シャインマスカットの人気を追い風に、ぶどうで新規就農を考える方が増えています。この記事では、ぶどう(とくにシャインマスカット)で就農するときに知っておきたいお金の話を中心に整理します。10アール当たりの農業所得の目安、植え付けから収穫までの年数と育成期間、初期費用、使える就農資金と補助、産地の研修や農地の受け入れ、そして始めるまでの流れです。栽培技術の詳細ではなく、始める・続けるための判断材料に絞ります。収益や費用は地域・品種・作型で大きく変わるため、金額は公的な経営指標をもとにした目安として示します。

概要

項目内容
対象となる方 ぶどう(シャインマスカット等)で新規就農したい方、果樹経営を検討する農業者
収益の目安 10アール当たり農業所得は巨峰の露地で約34万円、無核で約66万円(長野県経営指標)。シャインマスカットは高単価
結実までの年数 植え付け後、収量が本格化するまで数年。育成期間は収入が乏しい
初期費用の主なもの 果樹棚・雨よけの設置、苗木の新植、農地の取得・借入、育成期間の生活費
使える支援 年最大150万円の就農準備・経営開始資金、経営発展支援事業、改植・新植の補助、収入保険
産地の受け入れ JA・市町村・県による研修、園地と住居のマッチング。空き園地の有無は産地で差
相談先 都道府県の就農支援センター、JA、市町村、農業大学校

ぶどうはお金になるのか

ぶどうは、いま果実の中で産出額が最も大きい品目です。優良品種への転換が進み、令和4年のぶどうの産出額は約1,925億円と、りんごやみかんを上回りました。牽引しているのがシャインマスカットです。皮ごと食べられて種がなく、着色管理の手間が少ないことから作りやすく、栽培面積は数年で約2倍に広がりました。卸売価格も高く、就農先として選びやすい品目になっています。

果実産出額の品目別推移。ぶどうは令和4年に約1,925億円で果実の中で最大となり、りんご約1,680億円・みかん約1,557億円を上回る。シャインマスカットの栽培面積は平成28年約1,196ヘクタールから令和3年約2,346ヘクタールへ拡大。
農林水産省「果樹農業の現状と課題について」

一方で、果樹全体では担い手の高齢化が進み、栽培面積も生産量も減っています。販売農家は65歳以上が約7割を占め、離農も進むため、意欲のある新規就農者が入る余地は広がっています。つまり、需要と価格に恵まれた品目でありながら、作り手が足りない状況です。ここに、始めるチャンスと、始めた後に長く続けられる理由があります。

10アール当たりの収益の目安

ぶどう経営の収益は、品種と作型で大きく変わります。まず、公的な経営指標で全体感をつかみましょう。長野県がまとめた10アール当たりの経営指標では、巨峰の収益は次のとおりです。無核(種なし)栽培にすると単価が上がり、農業所得も所得率も高くなります。

作型農業所得(10アール)農業所得率年間労働時間
巨峰(露地)約34万円約27%約311時間
巨峰(無核・種なし)約66万円約41%約342時間
醸造用ぶどう(専用種)約5万円約19%約118時間

数値は長野県の令和4年産の経営指標による目安で、原油価格や物価の高騰は反映していません。醸造用ぶどうは単価が低く、これだけで生計を立てるのは難しい水準です。生食用の高級品種でこそ、ぶどう経営は成り立ちます。

そのシャインマスカットについては、島根県がまとめた導入経過モデル(既存のハウスを使う前提の試算)が参考になります。植え付け直後は収量が少なく所得率も2割ほどですが、収量が最大化する5年目以降は所得率が8割近くまで高まります。年数の経過で収益がどう立ち上がるかがよく分かります。

段階収量(10アール)農業所得(10アール)農業所得率
植え付け2年目(初収穫)約137キログラム約4万円約20%
3〜4年目約1,107キログラム約121万円約72%
5年目以降(収量最大化)約1,800キログラム約212万円約78%

この試算は特定の産地の調査に基づく目安で、単価や費用は年や地域で変わります。それでも、育成期間は収入が乏しく、数年かけて所得が立ち上がっていく流れは、どの産地でも共通します。就農計画は、この立ち上がりの数年を見込んで立てましょう。

初期費用と結実までの育成期間

ぶどうは棚に枝を這わせて育てる棚栽培が基本です。始めるときは、この果樹棚の設置や雨よけの整備、苗木の新植に費用がかかります。金額は園地の広さや設備の内容で変わるため、就農予定の産地やJA、農業大学校で見積りを確認しましょう。機械や施設への投資は、後述の経営発展支援事業の対象になり得ます。

あわせて必ず見込みたいのが、収入の乏しい育成期間です。苗木を植えてから収量が本格化するまでには数年かかり、その間の生活費と管理費を用意しておく必要があります。ある産地では、幼木の管理期間中に既存のぶどう園の作業を請け負って収入を確保する例もあります。新植や育成期間を支える国の補助については、果樹の改植・新植に使える補助(果樹経営支援対策事業)の解説で確認できます。

使える就農資金と支援

初期費用と育成期間を乗り切るために、公的な支援を組み合わせましょう。個人がまず頼れるのは、就農の資金と機械・施設の補助です。

  • 就農準備資金・経営開始資金:49歳以下で新たに就農する方が対象で、研修や経営開始の時期に年最大150万円を受けられます。
  • 経営発展支援事業:就農後の機械・施設などの導入に使える補助で、補助対象事業費の上限は1,000万円です。国が都道府県の補助額と同額を上乗せします。
  • 収入保険:価格の低下や自然災害で収入が下がったときに備えられます。

就農資金の対象や要件、申請の窓口は就農準備資金・経営開始資金(新規就農者育成総合対策)の解説で確認できます。ぶどうは高温による着色不良などで収量が振れやすい品目です。収入の下振れリスクには果樹共済と収入保険の解説で備え方を確認しておきましょう。

産地の研修と農地の受け入れ

ぶどうは整枝・せん定や新梢管理、ジベレリン処理、袋掛けなど手作業が多く、10アール当たりの年間労働時間は約307時間に達します。収穫期などに労働のピークが集中するため、技術の習得と、農地・住居・労働力の確保をセットで進めることが大切です。多くの産地では、JAや市町村、県が研修生を受け入れ、園地や住居のマッチングまで支援しています。

気をつけたいのが園地の確保です。ぶどうは離農が少なく、現役の農家が多い産地では空き園地がほとんどないこともあります。そうした地域では、水田を転換して新しい園地を造成したり、就農予定の園地を用意したうえで研修生を募集したりする取り組みが進んでいます。専業に十分な面積を確保しづらい場合は、農外の収入と組み合わせて始める選択肢もあります。まずは就農したい産地の受け入れ状況を、県の就農支援センターやJAに確認しましょう。

始めるまでの流れ

未経験からぶどうで就農するときの一般的な進め方は次のとおりです。産地によって順番や内容は異なります。

  1. 就農したい産地を決め、県の就農支援センターやJAの相談窓口に連絡します。
  2. 農業大学校や産地の研修制度で、ぶどうの栽培と経営の技術を身につけます。就農準備資金の活用を検討します。
  3. 研修と並行して、園地と住居を探します。空き園地が少ない産地では、水田転換や研修園ののれん分けなども確認します。
  4. 就農計画を立て、経営開始資金や経営発展支援事業などの申請を進めます。育成期間の生活費も見込みます。
  5. 果樹棚や雨よけを整え、苗木を新植します。幼木の管理期間は作業受託などで収入を補うことも検討します。
  6. 数年かけて樹を育て、収量が本格化したら販路を広げ、収入保険で経営を安定させます。

注意点

ぶどう経営を始める前に、次の点を押さえておきましょう。

  • 醸造用ぶどうは単価が低く、これだけで専業の生計を立てるのは難しい水準です。生食用の高級品種で計画を立てるのが基本です。
  • 育成期間は収入が乏しく、初期費用と数年分の生活費が必要です。資金計画に育成期間を必ず織り込みます。
  • 労働のピークが収穫期などに集中し、臨時の雇用が必要になりがちです。労働力の確保を早めに考えます。
  • 高温による着色不良など、温暖化の影響で収量・品質が振れやすくなっています。収入保険などで備えます。
  • シャインマスカットは海外でも栽培が広がり、輸出市場では外国産との価格競争が激しくなっています。国内向けの品質と販路で差をつける工夫が要ります。

よくある質問

ぶどう農家は儲かりますか

品種と作型で大きく変わります。長野県の経営指標では、10アール当たりの農業所得は巨峰の露地で約34万円、無核栽培で約66万円が目安です。シャインマスカットのように単価の高い品種では、収量が本格化すればさらに高い所得も見込めます。一方、醸造用ぶどうは単価が低く、生食用の高級品種で計画を立てるのが基本です。金額は地域・年で変わるため目安として捉えてください。

未経験でもぶどうで就農できますか

できます。多くの産地で、JAや市町村、県が未経験者向けの研修を用意し、園地や住居のマッチングまで支援しています。まずは就農したい産地の就農支援センターやJAに相談し、研修制度と受け入れ状況を確認しましょう。研修期間は就農準備資金の対象になり得ます。

植え付けから収穫まで何年かかりますか

苗木を植えてから収量が本格化するまでには数年かかります。その間は収入が乏しい育成期間で、生活費と管理費を用意しておく必要があります。ある試算では、植え付け2年目の初収穫は所得率2割ほどで、収量が最大化する5年目以降に所得率が8割近くまで高まります。資金計画にはこの立ち上がりの数年を織り込みましょう。

初期費用にはどんなものがありますか

果樹棚や雨よけの設置、苗木の新植、農地の取得・借入、そして育成期間の生活費が主なものです。金額は園地の広さや設備で変わるため、就農予定の産地やJAで見積りを確認しましょう。機械・施設への投資は経営発展支援事業(補助対象事業費の上限1,000万円)の対象になり得ます。

キーワード解説

シャインマスカット

農研機構が育成し、皮ごと食べられて種のない大粒のぶどう品種です。着色管理の手間が少なく作りやすいことから栽培面積が急拡大し、卸売価格も高く、就農先として人気があります。海外でも栽培が広がり、輸出市場では外国産との競争が課題になっています。

果樹棚(棚栽培)

ぶどうの枝を水平に張った棚に這わせて育てる仕立て方です。作業性と品質管理にすぐれる一方、始めるときに棚の設置費用がかかります。雨よけを組み合わせると病害や裂果を抑えられますが、その分の投資も必要です。

育成期間

苗木を植えてから収量が本格化するまでの、収入が乏しい期間です。果樹は結実まで数年かかるため、この間の生活費と管理費を見込む必要があります。新植や育成期間を支える国の補助もあり、幼木の管理中に作業受託で収入を補う産地もあります。

就農準備資金・経営開始資金

新規就農者育成総合対策のうち、49歳以下で新たに就農する方を支える資金です。研修に専念する準備段階と、経営が軌道に乗るまでの開始時期に、それぞれ年最大150万円を受けられます。対象や要件は市町村・都道府県の窓口で確認します。

無核(種なし)栽培

ジベレリン処理などで種のないぶどうを作る栽培方法です。食べやすさから需要が高く、単価が上がるため、同じ巨峰でも露地より農業所得も所得率も高くなります。処理の時期や回数に手間がかかります。