梨は、産出額でぶどう・みかん・りんごに次ぐ4番目の果樹です。栽培面積はこの10年で12,800ヘクタールから9,800ヘクタールへ減りましたが、産出額は683億円から754億円へ戻しており、1キロ当たりの単価は上がっています。作る人が減っても需要は残っている品目です。この記事では、梨で10アール当たりどれだけ所得が残るのか、棚や作業場にどれだけの費用がかかるのか、植えてから収穫までの3年をどう乗り切るのかを、鳥取県の経営試算と農林水産省の資料をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・品種・販売先によって変わります。

概要

項目内容
対象となる方 梨で新規就農する方、品種の切り替えや改植を考えている梨農家
所得の目安 10アール当たり81.2万円(ゴールド二十世紀・露地)から107.6万円(新甘泉・有袋)
収量・単価の目安 10アール当たり3,300キロから4,200キロ、1キロ491円から675円
初期費用 梨単作50アールのモデルで想定初期投資800万円。最大の費目はなし棚
収穫までの期間 植付けから3年は果実収入なし。4年目から収穫が始まる
使える支援 果樹未収益期間支援(10アール当たり22万円)、改植・新植支援(同17万円から100万円)、経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)
労働時間 10アール当たり304時間から419時間。5月から6月の袋かけと9月の収穫が山
相談先 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村、産地の果樹協議会

梨の所得は10アール当たり80万円台から100万円台

梨で手元にどれだけ残るのかは、二十世紀梨の産地である鳥取県が品種ごとに作っている経営試算が参考になります。標準的な家族経営の規模を前提に、収量・単価から経営費まで積み上げた数字です。

品種・栽培様式収量・単価所得(所得率)労働時間
ゴールド二十世紀(露地)4,200キロ・1キロ491円81.2万円(39%)418.7時間
新甘泉(有袋)3,300キロ・1キロ675円107.6万円(48%)304.1時間

数量はいずれも10アール当たりです。ゴールド二十世紀は粗収益206.2万円から経営費125.0万円を引いて所得81.2万円、新甘泉は粗収益222.8万円から経営費115.2万円を引いて所得107.6万円になります。収量は二十世紀のほうが900キロ多いのに、所得は新甘泉が26万円上回ります。単価の差が収量の差を打ち消すためです。

品種によって時間当たりの手取りが2倍近く違います

労働時間で割ると差はさらに広がります。ゴールド二十世紀は時間当たり2,023円、新甘泉は3,678円です。二十世紀は小袋と大袋を二度かける必要があり、袋かけだけで10アール当たり116時間かかります。新甘泉は大袋だけで済むため63.6時間で、この作業の差が労働時間の差の大半を占めます。

品種を選ぶときは、単価と作業時間の両方で比べましょう。産地の共同選果場が受け入れる品種は限られるため、単価が高い品種を選んでも出荷先が確保できるかを先に確認する必要があります。

果樹の主要品目の生産量・産出額・栽培面積の推移。日本なしは収穫量が10年間で247千トンから173千トンへ、栽培面積が12.8千ヘクタールから9.8千ヘクタールへ減る一方、産出額は788億円から754億円で、近年は683億円から754億円へ回復している。
日本なしの収穫量・栽培面積は減少が続くが、産出額は近年上向いている。出典:農林水産省「果樹をめぐる情勢

初期費用は棚と作業場でほぼ決まります

梨づくりで最初に大きな出費になるのは、機械ではなく棚です。梨は枝を水平に誘引する平棚や吊り棚で育てるため、園地の広さに比例して棚の費用がかかります。鳥取県の経営試算では、装備の取得価額が次のように積算されています。

装備取得価額備考
なし棚(鉄柱鉄線)100アール分1,292.7万円耐用年数14年。装備で最大の費目
作業場(木造50平方メートル)330.0万円選果・調製の場所
トラクター(25馬力・四輪駆動)152.3万円土壌改良・深耕に使用
スピードスプレーヤー125.5万円7戸で共有する前提の負担分
軽トラック120.0万円運搬・出荷
装備の取得価額の合計2,383.5万円梨100アール規模で一式そろえた場合

合計は梨100アール分の一式で、共有する機械の負担分を含みます。規模を50アールに絞った鳥取県の経営モデルでは、新甘泉30アールと王秋20アールの梨単作で想定初期投資800万円、農業所得242万円(所得率32%)という試算です。棚の仕様や機械を共有できるかどうかで金額の幅が大きいため、園地の下見の段階で棚の有無と状態を必ず確認しましょう。

費用をおさえる現実的な方法は、棚がすでにある園地を引き継ぐことです。梨は棚と成木がそのまま資産になるため、離農する農家からの継承であれば、新植した場合の棚の費用と3年分の育成期間をまとめて省けます。

植えてから3年は果実収入がありません

梨の参入で最も重い制約は、お金ではなく時間です。苗木を植えてから3年間は果実収入がゼロで、その間も肥料・農薬・資材の費用がかかり続けます。鳥取県の試算では、育成期間の費用は10アール当たり次のように積み上がります。

年次育成費(10アール当たり)果実収入
1年目19.3万円から25.6万円なし
2年目6.5万円から7.8万円なし
3年目5.6万円から6.1万円なし
3年間の累計31.5万円から39.5万円なし

1年目の負担が大きいのは、苗木代と土づくりが重なるためです。10アール当たり40本の苗木を植える前提で、苗木代は6.4万円から7.2万円かかります。収穫が始まるのは4年目からなので、就農時の資金計画は「3年分の生活費」と「3年分の育成費」を必ず織り込んで組みます。

未収益期間と改植には専用の支援があります

この無収入の期間を支えるために、国の果樹農業生産力増強総合対策には未収益期間の支援と改植・新植の支援が用意されています。受けられる額は樹形によって変わります。

支援対象受けられる額(10アール当たり)
果樹未収益期間支援事業改植・新植後の幼木の管理経費22万円(5.5万円の4年分を初年度に一括交付)
改植・新植支援(慣行樹形)なしを含む主要果樹17万円(新植は15万円)
改植・新植支援(ジョイント栽培なし・もも・すもも・かき等33万円(新植は32万円)
改植・新植支援(V字ジョイント栽培)なし・りんご・もも等73万円(新植は71万円)
改植・新植支援(根域制限栽培)ぶどう・なし・もも等100万円(新植は99万円)
小規模園地整備・設備の導入支援園内道・排水路・かん水設備・防風ネット・防霜ファン等8万円

省力樹形を選ぶほど支援は厚くなります。ジョイント栽培は苗木をつないで一直線の樹列に仕立てる方法で、早く成園になり作業も機械化しやすいため、慣行樹形の2倍近い単価が設定されています。ただし、これらの支援は産地の果樹産地構造改革計画に位置づけられた取組が対象で、申請は産地の協議会を通じて行います。個人で直接申し込む形ではないため、就農予定地の協議会に早めに相談しましょう。要件や申請の流れは果樹の改植・新植に使える補助金の解説で確認できます。

就農時に使える資金

梨は収穫まで3年かかるため、就農直後の生活費を支える資金の重みが他の品目より大きくなります。返還が不要な交付金・補助と、無利子の融資を組み合わせて用意します。

制度対象受けられる内容
経営開始資金就農直後の生活費月13.75万円・最長3年。原則49歳以下
経営発展支援事業棚・機械・作業場の初期投資事業費の2分の1、上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円)
青年等就農資金棚・機械・施設の初期投資無利子の借入。都道府県の就農計画の認定が前提
収入保険・果樹共済台風・ひょう・凍霜害・価格下落掛金・保険料の一部を国が負担

梨は4月の開花期に凍霜害、8月から9月の収穫期に台風の被害を受けやすい品目です。収穫直前に落果すれば1年分の収入がなくなるため、加入は経営が固まってからではなく、初めて収穫する年から検討しましょう。就農資金の要件や申請先は経営開始資金・就農準備資金(新規就農者育成総合対策)の解説で確認できます。いずれも予算の範囲内での採択で、要件を満たしても必ず交付されるとは限りません。

梨づくりの1年と作業の山

梨の労働時間は10アール当たり304時間から419時間で、作業が春から初夏に集中します。10アール当たりの主な作業時間は次のとおりです。

  • 12月から3月:整枝・せん定 77.2時間。冬の間に樹の骨格を作ります。
  • 4月:人工受粉 24.4時間から40.7時間。梨は自分の花粉では実らないため、別品種の花粉を採って人の手でつけます。
  • 5月:摘果 40.7時間から62.0時間。1つの果実に養分を集めます。
  • 5月から6月:袋かけ 63.6時間から116.0時間。二十世紀は小袋と大袋の二度かけで、10アール当たり1万3,000袋を使います。
  • 8月から9月:収穫 35.0時間から61.5時間。品種ごとに数日から2週間の適期に集中します。

受粉と袋かけは家族だけではさばききれない産地が多く、鳥取県の試算でも雇用労賃を10アール当たり1.7万円から2.3万円見込んでいます。面積を広げるなら、この2つの時期に人を確保できるかが上限を決めます。

出荷経費の重さを知っておく

梨の経営費で見落としやすいのが、出荷と販売にかかる費用です。ゴールド二十世紀の試算では、経営費125.0万円のうち販売費・一般管理費が66.8万円を占め、その内訳は販売諸費53.3万円と出荷資材費12.7万円です。粗収益の3割強が、作る費用ではなく売る費用に消えます。

この数字は共同選果場を利用する前提です。共販は選果・箱詰め・販売をまとめて任せられる反面、手数料と資材費がかかります。直売所やネット販売に一部を回すと、手数料は減る代わりに選果・梱包・発送と集客を自分で担うことになります。まず共販で出荷を安定させ、規格外や小玉を直売に回して単価を底上げする組み立てが現実的です。直売・ネット販売の始め方は農産物のネット販売の始め方が参考になります。

梨づくりを始めるまでの流れ

梨は収穫まで3年かかるため、就農の順序を間違えると資金が尽きます。手続の順序は次のとおりです。

  1. 産地と品種を決めます。単価と作業時間が品種で大きく違うため、産地の主力品種と共同選果場が受け入れる品種を先に確認します。
  2. 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村に就農相談をします。あわせて産地の果樹協議会に、改植・新植支援の対象となる取組を確認します。
  3. 研修先で1年を通し、せん定・人工受粉・袋かけ・収穫までを経験します。産地の研修制度を使えば就農準備資金の対象になります。
  4. 園地を確保します。棚と成木がある園地を継承できれば、棚の費用と3年の育成期間を省けます。新植する場合は棚の新設費用を資金計画に入れます。
  5. 就農計画をつくって都道府県の認定を受け、経営開始資金・経営発展支援事業・青年等就農資金を申請します。
  6. 産地計画に位置づけて、改植・新植支援と果樹未収益期間支援を協議会経由で申請します。
  7. 初めて収穫する年から収入保険または果樹共済に加入し、凍霜害と台風に備えます。

よくある質問

梨農家の収入はどれくらいですか

鳥取県の経営試算では、10アール当たりの所得はゴールド二十世紀の露地栽培で81.2万円(所得率39%)、有袋の新甘泉で107.6万円(同48%)です。50アールの梨単作モデルでは農業所得242万円という試算になっています。果樹は面積当たりの所得が野菜より高い一方、成園になるまで時間がかかるため、収穫が始まる4年目以降の数字であることに注意が必要です。

梨栽培の初期費用はどれくらいかかりますか

鳥取県の梨単作50アールのモデルでは、想定初期投資は800万円です。内訳で最も高いのは棚で、鉄柱鉄線の棚は100アール分で約1,293万円かかります。作業場が330万円、トラクターが152万円、軽トラックが120万円で、梨100アール規模の装備一式では取得価額の合計が約2,384万円になります。棚がすでにある園地を継承できれば、この最大の費目を省けます。

梨は植えてから何年で収穫できますか

4年目からです。1年目から3年目までは果実収入がなく、育成費が10アール当たり合計31.5万円から39.5万円かかります。この期間には果樹未収益期間支援として10アール当たり22万円(5.5万円の4年分)を初年度に一括で受けられますが、生活費は別に確保する必要があります。月13.75万円・最長3年の経営開始資金が、この3年と重なる設計になっています。

梨の品種はどう選べばいいですか

単価と作業時間の両方で比べます。ゴールド二十世紀は収量が10アール当たり4,200キロと多い一方、単価が1キロ491円で、小袋と大袋の二度かけに116時間かかります。新甘泉は収量3,300キロでも単価が675円あり、袋かけは63.6時間で済むため、時間当たりの所得は2,023円と3,678円で1.8倍の差になります。ただし出荷先の共同選果場が扱う品種でなければ販路が確保できないため、産地の受け入れ体制を先に確認しましょう。

未経験でも梨農家になれますか

なれます。ただし、せん定と人工受粉は1年に1回しか練習できない作業のため、研修で少なくとも1年、可能なら2年かけて一巡させてから独立するのが安全です。園地の継承であれば成木から始められるので、無収入の3年を避けられます。研修先の紹介や園地のあっせんは、都道府県の農業改良普及センターとJA、産地の果樹協議会で相談できます。

キーワード解説

有袋栽培

果実に袋をかけて育てる方法です。病害虫や日焼け、果面の汚れを防いで見た目のそろった果実になり、単価が上がります。二十世紀のように小袋と大袋を二度かける品種は、10アール当たり1万3,000袋を使い、袋かけだけで116時間かかります。袋をかけない無袋栽培は作業時間が減る代わりに、外観と日持ちで不利になります。

ジョイント栽培

苗木の主枝を隣の樹につなぎ、一直線の樹列に仕立てる省力樹形です。若木のうちから樹の形が決まるため成園になるのが早く、せん定や収穫の作業を機械化しやすくなります。果樹農業生産力増強総合対策では、なし・もも・すもも・かき等のジョイント栽培に10アール当たり33万円、V字ジョイント栽培に73万円の改植支援が設定されています。

果樹未収益期間支援事業

改植・新植した後、収穫できるようになるまでの幼木の管理経費を支援する事業です。10アール当たり5.5万円の4年分にあたる22万円を、改植・新植の翌年分から初年度に一括で受けられます。果樹の参入・改植で最大の障壁である無収入期間を埋めるための仕組みで、産地の果樹産地構造改革計画に位置づけられた取組が対象になります。

出典:鳥取県「農業経営指導の手引き」(品種ごとの経営試算・装備の取得価額・育成費・作業別労働時間)、鳥取県「農業経営モデル別試算」(梨単作50アールの想定初期投資・農業所得)、農林水産省「果樹をめぐる情勢」(日本なしの産出額・収穫量・栽培面積、果樹農業生産力増強総合対策の支援単価)、農林水産省「新規就農者育成総合対策(経営開始資金・経営発展支援事業)」。所得・単価・収量は標準的な家族経営規模を前提とした県の試算による目安で、産地・品種・栽培技術の習熟度・販売先によって異なります。補助や資金の金額・要件は年度で変わるため、就農計画づくりの段階で都道府県の農業改良普及センター・JA・産地の果樹協議会と最新の情報をご確認ください。