にんにくは、野菜のなかでも販売単価が高く、作付面積が増えている数少ない品目です。育苗が要らず、小さな面積から手作業で始められるため、設備投資の負担も軽くすみます。定植は秋、収穫は初夏で水稲の忙しい時期を避けられることから、水田の転作先としても広がっています。この記事では、にんにくで実際にどれだけの所得が残るのか、始めるときに何にお金がかかるのか、水田で作る場合の収入の違い、使える補助金と就農までの流れを、青森県の経営指標と農林水産省の統計をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・規模・販売先によって変わります。

概要

項目内容
対象となる方 にんにくで新規就農する方、水田の転作で高収益作物を探している米農家
収益(所得)の目安 10アール当たり約22万円。にんにく60アール+ピーマン10アールの経営で所得178.5万円(所得率31.2%)
単収・単価の目安 10アール当たり606キロ、1キロ1,502円
初期費用 育苗設備・ハウスは不要。50アール程度まで手作業で植付可能。機械一式は総事業費979.9万円が例で、2分の1補助なら自己負担490万円
作期 定植10月、収穫5月上旬から中旬。水稲の農繁期と重ならない
使える資金 経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)、青年等就農資金の借入、特定野菜の価格差補給
販路 市場出荷、業務加工向けの契約販売、直売所、ネット販売
相談先 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村

にんにくの収益は10アール当たり約22万円

にんにくで実際にどれだけ残るのかは、日本一の産地である青森県の経営指標が参考になります。この指標は、就農後3〜5年を経過した新規就農者のうち経営的に中庸な13名の平均をもとにしたもので、机上の試算ではなく実績にもとづく数字です。

項目金額・数量
粗収益573.1万円
経営費394.6万円
所得(所得率)178.5万円(31.2%)
10アール当たり所得22.3万円
販売単収10アール当たり606キロ
販売単価1キロ1,502円

この経営は、にんにく60アールとピーマン10アールを組み合わせた合計70アールの規模です。所得率31.2%は野菜としては高い水準で、1キロ1,502円という販売単価がそれを支えています。にんにくが値くずれしにくい背景には、輸入への依存があります。生鮮野菜の輸入額のおよそ9%をにんにくが占めており、国産の引き合いが強い品目です。

規模を広げると10アール当たりの所得も上がります

にんにくは、機械化と作付拡大で所得を伸ばしやすい作物です。同じ青森県の指標では、乗用の植付機・管理機・収穫機を入れて作付けを160アールまで広げ、緑肥60アールを組み合わせた230アールの経営で、所得が566.2万円(所得率36.9%)に伸びます。10アール当たりの所得も22.3万円から33.3万円へ上がります。単収が606キロから691キロへ、単価も大玉生産で1,652円へ上がるためです。

あわせて、労働時間の重さも変わります。機械を入れる前は10アール当たり209時間、雇用が延べ48人必要でしたが、機械化後は10アール当たり115時間、雇用は延べ11人まで減ります。にんにくは植え付けと収穫調整に労力が集中する作物なので、面積を広げるなら機械化とセットで考える必要があります。

初期費用は「機械をどこまで入れるか」で決まります

にんにくの参入コストが軽いのは、施設が要らないからです。トマトやいちごのようにハウスを建てる必要がなく、育苗も不要で、種球をそのまま畑に植え付けます。50アール程度までなら手作業で植え付けられるため、始めるときは畑と最低限の防除・運搬の道具があれば足ります。

費用が大きくなるのは、面積を広げて機械化する段階です。青森県の指標では、機械一式の追加投資が次のように積算されています。

機械価格導入で減る作業
乗用にんにく植付機214.0万円植付けの作業時間を80%削減
乗用管理機338.9万円防除の作業時間を45%削減
にんにく1条掘り収穫機268.0万円収穫の作業時間を69%削減、雇用4人分を削減
にんにく乾燥機セット159.0万円収穫後の乾燥調製
総事業費979.9万円2分の1補助で自己負担490.0万円

この総事業費979.9万円に対して2分の1の補助を受け、自己負担を490万円におさえる想定になっています。就農時にこれを一度にそろえる必要はありません。小面積を手作業で始め、収穫調整の労力が限界に達したところで機械を足していく順序が現実的です。なお、にんにくは種球そのものが高価で、経営費のなかで種苗費の比重が大きい点にも注意が要ります。

水田の転作でにんにくを作る

にんにくが水田の転作先として選ばれるのは、作期が水稲とぶつからないからです。定植は10月、収穫は5月上旬から中旬で、田植えから稲刈りまでの農繁期を避けて栽培できます。米づくりを続けながら、空いた時期の労力で収入を足せる組み合わせになります。

収入の差もはっきりしています。JA全農埼玉県本部が県西部で行った水田転作の試験では、10アール当たりの収入試算が次のように整理されています。

作物・出荷先前提10アール当たり収入
主食用米1等から3等7.8万円〜9.2万円
飼料用米水田活用交付金を含む約9.4万円
にんにく(市場向け)700キロ出荷・1キロ700円49万円
にんにく(加工向け)700キロ出荷・1キロ420円30万円
にんにく(市場向け・目標)1,000キロ出荷・1キロ800円80万円

市場向けなら主食用米のおよそ3倍以上、加工向けでも3倍前後の収入になります。実際に同管内の園芸農家が900キロを市場向けに出荷し、10アール当たり70万円を得た事例もあります。ただしこれは収入であって所得ではありません。種苗費・肥料・農薬・マルチなどの資材費が別にかかるため、手元に残る額は前掲の経営指標(10アール当たり約22万円)に近い水準で見ておくのが安全です。

にんにくを水田で作る場合、産地によっては水田活用の直接支払交付金の産地交付金で高収益作物として支援を受けられることがあります。対象になるかは地域農業再生協議会の設定によって変わるため、作付け前に確認しましょう。

面積は小さく始めて3年で広げます

にんにくで最も労力がかかるのは収穫と調製で、しかも収穫適期は3週間ほどしかありません。ここを読み違えると、収穫しきれずに品質を落とします。産地が示している面積の刻み方は次のとおりです。

  • 1年目:3〜5アール。作業量と適期の感覚をつかむ規模にとどめます。
  • 3年目:10〜20アール。栽培と調製の段取りが固まってから広げます。
  • 家族3〜4人での上限:50アール程度。これを超えるなら雇用か機械化が要ります。

種球をばらす作業にも手間がかかるため、ばらし済みの種球を手配できるかどうかで初年度の負担が変わります。JAや種苗業者に相談しておきましょう。

使える補助金・融資

にんにくで新規就農する場合に使える公的な支えは、就農者への交付金、機械・施設への補助、そして無利子の融資です。交付金と補助は返還が不要で、個人でも申請できます。

制度対象受けられる内容
経営開始資金就農直後の生活費月13.75万円・最長3年。原則49歳以下
経営発展支援事業機械・施設の初期投資事業費の2分の1、上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円)
青年等就農資金機械・施設の初期投資無利子の借入。都道府県の就農計画の認定が前提
特定野菜等供給産地育成価格差補給事業価格が下がったときの補填にんにくは特定野菜35品目の一つ。産地単位で加入

にんにくは、価格安定制度のうえでは特定野菜に位置づけられています。指定野菜14品目に準ずる重要な野菜として、価格が下がったときに補填を受けられる仕組みがあり、加入は産地単位で行います。就農予定地の産地が対象になっているかをJAで確認しましょう。就農者向けの資金の詳しい要件は経営開始資金・就農準備資金(新規就農者育成総合対策)の解説で確認できます。金額や要件は年度で変わり、予算の範囲内での採択のため、要件を満たしても必ず交付されるとは限りません。

にんにくの販路をどう選ぶか

にんにくは単価の高い品目ですが、出荷先によって手取りが大きく変わります。前掲の試算でも、市場向け1キロ700円に対して加工向けは420円と、単価に開きがあります。

  • 市場出荷:単価は高くなりやすい一方、規格をそろえる選別・調製の手間がかかります。L規格中心に出せると単価が伸びます。
  • 業務加工向けの契約販売:単価は下がりますが、量をまとめて出せて規格の縛りがゆるく、販売先が安定します。
  • 直売所:地元向けに少量から出せます。乾燥・調製の仕上がりがそのまま評価につながります。
  • ネット販売:単価を自分で決められ手取りは増えますが、集客・梱包・発送を自分で担います。

始めのうちは市場出荷や契約販売で販売を安定させ、経営が固まってから直売やネット販売を足す進め方が現実的です。直売・ネット販売の始め方や食品表示の基本は農産物のネット販売の始め方が参考になります。

にんにく栽培を始めるまでの流れ

就農までは、相談から準備、作付けの拡大まで段階を追って進みます。手続の順序は次のとおりです。

  1. 作付面積・販売先・所得目標を決め、種苗費と資材費を含めた資金計画のイメージを固めます。
  2. 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村に就農相談をします。水田の転作で始める場合は、地域農業再生協議会にも産地交付金の扱いを確認します。
  3. 研修先を見つけ、植付けから収穫調製までの一連の作業を1年かけて経験します。産地の研修制度を使えば就農準備資金の対象になります。
  4. 畑または転作する水田を確保します。にんにくは乾燥を嫌うため、水はけが良すぎる圃場より水持ちの良い圃場を選びます。
  5. 就農計画をつくって都道府県の認定を受け、経営開始資金・経営発展支援事業・青年等就農資金を申請します。
  6. 1年目は3〜5アールで試作し、収穫適期の短さと調製の労力を体で把握します。
  7. 3年目に10〜20アールへ広げ、雇用か機械化の判断をしたうえでさらに拡大します。価格変動に備えて収入保険への加入も検討します。

よくある質問

にんにく栽培は儲かりますか

野菜のなかでは収益性の高い品目です。青森県の経営指標では、にんにく60アールとピーマン10アールの経営で所得178.5万円、所得率31.2%、10アール当たりの所得は約22万円です。販売単価が1キロ1,502円と高いことが支えになっています。機械化して160アールまで広げた場合は所得566.2万円、10アール当たり33.3万円まで伸びます。ただし収穫と調製に労力が集中するため、面積に見合った労働力を確保できるかが分かれ目になります。

にんにく栽培の初期費用はどれくらいかかりますか

小さく始めるなら、ほとんどかかりません。にんにくはハウスも育苗設備も要らず、50アール程度までは手作業で植え付けられます。主な出費は種球と肥料・農薬・マルチなどの資材費です。面積を広げて機械化する段階では、乗用植付機214万円、乗用管理機338.9万円、1条掘り収穫機268万円、乾燥機セット159万円の総事業費979.9万円という積算例があり、2分の1の補助を使えば自己負担は490万円になります。

水田でにんにくを作れますか

作れます。定植が10月、収穫が5月上旬から中旬のため、水稲の農繁期と重なりません。にんにくは乾燥を嫌うので、水はけが良すぎる圃場よりも水持ちの良い圃場が向いています。収入面では、主食用米の10アール当たり7万8千円から9万2千円に対し、市場向けに700キロ出荷できれば49万円が見込めます。産地によっては水田活用の直接支払交付金の産地交付金で高収益作物として支援を受けられるため、地域農業再生協議会に確認しましょう。

にんにくの補助金は個人でももらえますか

もらえます。新規就農なら、生活費を支える経営開始資金(月13.75万円・最長3年)と、機械・施設に事業費の半分(上限1,000万円)を補助する経営発展支援事業を個人で申請できます。いずれも年齢や就農計画の認定などの要件があり、予算の範囲内での採択のため必ず交付されるとは限りません。価格が下がったときの補填は、にんにくが特定野菜に位置づけられているため、産地単位で価格差補給の対象になる場合があります。

未経験でもにんにく農家になれますか

なれます。にんにくは育苗が要らず、小面積なら手作業で完結するため、野菜のなかでは参入のハードルが低い品目です。まずは3〜5アールで試作し、収穫適期が3週間ほどしかないことと調製の労力を経験してから広げるのが安全です。研修先の紹介や資金の相談は、都道府県の農業改良普及センターやJAで受けられます。

キーワード解説

単収(反収)

10アール(1反)当たりの収量です。にんにくは青森県の経営指標で10アール当たり606キロが目安で、優良種苗の導入や基本技術の徹底で691キロまで伸ばせるとされています。所得は、この単収と販売単価でおおむね決まります。

特定野菜

野菜生産出荷安定法にもとづく価格安定制度で、指定野菜14品目に準ずる重要な野菜として位置づけられた35品目です。にんにくのほか、アスパラガス、ブロッコリー、こまつな、にらなどが含まれます。産地が特定産地の指定を受けると、価格が下がったときに特定野菜等供給産地育成価格差補給事業の補填を受けられます。

青年等就農資金

新たに農業を始める認定新規就農者が、機械・施設などの初期投資にあてられる無利子の融資です。日本政策金融公庫などが扱い、都道府県の就農計画の認定を受けた人が対象になります。補助でまかないきれない機械費を借入で用意する際の選択肢です。