いちご農家を始めるとき、最初の関門になるのがハウスなどの初期費用です。栽培方法や規模で幅がありますが、公的な経営試算では、土耕のパイプハウス20アールで約1,400万円、腰の高さで作業できる高設栽培25アールで約2,500万円が目安です。この記事では、初期費用の内訳、栽培が軌道に乗った後の収益の目安、使える補助金と融資、販路の選び方、就農までの流れを、都道府県と公的機関の経営指標をもとに整理します。金額はいずれも目安で、産地・規模・中古施設の活用によって大きく変わります。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる方 | これからいちご農家を始める方。夫婦2人・家族経営を想定 |
| 初期費用の目安 | ハウス整備が中心。土耕20アールで約1,400万円、高設25アールで約2,500万円 |
| 収益(所得)の目安 | 軌道に乗った後で年300万〜500万円台。規模拡大で800万円も |
| 使える資金 | 経営開始資金(月13.75万円)、経営発展支援事業(上限1,000万円)、ハウス整備の補助(2分の1以内)、就農支援資金の借入 |
| 販路 | JAの共同出荷、直売・ネット販売、いちご狩り(観光農園) |
| 相談先 | 都道府県の農業改良普及センター、JA、市町村、農業振興公社 |
いちご農家の初期費用はハウス整備が中心
いちご農家を始めるお金の大半は、ハウスと関連設備の整備費です。栽培方法は大きく2つに分かれ、この選び方で初期費用が変わります。地面の畝で育てるパイプハウスの土耕栽培は、設備をおさえられる代わりに収穫がかがみ作業になります。地面から1メートルほどの高さのベンチで育てる高設栽培は、立ったまま管理・収穫でき新規就農者にも取り組みやすい一方、設備費が高くなります。
都道府県と公的機関の経営試算では、栽培方法・規模ごとの初期費用の目安は次のとおりです。あくまで標準的なモデルの試算で、実際の金額は産地・仕様・中古施設の活用によって大きく変わります。
| 栽培方法 | 栽培規模 | 初期費用の目安 |
|---|---|---|
| パイプハウス(土耕) | 20アール | 設備・農具で約1,360万円。1年目の資材費を含めた必要資金は約1,460万円 |
| 高設栽培 | 25アール | 施設・機械の取得で約2,500万円(うち国の補助が約400万円) |
土耕20アールのモデルでは、設備費の内訳はおおむね次のようになります。中古のハウスつき農地を借りられれば、この初期費用を大きくおさえられます。
- 栽培用パイプハウス(20アール)約600万円、育苗用ハウス約90万円
- 井戸の掘削・配管 約250万円(条件差が大きく、事例では100万〜400万円)
- 電気工事 約50万円、予冷庫 約50万円、作業舎 約100万円
- 軽トラック 約80万円、動力噴霧機や小農具 など
井戸や電気のない農地では、これらの整備に百万円単位の費用がかかります。設備の中身と価格の考え方は園芸ハウスの価格と使える補助金の解説で確認できます。
いちごで得られる収益(所得)の目安
いちごの収益は、10アール当たりの収量(反収)と販売単価で決まります。公的な試算では販売単価は1キロ900〜1,000円前後、反収が上がるほど農業所得は大きく伸びます。高設栽培のモデルでは、経営の段階ごとに次のような所得が見込まれています。
| 経営の段階 | 栽培面積・反収 | 農業所得の目安 |
|---|---|---|
| 就農初期 | 25アール・反収4.5トン | 約310万円 |
| 軌道に乗った後 | 25アール・反収6トン | 約550万円 |
| 規模拡大後 | 40アール・反収6.5トン | 約800万円 |
土耕20アールのモデルでも、反収450キロ(10アール当たり4.5トン)に届いた段階で農業所得は年340万円ほどと試算されています。同じ面積でも収量が経営を左右し、規模を広げれば認定農業者の水準とされる所得800万円も視野に入ります。
反収が所得を大きく左右します
いちごは、同じ面積でも反収しだいで手取りが大きく変わる作物です。土耕20アールの試算では、10アール当たり収量が200キロだと農業所得はマイナスになり、250キロでようやくプラスに転じます。生活費の目安である300万円を所得でまかなうには、10アール当たり430キロ以上の収量が必要になります。栽培技術を高めて反収を確保できるかが、経営が成り立つかどうかの分かれ目です。
就農1年目は赤字になりやすい
いちごは秋に苗を植え、収穫は年末から翌春まで続きます。植え付けの年は収量がわずかで、土耕20アールのモデルでは1年目の農業所得はおよそマイナス190万円と試算されています。黒字が見えてくるのは2年目以降です。この立ち上がりを乗り切るため、研修期間と1年目の生活費として2年分(目安600万円)を、借入とは別に自己資金で用意しておくと安心です。
使える補助金・融資と資金計画
いちごで新規就農するときに使える公的な支えは、就農者への交付金、機械・施設への補助、そして初期投資をまかなう融資です。個人が申請でき、交付金と補助は返還が不要です。主なものは次のとおりです。
| 制度 | 対象 | 受けられる内容 |
|---|---|---|
| 就農準備資金 | 研修中の生活費 | 月13.75万円・最長2年。原則49歳以下 |
| 経営開始資金 | 就農直後の生活費 | 月13.75万円・最長3年。原則49歳以下 |
| 経営発展支援事業 | 機械・施設の初期投資 | 事業費の半分、上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円) |
| 産地生産基盤パワーアップ事業 | ハウスの整備 | 2分の1以内の補助 |
金額や要件は年度で変わり、いずれも予算の範囲内での採択のため、要件を満たしても必ず交付されるとは限りません。就農者向けの資金の詳しい対象・条件は経営開始資金・就農準備資金(新規就農者育成総合対策)の解説で確認できます。
補助でまかないきれない設備費は、就農支援資金(青年等就農資金など)の借入で用意するのが一般的です。都道府県の計画認定を受けた新規就農者が対象で、返済は据置2年・その後10年で組む例が多くあります。補助と融資、自己資金の組み合わせは、就農計画づくりの段階で普及センターやJAと相談して固めましょう。
いちごの販路(売り先)をどう選ぶか
売り先の選び方は、手取りと作業量の両方に効きます。大きく3つの道があり、組み合わせても構いません。
- JAの共同出荷:選別・箱詰めや市場への出荷を産地でまとめて行えます。販売の手間は減りますが、出荷手数料(販売額の1割程度)がかかります。
- 直売・ネット販売:単価を自分で決められ手取りは増えますが、集客・梱包・発送を自分で担います。
- いちご狩り(観光農園):来園者に摘み取ってもらう形で、出荷作業を減らしながら単価を高めやすい売り方です。
就農の初期はJA出荷で販売を安定させ、経営が固まってから直売やいちご狩りを足す進め方が現実的です。直売・ネット販売の始め方や食品表示の基本は農産物のネット販売の始め方が参考になります。
いちご農家を始めるまでの流れ
就農までは、相談から準備、就農後まで1年ほどかけて進むのが標準的です。手続の順序は次のとおりです。
- 栽培規模・栽培方法・販売方法・所得目標を決め、初期費用と資金計画のイメージを固めます。
- 就農相談の窓口や都道府県の農業改良普及センター、市町村、JAに相談します。就農候補地が未定なら全国新規就農相談センターにも相談できます。
- 研修先を見つけ、1年ほど栽培技術を学びます(基礎研修と、農家での実践研修)。
- いちごを作る農地とハウス用地を探します。既存ハウスつきの農地を借りられれば初期費用をおさえられます。
- 就農計画をつくって都道府県の認定を受け、就農支援資金の借入や補助を申請します。
- ハウス・機械を整備し、親株の購入から定植、収穫へと進みます。
よくある質問
いちご農家の初期費用はどれくらいかかりますか
ハウス整備が中心で、公的な経営試算ではパイプハウス土耕20アールで約1,400万円、高設栽培25アールで約2,500万円が目安です。井戸や電気のない農地では整備に百万円単位が加わり、逆に中古のハウスつき農地を借りられれば大きくおさえられます。金額は産地・仕様で変わるため、就農計画づくりの段階で普及センターやJAと具体額を詰めましょう。
いちご農家の収入(所得)はどれくらいですか
栽培が軌道に乗った後で、農業所得は年300万〜500万円台が一つの目安です。高設栽培25アールの試算では反収4.5トンで約310万円、反収6トンで約550万円、40アールに広げて反収6.5トンなら約800万円が見込まれています。同じ面積でも反収しだいで所得は大きく変わり、1年目は収量が上がらず赤字になりやすい点にも注意が要ります。
いちご農家の補助金は個人でももらえますか
もらえます。新規就農なら生活費を支える経営開始資金(月13.75万円・最長3年)や、機械・施設に事業費の半分(上限1,000万円)を補助する経営発展支援事業を個人で申請できます。ハウス整備には2分の1以内の産地生産基盤パワーアップ事業もあります。ただし年齢や所得の要件があり、予算の範囲内での採択のため必ず交付されるとは限りません。
未経験でもいちご農家になれますか
なれます。多くの産地では、農家での実践研修や就農相談の仕組みが用意されています。1年ほど研修で栽培技術を身につけ、就農計画を県の認定につなげて資金や補助を使う流れが一般的です。腰をかがめずに作業できる高設栽培は栽培をマニュアル化しやすく、新規就農者にも取り組みやすいといわれます。
キーワード解説
高設栽培
地面から1メートルほどの高さにベンチとベッドを設け、腰をかがめずに管理・収穫できるようにした栽培方法です。土耕に比べて設備費は高くなりますが、作業姿勢が楽で栽培管理を標準化しやすく、新規就農者にも取り組みやすいとされます。
反収(単収)
10アール(1反)当たりの収量です。いちごの農業所得は、この反収と販売単価でほぼ決まります。土耕の試算では10アール当たり200キロだと赤字、430キロ以上で生活費をまかなえる水準になり、反収を高める栽培技術が経営の要になります。
青年等就農資金
新たに農業を始める認定新規就農者が、機械・施設などの初期投資にあてられる無利子の融資です。日本政策金融公庫などが扱い、都道府県の就農計画の認定を受けた人が対象になります。補助でまかないきれない設備費を借入で用意する際の選択肢です。