地15アールと施設10アールを組み合わせた形になっています。

いちじく栽培の初期費用はどれくらいかかりますか

果樹のなかでは軽いほうです。樹高を低くおさえて育てるため、スピードスプレーヤーや高所作業の設備が要らず、動力噴霧機は小型で足ります。県のモデルでそろえるのは、ビニルハウス1,000平方メートル(賃借)、暖房機1台、かん水用配管15アール分、動力噴霧機1台、軽トラック1台です。ハウスを賃借にすることで初期投資をおさえる設計になっています。露地だけで始めれば、さらに費用を削れます。

いちじくの補助金は個人でももらえますか

もらえます。新規就農なら、生活費を支える経営開始資金(月13.75万円・最長3年)と、ハウス・機械に事業費の半分(上限1,000万円)を補助する経営発展支援事業を個人で申請できます。植え付けについては、いちじくは政令指定品目ではないものの、果樹経営支援対策事業で政令指定品目以外の果樹として改植・新植が実施されている県があります。産地の果樹産地構造改革計画に位置づけられているかで決まるため、産地の協議会に確認しましょう。

キーワード解説

未収益期間

苗木を植えてから、樹が育って収穫・出荷が本格化するまでの期間です。果樹では数年に及ぶことが多く、この間の生活費の確保が新規参入の壁になります。いちじくは定植2年目で6〜7割、3年目で100%の収穫になるため、果樹のなかでは未収益期間が短い品目です。

改植・新植

改植は既存の樹を伐採・抜根して優良な品種や省力的な樹形に植え替えること、新植は果樹が植わっていない土地に新たに植え付けることです。果樹経営支援対策事業の対象になりますが、対象品目は産地の果樹産地構造改革計画に位置づけられているかで決まります。いちじくは政令指定品目以外の果樹として実施されている県があります。

共選共販

産地の生産者が持ち寄った果実を、共同の選果場でまとめて選別・格付けし、共同で販売するしくみです。個々の農家が選別・出荷先の確保をしなくて済む代わりに、出荷手数料がかかります。日持ちしないいちじくでは、産地としてまとめて売り先を確保できる利点が大きくなります。

出典:愛知県「新規就農者用 営農モデル一覧表」のイチジク(平坦)モデル(収量・単価・粗収益・経費・所得・労働時間・主要施設・結果樹齢に達する早さ。就農5年後に農業所得250万円を目標とする個人経営体の想定)、農林水産省「果樹のページ(果樹をめぐる情勢)」(品目別の栽培面積・生産量・生産額とその順位、果樹経営支援対策事業の実施状況、都道府県の果樹農業振興計画の振興品目)、農林水産省「新規就農者育成総合対策(経営開始資金・経営発展支援事業)」。所得・収量・単価は県の営農モデルによる目標値で、就農初年度の水準ではありません。産地・栽培方式・規模・販売先・年によって異なります。補助や資金の金額・要件は年度で変わるため、就農計画づくりの段階で都道府県の農業改良普及センター・JA・産地の協議会と最新の情報をご確認ください。