こんにゃくいもは、種いもを植えてから収穫まで2〜3年かかる、少し変わった作物です。国内の収穫量の9割以上を群馬県が占め、中山間地域の基幹作物として作られています。この記事では、こんにゃくいもがどんな作物か、栽培の一年と労働負担、主産地の生産状況、輸入品と競合するなかで高い関税で守られている背景、そして産地の機械導入や省力化に使える補助金を、これから始めたい方・続けたい方の判断に沿って整理します。年産ごとの数値は農林水産省の一次情報でご確認ください。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象読者 | こんにゃくいも農家を始めたい方・続けたい方、産地の関係者 |
| 作物の特徴 | サトイモ科の多年生。種いもから収穫まで2〜3年。生いもを精粉に加工しこんにゃくの原料 |
| 主産地 | 収穫量の9割以上が群馬県。中山間地域の基幹作物。栽培面積は減少・経営は大規模化 |
| 栽培の要点 | 収穫・調製の労働負担が大きい。根腐病対策と適期収穫・貯蔵。越冬栽培などで省力化 |
| 使える支援 | 実証・機械導入(上限1,000万円)、産地生産基盤パワーアップ、収入保険、新規就農支援 |
| 詳しくは | 農林水産省「こんにゃく」、一般財団法人日本こんにゃく協会をご覧ください |
こんにゃくいもとはどんな作物か
こんにゃくいもは、サトイモ科コンニャク属の多年生植物です。東南アジア原産といわれ、日本では古くから栽培されてきました。2〜3年かけて肥大した球状の地下茎(球茎)が、こんにゃくの原料になります。米や野菜のように植えたその年に収穫できる作物ではなく、複数年をかけて育てる点が、経営を考えるうえでの大きな特徴です。
栽培では、種いもを更新しながら年数をかけて大きく育てます。春に種いもを植えると、新しいいもである生子(きご)ができます。これを秋にいったん収穫し、翌春に植え直したものが2年生、さらに翌春に植えて秋に収穫したものが3年生です。生いもは冬の間、翌年の種いもとして貯蔵します。この種いもの管理と貯蔵が、こんにゃく栽培に独特の手間と経費を生みます。
収穫した生いもは、そのままでは日持ちしないため、産地の荒粉・精粉加工業者が買い取り、乾燥・製粉して精粉(こんにゃく粉)に加工します。精粉を水で溶き、水酸化カルシウムなどの凝固剤を加えて練るとゲル化し、板こんにゃくやしらたきなどの製品になります。生産者が出荷する先は、商系の集荷業者が約6割、農協が約3割で、残りは生いもこんにゃく向けに直接出荷されています。
こんにゃく栽培の一年と作業の特徴
こんにゃくいもの作業は、2月ごろの種いも選別と土壌消毒に始まり、4〜5月に植付け、生育期間中の病害虫防除を経て、10〜11月に収穫する流れです。1年目に収穫した生子を貯蔵し、翌春また植え直すため、この一年を2〜3回繰り返して出荷用のいもを育てます。
労働負担は大きい作物です。群馬県の調査では、10アール当たりの作業時間は全体で約84.5時間にのぼり、このうち収穫・調製が39%(約32.6時間)、植付けが14%(約11.7時間)を占めます。種いも選別にも約20時間かかります。とくに収穫は、掘取り・拾い上げ・選別の工程を一貫して行う機械化体系がまだ確立しておらず、規模を広げた経営ほど繁忙期の雇用労働力の確保が課題になっています。
そのため産地では、作業を減らす技術の導入が進んでいます。1年目の掘取りと種いも貯蔵、2年目の土壌消毒や植付けを省ける「こんにゃく越冬栽培」は、群馬県西部地域を中心に約79ヘクタールで導入されています。培土・施肥・薬剤散布・麦の播種を同じ工程で行う培土同時複合作業機を使えば、その作業の時間を約7割減らせます。栽培を続けるうえでは、こうした省力化と機械化をどう取り入れるかが要点になります。
主産地は群馬県、生産の今
こんにゃくいもは、収穫量の9割以上を群馬県が占める、産地が集中した作物です。直近の令和7年産では、全国の収穫量38,500トンのうち群馬県が37,000トン(約96%)を占め、栽培面積でも全国2,590ヘクタールのうち群馬県が2,400ヘクタール(約93%)を占めます。栃木県・茨城県・長野県・埼玉県などにも産地がありますが、規模は大きくありません。群馬県では昭和村・渋川市・沼田市など県北西部を中心に、中山間地域の基幹作物として作られています。
栽培面積は長期的に減っています。全国の栽培面積は令和元年産の3,660ヘクタールから直近の2,590ヘクタールまで縮小しました。一方で、経営の姿は大きく変わっています。主産地である群馬県では、こんにゃくいも栽培農家数がこの20年でおよそ4分の1に減った半面、一戸当たりの平均栽培面積は1.0ヘクタールから3.3ヘクタールへ拡大しました(全国平均は1.1ヘクタールから1.6ヘクタール)。5ヘクタール以上の大規模経営農家の割合は約3割にのぼり、担い手への集約と大規模化が進んでいます。
品種では、機械での植付けに向く球状の生子が多く、病害に強く精粉の歩留まりが高い「みやままさり」が広がり、栽培面積の第1位になっています。かつて第1位だった「あかぎおおだま」がこれに続きます。こんにゃくいもは気象や病害の影響を受けやすく、単収の年次変動が大きい作物です。直近の令和7年産は高温と少雨の影響で、作況指数の平年比が70まで落ち込みました。
高い関税と特別セーフガードで守られる品目
こんにゃくいもは、輸入品との競合にさらされやすい畑作物です。同じ地域特産の畑作物であるでん粉原料用いもやそば・なたねが、諸外国との生産条件の格差を埋める交付金(畑作物の直接支払交付金=ゲタ対策)で支えられているのに対し、こんにゃくいもは高い関税と特別セーフガードによって国内生産が守られている点が特徴です。
輸入されるこんにゃくいもには、一定の数量までは40%の関税がかかり、その枠を超えた分には1キログラム当たり2,796円という高い関税が課されます(後発開発途上国からの輸入は無税)。この仕組みのもとで、精粉に換算した国内流通のうち国産が8〜9割を占めています。輸入のこんにゃくいもはミャンマーからが中心ですが、輸入量は近年大きく減り、直近では国産の収穫量に対してごくわずかです。
加えて、輸入量が急に増えたときには特別セーフガード(SSG)が働きます。年度の累計輸入量が輸入基準数量(直近では73トン)を超えると、自動的にその翌々月から年度末まで、通常の関税に3分の1の追加関税が上乗せされ、1キログラム当たり3,728円まで引き上げられます。こうした国境措置があるため、国産こんにゃくいもは価格の面で輸入品と直接たたき合う度合いが小さく、産地が維持されてきました。国産と輸入のこんにゃくいもの価格差は、かつての4.7倍から近年は1.5倍程度まで縮まっています。
収量と価格が動きやすい経営の注意点
こんにゃくいもは、気象や病害で作柄が毎年大きく変わります。収穫量が動けば、生いもの価格も大きく動きます。直近の調査では、収穫量が大きく減った年産で生いも価格が30キログラム当たり約4,300円まで上昇し、前年の約2,700円から大きく変動しました。反対に、収穫量が多い年産では価格が下がることもあり、単年の作柄に経営が左右されやすい作物です。なお、こうした生いも価格は加工業者への売り渡し価格で、栽培や年により大きく変わるため、収入の見込みとして一律に当てはめることはできません。
この変動に備える手段の一つが収入保険です。収入保険は、自然災害や価格低下などで収入が減ったときに、過去の収入を基準に減少分の一部を補てんする制度で、品目を問わず加入できます。収量と価格の振れが大きいこんにゃくいもでは、備えとして検討する価値があります。仕組みや保険料は収入保険の解説で確認できます。
こんにゃくいも産地が使える支援・補助金
こんにゃくいもへの支援は、そばやなたねのような品目ごとの交付金ではなく、産地の生産・流通体系づくりや機械・施設の導入を後押しする補助事業が中心です。省力化と大規模化を進めたい産地にとって使いやすいものを、次の表にまとめます。
| 事業名 | 支援の対象となる取組 | 補助率・上限額 |
|---|---|---|
| 畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業 | 需要動向に対応した新たな生産体系の実証、需要のある作物への転換に必要な農業機械等の導入 | 実証は10分の10以内、機械導入は2分の1以内(いずれも上限1,000万円) |
| 産地生産基盤パワーアップ事業 | 貯蔵・加工・物流の拠点施設整備、農業機械の導入、集出荷施設整備、堆肥・緑肥の活用など | 施設整備は2分の1以内、機械リース導入は本体価格の2分の1以内など |
| 強い農業づくり総合支援交付金 | 集出荷貯蔵施設など産地の基幹施設の整備、卸売市場施設の整備など | 2分の1以内など(上限20億円など) |
| 茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進 | 栽培技術の実証、マニュアル作成、省力化機械の改良・リース、実需と連携した商品開発など | 定額または2分の1以内 |
畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業は、輪作体系の見直しや新たな生産体系の実証、需要のある作物への機械導入を支援するもので、農業者の組織する団体やコンソーシアムなどが実施主体になります。産地生産基盤パワーアップ事業は、地域農業再生協議会などが作る産地パワーアップ計画に位置づけられた農業者・団体が対象で、高性能な機械・施設の導入や栽培体系の転換を総合的に支援します。こんにゃくいものように収穫・調製の労働負担が大きい作物では、これらを使った省力化機械や集出荷施設の整備が経営改善につながります。
このほか、環境負荷を下げながらコストを抑える技術の導入も後押しされています。重要な病害である根腐病の防除では、みどりの食料システムに関する交付金を使い、刺激性が強い薬剤から農薬使用量を約25%減らせる代替薬剤への切り替えなどが実証されています。新規にこんにゃく栽培を始める場合は、これらの産地向け支援に加えて、就農時の資金や研修を支える新規就農者への支援もあわせて確認しましょう。補助率や対象は年度ごとに変わるため、自分の取組が対象になるかは、地域農業再生協議会や都道府県・地方農政局の窓口で確かめてください。
産地維持と需要拡大の動き
こんにゃく製品の販売は、家庭向けの市販用が約6割、量販店やコンビニの惣菜・外食向けの業務用が約4割です。全体では減少傾向にありますが、調理せずに食べられるこんにゃく麺や惣菜型の商品など、新しいかたちの需要が伸びています。低カロリーで食物繊維が豊富という健康面の特徴を生かし、こんにゃくを主原料にしたプラントベースの代替魚や、おからと組み合わせた食品、こんにゃく粉を使ったヨーグルトなど、新しい用途の開発も広がっています。
輸出も伸びています。健康志向の高い欧米などへのこんにゃく製品の輸出が進み、群馬県関係の輸出額は、直近では6.3億円と平成24年の約8倍になりました。輸出先はこれまでの東南アジアや欧米に加え、中東や韓国にも広がっています。産地では、昭和期から続く群馬県こんにゃく研究会がしらたきの消費拡大に取り組み、下仁田町は消費拡大を目的とした条例を定めるなど、生産者や市町ぐるみで需要を掘り起こす動きが続いています。栽培を続けるうえでは、こうした販路と需要の広がりも、経営を支える材料になります。
キーワード解説
精粉(こんにゃく粉)
生いもを乾燥・製粉した粉です。生いも100グラムから精粉は約8.4グラムしか取れません。水で3%程度の濃さに溶き、水酸化カルシウムなどの凝固剤を加えて練るとゲル化し、こんにゃくになります。日持ちしない生いもを長く流通させ、全国の製品製造業者へ届けるための中間の原料です。
生子(きご)
春に種いもを植えるとできる、新しい小さないも(1年生)です。これを秋にいったん収穫し、翌春に植え直して2年生、さらに翌春に植えて3年生へと育てます。こんにゃく栽培では、この生子を使って種いもを更新しながら、複数年をかけて出荷用のいもを大きくします。
特別セーフガード(SSG)
輸入量や輸入価格が定められた基準を超えたときに、自動的に追加の関税を課す仕組みです。こんにゃくいもでは、年度の累計輸入量が輸入基準数量を超えると、通常の関税に3分の1の追加関税が上乗せされます。国内の産地を急な輸入増から守る役割があります。
産地パワーアップ計画
地域農業再生協議会などが、地域の営農戦略として作る計画です。産地生産基盤パワーアップ事業の支援を受けるには、機械・施設の導入や栽培体系の転換をこの計画に位置づけておくことが前提になります。
こんにゃく栽培を始める・支援を使うときの進め方
年数と手間のかかる作物のため、次の順に確認して進めましょう。
- 群馬県などの産地で種いも(生子)を確保し、2〜3年かけて育てる栽培体系と、種いもを冬に貯蔵する場所を確認します。
- 認定新規就農者などの位置づけを取り、就農時の資金や研修の支援が使えるかを市町村・都道府県で確認します。
- 精粉加工業者や農協など、生いもの出荷先を確保します。
- 省力化機械や施設の導入に使える補助金(畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業や産地生産基盤パワーアップ事業など)の対象になるか、地域農業再生協議会や都道府県の窓口で確認します。
- 収量と価格の変動に備え、収入保険への加入を検討します。
よくある質問
こんにゃくいもの栽培は何年かかりますか
種いもを植えてから出荷できる大きさになるまで、2〜3年かかります。春に種いもを植えると新しいいも(生子)ができ、秋にいったん収穫して翌春に植え直す作業を繰り返して育てます。冬の間は種いもを貯蔵するため、この貯蔵と種いもの更新に独特の手間と経費がかかります。植えたその年に収穫できる作物ではない点に注意しましょう。
こんにゃく農家は群馬県以外でもできますか
栽培自体は各地で可能ですが、収穫量の9割以上を群馬県が占めており、産地が集中しています。栃木県・茨城県・長野県・埼玉県などにも産地はありますが規模は大きくありません。種いもの確保や精粉加工業者への出荷など、産地の流通の仕組みが整っている地域のほうが取り組みやすいのが実際です。
こんにゃくいも農家が使える補助金はありますか
品目ごとの交付金はありませんが、産地の機械・施設の導入や省力化を後押しする補助事業を使えます。実証や機械導入を上限1,000万円で支援する畑作物産地生産体制確立・強化緊急対策事業や、産地パワーアップ計画に基づく産地生産基盤パワーアップ事業などが代表です。補助率・対象は年度ごとに変わるため、地域農業再生協議会や都道府県の窓口で確認してください。
収穫量や価格が変動しやすいと聞きますが、備える方法はありますか
こんにゃくいもは気象や病害で作柄が大きく変わり、生いも価格も年ごとに動きます。収入の減少に備える手段としては収入保険があり、品目を問わず加入できます。過去の収入を基準に、減少分の一部が補てんされる仕組みです。
新規でこんにゃく栽培を始められますか
始められます。まず種いもの確保と出荷先を押さえたうえで、認定新規就農者などの位置づけを取り、就農時の資金や研修の支援が使えるかを確認しましょう。あわせて産地向けの機械導入支援の対象になるかを地域農業再生協議会などで相談すると、初期の負担を抑えやすくなります。