オリーブは、温暖で雨の少ない気候を好む果樹です。明治41年に香川県の小豆島で栽培が始まり、日本のオリーブ経済栽培の発祥の地となりました。温暖化のなかで新しい高付加価値作物として広がりつつあり、搾ってオリーブオイルにする6次化で単価を高めやすいのが魅力です。この記事では、オリーブ農家を始めるときの初期費用の中身、植えてから収穫までの期間、成園での収益の目安、使える補助金と融資、販路の選び方、始めるまでの流れを、県と市の経営試算・産地の資料をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・規模・品種・栽培条件によって大きく変わります。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる方 | これからオリーブ栽培に新規参入する方。温暖化で新しい高収益作物を探す果樹農家 |
| 初期費用の目安 | 苗木代が中心。10アール当たり約16万円(40本)。2ヘクタール規模で苗木代約320万円 |
| 収穫までの期間 | 植栽後3年は収穫ほぼなし。フル収量の成園まで7年ほど |
| 収益(所得)の目安 | 成園で10アール当たり30万円前後。搾油オイルは100ミリリットル1,500〜3,000円 |
| 使える資金 | 経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)、果樹の未収益期間支援(10アール当たり22万円)、青年等就農資金の借入 |
| 販路 | 搾油オリーブオイル、テーブルオリーブ(新漬け)、6次化商品。JA・直売・ネット販売 |
| 主産地・相談先 | 香川県(小豆島)が全国の8割超。都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村、香川県は小豆オリーブ研究所 |
オリーブ栽培の初期費用は苗木代が中心
オリーブ農家を始めるお金は、いちごなどの施設園芸とは性格が違います。ハウスに1,000万円単位をかける作物と異なり、オリーブは露地でも育つため、初期費用の中心は苗木代です。掛川市の経営試算では、10アール当たり40本の3年生苗木を植える前提で、苗木代は4,000円ほどの40本分、およそ16万円です。2ヘクタール規模でそろえても苗木代は約320万円で、初期投資はおさえやすい作物といえます。
栽植本数は資料によって幅があり、10アール当たり33〜50本が目安です。苗木以外にかかる費用は次のとおりで、園地の条件によって大きく変わります。金額の目安は掛川市の経営試算によります。
| 費目 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 苗木 | 3年生苗木を10アール当たり40本 | 1本4,000円で約16万円(2ヘクタールで約320万円) |
| 園地整備 | 排水・かん水設備、防風対策、支柱、鳥獣害対策など | 園地条件で幅。公的な定額はなし |
| 搾油・加工 | 搾油機の自前導入、または共同・委託搾油の利用 | 委託が一般的。自前導入は別途設備費 |
オリーブは搾油してオイルとして売る形が多く、搾油機を自分でそろえると設備費がかさみます。県や市の経営試算でも、搾油は共同施設や委託でまかなう前提が一般的です。まずは委託搾油から始め、規模が固まってから自前の設備を検討すると、初期費用を軽くできます。品種によっては1本では実がつきにくいため、受粉樹として複数の品種を組み合わせて植える点も、苗木の計画で押さえておきましょう。
成園まで7年の運転資金を用意する
オリーブで初期費用より重いのが、植えてから収穫できるまでの時間です。苗木代は小さくても、その間は収入がほとんどありません。掛川市の10アール当たりの試算では、植栽後3年は収穫がゼロ、4年目にようやく1本1キロほど、フル収量の成園になるのは7年目です。累計の収支がプラスに転じるのも6年目以降とされています。2ヘクタール規模のモデルでは、3年目までの累計赤字が約950万円と試算されています。就農1年目から数年は赤字が続くため、生活費と栽培の運転資金を借入とは別に用意しておくことが、経営を続けるうえで欠かせません。
オリーブで得られる収益(所得)の目安
オリーブの収益は、成園になったときの10アール当たり収量と、果実を搾ったオイルの販売単価で決まります。県と市の経営試算では、成園の農業所得は10アール当たり30万円前後が一つの目安です。栽培方法・単価の前提はそれぞれ異なりますが、いずれもみかんなどのかんきつ栽培と同じ程度の水準になっています。
| 経営の段階・試算 | 10アール当たりの収量 | 農業所得(利益)の目安 |
|---|---|---|
| 植栽〜3年目(未収益期間) | 収穫ほぼなし | 赤字(苗木・管理費が先行) |
| 成園・掛川市の試算 | 果実400キロ(オイル約40キロ) | 単年度の利益 約33万円(※) |
| 成園・静岡県の試算 | 果実10キロ/1本(40〜50本) | 農業所得 約31万円 |
掛川市の試算は、成園でオイルを1キロ1万5,000円で販売した場合の単年度の利益です。ただし人件費・販売経費・運賃を含まない大まかな収支のため、実際の手取りはこれより下がります。静岡県の試算は、搾油用のオリーブを10アール当たり50本植え、1本10キロを収穫してオイルを高単価で販売した場合の農業所得で、臨時雇用の労賃を含めた数字です。どちらも成園まで育てば、かんきつと肩を並べる所得が見込めることを示しています。
日本では収量が上がりにくい点に注意します
成園の所得30万円前後は、1本10キロという十分な収量に届いた場合の目安です。静岡県の調査では、現状の収量はこの目標のおよそ3分の1にとどまっています。オリーブは病害虫や台風の影響を受けやすく、日本では狙いどおりの収量を安定して得るのが難しい作物です。所得の目安をうのみにせず、収量が上がらない年は下回ることを前提に、資金計画には余裕を持たせましょう。
搾油して6次化で付加価値をつける
オリーブの収益を支えるのが、果実をそのまま売るのではなく、搾ってオリーブオイルにする6次化です。国内のオリーブオイル消費量は年間およそ5万トンにのぼる一方、国産の自給率は0.3%ほどにすぎません。輸入に頼る需要のなかで、国産の搾りたてオイルは希少で高単価をつけやすく、100ミリリットルあたり1,500〜3,000円で売る想定が公的な試算に見られます。搾油の歩留まりは収穫した果実の5〜10%が目安で、残った実は塩漬けのテーブルオリーブとして売る道もあります。
使える補助金・融資と資金計画
オリーブで新規就農するときに使える公的な支えは、就農者への交付金、機械・施設への補助、そして初期投資と運転資金をまかなう融資です。個人が申請でき、交付金と補助は返還が不要です。主なものは次のとおりです。
| 制度 | 対象 | 受けられる内容 |
|---|---|---|
| 就農準備資金 | 研修中の生活費 | 月13.75万円・最長2年。原則49歳以下 |
| 経営開始資金 | 就農直後の生活費 | 月13.75万円・最長3年。原則49歳以下 |
| 経営発展支援事業 | 機械・施設の初期投資 | 事業費の半分、上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円) |
| 果樹未収益期間支援事業 | 改植・新植後の幼木の管理 | 10アール当たり22万円(5.5万円×4年、初年度に一括) |
成園まで収入が乏しいオリーブでは、生活費を支える経営開始資金がとくに心強い支えになります。就農者向けの資金の詳しい対象・条件は経営開始資金・就農準備資金(新規就農者育成総合対策)の解説で確認できます。
果樹の改植・新植と、収穫できるまでの未収益期間には、果樹農業生産力増強総合対策の支援もあります。幼木の農薬代・肥料代などに10アール当たり22万円の幼木管理経費を受けられますが、対象は産地計画や地域計画で振興すべきと定められた品目に限られます。オリーブが自分の地域で対象になるかは、市町村の農政担当や産地の協議会で確かめましょう。制度の中身は果樹の改植・新植に使える補助金の解説で確認できます。補助でまかないきれない設備費や運転資金は、無利子の青年等就農資金などの借入で用意するのが一般的です。金額や要件は年度で変わり、いずれも予算の範囲内での採択のため、要件を満たしても必ず交付されるとは限りません。
オリーブの販路(売り先)をどう選ぶか
売り先の選び方は、手取りと作業量の両方に効きます。オリーブは加工の形で単価が大きく変わるため、次の売り方を組み合わせるのが基本です。
- 搾油オリーブオイル:搾ってオイルにして売る形で、国産の希少性から単価を高めやすい売り方です。搾油設備がないうちは共同・委託搾油を使います。
- テーブルオリーブ(新漬け):果実を塩漬けにして食用にする売り方です。搾油に向かない実や大粒の品種を生かせます。
- 6次化商品:オイルを使った加工品や、葉を使ったお茶・化粧品など、樹全体を生かした商品づくりに広げる産地もあります。
いずれもJAの共同出荷、直売、ネット販売で届けられます。搾りたてオイルは鮮度が価値になるため、産地から直接届けるネット販売と相性がよい商品です。直売・ネット販売の始め方や食品表示の基本は農産物のネット販売の始め方が参考になります。
オリーブ栽培を始めるまでの流れ
就農までは、相談から準備、植え付けまで段階を追って進みます。手続の順序は次のとおりです。
- 栽培の目的(搾油オイル中心か、テーブルオリーブか)と規模・品種を決めます。1本では実がつきにくい品種があるため、受粉樹として複数の品種を組み合わせます。
- 就農相談の窓口や都道府県の農業改良普及センター、市町村、JAに相談します。主産地の香川県では小豆オリーブ研究所が栽培の情報源になります。
- 園地を探し、排水・かん水・防風などを整えたうえで、3年生の苗木を10アール当たり40本前後で植え付けます。
- 就農計画をつくって都道府県の認定を受け、経営開始資金や青年等就農資金、果樹の未収益期間支援を申請します。
- 植栽後は成園まで数年かけて育て、10月から11月に収穫した果実を搾油またはテーブルオリーブにして販売します。
よくある質問
オリーブ栽培は儲かりますか
成園まで育てば、農業所得は10アール当たり30万円前後が一つの目安で、みかんなどのかんきつと同じ程度です。ただしこれは1本10キロという十分な収量に届いた場合の目安で、日本では収量が上がりにくく、実際は下回ることが多いのが現状です。果実を搾油してオリーブオイルにする6次化で単価を高められるかが、収益を左右します。植栽から数年は収入が乏しいため、目先の利益より、成園までの資金を持ちこたえられるかで考えることが大切です。
オリーブは何年で収穫できますか
植えてから初めて実がなるまで数年、フル収量の成園になるまでは7年ほどかかります。掛川市の経営試算では、植栽後3年は収穫がほとんどなく、4年目に1本1キロほど、7年目に1本10キロの成園に達します。収穫は10月から11月に集中します。この未収益期間が長いことがオリーブの特徴で、その間の運転資金の備えが要ります。
オリーブ農家の初期費用はどれくらいかかりますか
初期費用の中心は苗木代で、掛川市の試算では10アール当たり40本・約16万円、2ヘクタールで約320万円が目安です。いちごなどのハウス作物のような1,000万円単位の施設投資は必要ありません。ただし排水・かん水・防風などの園地整備や、搾油設備をそろえる場合は別に費用がかかります。搾油は当面は共同・委託でまかなうと、初期費用をおさえられます。
未経験でもオリーブ農家になれますか
なれます。主産地の香川県では小豆オリーブ研究所が栽培技術の情報を公開しており、都道府県の農業改良普及センターやJAでも相談できます。研修を受けて栽培技術を身につけ、就農計画を県の認定につなげて資金や補助を使う流れが一般的です。成園まで時間がかかる作物のため、栽培技術とあわせて、数年分の資金計画を早めに固めておくことが成功の鍵になります。
キーワード解説
未収益期間
果樹を植えてから、樹が育って収穫・出荷できるようになるまでの期間です。オリーブはこの期間が長く、植栽後3年は収穫がほとんどなく、フル収量の成園になるまで7年ほどかかります。この間の農薬代・肥料代などの管理経費に、果樹未収益期間支援事業で10アール当たり22万円が支援されます。
成園
樹が十分に育ち、その品目のフル収量が得られるようになった園地・状態です。オリーブでは植栽から7年目ごろが目安で、掛川市の試算では10アール当たり果実400キロ(オイル約40キロ)が見込まれます。成園に達するまでの数年間は収入が乏しいため、資金計画では成園までの期間を織り込みます。
搾油
収穫したオリーブの果実を搾って、オリーブオイルを取り出すことです。搾油の歩留まり(果実に対して取れるオイルの割合)は5〜10%が目安です。国産の搾りたてオイルは希少で高単価をつけやすく、果実のまま売るより6次化で付加価値を高められます。搾油機は高額なため、規模が小さいうちは共同施設や委託搾油を使うのが一般的です。